旧・日常&読んだ本log

流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。


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小池 昌代

裁縫師


初めて読んだ作家さんなのだけれど、これ、良かったです。この世界、私は好きだなぁ。

ほんのりと立ち上る官能、僅かな不条理感、これは乙女の物語。

目次
裁縫師
女神
空港
左腕
野ばら

「裁縫師」

六十八歳になった「わたし」が回想する私のふるさと、私の「あのひと」。九歳にして、「わたし」は全てを知った。

「女神」

大学生の「僕」は、偶然降り立った「かぜだまり」の街に妙に心惹かれ、移り住んだ。「かぜだまり」は、この土地で生まれ、この土地で死んで行く人間がほとんどの街。秘かに憧れていた薬局の薬剤師から、「かぜだまり」の宵祭りに誘われた「僕」は、この街のもう一つの顔を知る。「風」は本来通り過ぎていくべきものだけれど、風が溜まるようにそこに留まり、女神を崇めて生きていく者もいる。

「空港」

一年の終わりは「魔の時」。実家で過ごす正月、その魔が直撃して家族と大喧嘩をした洋子は、以来、正月を一人、東京で過ごすことが多くなっていた。そんな何をするわけでもない一人の正月、洋子は叔母から出張先のカナダから帰国する叔父の出迎えを頼まれた。出迎えを頼まれるような不安定さを時に見せるものの、無口な洋子と同様、叔父もまた無口な人であり、洋子にとって二人の間に落ちる沈黙は、これまで心地よいものであった。そうして、洋子は空港で叔父を待つ、待つ…。

「左腕」

タクシーに乗っていて、交通事故に遭った恵子。ぶつかるということ、それは避けられない、避けられなかったこと。衝撃が存在全体を揺さぶり、ぶつかった以上、人はそこから人生をやり直すしかない?

「野ばら」

父と母と兄と美知子。美しい母に、放浪癖のある父、引き篭もりの兄。美知子はそうして四人で暮らしていたのだが…。細い体に熱い感情を秘めた美知子の視線はあくまで醒めている。美知子は鋼鉄のように自由だ。

この本を知ったのは、書評家の藤田香織さんのこちらのサイトが切っ掛けです。
→「だらしな脱出できるかな日記

長らく見失っていたのだけれど、幻冬舎で更新されていたのですねえ。
でも、これ、バックナンバーが読めないんですよ。どうやって読めばいいのー?

小池 昌代さん、次はどれを読もうかなぁ。
カバーにある著者紹介によると、以下の作品で各賞を受賞のほか、小説「ルーガ、エッセイ集「黒雲の下で卵をあたためる」があるそうな。いきなりエッセイも勿体ないか?、と思いつつ、タイトルでは「黒雲の下で卵をあたためる」が気になるなぁ。

「永遠に来ないバス:現代詩花椿賞受賞
「もっとも官能的な部屋:高見順賞受賞
「屋上への誘惑:講談社エッセイ賞受賞

■メモ■
ピアノ曲
マクダウェル「森のスケッチ」To a Wild Rose「野ばらに寄せて」
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恒川 光太郎
夜市

雷の季節の終わりに 」が良かった恒川さん。
デビュー作であるこちらも借りてきました。

どこか懐かしく、切なくもある雰囲気は、こちらも同じ。こちらの方が、随分「切ない」によっているけれど。「懐かしい」という感情には、失われたものを悼む思いも含まれるわけで、そもそも「懐かしい」と「切ない」は非常に近い場所にある感情なのかもしれない。

読後感としては、中村文則さんの「
土の中の子供 」を読んだ時に似ているな、という印象。虐待されているわけでも、シチュエーションが似ているわけでもないのだけれど、世界との不器用な関わり方に、似たものを感じたのだと思う。

目次
夜市
風の古道
 選評


第12回日本ホラー小説大賞受賞作の「夜市」「風の古道」の二本立て。

「夜市」は、何でも手に入る市、「夜市」を描いたもの。それは夜に開かれ、異形の者どもが異形の品々を売る市場。私たちと同じ世界だけではなく、こことは異なる世界からも、夜市を目指してやってくる客がいる。夜市の仕組みは一つ。それは、取引をする場所であるということ。取引を済ませなければ、客は夜市を抜け出ることは叶わず、夜明けが来ることがない。

高校時代の同級生、祐司の誘いでこの夜市へとやって来たいずみ。夜市の仕組みなど知らず、ちょっと変わった場所に行くという程度の軽い気持ちで、入り込んだいずみとは異なり、祐司には祐司の目的があったようである。彼は、子供のころにこの夜市へ、迷い込んだことがあるようなのだが…。

