旧・日常&読んだ本log

流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。


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横山 秀夫
震度0

阪神・淡路地区を、大震災が襲った1月17日の未明。神戸から遠く離れたN県警にもまた、異変が起こっていた。三千人の職員を抱えるN県警の筆頭課長、不破警務課長が消えたのだ。

時を同じくして目撃された、殺人犯・三沢は関係しているのか? また、不破課長の車が発見されたのは、彼の前任地である東部署の近くであった。不破の署長時代の県議選違反事件は彼の失踪に関係しているのか?

キャリア、準キャリア、ノンキャリア・・・。それぞれの立場のものたちが、それぞれの思いで動く。
恫喝、脅し、秘匿、おもねり、裏切り何でもあり。

最初のページに、《N県警主要幹部》《N県警幹部公舎》《N県警本部庁舎》の見取り図が載せられているのだけれど、これがまた重要になるほどに、公舎の中での妻たちの争いもなかなかに熾烈。近くに見えてしまうがために、彼女たちは夫たちの序列を公舎にも持ち込み、自らと他人とを常に比較する。横山さんお得意の、全ての基準は人事の優劣、警察内部での出世というような、強烈に警察の中に中にと、入り込んだ物語。表紙も如何にも警察だしね。

《N県警主要幹部》を書き写しておくと、こんな感じ。

・本部長・・・・・・・・・・・椎野勝巳。46歳。警視長。警察庁キャリア。
・警務部長・・・・・・・・冬木優一。35歳。警視正。警察庁キャリア。
・警備部長・・・・・・・・堀川公雄。51歳。警視正。警察庁準キャリア。
・刑事部長・・・・・・・・藤巻昭宣。58歳。警視正。地元ノンキャリア。
・生活安全部長・・・倉本忠。57歳。警視正。地元ノンキャリア。
・交通部長・・・・・・・・間宮民男。57歳。警視正。地元ノンキャリア。


例えば、交通部長よりも生活安全部長の方が位が上とか、警務部と刑事部の確執とか、ノンキャリアの退職後の地元でのポストとか、本庁から送り込まれるキャリアと地方の確執とか、興味がないと辛いかなぁ、と思うけれど、そこは横山さんの筆力があるので、私は面白く読むことが出来ました。や、ぶっ飛び警察小説「夜光曲 」を借りてきたので、それとのバランスをとるために、一緒に借りてきたというのもあるんですが・・・。

遠く阪神・淡路地区では被害の様子が段々と明らかになり、その被害の甚大さ、重大さがN県警にも情報として入ってくるようになるけれど、N県警の幹部たちの目はこの不破課長の失踪事件に向いたまま。しかも、それは不破という一人の人間がいなくなってしまったことではなく、県警の幹部の一人が消えた事による、自分の出世、立場への影響を鑑みての事。「揺れることはかなわん」。キャリアの椎野本部長の言葉が全てを表しているように、阪神・淡路地区の大震災を横目に、N県警の幹部達は震度0を望む・・・。

不破課長の失踪の真相は、京極氏の「姑獲鳥の夏」ですか!、とも思うんだけど、ま、あれほどトンでもではないですかね。

ラストは一筋の光明。途中からじわじわと味を出す、堀川警備部長。彼は県警の良心となり、N県警に「激震」をもたらすのだろうか。

最後に。阪神・淡路大震災をこういう形で小説に描くのは、賛否両論があると思います。確かに、N県警での「震度0」と対比するためだけに、この大震災を描いたのだとすれば、こういう形でなくとも良かったのでは、と思うけれど、救援に飛びたいけれどもなかなか現場に入る事の出来ない事情なども描かれ、そのあたり、真摯に書かれているのではないのかなぁ、と私は思いました。
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姫野 カオルコ
初体験物語

姫野さんでこのタイトルとくると、あちら方面なのかしらなどと、思ってしまうわけですが(amazonの画像を貼ろうと、「初体験物語」で検索したら、ええ、かなり怪しげなのも引っ掛かってきました)、これはちょっと違う本。はじめて~をしたのは、で始まるエッセイ集。そのはじめての体験は、あいうえお順になっていて、アイ・プチ、アイシャドーから始まり、ワープロ、私がはじめて、で終わる。

