旧・日常&読んだ本log

流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。


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浅田 次郎

沙高樓綺譚 (徳間文庫)
(私が読んだのは、枝垂れ桜が表紙の単行本なのですが、amazonでなぜか文庫本しか出ませんでした)


お話しになられる方は、誇張や飾りを申されますな。お聞きになった方は、夢にも他言なさいますな。あるべきようを語り、巌のように胸に蔵うことが、この会合の掟なのです―。

女装の主人の声が、沙高樓の部屋に響く…。

名をなし、功を遂げた人々が、青山墓地のそばの高層ビルのペントハウスに寄り集い、口外出来ぬ秘密を暴露し合う。高みに登りつめた人々というのは、孤独なもの。誰にも明かせなかったことを暴露する得難い快感、また忙しいくせに退屈している人種には最高の道楽として、百物語にも似るこの沙高樓の集いは続いていた。偶然、この場に招かれたフリーライターが体験する、ある一夜の出来事。

「小鍛冶」は、刀剣鑑定の家元が語る、この世にあってはならない刀剣の話。妖しいまでの刀剣の美しさに惹かれます。

「糸電話」は、旧家に生まれた医師が語る、偶然の邂逅のお話。よーく考えると、ずーんと怖いお話。子供の頃の約束、軽い気持ちでたがえてしまったことはありませんか?

「立花新兵衛只今罷越候」は、撮影監督が語る、終戦後の映画に現れたある男の話。浅田さんって、新撰組絡みだけでも、ものすごい本数のお話を書いているような。また、実際の撮影現場では、こんなことがあってもおかしくはないのかも、と思わせられる。

「百年の庭」は、庭番をつとめてきた女が語る庭の話。これは怖かったなぁ。英国の貴族の館にすら、これ以上の名園はないという、軽井沢で一番美しい紫香山荘の庭。本来は、ガーデニングの女王にして、美貌の女主人が語る予定であったのが、現れたのは長い白髪をうなじで束ねた老婆。彼女の話は、まるで人間でないものが話しているようで…。人の世の苦労を知らずに庭は作れず、また憎しみの心を知らなければ、雑草をむしることはできない。そして、ガーデナーは天然を支配する神ではなく、天然に仕える僕、庭園の囚人である。

「雨の夜の刺客」は、三千人の子分を束ねるやくざの大親分、辰が語る、若き日の自分の話。これは切ない。日本が東京オリンピックを目指し、高度成長の波に乗った時代。地味な仕事に嫌気がさした、中卒で都会にやって来た少年は、あっさりとやくざの世界へと流れつく。さらに恩義を受けた兄貴分に、「筋の通らない」願いをされた辰は、淡い恋も置き去りに、にっちもさっちもいかない立場に追い込まれる。辰が語る金持ちと貧乏人の違いが痛いなぁ。それは、逃げ道のあるなしの差なのだという。逆らうことを忘れた者、それが辰の言うところのやくざなのだという。

いやー、こんな話をもし一晩で聞いたならば、ぐったりしてしまうこと確実のお話たち。不思議な話を聞くつもりが、人間のくらーい面まで、覗きこまされる感じ。じんわりとした毒のある物語でした。浅田さんって、こういうお話も書かれるのですねえ。

目次
小鍛冶
糸電話
立花新兵衛只今罷越候
百年の庭
雨の夜の刺客


*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

■トラバが飛ばない「みすじゃん。」のおんもらきさんの記事にリンク
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皆川 博子
鳥少年

これは、皆川博子さんの短編集。
幻想的でホラー調でもあるんだけど、ここに描かれているのは、人間の業というか、どうしようもない感情。ある意味現実的なんだけど、短編だけに説明が少なく、ぷつんと断ち切られるために、より怖さを感じるのかも。

目次
火焔樹の下で

血浴み

黒蝶
密室遊戯
坩堝
サイレント・ナイト
魔女
緑金譜
滝姫
ゆびきり
鳥少年

」、「黒蝶」は、芝居者達のじっとりした舞台裏の話。女形の嫉妬は怖い。
緑金譜」、「滝姫」は、姉への密かな思慕を描く。

作品としての出来は良く分からないけれど、「血浴み」は描かれた女性の人生が哀しい。地方都市の名家の末娘、夏代は離婚して子連れで郷里に戻ってきた女。その後も、父親を決して明かさない、またそれぞれに父親の違う子どもを、ぽこぽこと産む。淫乱だと後ろ指をさされても、夏代には夏代なりのルールがある。夏代のもとに、詩の文芸誌で知り合った須賀という女が、やって来る。夫に離婚を切り出され、また浮気相手にも捨てられた彼女はボロボロ。しかし、泣ける彼女はいい。泣けない夏代とて、男に捨てられて、決して平気なわけではない。