「風の古道」は、こちらもまた異世界のお話。この世界のどこかには、古より伝わり、特殊な力が働く「道」がある。その呼び名は、古道、鬼道、死者の道、霊道、樹影の道、神わたりの道、とさまざま。本来、ただの人間が、この道に入ることなど、叶わないはずなのであるが…。

十二歳の夏休み、「私」とカズキは、ちょっとした冒険のつもりで、その道の中へと入ってしまう。このちょっとした冒険は、思いのほか、高くつく。古道を旅する青年「レン」に助けられ、「私」とカズキは出口を目指すのであるが…。道のものは何一つ持ち出せず、道で生まれたものは道が世界の全てとなる。

輸入業を営むホシカワ、「悪い奴を退治する」コモリには、「雷の季節の終わりに」の穏の世界を思い出す。

どちらも、少年が異世界に放り込まれ、自分たちの世界とは違う、その異世界のルール、仕組みに翻弄される話とも言えましょうか。自分たちの世界のルールとは違うとはいえ、放り込まれた少年たちは、その世界のルールに異を唱えることも出来ず、歯を食いしばりながら、食い下がっていく。風の古道」のラストにもあるように、これは成長の物語ではなく、何も終わらず、変化も克服もしないけれど、少年たちの必死の判断が痛い。夜市」の祐司しかり、風の古道」の「私」しかり…。

何が何でも成長主義!とは異なる道を行く、幻想的な物語。甘いばかりではない痛みも残るけれどね。
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柴田 元幸
つまみぐい文学食堂

目次
~Menu~
メニューについて
~Horsd'Oeuvre~
I LOVE Garlic
Be Vegetarian
不在の食物
根菜類等
~Fish~
鯨の回想風
イカ・タコ
ディナーの席で
~Meat~
菌類
豚肉を食べましょう
一族集合
動物はお友だち
人等
~Specials~
Let's Party
クリスマス特別メニュー
不味い食事
空腹、飢え、断食
~Beverages~
一杯のお茶を持てば
一人酒場で飲む酒は
ブローディガンの犬

~Desserts~
リンゴはなんにも言わないけれど
カフェ等
ワシントン広場の夜は更けて

あとがき対談
INDEX①
INDEX②


「文学」であっても、「つまみぐい」。「文学」だけれど、「レストラン」ではなく「食堂」。漫画家吉野朔美氏による、ユーモラスかつ、ちょっと不気味な絵に相応しく、ここに出てくる食べ物は決して肩肘張るものでもない代わりに、美味しそうなものばかりとも言えず…。

でも、実に楽しい本!

アガサ・クリスティーの食卓 」、「パトリシア・コーンウェルの食卓 」、「宮沢賢治のレストラン 」、「作家の食卓 」など、このブログの中だけでも、作家と料理についての本は結構読んでいるのですが、これら至ってノーマルな本とこちらの本との違いは、ここに出てくる食べ物は必ずしも実在のものではなく、また時にとてつもなく不味そうなこと。「実在ではない」といっても、描かれるのは「物語の中だけに出てくる、実在しない美味しそうな食べ物」などではなく、猛烈にそれが食べたいのに、食べることの出来ない不在の哀しみだとか。

飄々とした柴田さんの語り口、ひょいひょいと話が飛んでいくところもなんだか楽しい(あとがき対談を読むと、「素材が三つあればひとつのエッセイが書ける」とある)。ああ、こんな授業が受けられるのだとしたら、文学部でブンガクを学ぶのも悪くはないよな。いいなー、東大文学部の学生さん。そして、「柴田クン」と思しきキャラクターが描かれるその章の扉絵も実に楽しい(表紙と同じく吉野朔美氏による)。あとがき対談によると、吉野さん自身、柴田さんのファンであるそう。だからこその、この素敵な挿絵なのかな。

INDEX①は人名・作品名・書名から、INDEX②では食べ物の名前から、ページを引くことが出来る。装丁なども含めて、いやー、これはいい仕事だわ。

さて、この中で私が気になったのは、以下の本、ということで、いつものように、メモメモ。

■ケン・カルファス「見えないショッピング・モール」(『どこにもない国 現代アメリカ幻想小説集』)
■ニコルソン・ベイカー「下層土」(『どこにもない国 現代アメリカ幻想小説集』)…ニコルソン・ベイカーが、あのスティーブン・キングに酷評されて「ふん、キングみたいなホラーなら俺にだって書けるさ」と対抗して書いたのだとか。恐怖の源がジャガイモってところがすごい。
■トルーマン・カポーティ「クリスマスの思い出」(『誕生日の子どもたち』)
■リチャード・ブローディガン「アメリカの鱒釣り」
■W・G・ゼーバルト『目眩まし』
■登場回数も多い、トマス・ピンチョンという作家