初出は雑誌「ダカーポ」の1992年10・21号~1997年7・2号まで。安田成美の「ねえ、薔薇って書ける?」などの時事ネタも含みつつ(この厭らしさに、きっちりと突っ込むのが姫野さんだよなぁ)、今読んでも勿論面白いです。ここに描き出された姫野さんは、まさに姫野さんの小説に出てくる女性を髣髴とさせる人物像(これもまた、一つの演技、なのかもしれないけど)。

よい意味でも悪い意味でも「息苦しいくらい重い」といわれる『喪失記 』に比べ、息が楽に出来るような楽しい一冊にしようと考え、編集者が構成してくれたのではないか、とのこと。うんうん、確かに『喪失記』は重かった~。

でもこの本には、姫野さんと姫野さんの小説に出てくる女性を、同一視してしまいそうなエピソードも沢山含まれてて、「ん?」と思うことも多いのだ。真実の姫野さん像が気になるなぁ。骨太美人で料理が上手、という辺りはきっと真実だと思うのだけれど。

そういえば、私を姫野さんに叩き落した『ツ、イ、ラ、ク』 も文庫化されました。また、こういうヘビー級の恋愛小説も読んでみたいものです。


 ← これは、ほんとに凄い小説です。

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塩野七生「三つの都の物語」

緋色のヴェネツィア
銀色のフィレンチェ
黄金のローマ

「読者に」とされたあとがきを読むと、この三部作の真の主人公は、人間ではなく都市(また、それぞれの初出タイトルは、順に「聖マルコ殺人事件」、「メディチ家殺人事件」「法王庁殺人事件」とのこと)。

トルコ帝国の首都となったコンスタンティノープルと関係を持たざるを得なかった、十六世紀初頭のヴェネツィア、君主国に変わりつつあった同時期のフィレンツェ、最後のルネサンス法王といわれたファルネーゼ法王下のローマ・・・。最盛期を過ぎて、優雅に衰えつつある時期の三つの都市が題材とされる。

この本において特筆すべき事は、塩野氏がこの三部作で、初めて主人公二人を創作するという手法を選んだこと(とはいえ、私はこの本が塩野氏初体験なのですが)になるのだと思う。男女二人の主人公にこの三都市を旅させ、また生活させることで、ルネサンス時代を代表するこの三都市を描いたのだという。主人公二人以外は全て史実によるもので、この三部作は「史実のパッチワーク」であり、常に念頭から離れない「事実は再現できなくても、事実であってもおかしくないことは再現できる」ということの実験例とも言えるのだそう。

ノンフィクション的色彩が強い塩野氏の作品の中では、かなり自由に描いておられるとのことだけれど、例えば歴史小説の系統でいっても、三作品を読んだ佐藤賢一氏(イタリアとフランスという、取り上げておられる国の差もあるけれど)と比較しても、エンターテインメント色は弱く、また読む側にもある程度の知識が必要とされるように思う。

塩野氏が創作した、ヴェネツィア貴族マルコ・ダンドロ、悲しい生涯を秘めた高級遊女、オリンピア。二人とも大変に魅力的であるし、ヴェネツィア貴族の生き方、当時の都市、当時の慣習、政治哲学なども色々興味深いのだけれど、私が読むにはまだまだ自分でこなすことが出来ず、硬い物を無理やり咀嚼しているような感じだった。

「緋色のヴェネツィア」は、ヴェネツィアの元首アンドレア・グリッティの私生児であり、トルコの宰相イブラヒムに深く食い込んだアルヴィーゼ・グリッティを中心に描かれる。そう、「シナン 」ではトルコ側から描かれた史実が、今度はヴェネツィアの側から描かれるというわけ。というわけで、これに関しては、何とかついていくことが出来たように思う。
ただし、ヴェネツィアの貴族、政治に関しては、初めて聞くことばかり。良く出来た制度だなぁ、と感心致しました。外交なくしては立ち行かない、ヴェネツィアという国の強かさ、バランス感覚、情報の重要性が興味深い。
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さらに「読者へ」によると、いつか余裕ができたら、この三部作の続編を書いてみようか、とのこと。マルコ・ダンドロはまだ四十代に入ったばかり。今後は大使にでもして、十六世紀半ばのヨーロッパ諸国をまわらせてみましょうか」とのことであります。私もこの続編が読めたらなぁ、と思う。それまでに、この文章を噛み砕く力、周辺の知識を養っておこうかと思います・・・。

