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2007-10-08 21:52:08

「観光」/観光地、タイ。その空の下の人生の断片

テーマ:早川書房

ラッタウット・ラープチャルーンサップ, 古屋 美登里

観光(ハヤカワepiブック・プラネット)


舌噛みそうな名前ですが、著者ラッタウット・ラープチャルーンサップは、1979年、シカゴに生まれ、タイのバンコックで育ったのだそう。タイの有名教育大学およびコーネル大学で学位を取得後、ミシガン大学大学院のクリエイティブ・ライティング・コースで創作を学び、英語での執筆活動を始めたのだとか(以上、表紙扉より)。


目次
ガイジン
 Farangs
カフェ・ラブリーで
 At the Cafe Lovely
徴兵の日
 Draft Day
観光
 Sightseeing
プリシラ
 Priscilla the Cambodian
こんなところで死にたくない
 Don't Let Me Die in This Place
闘鶏師
 Cockfighter
 訳者あとがき


タイの人々の暮らしを切り取った短編集。
ガイジン」、「カフェ・ラブリーで」、辺りはそんなに凄いと思わずに読んでいたのだけれど(でも、巧いですよー)、「こんなところで死にたくない」、「闘鶏師」など後半は、本当に底辺を描くというか、その辛さに凄味がありました。胃が重くなるような、その辛さに付き合った価値はある物語なのだけれど。
たぶん、「ガイコク
人」が観光として訪れるタイ。観光客が一時的に通り過ぎていく、美しくまた明るいその空の下には、きっとこんな暮らしがある。それらの対比がまた、これらの物語をより鮮やかに見せている。

「ガイジン」
 アメリカ軍人との落とし児である「ぼく」。可愛いタイ娘たちには目もくれず、「ぼく」が夢中になるのはいつだってガイジン娘。でも、ある種の娘たちにとって、「ぼく」は単なる旅先の後腐れれのないオトコなわけで。パメラ、アンジェラ、ステファニー、ジョイ、そして今度はリジー…。
 人種で暦を分ける導入部が秀逸。豚のクリント・イーストウッドも可愛い。


「カフェ・ラブリーで」

 貧しい兄弟の幼き日の話。幼すぎて、人生の悲しみを理解できなかった「ぼく」。父が亡くなって亡霊のようになった母を理解できず、また兄のやり場のない怒りも理解できず、ただ「ぼく」が求めていたのは兄の愛だけだった。

「徴兵の日」

 年に一度の徴兵抽選会の日を迎えた、「ぼく」と幼馴染のウィチュ。無二の親友であるけれども、二人の間には格差があった。裕福な「ぼく」の家庭に、貧しく、父もなく、兄のカームロンもまた徴兵に取られ、損なわれたウィチュの家庭。裕福な家庭の者たちは、軍の上層部に賄賂を贈って外れ籤を引く。そのことをウィチュや、ウィチュの母に、打ち明けられなかった「ぼく」…。
 気持のよい四月に、境内の中で行われる徴兵抽選会。仮設テントが作られ、ロープの向こうには少年たちの親類が集う。厚化粧の女装愛好家(クラトウーイ)、キティのブラウスの赤が鮮やか。

「観光」

 母と過ごす最後の夏。働きづめだった母は、息子と共にする「観光旅行」を提案する。南行きの列車に乗り、更に船で目的地へと向かう。旅の途中の美しい風景。しかし、母にはこの景色が見られなくなるかもしれないのだ。

「プリシラ」

 貧しいものは、更に貧しいものを標的にすることがある。「ぼく」とドンは、カンボジアからやって来た大した少女、プリシラと仲良くなるのだが…。

「こんなところで死にたくない」

 「私」の息子は、タイ人の女性と結婚をした。「私」は孫たちの名前すら、正確に発音することは出来ない。体を悪くして、息子たち家族が暮らすバンコックへと引き取られた「私」。この暑く、蚊ばかりがいる街、何もかもが「私」の気に入らないことばかりなのだが…。

「闘鶏師」

 町の有力者の息子であり、誰もが関わるのを嫌がる、リトル・ジュイ。有力な闘鶏師であった「わたし」のパパは、彼を怒らせてしまう。蛇のようなリトル・ジュイの復讐が始まり、パパの過去の栄光は地に落ち、彼は全てを失っていく。それを見守るしかない「わたし」とママ…。
「わたし」にもリトル・ジュイとの因縁があり、パパにはリトル・ジュイの父親、ビッグ・ジュイとの因縁があった。けれども、世の中は常にいい人、正義が勝つわけではない。戦ったところで、負けてしまうことだってある。パパは完膚なきまでに叩きのめされるのだが…。

表紙もまた印象深い本なのだけれど、中身もまたこの表紙のように、色鮮やかで美しい物語。そして、また「千年の祈り」のように、どれが一番好きか、と即答できない、どれもまた味わい深く印象深い短編なのです。これもまた、短編なのだけれど、青い空の下、世界がどんどん広がって行く感じがする。明るいばかりではなく、むしろ哀しい出来事が語られているのだけれど、その世界にはどこか懐かしい匂いが漂っている。

訳者あとがきによると、著者は現在、奨学金を得てイギリスのイースト・アングリア大学のアメリカ研究科で学びながら、長編を執筆中とのこと。こちらも是非読みたい!

■その他、世界各地の短編集■
・インド→ジュンパ ラヒリ, Jhumpa Lahiri, 小川 高義「停電の夜に
・中国→イーユン・リー, 篠森 ゆりこ「千年の祈り (Shinchosha CREST BOOKS)

最近、こういった系統のものを、いっぱい読んだ気がしていたのだけれど、改めて考えたら、この2作ぐらいなのね…。インド、中国、タイときて、さて、次はどこの国のものを読むことが出来るかなぁ。

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