そして、柴田さんが取り上げておられる本の共通項としては、どうも「妄想」というフレーズがどこかに忍び込んでいるような気がしてなりません。「妄想」といえば、岸本さん(エッセイ「気になる部分 」)ですが、この「つまみぐい文学食堂」を読んですっかり柴田さんのファンにもなったのでした。愛すべき「ヘンさ」「奇妙さ」「奇想」ってありますよね。

これまで読んだ柴田さんの翻訳は、ポール・オースターの「最後の物たちの国で 」のみなんだけど、翻訳もエッセイも、もっといろいろ読んでみたいと思ったことでした。


と、思ったら、スティーヴン・ミルハウザーの「バーナム博物館 」も読んでました。これも面白かったけど、妙ちきりんな話だったなぁ。
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デヴィッド マドセン, David Madsen, 池田 真紀子
フロイトの函

ゴシック歴史ロマンであり、かつ神の代理人である教皇の俗な話を、徹底的に描いた「グノーシスの薔薇 」で物議をかもしたデヴィッド・マドセンによる次なる作品。

扉によると、「そのスキャンダルな作風ゆえか、ロンドン生まれでローマに長いこと留学していた哲学・神学者という以外、本名や詳しい経歴は謎のままにされている」とのことなのだけれど、本作品も哲学者であり神学者というのもむべなるかな、という物語。でも、相当ヘンだけど。

精神科医のジークムント・フロイトといえば、夢分析が有名なわけですが、本作にも同じく精神科医であるという同姓同名のジークムント・フロイト博士が出てきます。主たる登場人物は、このフロイト博士に、記憶喪失の青年に、太った車掌マルコヴィッツ。

青年は記憶を取り戻すために、フロイト博士の催眠術を受けるのだけれど、なんたることか事態はますます悪化。気づけば青年の下半身は、ぴちぴちのちっちゃなブリーフに覆われているのみであり、相も変わらず自分の名前も行き先も分らぬまま。それどころか、汽車は駅でもない場所で、三人を置きざりにして出発していた。銀色に輝く粉雪の中、青年はどこからか車掌が調達してきたスカートを不承不承ながらに履き、三人は町に向かって歩き始める。

ここから始まるのは、性的指向に溢れた乱痴気騒ぎ! 三人を拾ったのは、フリュフシュタイン城の馬車。彼ら三人がここを歩いているのは、全くの偶然であるにも関わらず、フリュフシュタイン城の城主、ヴィルヘルム伯爵は、彼らを待ちかねていたというのだ。伯爵によれば、名もなき青年(便宜上、ヘンドリックと名付けられた)はヨーデルの世界的権威であり、ヘンドリックの講演をこの町の人々は楽しみにしているのだという。

伯爵の「永遠に」十三歳の淫らな娘、アデルマ、イギリス人の執事を志願し、ある日「ディムキンズ」となった城の執事、ディムキンズの虐待される妻マチルデ、フリュフシュタイン城の料理人、カドル夫人、物事のあらゆる面を書き込んだ「キューブ」の研究に余念のないバングス教授、町のイカれた大司教、スタイラー大司教…。いずれ劣らぬ変人をも巻き込んで、物語は進む。

そう、このごった煮のような様は、まるで悪夢のよう…。悪夢のようなこの世界の果てには何があるのか??

ええと、最後まで読むと、これは「なんじゃこりゃー」な本。物語は、怒り出す人がいても不思議ではないラストを迎える。

聖と俗、美と穢れをぎっちりと書き込んだ「グノーシスの薔薇」に比べ、こちら、「フロイトの函」は全てが上滑りしているというか、コミカル。「グノーシスの薔薇」にも、ちょっぴりコミカルな面は見え隠れしていたけれど、「フロイトの函」ではそれが前面に出てるのかなー。あの重厚ですらある物語を期待すると、ちょっと肩透かし。

こっちもかなり書き込んではいるのだけれど、何せキーワードは「フロイト」。ひたすらに夢の話というのも、ちょっと辛いものが・・・・。うーん、「フロイトの函」はあまり上品ではない騙りだけれど、ちょっとクリストファー・プリースト(この間、「魔法 」を読みました)を思い出しました(いや、作風は全然違うんだけれど)。
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森見 登美彦
夜は短し歩けよ乙女

