旧・日常&読んだ本log

流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。


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鼓 直
ラテンアメリカ怪談集 (河出文庫)

J・G・ポサーダなる人物による「自転車に乗るカラベラ」というカバー絵も楽しい、河出書房新書の文庫です。でも、残念ながら絶版のよう(復刊ドットコムにリンク )。「カラベラ」とはガイコツのことらしく、陽気なガイコツたちが自転車に乗っています。

ラテンアメリカの物語というと、土埃と太陽の匂いがするような、あつーい世界を想像してしまうのだけれど、勿論、そういう話もあり、またそうではないお話もあり…。でも、それぞれに魅力があって、楽しい短編集でした。結構、ボリュームがあって、なんだかんだで一週間くらいこれをずっと読んでたのだけど。

目次
火の雨            ルゴネス(アルゼンチン) 田尻陽一訳
彼方で            キローガ(ウルグアイ) 田尻陽一訳
円環の廃墟          ボルヘス(アルゼンチン) 鼓 直訳
リダ・サルの鏡        アストゥリアス(グアテマラ) 鈴木恵子訳
ポルフィリア・ベルナルの日記 オカンポ(アルゼンチン) 鈴木恵子訳
吸血鬼            ムヒカ=ライネス(アルゼンチン) 木村榮一訳
魔法の書           アンデルソン=インベル(アルゼンチン) 鼓 直訳
断頭遊戯           レサマ・リマ(キューバ) 井上義一訳
奪われた屋敷         コルタサル(アルゼンチン) 鼓 直訳
波と暮らして         パス(メキシコ) 井上義一訳
大空の陰謀          ビオイ=カサレス(アルゼンチン) 安藤哲行訳
ミスター・テイラー      モンテローソ(グアテマラ) 井上義一訳
騎兵大佐           ムレーナ(アルゼンチン) 鼓 直訳
トラクトカツィネ       フエンテス(メキシコ) 安藤哲行訳
ジャカランダ         リベイロ(ペルー) 井上義一訳


編者あとがき
出展一覧
原著者・原題・製作発表年一覧
訳者紹介


「火の雨」  
 人嫌いで屋敷に引き篭もり、読書と食事にその独身生活の全てをかける「私」。一人で食事をするその間、奴隷が私のそばであちこちの地誌を読んでくれるのだ。そんな満ち足りたある日、私は空から火の細い線が走るのを見る。それは白熱した銅の粒だった…。
 これは、私が考えていた「ラテンアメリカ」っぽいお話でした。実際に降ったら恐ろしいけど、細い線のような火の雨、美しいよなぁ。

「彼方で」
 家族に付き合いを禁じられ、絶望した恋人たちは心中を選んだ。恋人たちは実体はなくとも、その後も互いに愛を囁き、逢瀬を重ねていたのだが…。 
 愛と死と幸福と。これはどちらかというと幻想文学?
          
「円環の廃墟」  
 一人の人間を完璧に夢見て、現実へと送りだすことを望んだ男。彼は密林の中の円形の場所に辿り着き、神殿の廃墟であるその台座で夢を見るのだが…。
 こちらの方がもっと複雑だけれど、スティーブン・ミルハウザーの「バーナム博物館 」の中に収められていた「ロバート・ヘレンディーンの発明」を思い出しました。
        
「リダ・サルの鏡」  
 守護聖母さまのお祭りでは、昔からの習慣として、女子衆が供回りの装束をととのえることになっている。もう一つの習慣として言い伝えがあったのは、好きな男衆と結ばれるための御呪い。想いを遂げたい女は、意中の男衆が着る供回りの装束を着て、幾晩も眠るのだ。彼女の御呪いが衣裳にすっかり浸み込むように…。もう一つ必要だったのは、その女衆の姿を映す大きな姿見…。
 幻想的かつ土の匂いがする感じで好き。
     
「ポルフィリア・ベルナルの日記」 
 ある家庭教師の物語。イギリス人女性である彼女は、教え子であるアルゼンチンの少女、ポルフィリアの日記を読まされるうちに…。
 耽美かつホラー?

