旧・日常&読んだ本log

流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。


テーマ:
石持 浅海
Rのつく月には気をつけよう

石持浅海さん、初読みです。料理とミステリだし、表紙もなんだかいい感じだし、と私のアンテナに引っかかってきました。図書館で割と長いこと予約待ちしてたんだけど、しかし待った分、これは少し点が辛くなってしまいました(でも、結構な予約数だったので、きっと人気がある作家さんなのでしょうね)。

大学時代の飲み仲間三人、彼らの集いは就職してからも、そのうち一人のワンルームマンションを舞台として続いていて。ただし、いつも同じメンバーでは進歩がない。三人のうちの一人が、友人一人をゲストとして連れて来ることが決まり事。そこで語られる何気ない話から、本人も気づかなかった真相を導き出すのは、大学時代に「悪魔的な頭脳を持つ男」との異名を取った、長江高明。ちなみに、語り手の「わたし」、湯浅夏美のキャッチコピーは「一升瓶を一気飲みできる夏美」、仲間のもう一人、熊井渚のコピーは「雑学王の熊井」。

長江が肴を用意し、熊井が酒をチョイスする。ゲストの話から静かに一つの真相を取り出して見せる長江、反論する熊井(ちなみに、熊井は機嫌が悪くなると、長江のことを揚子江と呼ぶ)、混ぜっ返す夏美。三人の役割もまた、綺麗に決まっているのだが…。

目次
Rのつく月には気をつけよう
 :肴 生牡蠣、酒 ボウモア十二年物
夢のかけら 麺のかけら
 :肴 チキンラーメン(お湯をかけず、そのまま食す)、酒 ビール
火傷をしないように
 :肴 チーズフォンデュ、酒 オレゴンの白ワイン
のんびりと時間をかけて
 
:肴 豚の角煮、酒 泡盛
身体によくても、ほどほどに
 
:肴 ぎんなん、酒 静岡の純米酒
悪魔のキス
 
:肴 ガレット、酒 ブランデー
煙は美人の方へ
 
:肴 スモークサーモン、酒 パイパー・エドシック(シャンパン)

ここから先は、勘のいい方ならこれだけで気づいてしまうかもしれないので、これから読む予定のある方は読まない方が良いかと思います。

注意深く読めば、全部書いてあるんだけど、実はこの短編、一つのミスリードが全編を貫いていて、最後にちょっとしたどんでん返しがあるのです。でも、この縛りのために、どうも話が堅くなってる気がするんですよねー。ここが、私の点が辛くなった所以。歌野晶午さんくらい天晴に騙してくれるならいいけれど、この程度の騙しであるのなら、この部分ではなく、一つ一つの短編で、もっときっちり楽しませて欲しかったなぁ。雑学の部分もね、特に目新しくなくて、知ってるー、となってしまうことも多くって。あ、でも、牡蠣にシングルモルトという組み合わせは、私の中で新しかったな。機会があれば、今度やってみたいと思います。あ、あと、カンヌ国際映画祭公式シャンパンだという、パイパー・エドシックも知りませんでした(輸入元のアサヒビールのページにリンク )。

またね、いくらそれがテーマとは言え、飲み会の肴が一種類と言うのは辛すぎる…。他の物もちゃんと食べてるよ~、という描写も欲しかったなぁ。ま、それをやっちゃうと、繁雑になるのかもしれないけど、せっかくの酒と肴とミステリー。もっと楽しめるのであれば、味わい尽くしたいと思うのも、また人情かと。
AD
いいね!した人  |  コメント(6)  |  リブログ(0)

テーマ:
森見 登美彦
新釈 走れメロス 他四篇

目次
山月記
藪の中
走れメロス
桜の森の満開の下
百物語


森見さんの本は、「夜は短し歩けよ乙女 」もそうだったけれど、装幀もいいですよねー。これもね、「山月記」では万年筆と原稿が、「藪の中」では雨粒と傘が、「走れメロス」では桃色ブリーフが、「桜の森の満開の下」では乙女が、「百物語」では和蝋燭が、アイコンのように描かれている。

森見登美彦氏のブログ、「この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ 」では、作品を「子」として愛でる登美彦氏の姿が見られるわけですが、やっぱり装幀にも拘りがおありなのでしょうか。

takam16 さんに教えていただいて、NHK教育の森見氏出演「トップランナー」も見ましたが、その辺への言及はなかったです(つか、デザイナーの方が張り切って作っちゃうような作品なのかしらん)。