魔女」もまた怖いなぁ。
独りの女が深夜、部屋にこもっているとき、どんな力を持つものか、男は知らないのだって。魔女達の対象である、美容師見習いの六也が健全なだけに、この怖さが際立つ一編。

」、「密室遊戯」は何とも隠微な味わい。

」。夫の浮気を知った依子は、年の近い叔父の結婚式で知った、叔母のつよさに惹かれ、叔母の住む町へと向かう。以前、人形作りをしていたという叔母の元には、既に先客があった。それは、睡眠薬で眠らされた二人の若い男性。叔母は、眠る若い男性に化粧を施す。美しく、艶かしく、汗ばんだ無骨なTシャツとジーンズの上に、男とも女ともつかぬ艶やかな顔が眠る。依子もまた、その魅力に酔うが・・・。

密室遊戯」。「わたし」が住む部屋は、肉屋の二階を三間に仕切ったもの。ある日、「わたし」は隣の部屋から明かりが漏れていることに気付く。隣の部屋の女の生活を覗き見る喜びを知った「わたし」は、女に教えられた甘美な遊びに酔う。隣の女もまた、覗かれる事を知って、「わたし」に遊びを教えたのかもしれない。

のほほんと生きているので、こんな怖い経験はないのだけど、一つのパラレルワールドとして、自分の現実の他に、こんな世界が実は成立しているのかも、と思うと、更に怖い本。うーむ、暑い夏にちょうどいいか? ちょっとぞぞぞ。

*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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恩田 陸
木曜組曲

えい子、静子、絵里子、尚美、つかさ。五人の女たちは、毎年ある時期の木曜日を中心とした三日間、『うぐいす館』に集い、飲み食いしながら、気の置けない会話を楽しむ。彼女たちを結び付けているのは、四年前に『うぐいす館』で自殺したとされる、作家の重松時子。時子が「自殺」したその日にも、彼女たち五人は、『うぐいす館』に集まっていたのだ。

由緒ある旧家であり、芸術家肌の個人主義を貫く重松家にあって、時子はもって生まれた素養を背景とした耽美的でペダンティックな作風で知られ、一部に熱狂的なファンを持つ作家であった。彼女の影響は編集者であるえい子、異母姉妹である静子は勿論、少々複雑な血縁関係にある尚美、つかさにも、大きく及んでいた。美術関係の出版プロダクションの経営者であり、書画や骨董に関するエッセイでは、名文家として知られている静子であったが、天才である姉、時子にはいつもコンプレックスを覚えていたのだという。尚美、つかさは、自分たちの書くものは、時子からすればお嬢さんの作文程度であろうと思いつつも、幼い頃から読んできた時子の小説に対する尊敬の念、憧れは揺るがない。

えい子を除き、唯一血縁者ではない絵里子は、この女たちの集まりに『若草物語』の四姉妹を見る。少々薹が立ち過ぎ、また『若草物語』といえど、ここにいるのは、全て性格も職業も次女のジョーばかりではあるのだが・・・。

ここ数年は何事もなく、えい子の料理と当たり障りの無い会話を楽しむだけの集まりであったのだが、謎の人物から贈られた花束を切っ掛けに、四年前には分からなかった事実が、次々と明るみに出る。

「自殺」であるとされた、時子の死の真相とは?

女という業、物書きという業を考えさせられる物語ではあれど、これはまさに女だけの「女たちのおしゃべり」のお話。物語の流れも会話も、全て「女性」を強く感じさせられる(よく食べ、よく飲み、よくしゃべる!そして会話は、ぽんぽんと飛ぶ)。知られていなかった事実、見えなかった事が語られる点には、「夏の名残りの薔薇 」を思い出すが、小説としての出来は、「夏の~」の方が上だと思う。

手強く、したたかな女たちは、なかなかに素敵でもあるのだけれど、この本の描写からは、大きな存在であるはずの「時子」の凄さが実感出来なかった所が残念。小説家の作をもってして、その人となりを描く事って、結構難しいようにも思う。時子ではなく、生きている他の人物たちの描く小説は、その行動から何となく理解出来るのだけれど。その結果である小説ではなく、行動の方が、人物をすんなり理解出来る。