「吸血鬼」
   
 国王カール九世の従兄弟にあたる、ザッポ十五世フォン・オルブス老男爵に残されていたのは、ヴュルツブルグの城と、悪魔の毛房の通路と呼ばれる老朽化した屋敷のみだった。困窮していた男爵は、イギリスのホラー専門の映画会社に目をつけられる。脚本家として恐怖小説を書いているミス・ゴティヴァ・ブランディが選ばれ、その外見から、男爵自身が主役の吸血鬼を演じることになったのだが…。
 このお話、好きでした。そこはかとないおかしみが良し。
        
「魔法の書」 
 ブエノスアイレス大学哲文学部の古代史の教師、ラビノビッチは、ある日、古本屋で不思議な本と出会う。びっしりと文字が埋まったその本には、単語の切れ目も大文字も句読点もなかったのだが…。
 これは、「彷徨えるユダヤ人」を元にした物語なのかな(Wikipediaにリンク )。やっぱり、「本」がテーマになってると、より魅力的に感じてしまうなぁ。こんな本に出会ったら…。まさに寝食を忘れるこの読書、恐ろしいけど幸せ?
         
「断頭遊戯」
 幻術師と皇帝、その后、国王の座を狙う<帝王>の物語。
 面白かったんだけど、何だか中国を舞台にした映画を見ているようでした。  
         
「奪われた屋敷」        
 広く、古い屋敷に暮らす兄妹。ともに独身である兄妹は、互いを思いやり、ひっそりと静かに暮らしていたのだが…。いつしか屋敷の一部に入り込んだ「連中」は、彼らの生活を脅かす。
 深読みしようとすれば、色々と読みとれそうな感じなんだけど、私にはちょっと良く分らず。政治的な話にも読めるし、近親相姦的な香りもする。

「波と暮らして」 
 海を去ろうとした、「ぼく」の腕の中に飛び込んできたひとつの波。「ぼく」はその波と暮らすようになるのだが…。
 幻想的で不思議なお話。明るく包容力があり、しかし時に荒れ狂い、呪詛の言葉をまき散らす彼女は、まさに海そのもの。ラストの残酷なまでの場面には、若さや老い、男女の別れも考えちゃいます。
        
「大空の陰謀」
 テスト飛行中に墜落したイレネオ・モリス大尉が意識を取り戻した時、そこは彼が居たのとは微妙に違った世界だった。また、彼は一度ならずも二度までも、そういった体験をするのだが…。
 所謂、パラレル・ワールドものとでもいいましょうか。歴史上のifは意味がないとはいうけれど、そうやって違った世界が存在しているところが、面白かったなぁ。歴史が変われば、通りの名前すらも変わってしまうのだよね。
         
「ミスター・テイラー」     
 ミスター・テイラーが始めた新商売とは? その商売は瞬く間に彼の故国で人気を博す。
 ブラックなお話だけれど、ラストはやはり当然そうなるよね、という方向へ。舞台は南米のアマゾン地方なんだけど、どちらかというと倉橋由美子さんの本などにありそうな感じ…(だいぶ違うけど、「ポポイ 」とか「アマノン国往還記」のせいかしらん)。

「騎兵大佐」   
 通夜を営んでいる最中の屋敷に現れた死神の話。その場にいる間、彼はある魅力を発揮するのであるが…。
 うーん、その「臭い」、嗅ぎたくないなぁ。
        
「トラクトカツィネ」       
 請われて古い屋敷に移り住んだ「わたし」。書斎の窓から見える庭の景色は、ここメキシコとはかけ離れているように見えるのだが…。
 ”トラクトカツィネ”って何だー!!! ネットを見ても、やはり分らない人が叫んでいるのしか見つけられない。笑 というわけで、何と言うか、オチがない感じ?

