続き④

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五右衛門風呂どうだ?気持ちいいか?

おじいさんが釜をいじりながら言った。

うん、気持ちいいよ。
じいじの五右衛門風呂は世界一だよ。

はは(笑)
お前は世界を見とらんじゃろ。
世界は広いぞぉ。
お前はまだ、世界の一部分も見ちゃおらん。

そっかなぁ。
この森も大きいけどなぁ。

この森か?
まぁ、こんな凄い森もなかなか無いわな。
白樺あるだろ?
あれはな、本当はシラカンバって言うんじゃ。
あの白樺がある森は自然が豊かな森でしか育たない木なんじゃ。

龍樹は、おじいさんの森の話を聞くのが大好きだ。
木の種類の見分け方は葉っぱの形で分かるとか。


明日さ、学校が参観日なんだ。
運動会より嫌いな日だよ。

そっかぁ、じゃぁ明日は休めばええ。森に来たらええ。

うーん。。。
いや、行くよ。
1人で生きていくぐらい強くなるって決めたから。
それに、俺にはこの森もいるし、じいじもいるし。

ほうほう。
そうかいそうかい。

おじいさんは微笑ましく返した。

強くなったな、龍樹。
おじいさんは言った。

おれは負けたくないんだ。
じいじが言ってくれたじゃないか、
人と違うことを恐るなって。
初めて聞いた時はちんぷんかんぷんだったけど、
今はちょっと分かるよ。

そうかい。それは嬉しいことじゃ。

おじいさんは、龍樹が子供だとか関係無く、難しい事をいっぱい教える。

ひろみの事も忘れるなよ。
そうだ、明日の参観日、ひろみに来てもらったらどうだ?


それはいいよ。

と龍樹は照れながら言った。

龍樹は、ひろみのことが大好きだ。きれいで優しくて、料理も上手だ。毎週水曜日はひろみが実家に来て夕食を作ってくれる。水曜日が来るのを龍樹は、いつも待ち遠しくしている。


急に龍樹の心にさみしさが宿った。
ひろみに明日の事を言えば、もしかしたら来てくれるかもしれない。

そう考えたら、さみしくなって来た。

なんじゃ?わしがひろみに頼んでみるか?

いいの!
おれは強くなるんだ!

へえへえ。

泣きそうになるのを堪え、五右衛門風呂を上がった。

近くでキツツキが木をツツク音がする。
龍樹は、目を閉じた。
風で葉っぱが掠れる音、鈴虫の鳴き声、川のせせらぎ、様々な音が
龍樹を包む。
この森のどこかで一生懸命生きている動物たちの呼吸まで聞こえそうな気がする。

龍樹の心の隙間を森の音たちが優しく埋めていく。
俺にはこの森がいる。
誰に頼らなくても生きていける大人になるんだ。

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尾崎豊さん。

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能年玲奈の映画に尾崎豊の曲が使われるらしい。

尾崎豊?あぁ、バイク盗んだやつ?

とか、

学校の窓ガラス壊して回った奴?

とか、いう人がいますが。

尾崎豊、全くしていません。
むしろ、金持ちの家の次男のお坊ちゃんで、超エリート。

全然不良でもなかったし、真面目でもなかった

「15の夜」や「卒業」
の歌は、
ただ、そういう気持ちになるというのを表現しているだけ。

当時この歌が世に流れた時に
学校の窓ガラス壊す人が出て来たり、
と社会現象になり、尾崎豊の歌は批判された。

死んだ後は、裏表ひっくりかえったかのように、マスコミは
「15の夜」や「卒業」
いい歌だと唄い始めたが。

社会現象が起きた当時
尾崎豊は、インタビューで本当に悲しそうだったらしい。
謝罪したのかどうかは知らないが、

そんなワンフレーズだけ拾って、歌の意味を決めつけるような人たちに、自分の歌を聞いて欲しくない

と、そんな感じの事を言った。

あの歌は、決して社会に反発している歌ではない。興味がある方、また冒頭で書いた曲の印象しかない方は、ちゃんと聞いて欲しい。
めちゃくちゃいい歌だ。

あの歌は、ただありのままの自分の思いをストレートに歌っているだけなんだ。

今でこそ、ゆとり教育も定着し、
個性というものがある程度は許され、
自分の思いを打ち明ける場所もあり、
カップルは街の中で人目を気にせず互いに愛を語らいやすい時代だ。

しかし、尾崎豊の時代は、
まさに学歴社会。
超優等生か、不良か。
そういう形にはめ込まれる時代だった。
大人のいう事を聞けない人は、はみ出し者とされ、比べられる時代。
皆が隣と同じじゃないと先生や大人からの理解というものを得られなかった

尾崎豊の才能というのは、
真面目とか不良という形に嫌がるだけでなく、ありのままの自分というものを言葉として表現出来た。
表現出来たがゆえ、自分自身を押し殺してまで、時代の風に心許すことが出来なかったんだと思う。

なぜ、生まれて来たのに自分の思うがままに生きてはいけないのか。
自分らしく、ありのままで生きられないのなら、なんの為に生まれて来たのか。大人たちの為か。大人たちの言いなりになるためか。
そういう生き方に絶望していたのだと思う。