図書館での長きにわたる予約待ちの後、ようやく私の手の元に乙女がやって参りましたよ! やっと出会えた乙女の可憐なことといったら、まさにこの表紙絵のよう。その他にも、この表紙絵には読んだ後にもう一度眺めると、色々と楽しい仕掛けが施されております。今ひとたび、ごろうじあれ。

男汁溢れる「
太陽の塔 」も良かったのですが、同じようにストーカー癖に陥る先輩が居てすらも、こちらの可憐な乙女はあくまでキラキラとその可愛さを周囲に撒き散らす。いやまったく、可愛い女の子は世の財産です。

はからずもその場の主役へと躍り出て、可憐に活躍を果たす彼女、黒髪の乙女とは裏腹に、彼女に惚れ、迂遠な外堀埋めへと、その青春の殆どの労力をつぎ込む、彼女のサークルの先輩は、まるで路傍の石のごとき存在。彼ら二人の命運や如何に??

春。
乙女は満艦飾の夜に、二人の男の借金を賭けて、李白翁と「偽電気ブラン」の呑み比べを行う。この夜はまさにカーニバル・ナイト。木屋町から先斗町へとかけて、乙女、先輩、また夜に出会った胡散臭い人々を引き連れ、夜は過ぎ行く。

夏。
乙女は古本市にて、幼い頃に愛した絵本「ラ・タ・タ・タム」を手に入れる。

秋。
乙女は大きな緋鯉のぬいぐるみを背負い、達磨の首飾りを下げて、心行くまで学園祭を楽しむ。時に、ゲリラ上演される「偏屈王」の主役、プリンセス・ダルマ役をつとめながら。

冬。
乙女は京の町に吹き荒ぶ風邪の旋風を封じ込める。

さて、その間、ストーカーの如く彼女に付き従う「先輩」である「私」が何をやっていたかといえば・・・。春には乙女とはまた別の所で酒宴へと巻き込まれ、夏には乙女の欲する絵本を賭けて灼熱地獄を戦い抜き、秋には乙女を求めて学園祭を彷徨った挙句に、プリンセス・ダルマの相手役である「偏屈王」の座を捥ぎ取る。冬には風邪に倒れながらも、妄想と現実をごっちゃにする彼最大の能力を持ってして、乙女の危機を救う。

そこかしこで偶然を装い出会うたびに、「たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返し、乙女は天真爛漫な笑みを持って「奇遇ですねえ!」と応えるのであるが・・・。

美しく調和のとれた人生を目指して、もりもりとご飯を食べ、むん、と胸を張って歩き、喜ばしい事があれば、二足歩行ロボットの真似をし、なむなむ!と万能の祈りを唱える、黒髪の乙女。好奇心溢れる彼女の目を通した世界は、楽しく良き人ばかりであり、逆に、万年硬派、永久外堀埋め機関と化した、「先輩」の目を通して見る世界は胡乱。その世界の対比を楽しむも良し、乙女の可憐さを愛でるも良し、先輩の報われない努力に涙するも良し。

確かに、これは楽しい本でした~。登場人物も結構な数に上るのだけれど、彼ら彼女らにはそれぞれ登場する必然があり、その描き分け、肉付けもまた見事。

さて、酒好きとしては、第一章における偽電気ブランの描写にも心惹かれるのでした。乙女いわく、それはこんな飲み物なのだという。

それはただ芳醇な香りをもった無味の飲み物と言うべきものです。本来、味と香りは根を同じくするものかと思っておりましたが、このお酒に限ってはそうではないのです。口に含むたびに花が咲き、それは何ら余計な味を残さずにお腹の中へ滑ってゆき、小さな温かみに変わります。それがじつに可愛らしく、まるでお腹の中が花畑になっていくようなのです。飲んでいるうちにお腹の底から幸せになってくるのです。

お腹の中に花畑、咲かせてみたい! 飲み比べ、李白、などというキーワードから、同じくこちらも楽しい酒を描いた、南條竹則氏による「
酒仙 」を思い出してしまいました。

また、本好きとしては、第二章の「下鴨納涼古本まつり」における、俺様な美少年でもある古本市の神にも出会ってみたいところ。

ただの変人なのか、それとも人間の枠すら越えて、既に妖怪なのか、判然としない人々が出てくるのもまた楽しいところでした。というか、あの人たち、ほんとに人間??