「ジャカランダ」 
 
 妊娠中の妻を亡くしたロレンソは、職を辞してこの地を去ろうとしていたのだが…。彼の後任として現れたミス・エヴァンズの正体とは?
 うーん、どれが現実でどこからかがそうでないのか、ちょっと分かり辛かったな。
どこからか、それこそパラレルワールドに迷い込んでる気がするんだけど…。
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支倉 凍砂
狼と香辛料〈3〉 (電撃文庫)

二人の旅は、ホロの生れ故郷ヨイツにぐっと近づき、彼ら二人は冬の大市と祭りで賑わうクメルスンの町へとやって来た。

今度の危機は、ホロとロレンスの仲を裂こうというもの。ホロに一目惚れした、魚商人アマーティが、ロレンスに対するホロの借金を完済し、ホロにプロポーズすることを宣言したのだ。

常であるならば、二人の絆にそんな輩が入って来ることは有り得ないのだけれど…。ホロとロレンスは、例によって微妙な仲違いの最中であり、ロレンスはホロを信じ切ることが出来なくなってしまう。

この巻でクローズアップされるのは、神であるホロの時の長さと、ただの人間、行商人であるロレンスの時の違い。二人は今この時を共にしているけれど、二人の持ち時間は決して同じではない。ましてや、行商人から町商人を目指すロレンスにとって、行商をしながらとはいえ、ホロの故郷への旅に付き合うという道草に使える時間はおのずと限られているわけで…。この物語は、手触りが感じられるような服の描写、美味しそうな食べ物の描写には非常に優れていると思うのだけれど、どうも季節の変化、外界の変化はいま一つ分かり辛い気がいたします。なので、その辺の切迫感はロレンスの言う台詞からしか読みとれないんだけどさ。や、麦の収穫から冬の大市なんだから、1巻から3巻までは大した時が流れていないと見るべきなのか。

今回の危機に対しても、ロレンスはやはり商人として立ち向かうことになる。黄鉄鉱の取引に絡むこの勝負。私、きちんと理解出来たわけではないような。汗

さて、ロレンスにとってホロはどんな存在なのか? またホロにとってのロレンスは? ロレンスも少々腹を括らねばならないのかも。異種婚についても聞いちゃったりしているわけだし、読者もそれを待ってると思うよ。笑

■関連過去記事■
狼と香辛料 」/豊作の神と行商人の旅
狼と香辛料Ⅱ 」/豊作の神と行商人の旅2
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支倉 凍砂

狼と香辛料〈2〉 (電撃文庫)


1巻 での危機を乗り越えた、行商人ロレンスと、賢狼ホロの旅は続く。

前作では、銀貨の取引に絡み、ホロの正体を知るものたちが、彼ら二人を陥れようとしたのだけれど、本作の危機はもっととてつもなくヤバイもの。

なぜならばロレンスは、商人としての息を完全に止められることになる、破産の一歩手前にまでいってしまうのだから!

さて、ロレンスがなぜこんな羽目に陥ったかと言えば、ポロソンの町、ラトペアロン商会で、胡椒の取引におけるいかさまを見破った代わりに、欲をかいて強引に仕入れた武具が思わぬ大暴落をしていたから。得をしたつもりで、実はロレンスはラトペアロン商会に嵌められていた。さあ、ロレンスはこの危機をどう乗り切るのか? ロレンスは、故郷を共にする者たちと、ローエン商業組合に所属している。組合や各地にある商館は、異国で災難に襲われた者、不当な扱いを受けた者を助けてはくれるけれど、個人的な失敗や負債はそれには当たらない。今回の場合、まさに頼りになるのは、己とホロのみ。

二人の才覚と、リュビンハイゲンの町へと入った時の出来事から導き出された此度の逆転劇は、羊飼いの娘、ノーラを使った金の密輸。密輸の共犯者であったはずが、ロレンスよりも切羽詰っていたレミリオ商会の裏切りなどに遭いつつも、ロレンスは何とかこの災いを乗り越える。レミリオ商会への落とし前をつけつつ、儲けを引き出す手腕は、流石商人。