物書きって因果な商売なのかもね、と思う一冊でありました。ただし、これまで読んだ恩田さんの作の中では、私の評価は低いです。女性よりもむしろ、「女同士の会話、世界」に、怖いもの見たさの興味のある男性に、オススメしたい感じです。
(うーん、でも、こういう流れって、男性には辛いのかな)
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アニー・M.G. シュミット, Annie M.G. Schmidt, Carl Hollander, 西村 由美, カール ホランダー
ネコのミヌース

恥ずかしがり屋の若い新聞記者のティベは、町の猫たちとは仲良しだけれど、知らない人に話を聞くことが出来ません。そんなんで、ニュースが取れるかって?
そう、取れるわけがありません。猫の記事ばかり書いていたティベは、編集長に最後通牒を突きつけられてしまいます。

「ちゃんとしたニュース記事を書かないとクビだ!」

とぼとぼ町を歩いていたティベは、犬に追いかけられて木に登ったまま降りられなくなった、不思議な若い女性に出会います。彼女の名はミヌース。ティベの手に頭をすりつけたり、小鳥をあやしい目で眺めていたりと、彼女のしぐさはまるで猫のよう。更に彼女は猫たちと会話が出来ると言い張ります。

行く場所がないミヌースに頼まれたティベは、彼女を部屋に泊めてやります(ただし寝るのは箱の中!)。泊めて貰ったお礼にと、ミヌースはティベのために、町中の猫からニュースを探し出してくれました。そう、これは「ネコのニュースサービス」! この「ネコのニュースサービス」のお陰で、ティベのクビは繋がり、編集長を唸らせる記事が取れるようになるのです。

さてさて、順調に進んでいたティベとミヌースの二人三脚、ある日、ノラ猫ノラの子供が攫われ、ニシン売りのおじさんの屋台がひき逃げされる! どれもこれも、町の名士、化学工場の工場主エレメートさんが絡んでいるようで・・・。ただし、目撃者は猫しかいない。それでは勿論、新聞記事としては使えない。エレメートさんへの怒りに駆られたティベは、目撃者を探すうちに、気づけば人と話すことが苦痛ではなくなっていました。

エレメートさんの罪を、町のみんなに知らしめることが出来るのか?
そして、「猫と話が出来る」ミヌースさんの秘密とは? 
ミヌースさんとティベは、このまま一緒に暮らすことが出来るのか?

とっても楽しいファンタジックストーリー。
読み終わる頃には、あなたもミヌースさんのファンになっているかも?

独立精神に溢れたノラ猫のノラ、学校の歴史の授業で習ったことを、「ニュースだよ!」「アメリカが発見されたんだって!」とお知らせしてくれる、学校ネコなど、脇ネコたちもいい味出してます。ティベと仲良しの女の子、ビビもいいですよ~。
*****************************************
何となく検索してみたら、これ、映画化されているようです→こちら

残念ながら上映は終了しているようですが、公式サイトのBBS情報によると、「2006年1月25日にDVD発売」とのこと。レンタルで見かけたら、借りてみたいなぁ(って、まだまだ?)。
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ダイアナ・ウィン ジョーンズ作、西村 醇子訳
 「アブダラと空飛ぶ絨毯―ハウルの動く城〈2〉」

ハウル2とあるけれど、今度の主人公は、ラシュプート国のバザールの若き絨毯商人アブダラ。アラビアンナイトの世界を下敷きにした、「魔法使いハウルと火の悪魔」の姉妹編となる物語。

ダイアナ・ウィン ジョーンズ, Diana Wynne Jones, 西村 醇子
アブダラと空飛ぶ絨毯―ハウルの動く城〈2〉

表紙の絵がとても綺麗なので、大きな画像を載せました。真ん中の空飛ぶ絨毯に乗る寝巻き姿のアブダラ、右下のイカを咥えたイヌ、更にその下の青い瓶、月の光、夜の庭園、空中の城。この美しい絵そのままの世界が展開される。

アブダラは、インガリー(ハウルソフィーが住む)からはるか南に下った地、スルタンが治めているラシュプート国のザンジブ市のバザールに住む、若き絨毯商。バザールの隣人は、揚物屋のジャマールとその飼い犬