塩野 七生
三つの都の物語
 ← 三作をばらした文庫もあるようです
 いずれも、朝日文芸文庫より
*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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ヴァル・マクダーミド、高橋佳奈子訳
 「女に向いている職業 A SUITABLE JOB FOR A WOMAN」

物議を醸しそうなタイトルではあるけれど、これは勿論P.D.ジェイムズ
「女には向かない職業」
(1972年デビュー)を受けてのタイトルだ。

私は知らなかったのだけれど、巻末の解説によると、この本の著者であるヴァル・マクダミードは、「作家として十七年あまりのキャリアをもち、一九九五年には、『殺しの儀式』で、英国推理作家協会のゴールドダガー賞を受賞し、現在、最も期待されているイギリスのミステリ作家の一人」なんだそうだ(ジャーナリストであるリンジー・シリーズと、私立探偵ケイト・ブラニガンシリーズを物しているそう)。

本書はジャーナリストとして長い経歴を持つ著者が、フィクションを離れ、英米を中心に、実際に私立探偵として働いている数多くの女性たちを取材して書き上げたノンフィクション

目次
プロローグ
1 きっかけは
2 同じ言葉を話していても
3 最初の仕事
4 ワンダーウーマン
5 大の男を相手にして
6 仕事について
7 射撃練習
8 犯罪の要素
9 スパイとして
10 人間的な部分
11 潜伏して
12 法組織との関係
13 テクノ、テクノ、テクノ
14 女性への暴力に立ち向かう女性
15 仕事の影響
16 事実は小説より奇なり

著者はフェミニストであることを明言しており、若干「女性の視点」「女性の特質」に拘る傾向が鼻につくかもしれないけれど、豊富な事例でイギリス、アメリカにおける「現代の探偵業」というものが良く分かる本。

サラ・パレッキーのV.I.ウォーショースキー・シリーズで、化学会社などの企業が多く出てくるのが、いつも不思議だったのだけれど、この現代の探偵たちの仕事を読んで、雰囲気を知ることが出来た。子供の頃に読んだ、少女探偵ナンシー・ドルーの話が少し出てきたことは、ちょっとした喜びだった。懐かしい!
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以下、引用

犯罪小説でこの問題がリアルに描かれることはあまりない。小説の中の卑しい街を闊歩する女探偵たちは、その都度異常なほど叩きのめされるのだが、信じられないぐらい即座に傷が癒えるばかりか、実際の暴力の被害者なら誰しも知っている精神的な後遺症に苦しむ事もないのだ。
サンドラ・サザーランドも同じ意見だ。「サラ・パレッキーの小説は大好きだったわ。でもどの本を読んでも、V.I.ウォーショースキーが叩きのめされては何ごともなかったかのようにすぐまた行動を起こすあたりは気に入らないわね。わたしは実際に暴力を受けた経験のある数少ない私立探偵の一人だけど、拳銃の音やら何やらの記憶を完全に乗り越えることはできないのよ」

実際、サラ・パレッキーの小説の中で、ヴィクはいつも徹底的に痛めつけられる。顔にも身体にも痣を作り、打撲の痛みに耐えながら、調査活動を続行している。うーん、私は結構リアルなのでは、と思っていたのだけれど、そういえばヴィクは精神的にとてもタフで、何が起こっても決して諦めず、そのまま喰らいついていく。実際に暴力にあったら、このトラウマを克服するのは難しいこと。

小説のヒロインと実在の女探偵の違いがはっきりと現れているのは、他人との関係だろう。犯罪小説を読みながら、たまにヒロインの肩をつかんで揺さ振り、「ちゃんと生活しなさいよ!」と言ってやりたくなることがある。どんな友情も維持できないヒロインが多すぎるからだ。