ホロとロレンスとの間の進展と言えば、彼ら二人の間の小さな諍いは、考え過ぎのロレンス(商人だけに、頭も回っちゃうんだよね~)のために、大きなものになりがち。ホロの次の台詞も、まったくそうだよなぁ。

「次からはわっちを怒らせてくりゃれ? ぬしが色々考えてくれるのは嬉しいが、場合によっては互いに怒って怒鳴り合ったほうが早く問題が片づくこともある」

時に愛情をこめて、時に揶揄いながら言う、ホロの「お人好し」という言葉。商人とお人好しは相容れないものにも感じるのだけれど、ロレンスの場合、商売以外になるとからっきしだからか、これが不思議と両立しちゃうんだよなぁ。勿論、ホロだからこそ、ロレンスも「お人好し」になっちゃうかもしれないけれど。

さて、おそらくは中世の時代をイメージしていると思われるこの作品。教会のイメージがとてつもなく悪いのには、ちょっと苦笑してしまいます。「羊飼い」って聖書に何度も出てくるキーワードだし、そんなに怪しげに見える職業だとは全く知りませんでしたよ…。

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

・「狼と香辛料 Ⅲ」/豊作の神と行商人の旅3

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支倉 凍砂

狼と香辛料 (電撃文庫)


遅ればせですが、機会があって読むことが出来ました。結果、楽しい~!!

行商人ロレンスは、とある事情から豊作の神である賢狼ホロと道行きを共にすることになる。数百年の時を生きているという、この賢狼。耳付き、先のみが白いふさふさの尻尾付きではあるものの、人としての姿は可憐な乙女そのものである。けれど自ら「賢狼」を名乗るだけのことはあり、ホロは独り立ちして七年にもなり、行商人としては一人前であるロレンスを、すっかり手玉に取ってしまう。

馬を除けば話し相手など居るわけもない行商の旅。互いに憎からず思いながらのそんなやり取りが心楽しくないはずもない。互いの憎まれ口も、時にホロにドキドキしてしまうロレンスの心情もまた楽し。「助けて……くりゃれ?」、なーんて小首を傾げられたら、女性に慣れていないロレンスでなくとも、ちょっとぐらりと来てしまうのかも。

ホロが操るのは、「わっち」、「ありんす」など吉原を連想させる言葉なんだけど、これがまたホロの雰囲気にぴったりで、巧いなぁ。また、それが利益になるならば、靴の裏を舐めることすら厭わない、という商人としてのロレンスの考え方も面白い。ただし、商人としては優秀でも、ホロに言わせれば、ロレンスは「良き雄」としてはいま一つのようだけれど…(でも、食事や服、櫛などなど、ロレンスはなかなかやさしいおのこだと思うけど)。

一巻の旅は、麦畑実るパスロエ村から、港町パッツィオまで。ホロの生れ故郷である北の大地へはまだ遠い。くっつきそうでくっつかない、二人の関係もそうだけれど、旅が終わってしまうのが淋しくもある。って、現時点で7巻まで出てるみたいだから、まだまだ心配には及ばないようだけれど、ね。

まずは顔見世。身に降りかかった危機を一つ乗り越えて、二人の旅は続くのです。

・「狼と香辛料 Ⅱ」/豊作の神と行商人の旅2
・「狼と香辛料 Ⅲ」/豊作の神と行商人の旅3

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清水 玲子
天使たちの進化論  (白泉社文庫)

その絵柄が美麗であること、なかなかに凄い漫画家さんであるということ、こういった事のみは、予備知識として何となく頭の中には入っていたものの、清水玲子さん、今回が初読みです。例によって古本屋で捕獲いたしました。