さて、本題に。

これはタイトルからも分かる通り、古典作品を【新釈】により語りなおした短編集。

基本、いつもの森見作品のように京都を舞台とし、「山月記」では、孤高の学生はついには天狗になり、「藪の中」ではある自主製作映画を巡る人間模様が描かれ、「走れメロス」では、詭弁論部の学生は友情を証するために、何としても約束を破ろうと躍起になる。「桜の森の満開の下」では、ある女に出会って、男は腐れ学生から成功した作家になり、「百物語」では、百物語の會の周辺に佇む学生の姿が描かれる。

それぞれの物語は、時に登場人物を同じくし、その間には緩やかな繋がりがあるようである。

元ネタとしては、芥川龍之介の「藪の中」、森鴎外の「百物語」が未読。せっかくその作品の雰囲気も共に【新釈】したというこの作品、「百物語」はともかく、「藪の中」は読んでおきたかったなぁ。

しかし、ここにも出てきますよ、「パンツ番長」。もしかして、森見さんのお気に入りネタ?笑 パンツ繋がりではありませぬが、「走れメロス」では、附属図書館の図書を借り出したまま返却しない連中に、制裁を加えて図書を回収すべく設置された学生組織、「図書館警察」なる摩訶不思議組織が出てきます。この図書館警察長官との仁義なき戦いも面白い。さて、「図書館警察」と言えば、スティーブン・キングのその名もずばり、「図書館警察 」があるのだけれど、「【新釈】~」に出てくる「図書館警察」の方が、言葉のイメージに近いです。図書館をよく利用する人間には、たとえ延滞してなくても、この言葉の響き、ちょっと怖~くないですか?

坂口安吾の「桜の森の満開の下(これは、タイトルが滅茶苦茶いいよねえ)は、随分前に読んだっきりだけれど、これもまた雰囲気が出ていたように思います。
AD
いいね!した人  |  コメント(4)  |  リブログ(0)

テーマ:
山本 一力
お神酒徳利―深川駕篭 (深川駕篭)

深川駕籠 」の元臥煙の新太郎、元力士の尚平の駕篭舁きコンビが、再びお目見え。相も変わらず、尚平とおゆきの仲は新太郎に遠慮してか遅々として進展せず、新太郎も新太郎できれいさっぱり女っ気もなく。そんなわけで、今日も木兵衛長屋では、甲斐甲斐しく新太郎と自分の分の朝飯の支度をする尚平の姿が見られるのでありました…。

目次
紅蓮退治
紺がすり
お神酒徳利


紅蓮退治」は、江戸の住人が最も恐れた火事の話。半鐘を打つのは、各町に構えられた火の見櫓の役目。けれど、屋敷内に櫓を構えた大名は町場の火の見櫓に先駆けて、自家の半鐘を鳴らすこともある。そして、滑った時、つまり煙を見間違えて半鐘を打った時は、すぐさま一点鐘(いってんしょう)を打って鎮火を知らせるのが定め。ところが、「でえみょう屋敷の連中は、滑りのケツを拭かねえ」のだ。しかも、今度の半鐘は「滑り」どころか、遊び半分の「カラ半鐘」のようで…。尚平とおゆきのために、深川不動尊に怒り断ちの願掛けをしていた短気な新太郎なのだけれど、そこは勿論…、という話。

新太郎の実家の両替商の話も出てくるし(蔵の目塗りの話などは興味深い)、番太郎(=木戸番)の話なんかも面白いのだけれど、出てくるエピソードが、きちんと全部生かされている感じがしないんだよねえ。カラ打ちを繰り返していた武家は、なぜそんなことをしていたのかしらん、という疑問が残る。

紺がすり」は、タイトルは因業親父、木兵衛の別の顔を助けるさくらの着物から来ているように思うけれど、実際はタイトルには関係のないお話。新太郎と尚平が煮売り屋で聞き込んだ話と、彼らが助けた母子の話から導かれたのは…。それは、江戸でも屈指の『檜屋』(材木商の中でも、檜の元の値が高いだけに、檜を扱う業者は『檜屋』と別称された)である丸木屋への脅し。

