「風の影」/スペインのロマン小説
テーマ:集英社文庫カルロス・ルイス サフォン, Carlos Ruiz Zaf´on, 木村 裕美
「風の影〈上〉 (集英社文庫)
」
「風の影〈下〉 (集英社文庫)
」
たぶん、本好きの人は、みなこの部分を引くであろう、上巻の最初の方の場面。
ある夜明け、主人公ダニエルは古書店を営む父に「忘れられた本の墓場」へと招き入れられる。そこは神秘の場所であり、聖域である。そこにある本の一冊一冊、一巻一巻に、本を書いた人間の魂と、その本を読み、人生を共にした人間の魂が宿る。もう誰の記憶にもない本、時の流れとともに失われた本が、この場所では永遠に生き、いつの日か新しい読者の手に行きつくのを待つ…。
さて、この場所に初めて来た人間は、ある一つの決まりを守らねばならない。ここにある本のどれか一冊を選び、それを引き取り、絶対にこの世から消えないよう、永遠に生き永らえるよう、守ってやらなければならないのだ。ダニエルが選んだのは、フリアン・カラックスという作家の『風の影』という本。
本を読む者にとって、生まれてはじめてほんとうに心にとどいた本ほど、深い痕跡を残すものはない。はじめて心にうかんだあの映像(イメージ)、忘れた過去においてきたと思っていたあの言葉の余韻は、永遠にぼくらのうちに生き、心の奥深くに「城」を彫りきざむ。そして―その先の人生で何冊本を読もうが、どれだけ広い世界を発見しようが、どれほど多くを学び、また、どれほど多くを忘れようが関係なく―ぼくたちは、かならずそこに帰っていくのだ。 (上巻p20より引用)
ダニエルにとって、『風の影』はまさにそんな本となる。
フリアン・カラックスの他の本にも興味を持ったダニエルは、著者フリアンについて調べ始める。ところが、この本と、フリアン・カラックスという著者には不吉な影が付きまとう。フリアン・カラックスの本は、過去にほとんど全てが焼き払われているというのだ。それも、『風の影』の登場人物でもある悪魔、ライン・クーベルトを名乗る男によって…。そしていつしか、フリアン・カラックスの青春の悲劇が、ダニエル自身の境遇とも共鳴し合う。フリアンとダニエルの人生に影を落とすのは、身分違いとも言える恋。
冒頭ではぐっと引き込まれたものの、実は上巻の間はそんなにノリノリで読んでいたわけではなかったのです。冒頭の雰囲気から、「はてしない物語」のようなファンタジーを期待しちゃったんだけど、「忘れられた本の墓場」とはいえ、それは(物語の中では)実在する場所であり、これはファンタジーではなく、ロマンな物語なのでした。あと、上巻でいま一つノれなかったのは、会話文の影響かなぁ。老若男女を問わず、「~してくださいよ」、「~じゃないですか?」という表現が目についたり、なんというか、印象的で個性的なキャラクターも多いのに、その辺が会話文で描き分けられてないような印象を受けたのです(というか、そういうのって、訳の問題???)。話が一気に展開する下巻からは、かなり引き込まれたのだけれど、それは会話文がほとんどない、「ヌリア・モンフォルトの手記」という形をとっている部分がかなりの割合を占めたからなのかもしれません。
ロマンには愛と障害がつきもの。メインはフリアンとペネロペの恋、ダニエルとベアトリスの恋だけれど、この本の中には父と子の愛(息子、娘)や、仕える者の愛、同士のような愛(とはいえ、恋としては悲劇なのだろうけれど)、恋多き男だったある男の誠実な恋など、恋愛だけではなく友愛や、家族愛が語られる。恋ではないけれど、人間の歪みという点では、フリアンのかつての学友であり、バルセロナ警察の刑事部長となったフメロ刑事が恐ろしい…。
さて、目次を見ても分かる通り、これは現代の物語ではありません。内戦と、第二次世界大戦を経たスペインを舞台としています。だからこそ、フメロのような人物が成り上がって、善良だけれど彼の気に障る人物の生活を脅かしたり、大人たちが何となく人生に疲れたような空気を醸し出しているのかも。スペイン内戦について、知識があった方が、躓かずに読むことが出来るかもしれません(私、ちびっと躓きました)。
登場人物の中で一人好きな人物をあげるとすれば、元スパイにして、元ホームレスであり、凄腕の古書店のバイヤーであり(お客が求める稀覯本を手に入れるには、ほとんど考古学発掘の世界であり、古典の知識と、ヤミの商売の基本的なテクニックがいるのだとか)、女性大好きなフェルミン! いやー、フェルミン登場から、ぐっと読み易くなりましたよ。ダニエルに拾いだされたに等しいため、彼に忠誠を誓うフェルミン(こんなにいい人だなんて、逆に怪しい、と途中から、フェルミンに裏切られたらどうしよう、とドキドキしながら読んでたのですが、フェルミン、ちゃんといい人で良かった!笑)。
ミステリーというよりは、ロマン小説であり、章のタイトルから引くならば、「ドラマティス・ペルソナエ(人間たちのドラマ)」でした。雰囲気も話も全然違うけれど、「嫌われ松子の一生 」のように、過去の人間の足跡を現代の人間が追うスタイルのお話です。「嫌われ松子の一生」では、現代の主人公の男女と、過去の松子と男たちを対比させることで、これから如何様にも生きることが出来る主人公の可能性を残していたけれど、こちら、「風の影」においてもやはり…。歴史は繰り返すだけではないのだよね。
・Wikipediaのスペイン内戦にリンク 。
*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
(上)目次
忘れられた本の墓場
一九四五年―一九四九年 灰の日々
一九五○年 取るに足りないもの
一九五○年―一九五四年 人は見かけによらない
一九五四年 影の都市(一~十五)
(下)目次
一九五四年 影の都市(十六~三十一)
一九三三―一九五四年 ヌリア・モンフォルト―亡霊の回想
一九五四年 風の影
一九五四年十一月二十七日 ポスト・モルテム(死後)
一九五五年 三月の海
一九六五年 ドラマティス・ペルソナエ(人間たちのドラマ)
訳者あとがき













1 ■やったーーー!!!
TB成功しました!!!
遂に問題解消されたのかも!
そういえば先日、「本だけ読んで暮らせたら」さんにTBしたら成功してたんですよね~。
いやぁ、よかったよかった。
フェルミンが素晴らしくいいやつでしたね(笑
この小説は「本の墓場」四部作の一作目らしいので、次作にも期待。
フェルミンはさすがに出ないかな??(笑