白百合乙女学院一のお姉さま、鳳凰院さつきには悩みがあった。それは悪魔おじさんと彼女があだ名するひとりのおやじそのひとだった。悪魔おじさんはこの世のものではない。ただブリーフ一丁にモヒカンという世紀末も真っ青な頓珍漢な格好をした五十過ぎの男でいつも学院内を飛び回っていた。
— 暴食のモトタキ (@motoyaKITO) 2013, 11月 14
悪魔おじさんは他人には見えぬようだった。ただ、彼はひたすらに女学生を見てはよからぬことをするのだ。よからぬこととは、なんと彼は乙女の幸せを喰らうのだ。女学生に忍び寄っては、その胸元から暖かな光を掴み出し、
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まるで蕎麦でもたぐるかのようにツルツルとのどごしを楽しむのだ。こんな悪行をさつきが許せるはずがなかった。この学院の全ての女学生は彼女を慕っているのだ。だが、そのような超常の存在に立ち向かう術を知らぬ彼女は、悪魔おじさんの幸喰らいに我が身を差し出す他なかった。
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さつきは来る日も来る日も幸を食われていた。茶柱は飛散し、クロネコは大群で彼女のゆく道道を横切った。空はカラスが覆い尽くしてギャーギャーと不協和なオーケストラを四六時中奏でた。地獄だった。それでも彼女の心は折れなかった。理由などない。彼女は生まれながらに玉鋼のごとき魂をもっていた。
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だがしかし、幸せとは生きる上で無くてはならぬ活力源。いかに逞しく気高き鳳凰院さつきであれども、日に日に気力は擦り減らされ、今にも枯渇の危機が訪れていた。
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そんなさつきの元に救世主が現れた。その名は天使おばさん。悪魔おじさんが魔王によって作り出された人類絶望兵器ならば、天使おばさんは神が作りたもうた対悪魔おじさん絶対絶滅兵器である。天使おばさんは悪魔おじさんを見るや否や牙を剥き、爪を振りかざして、悪魔おじさんに食らいついた。
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さつきの脳内に「すまぬ、娘よ。天使おばさんの開発にも随分と時を要してしまった。辛い想いをさせたろう。だが、今日をもって君は救われる。悪魔は天使に撃滅されるだろう」と爽やかで厳かき声が響いた。神の声だった。目の前では悪魔おじさんが小便を漏らし涙と鼻水を振りまきながら逃げ惑っていた。
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「気に入らないね」さつきは悪魔おじさんに襲いかかる天使おばさんを抱きとめながら静かに呟いた。天使おばさんは不思議そうにさつきを見つめた。悪魔おじさんはその場に泣き崩れている。さつきは叫んだ。「なあにが終わりだい!悪魔おじさんを改心させるならまだしもころすなんてねえ!」
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「そんな後味の悪いことは納得いかないって話だよ!」さつきは甘かった。甘々の甘ちゃんだった。ひたすらにさつきの幸を食らい続けた元凶たる悪魔おじさんすら、彼女にとっては救うべき対象だったのだ。「しかし少女よ。彼の者は魔物。滅びなき救済など」「うるさいね!あたしが幸せを食わせて、」
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「生かしてきたんだ。これから先もそうすりゃいいだけだろう!何、ひとは生きてりゃあ悩みなんで憑き物さ。ちょっとばかし運の無い人生だって納得すりゃあそれで」生まれたての赤子のような泣き声がさつきの口上を遮った。悪魔おじさんが号泣していた。
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涙に濡れる悪魔おじさんの顔はぼろぼろと崩れ落ちた。とろけていく顔を拭いながら泣き叫ぶ悪魔おじさん。いや、違う。悪魔おじさんの顔はまったく違う顔になりつつあった。拭った顔がやけに眩しく輝く。今や悪魔おじさんは泣きわめく美青年となっていた。
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「ぬう、その顔は!」神が驚いた。悪魔おじさんの正体は、かつての戦で悪魔軍に囚われた天使だったのだ。さつきの真摯な心は彼を魔の呪いから解き放ったのである、かくしてさつきは専属の天使により誰よりも幸運恵まれた人生を送った。
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