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2005年11月04日

「愛国の旗を掲げろ 海の覇者トマス・キッド4」ジュリアン・ストックウィン / 文句なしの大傑作!

テーマ:海洋・海洋冒険小説
ジュリアン ストックウィン, Julian Stockwin, 大森 洋子
愛国の旗を掲げろ―海の覇者トマス・キッド〈4〉

目新しいアイデアやそれまでにない表現技法に興を誘われる小説は多かれど、寝食を忘れてむさぼりつける小説というのはそう多くない。僕の場合、年に4冊も出会えれば十分当たり年ということができる。

おおよそ1年に1冊のペースで刊行される本シリーズは、ひとり海洋冒険小説ファンのみならず、あらゆる読書家の胸をときめかせるだけの魅力に満ちている。

ストックウィンの、輝く大海原や起伏に富んだ陸地をありありと映し出す筆力は、それだけで読む者を陶然とさせるし、登場人物らが訪れる先のエスニックな土地風俗や心臓を鷲づかみにする冒険の描写は、読書の中断を決して許さない。本書は全編にロマンあふれる、そう、雄渾の海の叙事詩なのである。

これほどまばゆい光芒を放つ海洋冒険小説を、僕はほかに知らない。


ときは18世紀末。アメリカの独立や革命フランスの出現に揺れるヨーロッパにおいて孤立の色合いを深める大英帝国、その命脈を一手に握るは栄光の海軍であった。

かつて一時代を築いたスペイン無敵艦隊をプリマス沖海戦、グレイブラインの海戦に打ち破り、7つの海に君臨したイギリスも、王政から天才ナポレオンの手に引き継がれた宿敵フランスとの死闘に疲弊し尽くし、国家財政は破綻の危機に瀕していた。

その影響は広大な海域にまたがって大車輪の活躍を見せる海軍にもおよび、彼らは物資、人員ともにギリギリの状態で国防の任に当たることを余儀なくされていた。


そんななか、一介の強制徴募兵から出発し、たゆまぬ向上心と不屈の精神によって数多の死線をくぐり抜けてきた我らがトマス・ペイン・キッドは、常に死と隣り合わせの過酷な海上生活を経て屈強な海の男に成長し、水兵にとっての最高到達地点である航海士に任ぜられ、戦列艦アキレス号に勤務していた。

新鋭フリゲート艦に転属し、同じく航海士になっていた貴族子弟ニコラス・レンジとともに、制海権を失いつつある地中海に抱かれた宝石・妖都ヴェネチアでの要人奪回任務を辛くも成功させるキッドだったが、悲しい宿命を背負い、自らを罰するために水兵に身を投じていた親友レンジが海軍を去る日は目前に迫っていた。

海風に洗われ、あけっぴろげな水兵たちとの共同生活に凍てついた心を溶かされていたレンジは、富貴な暮らしに立ち戻ることに迷いと苛立ちを覚えていたが、海軍の意義にいささかも疑いを持たず、一途なまでに任務に燃えるキッドにそれを打ち明けられないでいた。

やがて艦の補給のためロンドン近くのノア泊地に帰還したキッドは、レンジとのあいだに生じた溝を埋める間もないまま、イギリス中を震撼させる大規模な水兵の叛乱に巻き込まれてしまう。全艦隊を横断して連帯した水兵たちは待遇の改善を求めて指揮権を強奪し、各錨泊地において相次いで艦船を停止させてしまったのである。

国家への忠誠と水兵たちへの情のあいだで激しく揺れるキッドは、叛乱の報いが情け容赦のない縛り首と知りながらも、正義感がゆえについに叛乱側に加わり、乞われて主導的地位に押し立てられてしまう。

水上の叛乱者たちが組織した委員会と、海軍本部や王権政府との息詰まる闘争は二転三転を繰り返し、次第に事態は泥沼の様相を呈しはじめる。そしてキッドに忍び寄る悲劇の予感―――。


イギリス海軍史上に残るスピッドヘッドの叛乱を舞台に、絶体絶命のピンチに陥るキッドと、彼を救うために起死回生の策にでるレンジの友情が熱いドラマを生む、ロマンスあり、冒険ありのシリーズ第4巻。

断言しよう。これほどおもしろい小説を知らない者は不幸である。


オススメ度★★★★★

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追記:このエントリを、本日誕生日を迎えられたつなさん に捧げます。


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コメント

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12 ■えりりんさん

ん~、いい仕事だ……。


その昔、ホーンブロワーと人気を二分したシリーズだったそうですね。
ボライソーのあとがきで、高橋御大がそんなことを書いていたような気がします。
版元はハヤカワじゃないんですよね、たしか。

11 ■仕事ですから!