「天使たちの進化論」「千の夜」「月下美人」は、ロボットのエレナとジャックのコンビ(ジャック&エレナシリーズというのがあるらしい)が活躍するお話、「もうひとつの神話」は宇宙船で旅を続けるアダムとイヴの話、「ナポレオン・ソロ」は人間型のロボットが持て囃される中、典型的ロボット型の形状を持つロボット、ナポレオンと、セクサイド(まぁ、そういったことのお相手もするロボットだ)であるカイの話。「天女来襲」はこれはちょっと良く分らなかったな、死にかけた際に「天女」に気にられてしまった少年、夏己のお話、「ネオ・ドーベルマン」は、特殊な能力を持つドーベルマン、ショナと少女、百合花のお話。

絵も美しいし、面白かったな。他ももっと読んでみたいです。ユーモラスなところもあるんだけれど、この方の魅力は、まるで切りつけるような切実さ、鋭さ。ジャック&エレナシリーズで言うと、非常に美しい外見を持ち、超高性能ロボットであるエレナの苦悩。エレナはセクスレスであり、超高性能ロボットであるために、いつまでも若いまま、死ぬ事もない。いわば、エレナは不変の存在である。一方の人間と言えば、それはどんどん変わっていくもの。

とはいえ、いつまでも変わらないものを、誰よりも信じたいのがエレナであり、また、その一方で、変わっていく人間に憧れを抱くのもエレナである。この辺、同じロボットであっても、男性型であり旧型のロボットであるジャックとは違うところ(ジャックのほうが、穏やかで優しい性格なのだ)。

このエレナとジャックの関係は、ん?、と思うところもあるものの(人間の女性、ルイスが、エレナが来るまでジャックの恋人だったと紹介されたり)、どうもこの一冊だけでは良く分らないので、本シリーズも読んでみなくては。

しっかし、漫画って、コミックス版と文庫版があったり、タイトルもそれぞれ違っていたり、更にamazonにはろくに情報がなかったりするもんだから、次にどれを読んでいいのかよく分かりません! 「ミルキーウェイ」「竜の眠る星」を読めばいいのかなー(そして、どっちを先に読めばいいのさ)。

宇宙を舞台に活躍する二人組と言えば、大原まり子さんの「ミーカはミーカ トラブル・メーカー」を思わず取り出してきてみたり(きっと、「イル&クラムジー」シリーズの方が有名なんだろうけど、こちらは未読)、高千穂さんのダーティペアもとい、ラブリーエンゼルの二人を思い出すのでした。

もくじ
天使たちの進化論
千の夜
月下美人
もうひとつの神話
ナポレオン・ソロ
天女来襲
ネオ・ドーベルマン
あとがき
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伊坂 幸太郎
陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)

目次
第一章
悪党たちは下見のあとで、銀行を襲う
「犬の吠える相手が泥棒とはかぎらない」
第二章
悪党たちは反省を行ない、死体を見つける
「税金と死ほど確かなものはない」
第三章
悪党たちは映画館の話をし、暴力をふるう
「鞭を惜しむと子供はだめになる」
第四章
悪党たちは作戦を練り、裏をかかれる
 新書刊行時あとがき
 解説 ギャングをめぐる二つの考察と二つのおしゃべり
    ミステリ書評家・村上貴史


如何にも、伊坂さんらしく、つまらない(その時点では、という意味で)伏線が、ラストにはぴたぴたとはまり、自分たちなりの道徳観と判断指標を持つ人間たちが活躍する小説です。

ここでいうギャングとは、それぞれに特殊能力を持ち、けれども日常生活では普通の社会人としての顔を持つ、四人の銀行強盗グループのこと。銀行強盗という、一般には犯罪であり、そこに至るまでは高い障壁があると思われる行為であっても、彼らは飄々とその「仕事」をこなす。特にお金が必要なわけではなく、偶然、映画館爆破事件とその後の銀行強盗事件に居合わせたために、銀行強盗グループを組むことになった彼ら。人質となって銀行強盗を観察する機会を得たために、皮肉にもどうすれば銀行強盗が成功するか?ということが、理解出来てしまったというわけ。