ある日、アブダラがいつものように、店内で空想の翼を広げていた所、「空飛ぶ絨毯」を売りたいというお客がやって来る。「空飛ぶ絨毯」を手に入れたアブダラは、絨毯のお陰で美しい箱入りの姫、<夜咲姫>と知り合うが、<夜咲姫>は彼の目の前で魔神(ジン)・ハスラエルに攫われてしまう。アブダラは怒ったスルタンの追跡を受けながら、魔神(ジン)から<夜咲姫>を助けるために、旅に出ることになる。

アブダラの旅のお供は、瓶の口から出る紫色の煙、気難しい精霊のジンニー。一日一回は願いを叶えてくれるというのだけれど、彼の叶え方はいつだって強引。かえって状況が悪くなったりもする。

「この瓶の持ち主となった者は、毎日ひとつずつ願い事が許され、ぼくはいやでもそれをかなえてやらなければならない」

さらに、ジンニーに引き合わされた、ストランジア人の兵士、なぜか彼らにくっ付いて来た<真夜中><はねっかえり>という二匹の猫を連れて、旅は続く。

全ては、その時そこに見えているものだけであるとは限らない。

ザンジブのならわしにより、美辞麗句を連ねる事が出来るアブダラ。お世辞が大好きな「空飛ぶ絨毯」も面白いし、ほとんど何にだって逆毛をたて、気に入らない時には大きくなる猫の<真夜中>も不思議。かつてはいい魔神(ジン)だったハスラエル、その弟で甘ったれのダルゼル、臆病でへそ曲がりのジンニー

全ては隠されているけれど、「悪いやつでいるのも楽しかったんだよ」というのも分かる。自分の型に囚われることなく、乱暴でも好き勝手が出来るのだもの。最後は大団円でめでたし、めでたし。全ては収まるべきところに収まるのだ。

実は、「魔法使いハウルと火の悪魔 」はあまり好みではなかったのだけれど、こちらの「アブダラと空飛ぶ絨毯」は、とても楽しく読むことが出来た。本当のアラビアンナイトをきちんと読んだ事がないので、その世界とはまた違うのかもしれないけれど、魅力的なアラビア風の世界にうっとり。ま、私はソフィーに同族嫌悪を感じていたので(長女で自意識過剰で頑固者)、ぎゃんぎゃん騒ぐソフィーの出番が、表面上だけでも少なかったのが、大きかったのかもしれないのですが。
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恩田陸「禁じられた楽園」

季節は凶暴な夏。

噎せ返るような緑の中、和歌山の山中深くに作られた、『神の庭』に招かれた捷と律子。『神の庭』は、世界的アーティストである烏山彩城が作った、場所や空間全体を作品として体験させる芸術(インスタレーション)であり、一大テーマパークでもある。

しかし、そこは誰もが入ることが出来る場所ではない。彼らをそこに呼び寄せたのは、何の意志なのか? なぜ、ごく一部を除いて、平凡な人間である彼らが、烏山彩城の甥であり、やはり世界的アーティストである、烏山響一から『神の庭』への招待を受けたのか?
烏山響一と、捷と律子との関係は、知人ではあるが、親しい友人ではない。

ほぼ同時期に、『神の庭』プロジェクトに関わった、大手広告代理店勤務の淳が失踪する。彼の婚約者である夏海、大学時代の友人和繁も、淳を追う
うちに『神の庭』に足を踏み入れる。

彼らがそこで見たものとは?
***************************************
全編に散りばめられた負のイメージや引力、圧倒的なインスタレーションのイメージが、とてもとても怖い小説。憎悪、悪意、暗く隠しておきたい部分。
ちょっと、これ、一人でいる時には読みたくない。

ラストはそれまでの緊張感に比べると少しあっけないけれど、ここまで怖い、不思議な感覚を味あわせて貰ったから、まあ、十分なのかな。
あの形でないと、収拾つかないし。

この本の中のインスタレーションは、絶対自分では体験したくない。
自分の中からは、どんな暗い記憶が呼び覚まされるのか?
恩田さんは、どこからこんな怖いイメージを生み出せるのだろう。とても怖く、不気味でもある小説。

wikipediaによる「インスタレーション」の解説はこちら

恩田 陸
禁じられた楽園

☆関連過去記事
図書室の海 」、「六番目の小夜子 」 、「黒と茶の幻想 」 、「麦の海に沈む果実 」 、「夜のピクニック
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突然ですが、私はとても打たれ弱い。自慢することではないけれど、更に人の悪意にも大変に弱い。悪意に接すると、どうもシオシオとなってしまう。だからブログを始める事にも、実はずっと躊躇していた(始めてみたら良い方ばかりで、幸せだなあと感じているのだけど)。以前ブログのコメントで、「tsuna11さんには世界が綺麗に見えるんだろうね」というような事を仰って頂いた事があって、それはとても嬉しい言葉だったのだけど、きっと同時に私の弱さでもある。

