2007-10-18 22:19:38
「戒」/戒よ、どこまでも舞え
テーマ:新潮社小山 歩
「戒 」
二〇〇二年、戒の墓が見つかった。帯沙半島は、この報せに沸き返る。なぜなら、戒とは、半島史に残る伝説の奇人であり、希代の嫌われ者であったから。実在を疑われた戒であったが、彼は確かに生きていたのだ。
体は人間、真っ赤な猿のような顔に、甲高い声できぃきぃ喋る、言うならば猿人間である戒は、猿のまねをした道化舞が異常にうまかったのだという。
そうして、そこから語られるのは、半島の先端にある沙南の小国、再の国の歴史、戒の人生。希代の嫌われ者であり、逆臣とされた戒の真実の姿とは一体どんなものだったのか? 読者は二〇〇二年から、一気に戦乱の古代帯沙半島へと連れ去られる。
再国の公子・明と三日違いで生まれた戒。名門である延家に生まれ、また母、晶夫人が公子の乳母となったことから、戒は公子とともに最高の教育を受けて育つ。戒は後の世に言われるような痴れ者ではなく、文武両道とも言うべき、神童の誉れ高い少年であった。時に戒の優秀さは、公子をも凌ぐものであったのだが…。
母、晶夫人は、わが子である戒が、公子・明に勝つこと、並び立つことを望まない。彼女の望みは、戒が明の影となって生きること。晶夫人は、公子・明の浅はかな行いから、凄絶な最期を遂げるが、その後に及んで、戒に一つの約束をさせる。この約束に縛られた戒は、武官としても文官としても、任官することがかなわない。また、戒の母、晶夫人が第二夫人であったこともあり、戒は強く望まれたにも関わらず、軍事を取り仕切ってきた延家の総領となることもしない。
そうして、戒はどうやって生きていくのか? 亡き晶夫人に縛られた戒は、常に公子・明の傍にあらねばあらず、旅と学問に生きる遊子に憧れつつも、公子・明を護り、楽しませる道化として生きることを決意する。
名門に生まれた貴族であるにも関わらず、いつしか戒はみなに馬鹿にされ、軽んじられる本物の道化者となる。彼の深遠なる目的を知る者は、ほんの僅か…。
さて、人は己の才を隠したまま、道化であり続けることに耐えられるのか? 己の目的を誰にも理解されないことに耐えられるのか? 戒は時にぶれ、時に倦む。そうして、時に大切な人を失っていく…。
類稀なる「舞舞い」であった戒であるけれど、当初、それは人を楽しませるための方便でしかなかった。しかし、彼の舞いは本来、そんなもので終わるものではなかった。踊りの神に愛された戒の舞は、人々を魅了する。
そうして、何者にもなることを選ばなかった、選べなかった戒は、最後に「舞舞い」となることを選ぶ。生きている者たちのために、死んでいった者たちのために、戒は全霊をかけて舞う。
人にもなれず、猿にもなりきれず、
延家も追われ、お山も遠く、
せめて山に似た巣を作ろうと
戒、戒、家がないから、小屋に住む
「あなたの舞は、決して小さくなんかないよ。無力じゃない。戒兄、あなたの舞にかかわったものが、あなたを誇っている。愛している」
ラストの戒の舞は圧巻ですよー。
目次
序章 墓と伝説
第一部 小屋に住む戒
一章 緑野の夢
二章 鹿を狩る夢
三章 旅をする戒
四章 春の風、夏の雨
五章 戒より始めよ
第二部 宮殿に住む戒
一章 新居の戒
二章 軍師と舞舞い
三章 弟たち
四章 楊の蒼王
五章 猿の帰還
終章 陵墓の戒
全体としては、酒見賢一さんの「後宮小説」 を彷彿とさせる、中華風味の架空歴史小説。酒見さんのような軽みはないんだけど、丹念に描かれる架空の国、「再」の国の歴史にはぐいぐいと引き込まれる。軽みでいえば、類稀なる「舞舞い」である戒の舞や、その他の芸能も魅力的。再の国の歴史自体は、結構骨太に語られているように思います。
ページを開けば、そこには所謂洋モノファンタジーではない、けれども豊かな想像力に支えられた、アジア的ファンタジーの世界が広がります。一冊しか出ていないのが如何にも惜しい!
「後宮小説」は、第一回ファンタジーノベル大賞受賞作でありますが、一方のこの作品もまた、ファンタジーノベル小説がらみ。第14回ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作であります。
参考までに、新潮社の該当ページにリンク 。
このときの大賞は、西崎憲さんだったのですね。
ああ、西崎さん翻訳の『英国短篇小説の愉しみ』(全三巻)は、積みっぱなしでありますよ。汗
この本のことは、「みすじゃん 。」のおんもらきさんのところで知りました。
■おんもらきさんの記事はこちら
すっごい面白かったです! おんもらきさん、ありがとう~。
*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。












1 ■…URLですみません…。
三回チャレンジしたんですけど…もうなんかへこんできました…。
うおぉ!読まれたんですね!ご紹介に預かりありがとうございます!
普段は僕がつなさんの記事読んで本を読む、ってパターンが多いのでなんか新鮮ですね(笑)
恒川さんほどの幻想性はないけれど、それを補ってあまりある物語の深さが最高でした。一冊で終わる作家さんでは惜しすぎますよね。若い方なのに。現在は公務員やってるってwikiに載ってるから…もう新作は読めないんでしょうね~。