分かったからには、実行しちゃいましょう、というノリの彼らの犯罪はとってもスマート。通報する隙を与えず、籠城することもなく、仲間の一人である響野が演説をぶっている間にボストンバックに札束を詰め、正確な体内時計を持ち、自動車の盗難だって朝飯前の雪子の待つ車で逃走する。そもそも、銀行から金を頂くとはいえ、それはきっと保険会社の懐が痛むだけで、誰も傷つけることのない実にスマートな犯罪なのだ(本当か?、という気もするけど。笑)。

そんな彼らとは対極に立つ、荒っぽい現金輸送車襲撃事件も、同時に街を賑わしていた。そうして、なぜか現金輸送車ジャックとニアミスした彼らは、みすみす銀行から奪った金と逃走用の車を、彼等に奪い去られてしまう。なぜ、そのグループにタイミングがばれたのか? 彼等の狙いは車だったのか、金だったのか? そこには、雪子の元・夫、地道(という名だけれど、「地道」さからは対極にある男)が関係しているようで…。

と、筋はこんな感じなんだけど、筋はどうでもいいというか、ギャングたちの個性が面白いお話です。映画化もされてたし、続編もあるのですね。これは映画化したくなるのが良く分かるな~。同じ伊坂作品でも、「アヒルと鴨のコインロッカー 」は映像化なんて、んな無茶な、と思ったし、「重力ピエロ 」もちょっと辛いと思うけど、これは普通に映像化出来ちゃうように思います。



さて、ここで、簡単にギャングたちの特徴をメモ。それぞれ、単独の能力としては銀行強盗に役立つものとは思われないけれど、四人集まると、立派な犯罪グループが出来上がるのです。そう、最初の伊坂さんの言葉にある通り、銀行強盗は四人いるのです。

■リーダー格の成瀬
:市役所勤務。その人間が嘘を吐いているかどうかを、完璧に察知することが出来る人間嘘発見器。別れた妻と、自閉症の息子、タダシがいる。
■嘘しかついたことがない、と評される響野
:妻、祥子と共に喫茶店を経営する。ボクシングでインターハイに出たことがある。演説が得意。
■人間よりも動物をこよなく愛する若者、久遠
:卓越したスリの技術を持つ。
■精巧な体内時計を持つ、雪子
:車の盗難もお手の物。慎一という、高校生の息子がいる。

その他、辞書の内容をイメージしたという、文章中に出てくる記述も楽しい。これは、『広辞苑 第五版』の記述に伊坂さんが脚色を施したのだとか(「アヒルと鴨のコインロッカー」といい、伊坂さんは広辞苑派なのかしらん)。

たとえば、【会話】では、「二人あるいは少人数で、向かい合って話し合うこと。また、その話。成立することは困難。どちらかが満足を得ると、どちらかは忍耐を強いられることが多い」とか、ちょっとシニカルな感じ。ちょっとくすり、くらいな感覚が程良いのでは。

☆関連過去記事☆
オーデュボンの祈り
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芥川 龍之介
地獄変・戯作三昧 他
旺文社文庫

なぜに、今さら芥川龍之介かと言えば、それは最近モリミー、モリミー言い過ぎてる気もしますが、森見登美彦氏の小説「新釈 走れメロス 他四篇 」において、芥川の「藪の中」がモチーフにされていたから。

芥川の有名どころをほんの少ししか読んだことがないので、いい機会だから読んでみようと思い、図書館の閉架図書から(!)借り出してきました(あっはっはー、これ、昭和四十一年初版で、昭和四十八年に重版されたものだって)。

目次
芋粥
或る日の大石内蔵助
戯作三昧
地獄変
蜘蛛の糸
枯野抄
藪の中
六の宮の姫君
 解説 三好行雄
 芥川について 金子光晴
 芥川さんのこと 夏目純一
 代表的作品解題
 参考
 参考文献
 年譜


改めて読むと、芥川龍之介はやっぱり巧い作家なのですねえ。
理や智のフィルターを通した情が綺麗。
この文庫は古かったけど、セレクトもなかなか良かったです。
「六の宮の姫君」と言えば、「円紫さんとわたし」シリーズ(「空飛ぶ馬 」など)の一作でもありますし。