目次
第一章 夜は短し歩けよ乙女
第二章 深海魚たち
第三章 御都合主義者かく語りき
第四章 魔風邪恋風邪


「虫とけものと家族たち」、「鳥とけものと親類たち」、「ラ・タ・タ・タム」 はamzonを見たところ、実在の本だったのですね。知らなかった~。

 ←森見氏、幼少期の思い出の絵本だったりするのかしらん?


*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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恒川 光太郎
雷の季節の終わりに

少年、賢也が暮らすのは、地図には載っていない、異世界・穏(おん)という町。この町には、春夏秋冬の他に、「雷季」と呼ばれる雷の季節、神の季節があった。この雷季には、人が良く消える。それは仕方の無い事だと町の人々はいい、賢也が二人で暮らしていた姉もまた、雷季に消えてしまっていた。

みなしごとなった賢也は養父母の元で暮らし、時に他の子供たちに苛められながらも、町の有力者である穂高の一家と親交を結ぶ。賢也が穏の他の人々とは違っていた事。それは、彼が穏の外から来た子供だと見なされていた事。

地図に載っていない町、穏。外の世界から穏に入ることはとても難しく、穏から出て行く者は、二度と穏に戻ってくることは叶わない。通常、穏の人間は、穏で生れ、穏で暮らし、そこで死んでいく。穏はとても小さな町。外の世界にその存在が知られたら、穏は侵略され、蹂躙される。穏の人々は、外の世界を異常に恐れるのであるが・・・。

閉ざされた町、穏。そこにはやはり歪みが生れ出る。それが、<鬼衆>、<闇番>などの穏独特のシステムを作り上げる。

穏で暮らす子供でありながら、姉の失踪時に町の人々に忌まれる<風わいわい>憑きとなった賢也は、それをひた隠しながらも、徐々に外世界へと惹かれて行く。墓町と呼ばれる廃墟で、穏と外世界との門番を務める<闇番>と親しくなった賢也は、ある事件の真相を知ってしまい、穏から追われる身となってしまう。

穏を出た賢也は・・・。また、それを追って来た少女・穂高は・・・。
虐待される外世界の少女、茜の物語がそれに絡む。

幻想的な異世界の話でもあり、少年・賢也の成長記、冒険譚でもある。<風わいわい>という物の怪、<風霊鳥>という鳥、<闇番>、<墓町>・・・。独特の用語もいい。著者は沖縄に移住されているとのことで、この独特の雰囲気に、ああ、なるほどと感じた。沖縄の離島のイメージもあるんだよな。

回想記のような体裁をとっているので、淡いノスタルジックな雰囲気もある。それがまた、この物語の幻想的な雰囲気を盛り上げているように思う。

デビュー作の「夜市」も読んでみたいです(その後、読みました→ )。完成度も高く、美しい物語なのだけれど、こういう淡い感じだけではなく、もう少し破綻したというか、勢いを感じる物語も読んでみたいな~。「雷の季節の終わりに」が面白かっただけに、ちょっと贅沢な事も考えてしまうのでした。

web Kadokawaの「雷の季節の終わりに」のページにリンク

デビュー作、この作品とも、装丁も美しいよなぁ。
大空を自由に飛ぶ、風霊鳥。出会ってみたいものです。

あ、一点。
恩田さんの「光の帝国 」と同じ時期に読んじゃったのですが、これもまた異世界というか、常とは違う人々を描いていて、その点で微妙に被ってしまう点もあり・・・。少々、この作品が霞んでしまう面もあって、それはちょっと勿体無かったなぁ。つくづく、読書は順番も大切ですね。
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京極 夏彦

前巷説百物語


下手を打った仲間を庇ったせいで上方にいられなくなり、江戸へと落ち延びたまだ若き日の又市。この頃の又市の生業は双六売りであり、あのお馴染みの御行姿ではない。

これは、又市、如何にして僧形の御行となりにしか、の物語。

目次
寝肥(ねぶとり)
周防大蟆(すおうのおおがま)
二口女(ふたくちおんな)
かみなり
山地乳(やまちち)
旧鼠(きゅうそ)


まだ若く、少々青臭くもある又市が、縁を得て助けることになったのは、損料商いゑんま屋の仕事。蒲団から何から生活に必要な細々とした小物を貸し出し、その損料を取る、表向きはごく普通の損料屋としての顔を持つゑんま屋には、もう一つの顔があった。

それは依頼人が受けた損を、見合った銭で買い取るというもの。人を貸し、知恵を貸し、依頼人の損を丸ごと肩代わりして、穴埋めしてやる。ゑんま屋主人のお甲が言うには、ゑんま屋の商売は堅気相手の商売、裏の渡世のもの達とは、切れた商いだというのだが・・・。