このお話では、江戸の夜の暗さが印象深い。江戸の町人が多く暮らすのが、棟割長屋。明かりといえば、よくて行灯、並の暮らしで魚油を燃やす瓦灯(がとう)。上物の行灯でも部屋をぼんやり照らすくらいで、瓦灯にいたっては、手元の明かりでしかなかったのだとか。こういうの、杉浦日向子さんの次くらいに、分かり易く表現してくれるのが、山本一力さんだなぁ、と思います。

お神酒徳利」では、なんと尚平の想い人、おゆきが攫われる。それは、おゆきのお軽の技を狙ったもの(お軽とは、花札賭博のとき、相手に配る札を一瞬のうちに見定める技)。尚平と新太郎は、今戸の貸元、芳三郎の手を借りて、おゆきを助け出す。

尚平とおゆきの仲が、これで少しは進展するのかな、とも思うのだけれど、これがちょっと尻切れトンボ。おゆきを攫った弥之助は、芳三郎の名を聞いて早々に逃げ出してしまうし、弥之助を雇っていた薬種問屋の息子の徳次郎もまた、てんで腰が据わってないし(そして、助太刀のお武家のことも、あれじゃ丸わかりだしさ)。

深川黄表紙掛取り帖 」と、その続編、「牡丹酒 」でもちょっと思ったのだけれど、山本一力さんは、シリーズの一作目では、色々なエピソードをきっちり落とし込んでくるんだけれど、二作目ともなると、どうもエピソードを端折って、葵の御紋のように豪商とか、一目置かれる貸元などを使ってくるような気がします。ちょっと惜しい! 細部をきっちり語ることのできる作家さんなだけに、紋切り型は嫌だよう。

損料屋喜八郎始末控え 」の続編、「赤絵の桜」は大丈夫なのかなぁ。でも、「赤絵の桜」を読む前には、深川の老舗料亭「江戸屋」を舞台とした、「梅咲きぬ」をぜひ読みたいところ。山本一力作品は、同じ年代の江戸の話を多く書いておられるせいか、あちこちで登場人物がリンクしているんだよなぁ(また、色々見逃してそう~)。

■お神酒徳利とは?■
「菊正宗」のページにリンク
AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)

テーマ:
菅 浩江
歌の翼に―ピアノ教室は謎だらけ
祥伝社ノベルス

ピアノ教室の先生、杉原亮子を中心とした連作ミステリ。

目次
第一話 バイエルとソナチネ
第二話 英雄と皇帝
第三話 大きな古時計
第四話 マイ・ウェイ
第五話 タランテラ
第六話 いつか王子様が
第七話 トロイメライ
第八話 ラプソディ・イン・ブルー
第九話 お母さま聞いてちょうだい

町の楽器店、数田楽器店の音楽教室で、近所の子供たちにピアノを教える杉原亮子。如何にもお嬢様然とし、注意深く選ばれた上質な品々に囲まれた家で暮らす彼女。ところが、その居心地良さげな家には不釣合いなほどの物々しい警備に、「お嬢様」という言葉を耳にする度に哀しげな表情を見せる亮子に、違和感を覚える人々もいる。有名音大を首席で卒業したにも関わらず、演奏家の道を歩むことなく、しがないピアノ教室の先生という身分に甘んじ、人前でも決してピアノの演奏をすることのない彼女。彼女の過去には一体何が?

亮子の勤め先の楽器店の奥さんは、「精神的に色々あって、人前では演奏が出来ない」という亮子の事情は承知しているものの、何となくほうっておくことの出来ない彼女の風情に、時々抜群の冴えを見せる彼女の推理力に、亮子自身に対する興味も津々。それは勿論、彼女に対する思いやりを忘れないレベルのものなのだけれど・・・。亮子の事情を全て承知している声楽家の友人、花田裕美子、彼女の紹介により数田楽器店でアルバイトすることになった、音楽療法士を目指す大八木千鶴を絡めて、話は進んでいく。

ちょっと珍しいな、と思ったのは、第一話から第九話まで、それぞれ違う人物が主となって語られるということ(第六、第八は特定の人物なし?)。第一話と第九話は、主人公である亮子の視点で語られるのだけれど、第二話は「楽器店の奥さん」である幸代が、第三話は楽器店の息子、慎太郎が、第四話は音楽療法士の卵、千鶴が、第五話は同じ音楽教室のピアノ教師、実千代が、第七話は亮子の友人、裕美子が主となって語られる。