何か、ゴチャゴチャ言ってますが、今日は次の一冊を。

横山秀夫「顔」

横山秀夫さん、以前「クライマーズ・ハイ」を読んで、これが結構好感触だったから、「仲間由紀恵でドラマ化されたんだっけな、「FACE」だっけ?婦人警官なんでしょ、警察物ね」位の知識で図書館から借りてきた。読み始めてみたら、これが非常に読み辛い。
本書は一言で言えば「男社会である警察で孤軍奮闘する、年若い婦警・平野瑞穂を主人公とした短編集」プロローグエピローグを除けば、「魔女狩り」、「決別の春」、「疑惑のデッサン」、「共犯者」、「心の銃口」の五編から成っている。

「男社会である警察で孤軍奮闘する女性」と言えば、乃南アサ「音道貴子シリーズ」を思い出すけれど、音道刑事が腹を括って、ある種のふてぶてしさまで備えているのに対して、この平野巡査は非常に脇が甘くナイーブ。この辺りが、読み進め難い原因だと思う。
ところで、「ナイーブが褒め言葉なのは日本だけだ。ナイーブなんて良い事でも何でもない」というのは、確か落合信彦氏の言葉だったと思うけど、今の日本ではどちらの意味なんでしょうか。とりあえず、私はいい意味では使ってません。
タフであるべき所を、瑞穂はいつも悩み、迷い、ブレる。読んでいると、瑞穂には突出した能力(似顔絵)もあるし、決別の春」で見られる仕事に対する責任感だってかなりなもの。悩むけど、結局は上司に言いたい、言わなければならない事はちゃんと伝える。だから、「なのに何だってそんなに自信がないの!」、「どうして悩むの?」、「いい子ちゃん過ぎない?」と、もどかしくなってしまう。

今日はいつも以上に本の感想からズレていくのですが、ここで私の話を少し。私がかつて働いていた場所も、警察程ではないけれど所謂「男の社会」でした。更にそれ以前の問題として、周囲がほぼ男性という環境の中で学んでいたのと、鈍感だったので、私は人生のある地点までは「男女って平等なんでしょ?対等で当たり前なんでしょ?」と思っていた。その時点においても、今思えば力仕事なんかは、思いっ切り人に頼っていたのだけれど。会社に入ってみると、女性が少ない事で「マスコット的役割」、「癒し的役割」を期待されることもあれば、逆に単純に「目立つ」ことへの僻み、嫉みのターゲットとなることもあった。で、勿論、決して「対等」ではなかった。少ないとは言え女性が居る中でも、立場、役割が違えば、「女の敵は女」という言葉がちらりと頭をよぎることもあった。男性の中にも女性の中にも、上手く入る事が出来ずに蝙蝠みたいと思ったり。そんな訳でようやく冒頭に戻るのだけれど、入社後暫くはこれらの物事に当たるのに、いつも非常に消耗して、悩んで迷っていた。まさに本書の平野瑞穂巡査のように。

そう思って読むと、最初の読み辛さは、瑞穂の中に自分を見てしまったせいだという事が分かって、後はすんなり。話を重ねる毎に、瑞穂も成長していきます。エピローグでは、第三者から見た瑞穂の眩しい程の輝きが語られる。
正直言って、ミステリーとしてはそんなに優れたプロットではないし、「クライマーズ・ハイ」程のカタルシスも得られない。普通の警察小説と思って読むと、肩透かしを食うかもしれない。でも「男社会で奮闘する若い女性の成長物語」として読んだ私には、面白い一冊でした。後は失礼ながら、この本を横山秀夫さんという「オジサマ」が書かれたという事が興味深かった。