勧めるのが仕事の図書館員ですから、一応。

FOXシリーズは、キッドと同じでやはり金なしコネなしの主人公に、次々と襲いかかる不運が楽しみな、もとい、どう立ち向かうか、が楽しみなシリーズです。
ただし、キッドよりオヤジくさいです。

10 ■えりりんさん

文庫版「雷電本伝」だったっけかの帯に、「飯嶋和一を知らないなんてもったいない」みたいなコピーがあったのがすごく印象的で、以来気になっているんですよ。
そういう作家は、しつこく(?)すすめていただいたほうがありがたいです(笑)。

『海の風雲児/FOX』はぜひとも読みたいですね!

しかし、えりりんさんのおすすめはキクなあ(笑)

9 ■しつこくすいません

飯嶋和一は、書くたびにジャンルが違うんですけど(っていうほど書いてないともいえる寡作作家ですが・・・)、何を読んでも「おおぅ!」と心にくるんですよ!

海外の海洋冒険小説では、『海の風雲児/FOX』もオススメです。
絶版なので図書館で借りてください。ちなみに未完です。

8 ■墨野さん

いらっしゃいませ。

うわあ、そうなんだよな。ホーンブロワーとブッシュ、ボライソーとヘリック(あるいはストックデール)のような無言で背中を預けられる従来のパターンじゃなくて、全身全霊で語り合い、ときに本気で反発もする相棒関係はこの手のシリーズでは珍しいんです、たしかに。
そこらへんも魅力なんだなあ。

やはりレンジは少女漫画的ですか。うんうん。

7 ■はじめまして

私もこのシリーズが海軍ものの中で一番なのではないかと思っています。強制徴募兵のキッドが航海士(准士官)になったところでこのMUTINYをもってくるところがさすがだなーと思いました。このどっちつかずのポジションにいる間にこのお題とは。

ニコラス・レンジは確実に少女漫画ジャンルの人になれると思います。クールで理屈屋で控えめなお貴族様のぼっちゃんで、苦悩する青年、なんて相当王道でしょう。あとレンジの思想が結構ミーハーなのも笑えます。ただ、このキッドとレンジの海軍ものではお約束ともいえる相棒関係で新鮮だったのは、これほどお互いに相手を明け渡しているような友情が今まであっただろうか、という辺りです。ただ単に友情、とかいうだけでなくて、自分の信念とか思想とかをこんなに相手に思いっきりぶつけ合って、お互いの友情が時に足枷になったりする関係っていうのはなかなか新鮮なのではないかと感じました。

6 ■ペトロニウスさん

売ってますよ。1巻だったら、ブックオフでもたまに見かけます。で、読まれるんなら断然1巻からがよいです。もち、ビルドゥングス・ロマンでもあります。

いや~、これは楽しみだなあ。ペトロニウスさんが海洋冒険小説を読むと、どうなるんだろう。

5 ■少女マンガ感度抜群のペトロです

ふむ・・・読むならば1巻から読むべきなのでしょうか?。これは、おもしろそうですねぇ。普通に探せばうっている本なのでしょうか?。

4 ■えりりんさん

ありがとうございます。
今作も堪能できましたね。
「トマス・キッドシリーズはすばらしい」、本来この一言に尽きます。

飯嶋和一ですが、実はヒッジョーに気になっている作家なんです。推す方々の口調に等しく熱が籠もっている作家ってのは、必ずなにかあるのは経験則で知ってますからねえ。
しかも海洋冒険小説ときたら、とうてい無視できません。
情報提供ありがとうございました。

3 ■ぜひのおすすめ

TBいただいたようで、ありがとうございます。

トマス・キッドは、このジャンルの中では一番好きです。1巻が出たとき、裏表紙のあらすじを見て、おおこれは期待できる!と思い、まさしくそのとおりでした。
士官候補生じゃないところが大変よろしい。

ちなみに白石一郎もすきです。

そしていま、日本人作家で強力にお勧めする海洋冒険小説は、飯嶋和一『黄金旅風』です。まだ文庫化されていませんが、ぜひ単行本で買って愛でて欲しい小説です。

2 ■つなさん

受け取ってもらえてよかった(笑)。
こちらこそ、よろしくお願いしますね。

僕もねー、たまたまこのシリーズに出会わなければ海洋冒険小説なんて読まなかったと思います。
キッドものについては語りたいことがたくさんあるんですが、ここで一点だけ挙げるならニコラス・レンジのキャラクターですね。

熱血漢のキッドと対照的な知性派美男で、いわゆる陰のある貴公子なんですけど、これって少女漫画によく出てくるクールな男の子のイメージとピッタリ一致するんじゃないか? と思うんですよ。

そのあたり、誰か確かめてもらえないだろーか、と思っているんですが、もしかしたら少女漫画感度も抜群のペトロニウスさんなんかが適任なのかもしれません(笑)。

と、遠まわしに?(笑)。

1 ■熱い友情ドラマ

のエントリを捧げてもらっちゃいまして、恐縮です。ありがとうございまーす!今後とも、是非よろしくお願いいたします♪
海洋冒険小説って、ほとんど読んだ事がなくって、tujigiriさんのブログを読むまで、その存在もあまり意識したことがなかったのですが、tujigiriさんの熱い思いで、面白さが伝わってきました~。

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