周囲の人々が丁寧に書かれるせいか、読み終わる頃には、このちょっと時代遅れ気味でもある、数田楽器店の音楽教室がすっかり馴染みのお店になっている。ここで描かれるのは、子供同士の諍いであったり、母娘のそれぞれの闘いであったり、何だか懐かしいともいえる問題。子供時代の習い事の定番、「ピアノ教室」といい、全てが何だか懐かしいというか、ノスタルジックな色合いを帯びる。亮子を襲った問題については、途中で何となくは分かるものの、ノスタルジック~♪なんていってられるような、甘い問題ではないのだけれど、ピアノ教室の生徒たちのやさしさや、亮子の友人たちのやさしさにちょっとじんとくる、さらりと読めるミステリ。

菅浩江さんは初読みだったのですが、私、実はSF作家の飛浩隆さんと混同していた模様・・・。おかしーなー、おかしーなー、と思ってたんですが、これでしっくり。つか、名前が三文字の所しか似てないよ、何で混同したんだよ、私。
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)

テーマ:
 
田中 芳樹, 垣野内 成美
薬師寺涼子の怪奇事件簿 夜光曲  
祥伝社 NON NOVEL

ヨコガミ破りは当たり前。
ダダとリクツはこねる為にある。
国宝級の美脚に美貌、財力もばっちりのキャリア警視、薬師寺涼子。
ついた渾名は、「ドラキュラも避けて通る」こと間違いなしの、「ドラよけお涼」。

執事のように、僕のように、彼女に付き従うのは、こちらはノンキャリアの部下、泉田準一郎警部補。

「あたしにしか解決できない一大事」を待ち望む涼子の前に現れる事件とは?

目次
第一章 緑の風もさわやかに
第二章 蛍の光り、窓辺の血
第三章 怪人「への一番」の陰謀
第四章 ゼンドーレン最後の日
第五章 ヤマガラシ奇談
第六章 文人総監のユーウツ
第七章 双日閣の対決?
第八章 怪人+怪物+怪獣
第九章 原形質からやりなおせ


えー、わたくし、またシリーズ本を途中から読むという過ちを・・・。軽いシリーズだし、状況説明もちゃんとしてくれるので、読めてはしまうんだけど。でも、シリーズの最初くらいは、探してみようかな。

さて、「夜光曲」に戻ります。最初に起こったのは、新宿御苑の緑が一夜にして枯れ木に変わってしまったという事件。次に起こったのは、蛍狩りが名物の日本庭園での、人食いボタルの出現事件。これは新たなバイオ・テロの一種なのか??

個人的な理由もくっつき、ホタル撲滅宣言で気炎を上げる都知事の緊急会見中に、今度は都知事がネズミに襲われる。一連の騒動は、背後に同じ犯人がいるのだろうか?

涼子が走り、「私」泉田が付き従う。きらきらと光り輝くような(良い意味でも悪い意味でも)涼子に比較し、泉田はまるで涼子の影のよう。でも、この彼がね、サポートは適切だし、有能で、なかなかにかっこいいのではと思うのよ。これはぶっ飛んだ涼子に爽快さを求めて読んでもいいし、泉田くんの忍従ぶりに可憐さというか、ある種の萌えを求めて読むのかなー。しかし、もそっとリアル(に思える)な警察小説では、三十三歳にして、警視庁の警部補というのは、ノンキャリアとしては相当に出世が早い方だと思うんだけど、涼子につりあわせると、こうなっちゃうのかなぁ?

