Google

WWW を検索
ブログ内検索


2005年06月20日

「星を継ぐもの」J・P・ホーガン

テーマ:SF小説・スペースオペラ
著者: ジェイムズ・P・ホーガン, 池 央耿
タイトル: 星を継ぐもの

だれしも子供時代の記憶は輝いてある、とはいい切れないのかもしれないが、あの濃縮された時間のなかで全身を駆け巡った喜びの正体は、未知の事象と出会う新鮮さだったように思う。
ときに昆虫の異形におびえ、死の概念におののいたりもしたけれど、新しいものとの邂逅は小さい身体をいつも前へ前へと連れていってくれた。
成長するにつれ「不思議な物事」はいつしか「慣れ」や「予想の範囲」、つまらない「ルーティーン」に後退したけれど、大人がスキューバーダイビングや海外旅行に魅了されるのは、知らない世界に入り込む悦楽を忘れてはいない証拠だ。
自覚しようがいまいが、好奇心は汲み尽くされることなく身体に染み付いているのだ。

読書だってその例外ではなく、僕らは常に新しい物語や見たことのない表現を求めてやまない。
一概には定義付けできないが、内向きの発見を欲すれば文学がその役を任じ、外向きの推進燃料を担うのはエンターテイメント小説となる。優れた作品は両方の領域にわたって読む者の胸をとらえることだろうし、なにも物語なんてまどろっこしい仕掛けが要らないのなら、新書や学術書、ノンフィクションを読む手もある。
そんな本の世界でも、未知の情報を扱うことにおいて最も優れた媒体になるのは、SF小説だろうと思う。


知らないこと=未経験の事物であり、未経験の事物≠経験が可能、の式が成り立つとき、Xの値はSF小説が正解となる。
もちろんスプラッター殺人ものや手の込んだ推理小説なども正解たりうるのだが、後者の与式の度合いを強めていけば答えはSF小説か、あるいはファンタジー小説しか当てはまらなくなる。
といっても、人類が魔法や亜人類などと共生する可能性はおそらく絶無だろうから、実現性の点で比較するとSF小説に軍配が上がる。
なんとならば、好奇心という器は体験で充たされるのを望むからだ。
すべてのSF小説が実現性を備えるわけではないにしろ、より厳密にサイエンスを下敷きにしたそれは読者を興奮へと導き、本能を駆り立てていく。
僕はそれに抗うすべを知らない。

前置きが長くなった。
ここで背表紙の紹介とブックレビューを引用してみよう。

「月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。だが綿密な調査の結果、驚くべき事実が判明する。死体はどの月面基地の所属でもなければ、ましてやこの世界の住人でもなかった。彼は五万年前に死亡していたのだ!一方、木星の衛星ガニメデで、地球の物ではない宇宙船の残骸が発見される。関連は? J・P・ホーガンがこの一作をもって現代ハードSFの巨星となった傑作長編!」


「本作はSFであると同時に、いわゆる「本格ミステリ」でもある。
こういう作品をミステリファンは敬遠するらしい。
なんとももったいない話である。

ハードSFということで最初の100ページ弱は専門用語がバンバン飛んでくるが、そこはガマン。
それを越えれば、その先は月面で見つかった死体の謎をめぐる数々の仮説や発見が待っている。
この部分は正にミステリと言えるだろう。
そして最後に……!!

自分はミステリファンで、SFのことはよくは知らない。
しかし、この作品がミステリ史上最大のスケールを誇ることは間違いない。
このスケールのでかさを越えるミステリなんて、ないんじゃないかなぁ。」
(アマゾン.comより)



本書はミステリ小説としても白眉の作だと評されることが多いが、僕はそれは少し違うと考えている。

推理小説愛好家の審美眼にも耐え得る脚色はたしかに称賛に値するが、それは所詮味付けの手法でしかなく、そもそもの素材自体に魅了がなければ成り立たない評価だ。極論すれば、SFというジャンルがそれこそが、否応なしに人をひきつける力を持っているのかもしれない。

作中で全世界から集められた科学者が生物学や言語学、数学や機械工学などの多方面からそれぞれ死せる宇宙人の検証を重ね、それらを総合して一本の仮説を固めていく場面に少なくない紙幅が割かれているが、驚くべきは現実の文明研究もかくやと思わせるその解明プロセスの緻密さであり、そこではむろんミステリ的な、解釈の逆転によるカタストロフィも相当に惹起されるのだが、一貫して追求されるリアリティが小説全体を浮揚している。

さらにこの後、宇宙人の身元を巡って一転二転する研究所の喧騒をよそに、ガニメデで新たに発見される宇宙船が人類の起源をも揺るがすスケールの事実を科学者たちにもたらすのだが、ここからの怒濤の展開たるや、ほとんど快感に近い。
しかしまあ、本来SF小説である本書の最大の山場が宇宙空間でも異星でもなく、地上にべったり貼りついた研究施設というのだから、まったく何といっていいのやら。

未知にあくがれる人の本能をやみがたく刺激するSFというジャンルの、そのまた一大傑作「星を継ぐもの」。
未読者は幸せである。得難い愉悦に、これからたっぷり淫することができるのだから。
騙されたと思ってぜひ読んでみてほしい。
頭蓋がエンドルフィンで水浸しになり、脳みそは興奮の海に翻弄されるボートのように浮沈するのをお約束する。


オススメ度★★★★★





AD
いいね!した人  |  コメント(8)  |  リブログ(0)

tujigiriさんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

コメント

[コメントをする]

8 ■goldiusさん

コメント・TBありがとうございます。
ホーガンは5冊しか読んでいないんですが、この三部作は傑作というほかないですよね。

7 ■「揺籃の星」はまだ読んでない

過去の死んだホーガン贔屓ですが、TBさせて下さい

6 ■takeyanさん

takeyanさんとは読書の傾向が近いにかもしれませんね。
ホーガンはこのシリーズのほかには1冊しか読んでいないのですが、これからも追っていきたいと思います。

5 ■もっとSFを

ホーガンはもう、違和感を感じながら引き込まれていく独特の魅力的な世界なんですが、そのすべてが当シリーズにはありますね。ホーガンの最新作、「揺籃の星」を先日読んで、続きを楽しみにしているところです。

4 ■や

これはボノさん。
ホーガンをしばらく読んだら、次はディックかオースン・スコット・カードに進みそうな予感がします(笑)
そのまえにウェルズでもいいかな?

3 ■はじめまして(笑)

いゃ~ホーガン読んじゃいましたか~
もっと、もっとSF浸けになっちゃって下さい!(笑

2 ■おはずかしい

TBありがとうございます。
三部作読んでしまいました。

やっぱり「星を~」が一番ですね。

1 ■いやー、

すばらしい論評です。
評論文として,SF雑誌に発表できそうなくらいの出来です。

TB返しさせて頂きました。

コメント投稿

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。