そう、この時点では又市は半端者の無宿人ではあれど、まだまだ堅気。ゑんま屋主人のお甲や仲間たちには、時にその青臭さをからかわれたりもするけれど、お甲は又市のその青臭さに一つの救いを見る。口は達者だけれど、腕っ節は滅法弱く、暴力沙汰を嫌い、人死にが出るのを何より嫌がる。騙り、賺し、何でも御座れ、この頃から小股潜りを名乗る又市、そんなに言うなら、己が上手く纏めてみせよ、というわけ。

堅気相手の損料仕事だとは言うけれど、やはりどこか危うくもあるこのゑんま屋の裏の稼業。それとは気付かず、裏の渡世のものどもの邪魔をしてしまった事から、又市ら、ゑんま屋所縁の者たちにも、一気に危険が迫ることになる。一つの損を見合った大きさで埋める、ところが、彼らはやり過ぎてしまったのだ。損を上回る損は、また次の損を呼び・・・。それは形をつけずには、終わることがない。そうして、又市は僧形の御行となる。「御行奉為―」。

又市の姿、又市の鳴らす鈴にはちゃんと意味があったんだねえ。誰よりも人死にが出ることを嫌っていた又市だというのに、又市はあまりにも多くの死を見なくてはならなかった・・・。辛いなぁ。「巷説百物語」シリーズは、やはり哀しい物語。

巷説百物語シリーズ解説書なるものが付けられていて、年表や地図、巷説相関図があるのは、嬉しいのだけれど、ああ、まだ情報量が足りない!、と思ってしまうのです。普通の本だったら十分だと思うけど、何せ京極さんの本だからねえ。

お馴染みの名前から、この物語のみに出てくる名前まで。後の物語である、その他の物語に名前が出てこないことから、それとは知れるけれど、飄々とした元・侍の山崎寅之助なんかは、如何にも惜しかったなぁ。後の山岡百介を思わせる、本草学者の久瀬棠庵なんかも、どこかに落ちて生延びていないのかしらん。

元々は、「巷説百物語」のみを読んでいて、必殺仕事人のようなシリーズだよね、と一冊読んで見切った気になっていたのだけれど、又市が仕掛ける仕掛けのように、この巷説シリーズ自体が、京極さんの大きな一つの仕掛け。全部読まないと、絶対勿体無いシリーズです。そして、文庫になったら、絶対全巻揃えるんだーーー!!

「前巷説百物語」、まだまだ青臭い又市を満喫しつつ、でも、やっぱり、哀しい、切ない物語でありました。この時代に実際あった、非人という枠についてもきっちり描いてあるところもいい。人の世はまっこと哀しいもの、だけどね。

☆関連過去記事☆
・「続巷説百物語
・「後巷説百物語
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マーク トウェイン, 大久保 博
不思議な少年第44号

1490年の冬のこと。オーストリアは世界の中心から遠く離れたところにあり、いまだ「中世の時代」、「信仰の時代」にあった。オーストリアのど真ん中にあるその村は、深い平和に眠り、まどろんでいた。村の少年達にとって、躾と言えばそれは良きカトリック信者たれ、ということ。知識は平民などには必要のないものであり、神や神父に対する敬意のみが必要であると、教会は言う。

さて、その村近くの古城で、シュタイン一家が教会には内緒で新しい技術である印刷業を営んでいた。語り手であり、見習い工のアウグスト・フェルトナーを含むこの一家は、アウグストいうところの「ごちゃまぜの家族」であり、主人の血縁者や、印刷係りや見習い、家政婦や下女たちからなる。

ある吹雪の日、このシュタイン一家の前に、貧しい身なりの、けれど気高い顔をした、一人の少年がどこからともなく現れた。仕事の代わりに、食べるもの、寝る所をもらえれば、給金はいらない、ここで働かせてくれと少年は懇願する。

「第44号、ニュー・シリーズ864962」と名乗る謎めいた彼に、主人は食事と宿と、見習い工の職を与えるが、それを不満に思う人々が、彼に無理難題を吹っかける。ところが少年はどういう手段でか、それらの問題を難なくやっつる。彼を快く思わない人々の不満は増すばかりであり、少年への苛めもまたエスカレートする。私、アウグストは少年を気の毒に思い、(他の皆に見つからない範囲で)彼の手助けをし、彼と友だちになる事を望むのだが・・・。第44号と名乗るこの少年は一体何者だったのか??