えー、事件の方は、私、最初「怪奇」事件簿という言葉に気付かず読んでたので、てっきり普通の事件を解決するのだと思っていたのだけれど、そこは「怪奇事件簿」。怪奇なのです、理屈ではないのです・・・。妖怪ヤマガラシなのです・・・。

後、楽しい所は、某都知事を髣髴とさせる都知事の言動。自衛団的な首都戦士東京ってほんとにありそうなところが怖いよ・・・。どうなるのでしょうねえ、東京都知事選。嗚呼、東京都民は楽しそうで良いなぁ・・・。
 ← これが最初?
いいね!した人  |  コメント(4)  |  リブログ(0)

テーマ:
恩田陸「象と耳鳴り」

「六番目の小夜子」に出てきた、関根多佳雄を探偵役とする、本格ミステリ風の小品集。ただし、「六番目の小夜子」 では、現職の判事だった多佳雄は退職判事となり、「図書室の海」 に出てきた夏は弁護士、兄の春は検事となっている。

目次
曜変天目の夜
新・D坂の殺人事件
給水塔
象と耳鳴り
海にゐるのは人魚ではない
ニューメキシコの月
誰かに聞いた話
廃園
待合室の冒険
机上の論理
往復書簡
魔術師
あとがき

「あとがき」には、恩田氏自身による解説つき。
この短編集のどの短編をタイトルにするか迷った末、装丁のためにこのタイトルに決めたそうだ。東京創元社の三十年前のペーパーバック、バリンジャー「歯と爪」(装丁は花森安治氏)のデザインに惚れ込んだそう。

恩田 陸
象と耳鳴り
←というわけで、装丁はこんな感じ。すっきりと美しい。

私が特に好きだったものを挙げておきます。

■曜変天目の夜
-きょうは、ようへんてんもくのよるだ

美術館で倒れた老婦人を見た関根多佳雄は、十年ほど前に亡くなった友人を思い出す。司法学者であった友人、酒寄順一郎と多佳雄は、しばしば順一郎の自宅で深夜まで熱心に判例の解釈について話し合ったものだった。いつもと同じようにすっかり遅くまで話し込んだ多佳雄が、一階の客間で眠り込み、順一郎は二階の寝室に引き上げたのだが、晩秋のその夜、彼は帰らぬ人となった。

最後に窯を開けてみて、美しい茶碗が出てくるか、割れた土くれが出てくるかは、誰にも分からない-

多佳雄は友人の意図に気付く。曜変天目茶碗は、日本の茶道がわび・さびを確立する前の時代、茶碗そのものの美しさが珍重された時代に、最上のものとされた茶碗。茶碗の中に沢山の星が散り輝いている。窯の中で偶然に出来るそれは、宇宙を逆さまに覗き込んでいるような錯覚を人に与える。人は自分の中の暗黒を、どう処理するのだろうか。

■新・D坂の殺人事件
渋谷の道玄坂に、突如若い男性の変死体が現れた。街を徘徊していた「男」は、同じく街を回遊していた多佳雄と知り合う。男性の死体はどこから現れたのか?乱歩「D坂の殺人事件」を絡めて、「男」と多佳雄は喫茶店で推理を行う。

この「男」は名を時枝満といい、続く「給水塔」には、多佳雄の散歩仲間となって再登場する。

■往復書簡
新人記者となった姪の孝子との書簡のやり取りの中で、多佳雄は奇妙な放火事件の話を聞く「一見箱入りで世間知らず」に見える孝子の、聡明さ、生き生きと働く様子が清清しい。

「廃園」は私の好みではないのだけれど、女の情念が怖い小編。噎せ返るような薔薇の匂いがする庭園には、どこか妖しさ、恐ろしさを感じずにはいられない。それが廃園となれば、よりいっそう・・・。

どれもごく短い話なので、するりと読める一冊だと思う。
自分の身近にも、実は日常の小さな謎が転がっているのかもしれない。

恩田 陸
象と耳鳴り―推理小説  ←既に文庫化されているようです
祥伝社文庫

*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
いいね!した人  |  コメント(4)  |  リブログ(0)

テーマ:
えびな みつる
猫辞苑―現代「猫語」の基礎知識
1【猫】2【あってもなくても猫の尻尾】から、100【我輩は猫である】まで、100の「猫」を含んだ用語の解説。右頁に1~3つの用語、左頁に右頁の内の1つの画が描かれている。

例えば、この表紙は68の【猫の額】なのだけれど、解説はこんな感じ。

猫の額はせまいことから、場所がきわめてせまい様子のたとえ。
例)猫の額のような庭。
眉から髪の生え際までを額というが、猫の場合、顔中毛だらけで生え際に相当する部分は判然としないため、単純に猫の額イコールせまい、という一般的認識は短絡的と言わざるを得ず、犬の額のほうがせまい、とする識者もある。