「芋粥」の次の一節もしみじみと味わい深い。

人間は、時として、充たされるか充たされないか、わからない欲望のために、一生をささげてしまう。その愚を哂う者は、畢竟、人生に対する路傍の人にすぎない。

ちょっとしんとした心持ちになりませんか?
「芋粥」は確か以前も読んだことがあるはずだけど、乱暴にまとめると、風采の上がらぬ五位が持っていた、ただただ腹いっぱい芋粥を食べたいという願いを描いたこの作品の良さを、当時は分からなかったに違いない。

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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波津 彬子
雨柳堂夢咄 (其ノ1) (ソノラマコミック文庫)
雨柳堂夢咄 (其ノ2) (ソノラマコミック文庫)
(文庫の画像が出なかったため、画集の画像を貼っています)

舞台は「雨柳堂」という骨董屋。物には想いや心が宿ることがある。
ましてや、それが古い物、骨董であるならば…。

時代は明治か大正あたり? 吉原の花魁や、袴を穿いた女学生、英国人の大学教授や、書生などが普通に出てきます。

さて、「雨柳堂」はおじいさんと孫の少年が営むお店。その少年、蓮は不思議な力を持つ。彼はこの世ならぬ声や想いを聞き、それらの存在を視ることができるのだ。時には、蓮とともに居ることで、「視えない人々」にもそれらが視えることも…。

蓮はお店にきた物の声を聴き、時に利用されてやり、手伝って上げることで、それらの想いを遂げてやる。それらが語るのは、残した人への想いや、結ばれなかった切ない恋、時には物に宿る精霊が生身の人間に恋をしてしまったりも。

そういうわけで、その物が嫌がるから商品として売ることが出来なかったり、その物からある情景がすっぽりと抜け出してしまうこともあり、骨董屋の商売としてはどうなのかしら、と思うのだけれど、そこは目利きとして有名な「おじい様」や、時にその物たちからお礼として貰う品々で釣り合いが取れているのかしらん。

連作短編なのだけれど、其の一、其の二で特記しておくべきなのは、わけありで確かな腕を持つ贋作師、篁の登場でしょうか。

「百鬼夜行抄」を読んでいたら、こちらの「雨柳堂夢噺」も読みたくなってしまって再読。で、ついつい自分が持ってる本は、記事にするのが後回しになってしまうのだけれど、やっぱりこの世界が好きなので、書いておくことにしました~。雨柳堂」の物の怪たちは、百鬼夜行抄」のような完全別世界の話しても分らないような存在ではなく、「話せば分かる」ような存在なんだけれど、その分、こちらでは人の世の哀しさや愛しさが強調されるように思います。

其の一
花椿(カメリア)の恋
宵待ちの客
十四夜の月に
我儘な名品
花に暮れる
太郎丸
金色の鳥
朝顔写し
はつ恋鏡
夜の子供
解説 藤本 由香里

其の二
昼さがりの訪い
雛の宵
猫王
白露の壺
京助氏の災難
月の花影
過去の破片
蔵の中の姫君
瑠璃の鱗
おもかげ行灯
解説 東 雅夫
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4巻における、妖魔、鬼灯のセリフが印象深い。

 俺達がおまえを見つけるんじゃない
 おまえが俺達を見つけるんだ
 闇を見抜くおまえの目が俺達を生かすんだ
 あるはずのないものが
 あるようになるんだ

なかったものがあるようになる。しかし、そこと我との間には深い溝がある。別世界ということを弁え、お互い深くは関わらぬように。時に、茶飲み話をするくらいが、互いに合った付き合い方。

同じ妖怪を描いていても、この辺が「しゃばけ」シリーズ などとは違うところ。どちらにもそれぞれの良さがあるけれど、別世界への恐れやあちらの世界を尊重するやり方が、この「百鬼夜行抄」シリーズの特徴だよね。