うーん、何だかおかしいぞー、と思いながら読んでいたんだけど、あとがきによると、本書はマーク・トウェインの死後に発表されたものだとの事。更にこの物語の大部分は1902年と1905年の間に書かれ、1908年には全て書き上げられていたものの、綿密な推敲の機会もないまま、トウェインはその二年後に亡くなったのだという。物語の途中で登場人物の性格が変わったり、最初に出てきた人物が後に全く登場しなくなるのは、どうもこのためであるようなのだ。で、このあとがきには、このことについて、「物語全体で見ればそれはごく些細なことのように思われる」とあるのだけれど、うーん、私にはそうは思えなかったなぁ。最後まで、物語にノレませんでした。

宗教の話、迷信の話、頑迷な精神の話、全ての呪縛から自由である精神の話。精神のみであるならば、人は時や場所を越え、どこまでも飛翔していく事が出来る。多分、そういう話をしたかったんだろうなぁ、と思うんだけど、これ、上下二段組の259ページが必要だったのでしょうか・・・。いつか面白くなるはず、面白くなるはず・・・、と思いながら読んでたら、そのまんま最後までいってしまいましたよ。

途中から、この第44号が厚かましくなってしまって、彼に対する興味、好意がどんどん薄れていったあたりも、敗因ですな。主たる登場人物を好きになれない物語というのは、結構辛いものですよね・・・。
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柴田 よしき
聖なる黒夜

この本は、柴田よしき氏による女刑事RIKOシリーズに登場する、二人の男性の純愛(?)を描いたもの。純愛とはいえ、何せ本編も本編なので、「綺麗~♪」なものでは有り得ない。とはいえ、本編よりは血と暴力の濃度は若干薄いかなぁ。本編がどろどろ過ぎって話もあるけど。

さて、ここでRIKOシリーズ本編のおさらいを。全て、amazonの内容紹介から引いちゃいます。

1:  2:  3:

1:内容(「BOOK」データベースより)
男性優位主義の色濃く残る巨大な警察組織。その中で、女であることを主張し放埓に生きる女性刑事・村上緑子。彼女のチームは新宿のビデオ店から一本の裏ビデオを押収した。そこに映されていたのは残虐な輪姦シーン。それも、男が男の肉体をむさぼり、犯す。やがて、殺されていくビデオの被害者たち。緑子は事件を追い、戦いつづける、たった一つの真実、女の永遠を求めて―。性愛小説や恋愛小説としても絶賛を浴びた衝撃の新警察小説。第十五回横溝正史賞受賞作。

2:
内容(「BOOK」データベースより)
一児の母となった村上緑子は下町の所轄署に異動になり、穏やかに刑事生活を続けていた。その彼女の前に、男の体と女の心を持つ美人が現れる。彼女は失踪した親友の捜索を緑子に頼むのだった。そんな時、緑子は四年前に起きた未解決の乳児誘拐事件の話をきく。そして、所轄の廃工場からは主婦の惨殺死体が…。保母失踪、乳児誘拐、主婦惨殺。互いに関連が見えない事件たち、だが、そこには恐るべき一つの真実が隠されていた…。ジェンダーと母性の神話に鋭く切り込む新警察小説、第二弾。


3:内容(「BOOK」データベースより)
若い男性刑事だけを狙った連続猟奇殺人事件が発生。手足、性器を切り取られ木にぶらさげられた男の肉体。誰が殺したのか?次のターゲットは誰なのか?刑事・緑子は一児の母として、やっと見付けた幸せの中にいた。彼女は最後の仕事のつもりでこの事件を引き受ける。事件に仕組まれたドラマは錯綜を極め、緑子は人間の業そのものを全身で受けとめながら捜査を続ける。刑事として、母親として、そして女として、自分が何を求めているのかを知るために…。興奮と溢れるような情感が絶妙に絡まりあう、「RIKO」シリーズ最高傑作。

と、斯様にRIKOシリーズ本編は、血と精液と、その他諸々の体液に塗れた物語なんである。一言でいうと過剰な物語であり、内容紹介から引いているだけで、お腹いっぱいになっちゃうような物語。決して趣味のいい読書とは言えないんだけど、妙に気になってはしまうのよね。一文、一文を楽しむような読書ではなくって、粗筋を追っちゃう読書にはなってしまうんだけど。

さて、冒頭に二人の男性の純愛と書いたけれど、これは本編にもがっちり出てくる、ヤクザの山内練と、元刑事(この時点では、まだ現職の刑事)の麻生龍太郎の事。悪魔のような山内はなぜ生まれ落ちたのか、愛憎渦巻く山内と麻生の関係はなぜあんなにも縺れ合ったものになってしまったのか、その答えの殆どはここに描かれている。