私の目標はいい意味でもうちょっと図太くなること。入社後のゴタゴタだって、私が無邪気でナイーブ過ぎたせいも多々あったはず。もうちょっと、泰然自若としているべきだった。会社を辞める頃には、「蝙蝠」なんてもう思わなかったし、多少図太くもなりましたが。そして、村上龍「69」における、レディ・ジェーン・松井和子の「うち、ブライアン・ジョーンズの、チェンバロの音ごたる感じで、生きていきたかとよ」という生き方も気になる所ですが、残念ながらそんな美貌でもキャラでもありませんので、目指す方向はやはり図太くあることなのです。

私が読んだハードカバー版を載せておきますが、既に文庫化されているようです。

著者: 横山 秀夫
タイトル: 顔 FACE
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ファンタジー大好きです。「ナルニア国ものがたり」「はてしない物語」「ゲド戦記」などなど、みんなみんな大好きでした。
子供の頃は、今の現実とは違う世界が存在して自分もいつか行ける筈、とかなり本気で思っていましたし、未だに大きな洋服箪笥の外套の向こう(@ナルニア)には何かがあるんじゃないかとドキドキします。

今日はダイアナ・ウィン・ジョーンズ「魔法使いハウルと火の悪魔」について。ご多分に漏れず、宮崎駿監督の映画を見に行ったわけですが、もう見に行った後頭の中が、??????の嵐。えー、ソフィーったら、いつからハウルのこと好きになったわけ~?(だって、愛してるって!)、とかこの人たちは一体何のために戦ってるわけ?とか。これはたまらん、原作があるとの噂だし、と原作を読んでみたのでした。見に行かれた方、映画だけで話を理解できましたか?私はちっとも出来ませんでした。

前述の通り、子供の頃からファンタジーをよく読んでいましたので、設定などにはそんなに違和感がありませんでした。
「7リーグ靴」とか、「長女には成功する見込みがない」、「末っ子は出世する定め」などなど。
ファンタジーに全く馴染みのない夫は早々に脱落していきました。
横から「7リーグ靴って何~?」とか「なんで長女は成功しないの~?」「ねえ、これは何~、あれは何で~?」などと聞かれた所で、私に答えられる訳もなく。
「それはそういうものなの!そういう約束なの!」となぜか怒り口調になってしまうワタクシ。大人気ない・・・。
今回初めて思ったのですが、子供の頃にファンタジーに親しんでいないと、その本の中での所謂「お約束」を受け容れるのが難しいのでしょうか。夫は非常に理屈っぽいので、単なる性格のせいかもしれないのですが。でも、「ハリー・ポッター」は喜んで読んでいるのですよね。「ハリー」よりも「ハウル」の方に、昔のファンタジーの匂いを強く感じるので、これが原因かなと思っています。

映画ではキムタクが吹き替えをやるからか、妙にかっこよいハウルでしたけれど、原作のハウルはソフィー曰く「ぬるぬるウナギ」。自分の見た目ばかりを気にする自惚れやで、移り気。決してかっこよくはありません。

不快なことはみんな嫌いなんだから、違う?逃げまわるウナギみたい。いやなことがあると、いつだってぬるぬると逃げちゃうんだ。

姿が若いときはおどおどしていた癖に、お婆さんになった方が自己主張が出来るというソフィーにも共感は出来ました(自意識過剰ってことですか?「誰もあんたなんか見てないよ」というのに。私も自意識過剰なので、一度おばあさんになった方がいいのかも?30越えて少し図太くなった気も)。

しかししかし、これはファンタジーというよりはラブロマンスを描いた物語ではないか、と。どうも児童書としてとか、ファンタジーとしてと考えると、あまり好みの作品ではありませんでした。残念~。


映画では火の悪魔・カルシファーと、「待たれよ」の見習い・マイケルが可愛かったです。しばらく家で「待たれよ」と言いながらあの動作をするのが流行りました。・・・夫と二人でですが。もういい大人ですが。こう考えると、私もなかなか御気楽な毎日を送っています。


*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用しています。何か問題がございましたらご連絡下さい。



著者: ダイアナ・ウィン ジョーンズ, Diana Wynne Jones, 西村 醇子
タイトル:
魔法使いハウルと火の悪魔―ハウルの動く城〈1〉

その後に読んだ、「アブダラと空飛ぶ絨毯」の感想はこちら
DWJ版アラビアンナイトともいえそうな、「アブダラと~」。私は、「魔法使いハウル」よりも、こちらの方が好みでした。
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