行李の中
人形供養/祖父、伶の若き日の話。伶は「赤間」に助けられる
鬼の居所
神の通る道/律、大学生に
待つ人々
雨がまた呼ぶ/2巻の「花盗人」の左手がまたもお騒がせ
闇夜行路
不老の壺/祖父が作った「鬼灯」を封じる壺

雲間の月
うす紅色の女
魔の咲く樹/律の眼にとり憑いたモノの話(ちょっと時空が歪んでる?)
狐の嫁入り/昔、まだ人間と妖怪とが約束を結んでいた時代の話
笑う盃
秋しぐれ/律、幽霊屋敷で雨宿り
返礼/「魔の咲く樹」の前日譚。哀しい呪術師の話

花貝の使者
隣人を見るなかれ/律のおじ、開が二十六年ぶりに「帰って」くる話
雨降って地に流るる
枯れ野
闇は彼方に佇み/開おじと、環おばの幼き日に出会ったモノが舞い戻ってくる話
マヨヒガ
骨の果実

■関連■
百鬼夜行抄1~3
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飯嶋律の祖父、飯嶋蝸牛(伶)は他人にはない不思議な力を持つと言われた、幻想文学の書き手であった。ときに、他人には見えぬ、この世ならぬものを見てしまう者がいる。こちらが気がつかなければ、向こうもこちらに気づかない。けれど、そういうものを感じてしまう人間は、悪い影響を受けることもある。

祖父、蝸牛はそういう人間であり、また、それを利用した人間でもあった。ただし、それによって、蝸牛の寿命は確実に減った。そして、まだ幼かった律には、自分を守る術がない。祖父は自分の死に際し、律の身の安全を、「青嵐」なる妖魔に託す…。

 見てはならない 話してはならない


それが律の約束となる。

この世ならぬものが跋扈する律の家。律と同じくそれらが見えてしまう、従姉の司や晶。律や司、晶の身近で起こる様々な不思議な出来事…。

青嵐は、律の護法神であるけれど、律の家来であるわけではない。見過ごすことが出来ず、誰かを助けようとする律に、余計な事はするな、と忠告したりもする。あちらのモノどもと渡り合うのは、実は大変なこと。とはいえ、そう簡単に悪いことを見過ごすこともできず、大抵の場合、律は巻き込まれ、青嵐も駆り出されることになるのだけれど。

たとえば、人間によって使役される式神であっても、それらは好きで使役されているわけではない。自由を奪われ仕方なくやっていること。術が破れたとき、彼らが襲うのは最も憎むべき相手である術師である。

律は時に危ない橋を渡りながらも、何とかそれらと渡り合っていく。

連作短編といった感じで、基本、どこから読んでも大丈夫な気もするのだけれど(流石に1巻は最初に読んだ方がいいのかな)、時々、時系列がバラバラのお話が(特に祖父・蝸牛関連の話)飛び込んでくるので、その後にも関係のありそうなお話のメモメモ。

ストレートに人に害為す妖魔も怖いけれど、祖父、蝸牛と戯れていたという、妖魔「鬼灯(きちょう」も怖い。長く生きている彼は、遊び相手を求めている。自分のことが見え、対等に話せる律に鬼灯は執着するのだ…。ある種の無邪気さを持つ妖魔に見込まれるというのも、彼には律以外はどうでもいいわけで、身近な人たちにとばっちりがいかないようにするだけでも、結構大変~。

精進おとしの客/青嵐と祖父との約束の話
闇からの呼び声/従姉の司の痣の話
あめふらし
桜雀/尾白と尾黒の話
目隠し鬼
人喰いの庭/
雨夜の衝立/若き日の飯嶋伶と姉の話

水連の下には
見知らぬ花嫁
神借り/従姉の晶が連れて来てしまったモノの話
言霊の木
雪路/律の初めての友達の話
花盗人

封印の家
夏の手鏡
反魂術の代償/祖父の友でもあった、青嵐よりも長く生きている妖魔登場
凍える影が夢見るもの
南の風
青い鱗

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百鬼夜行抄4~6
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