ちなみに、タイトルの「聖なる黒夜」とは、山内が東日本連合会、春日組の幹部、韮崎に助けられた夜の事。聖なるバレンタインデーの夜が明ける頃、線路で始発を待っていた山内を助けたのは韮崎だった・・・。

勿論、ここで山内を助けるのが違う人物であれば、山内は「悪魔のような」男にはならなかっただろうし、更に遡れば、麻生と山内の二人の最初の出会いであった、あの事件さえなければ、ね。真面目な大学院生だった山内だけれど、誰もが悪魔のようになれる、そういう素質を持っているのか、それとも山内が特別だったのか??(ここでは、山内は無垢な中にも、元々そういった素質を持った、魔性の男っぽく描かれておりまするが)

しかし、周囲の色々な事情が描かれれば、描かれるほど、大学院生だった山内を襲った事件や、その後の付随する出来事は如何にも陰惨(取調べの中のあんな行為や出来事を忘れている麻生もどうかと思いますが。それともあれは封印していたの?)。そして、この後、誰も報われないまま、二人は恋に堕ちてゆくのよねえ。はーーー。白檀の甘い体臭を持ち、胸には蝶の刺青を持つ男、山内練。彼は他のシリーズでも活躍しているそうであります。
本編との関連で言えば、この後、周囲の忠告を思いっきり無視した静香嬢は、結局あんな目に遭っちゃうんだよなぁとか、何回か出てくる、安藤が女のことで失敗したというのは、ああ、緑子とのことね、とか。

文庫には短篇二本が収録されていて、立ち読みで読んじゃったんだけど、より遣る瀬無さが増すのでした・・・。不幸のスパイラルの中、それでも二人共に堕ちてゆくのは幸福なのでしょうか。たとえ、全てが遅すぎたとしても。
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左の「さいしょの巻」では、足を組んでふんぞり返ったシャアが、「30過ぎてもガンダムガンダムって・・・」「どうかと思うね ボカァ!」と嘯き、右の「つぎの巻」では、赤い軍服にアイロンを掛けながら、とりあえず ガンダムって つけときゃ」「売れるんじゃ ネーノ?」などと、どこまでも投げやり。後ろではララァがそんなシャアに突っ込んでます。

とまぁ、こういう雰囲気の四コマ若しくは短篇漫画が繰り広げられる本なのです。それぞれのキャラは、微妙に原型を残しつつ、それぞれに壊れている。

例えば、シャアは赤やツノにあくまでも拘る、のーてんきでちょっとお馬鹿なオトコ。女性陣はララァ、セイラさんを始めとして、あくまでも強い。

でも、ガンダムは各所で色々書かれているだけに、こういう壊れたキャラの原型もどこかで見たような気がするのです(アムロもかなり壊れた童貞キャラになってるけど)。

見たことない視点だなーと思ったのは、擬人化されたMSたちの物語、隊長のザクさん」

旧型ザクであるにも関わらず、隊長を務めるザクさん。彼の下には、堂々たる新型機、生意気で血気盛んなゲルググたちがいる。他の隊のドムにも、勿論自分の隊の部下にも馬鹿にされる日々。下からは突き上げられ、司令官である上からも押さえ込まれる、まさに中間管理職。この「隊長のザクさん」は「つぎの巻」に載せられていて、途中で終わってしまっているので、これだけは、ちょっと続きを読みたいなぁ、と思ったのだった。ザクさんの未来に幸あれ! ギャンが可愛い女の子MSだったのも、面白かったなぁ。くねくねっぽいから?笑 この二人、何か進展あるんですかね。

その他、PC関連のネタ、ガンダムでの大気圏突入の際の、①「耐熱フィルムを使用するにはサービスパック1を別途お買い求めください」、②「インストール作業に30分~1時間かかります」、③「シリアルナンバーを半角英数字で入力してください」なんてのも、面白かったです。ええ、ちょっと古いけど、見慣れたあの画面です。笑 当然、アムロは大気圏突入に間に合わず、シリアルナンバーが書かれているハガキを捜している途中、次のコマで、ちゅどーんしちゃってます・・・。普通にガンダムを動かしている際にも、「アプリケーションエラーです。不正な処理を行ったのでコンピューターを再起動します」 なんてなっちゃって、アムロが「宇宙世紀になってもコレかよ!!!?」などと怒っていたりもします。こう、PC使いとしては共感してしまうよな。まぁ、ガンダムはウィンドウズで動いてるわけじゃないんだろうけど。笑
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