尾崎豊がなぜ、歌を歌っていたのか。
ありのままの自分は、家庭でも学校でも街中でも、誰もわかってくれない。
兄だけは唯一わかってくれてたらしいが。

だから、歌に込め、それをステージで歌った。
皆にありのままの自分をぶつけ、
皆もそう思うだろう?
皆にとって自由ってなんだい?
せっかく生まれてきたんだから、ありのままの自分の生き方をしようと。

でも、たいていの皆は時代に逆らえない。
世間を上手く生きるために教育され、ありのままの自分なんかわかんない人がほとんどだ。

尾崎豊は、きっとそれが悲しすぎたんだと思う。

だから、覚せい剤で薬びたりになったんだと思う。
尾崎豊の歌い方は凄まじい。
歌への思いやハートをあんなに表現出来るってのはすごいと思うし。




I love you

尾崎豊の代表的な歌だ。
尾崎豊がそれをライヴで歌っているとき、観客の方から歌声が聞こえてきた。

尾崎豊は歌うのをやめて

ここはカラオケじゃねー!

と怒ってライヴを中止にしたらしい。

きっと、ガキだなって思う人がほとんどだろう。
それだけ音楽に命を削って歌っていたから。
それだけ、皆に幸せになって欲しいと願っていたから。



尾崎豊さんに一度でいいからお会いしたかった。
一度でいいから、尾崎豊さんの情熱に触れたかった

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続き③

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龍樹には、両親がいない。
去年火事で両親が亡くなってしまったのだ。
龍樹は、お遣いに行っていた。
お母さんに頼まれて、初めてのお遣いだった。

卵と牛乳と小麦粉とイチゴジャム。

1時間くらいかかった。

帰り道、自分の家の方から煙が上がっている。
龍樹は走った。卵なんかもう揺さぶられてグチャグチャだが、気にする訳がない。
全速力で走った。

そこには丸焦げの自分の家があった。消防士たちが自分の目の前を世話しなく走り回っている
龍樹は、日が暮れて星が出るまで、家の前にずっと立っていたらしい。

そこで出会ったのが、あるお姉さん。

森のおじいさんの娘だ。
名前はひろみ。

知り合いでは無かった。
が、近くに住んでいる少年だというのは知っていた。
かわいそうでならなかった。いても立ってもいられないくらい。
自分に何か出来ないか考えた。
小さい龍樹にはとてつもなく残酷な運命だ。

ひろみの家は昔、山村留学をやっていた。
たくさんの子供を預かっていた。
今は、両親2人で静かに暮らしている。

ひろみは、我慢出来なくなり龍樹に近づいた。

龍樹は、ひろみの顔を見た途端、涙が止まらなかった。
我慢していたのだろう。

子供なりに、今の自分の置かれた状況を考えていたのだろう。
だが、ひろみの声を聞いて、
何かが弾けたのではないか

ひろみの事は龍樹も知っていた。

近所に住む、きれいなお姉さんだったから。

ひろみは、龍樹を森のおじいさんの本当の家でもある実家に連れていった。

その日は、幸運にも日曜で森のおじいさんが実家にいる日だ。
電話して、まだ森に帰らない様に連絡をした。

龍樹は、ここに引っ越してきたばかりだったので、知り合いも友達もいない。
ひろみに声をかけられなかったら、今頃施設に預けられていたのかもしれない。

ひろみの車は、街を抜け森の方に近付いて行く。
峠に入る前の所に家はあった。
ひろみの実家に着いた。
ボロくて古くさい家だった。
2階だてで、サビ剥げた自転車が玄関の横に立てかかっている。

龍樹は、ひろみの手をギュッと握りしめた。
ひろみも何かを分かち合ったかのように握り返し、

大丈夫だよ。

と言った。

中にはいる。

ただいまぁ

ひろみが言うと、

帰ったか帰ったかと
おばあさんが出てきた。

目の横と鼻の横にシワが溢れている。

優しい声だった。

さらに中に入った。
そこには、真っさらな白髪のおじいさんがいた。

座りなさい。
そう言って、テレビを消した。

名前は?

ひろみが言った。

た、た、龍樹。
つ、津鹿島龍樹です。

名前を言っただけで手が震えた。
ひろみは、それに気付き
頭を撫でながら

いい子だね

と言った。

何才だ?

10才です。

そっか。
おじいさんが言った。

君は、今日からここの家族になる。
自分の事は自分でするんじゃ。
なかなか君も最初はいずらいかもしれんが、
君のお父さんとお母さんは、いつも君を見とる。

龍樹は、おじいさんの顔を見た。

死んでしまったけど、魂は君のそばにおる。
だから安心しなさい。

大切な事は、毎日心に手を当て、お父さんとお母さんに話しかけることじゃ。

今日あったこと、辛かったこと楽しかったこと、
毎日寝る前でもいい、ちゃんと伝えることじゃ。
胸に手をあてるんじゃぞ?

お父さんとお母さんがいなくてもちゃんと生きていけるのか、
いつもいつも、お父さんとお母さんは、心配しとるんじゃ。
な?


ゆっくりでいい、一つ一つ自分でできる様にするんじゃ。

今日は疲れたろう?
ひろみと一緒に寝るがいい。

頼んだぞ、ひろみ。

気が付けば、龍樹のシャツは涙でビショビショだった。

狭い階段を昇り、ひろみの部屋に入る。
ひろみが用意してくれた布団に入って、
すぐ寝てしまった。
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