現実の世界の女探偵たちのほとんどは子持ちで、半分が結婚していて、なかには孫のいる人までいるのだそうだ(本書で取材した女探偵の平均年齢は四十五で、まさしく事実は小説よりもタフなことを示している)。私も読みながらそう思うことが多かったので、同じように肩を揺さ振りたくなるのだな、とおかしかった。

でも、現実の世界の女探偵と、小説の中の探偵に共通するのは依頼人への誠実で献身的な姿勢。真実を追い求めていることにはかわりがない(時にそれが依頼人の意図に反しても)。仕事への真摯な姿勢が良く分かった。
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多くの取材をもとにしているので、文体に独特の癖もあるし(「誰々はこう言った」的な)、時に現実の世界の男性を徹底的にこき下ろしてもいて、男性にお勧めする本ではないかもしれないけれど、現実の探偵業を知る意味では面白い本。

ヴァル マクダーミド, Val McDermid, 高橋 佳奈子
女に向いている職業―女性私立探偵たちの仕事と生活

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

☆関連過去記事「女には向かない職業」/企画参加「名探偵で行こう!
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池澤夏樹「むくどり通信」

好奇心旺盛なむくどりからとったタイトルで、「私生活」 と同じく「気分」というか、作家の生活、考えた事を、ただ語ったようなスタイル。でも違って来る所が
不思議。文章はこちらの方が好きだけれど、多分色気があるのは「私生活」の方。著者の年齢も違うけれど。

あとがきによると、「むくどり通信」は森鴎外の「椋鳥通信」を盗用(と、書いてある)したとのこと。
名もなき人のものを盗むのはこそこそしていけないが、天下の大文豪のものならば堂々と盗めるという気がしたのだ(あまり説得力のある論法ではないかもしれないが)。

面白い人だなぁと思ったエピソード
「書斎の骸骨」で、骨格標本のキットを買うべきか悩み、素晴らしい骨格のフランス文学者の頭の骨を自分のものにしたいという欲望を感じたり(こちらは、若い時の話みたいだけど)。
マホガニーの羽目板を張った古風な書斎。書棚には革で装丁した古典の数々。細長いガラス窓から差す薄明かり。埃の匂い。その中で、書棚の中央に悠然と鎮座する齋藤氏の世にも美しいしゃれこうべ。これは文人の部屋として理想の姿ではないか。

「はじっこ踏破記録」
東西南北、端っこを踏んでやる!

共感したエピソード
「異文化の毒」におけるジャーナリストとしての心得
ジャーナリストは後に痕跡の残らない取材を心掛けなくてはいけない。
(中略)
自分たちは異物であり、病原であり、攪乱者だという忸怩の思いなくして取材はできない。

■「バットか銃か」
パトリシア・コーンウェル「検視官シリーズ」最初の三作で、これに気付いているのは凄い(というか、私は話がかなり進むまで気付かなかった)。そして暴力は連鎖する。
どうもこの人は力への信仰が強すぎるのだ。ジェイムス・ボンドは最初から荒唐無稽に作ってあるから気楽だが、コーンウェルはもっとリアルな話の中で主人公が正義の力をふるう。同じ女性の探偵役でも、サラ・パレッキーの女探偵ウォーショースキーとはずいぶん違う。友だちになるとしてもケイはまっぴら、ウォーショースキーなら大歓迎というところ。

コーンウェルのインタビューの引
アメリカの暴力性について問われて、彼女はこう答える―「わたしたちアメリカ人は、インディアンや無法者やカウボーイと戦ってきました。生存競争をしてきたから、遺伝子の中に攻撃的な本能があるのではないかって気がする」。多くの読者を持つ作家としてはいささか無神経な発言だと思う。この三者の中で撃ってもいい相手は無法者だけではないか。インディアンは銃を持ってさえいなかった。

「ミステリーは細部に宿る」
タイトルだけでも、非常に納得。高村薫「神の火」についての言及もある。


今度は是非小説を読んでみよう。

池澤 夏樹

むくどり通信

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、御連絡下さい。

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