基本的に猫よりの解説です。【あってもなくても猫の尻尾】は、「あってもなくてもどちらでもよいもの」「役に立たない無駄なもののたとえ」だけれど、バランス調整や飼い猫の感情表現などに役立っているので、「このことわざは正鵠を得ているとは言い難い」だって。時々、「これは犬派が意図的に流布させたものと思われる」なんていう記述もあります。

【金猫】【銀猫】【皿なめた猫が科を負う】【三年になる鼠を今年生まれの猫が捕らえる】【鍋島の猫騒動】【猫石】【猫板】など、知らない言葉も多かったです。

また、【猫じゃらし】は二つの意味があるのだけれど、その内のよく知られている植物の方。エノコロ草の別名で、エノコロはエノコと同義で犬の子のこと。穂の形状が子犬の尾に似ていることから、エノコロ草と命名されているそうだ。「猫をじゃれさせるものが、実は”子犬の尻尾の草”という意味の名であることを知る人は少ない」とこのことで、言葉って面白いなぁと思ったことでした。画もユーモラスで可愛いです。

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
いいね!した人  |  コメント(2)  |  リブログ(0)

テーマ:

山本一力「深川駕籠」

目次
菱あられ
ありの足音
今戸のお軽
開かずの壺
うらじろ
紅白(めおと)餅
みやこ颪

短編が重なっていくスタイル。主人公となるのは、元臥煙の新太郎、元力士の尚平の駕篭舁きコンビ。私には聞き慣れない言葉だったのだけれど、臥煙とはこういう人たち。
最初のジャンで飛び起きて、だれより早く火事場に駆けつけるのが臥煙だ。真冬でも白地の木綿一枚にさらしだけ。薄い木綿越しの彫物を見ると、やくざも道を譲った。
で、その性格は、
命よりも男の見栄を大事にするわけです

最初の「菱あられ」は、このちょっと異色の駕篭舁きコンビの顔見世と言った所。男の意地を掛けて、入谷鬼子母神から雑司が谷の鬼子母神まで、客を乗せてひた走る。これ、事情があって時間制限があるのです。この「菱あられ」では、ちょっと強面で何を考えているのか分からなかった二人。編を重ねる毎に、徐々に彼らの事が分かってきます。

色白でハンサムだけれど、ちょっと甘ったれ(ぼっちゃんだから?)の新太郎、漁師町育ちゆえかしっかりしていて、いつも新太郎を気遣う尚平。長屋の人々、彼らが走る間に、因縁あって仲間になっていく、町の人々もいい感じ。ハイライトは江戸版トライアスロンといった趣のある「紅白餅」かなぁ。「年忘れ吉祥駆け比べ」

色恋沙汰はほんのちょっぴり。一応ちゃんとあるのだけれど、男の友情の方が印象深いです。そしていつだって、色男の方がモテないのは、なぜなんでしょう。ちょっと可哀想になってしまいました。だって、かっこいいのにー!と。

おゆきを除けば、ごく普通の女の人は長屋のおかみさんたちくらいしか出てこない、もろに男の世界!という感じなのですが、面白かったです。続編があったら読みたいです。これからの方が、面白くなりそうな匂いを感じるのだけれど、ないのかな?
と思っていたら、7/8の新聞広告に「深川駕籠」の続編「お神酒徳利」の宣伝が!うーん、読みたい。

新聞記事で見掛けた山本さんの半生(莫大な借金を抱え、小説で借金を返そうと決意。自分の状況を江戸に置き換えて小説を書いた)が興味深くて、本を借りてきました。人情べったりでも、懐古調べったりでもない話は新鮮でした。スピード感溢れる、まさに大江戸アクション!といった趣きの一冊。

深川駕籠
山本 一力 / 山本 一力著
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)

AD

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス

      ランキング

      • 総合
      • 新登場
      • 急上昇
      • トレンド

      ブログをはじめる

      たくさんの芸能人・有名人が
      書いているAmebaブログを
      無料で簡単にはじめることができます。

      公式トップブロガーへ応募

      多くの方にご紹介したいブログを
      執筆する方を「公式トップブロガー」
      として認定しております。

      芸能人・有名人ブログを開設

      Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
      ご希望される著名人の方/事務所様を
      随時募集しております。