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2007-10-03 23:37:12

「ミスター・ヴァーティゴ」/空も飛べるはず

テーマ:新潮社

ポール オースター, Paul Auster, 柴田 元幸

ミスター・ヴァーティゴ


これはですねー、超楽しい読書でした。

内容はウォルト少年が語る一代記なんだけど、まぁ、これがとんでもない出来事が物凄い勢いで起こっていくのです。このとんでもなさっぷりは、ちょっとお伽話的でもある。「とんでもない出来事」の中には、いい事も悪い事も、嬉しい事も悲しい事も、割り切れる事も割り切れぬ事も含まれる。それでも、転がる石には苔生さぬとでも言いましょうか、悪餓鬼であり、イェフーディ師匠の言葉を借りれば、「獣」だったウォルトは、そこからの生き直しを、常に新鮮な気持ちで全力でぶつかって行く。このウォルトの心意気が実に清々しい。どんな事があっても、強く、イキの良さを失わないウォルトの生き方は、きっと生への賛歌。

ウォルトがイェフーディ師匠に拾われたのは、九歳の時。セントルイスの街で小銭をせびって暮らす、みなしごだったウォルトが見込まれたのは、ウォルトが誰よりも小さくて、汚くて、みじめったらしかったから。人間の形をしたゼロであるウォルト。師匠は自分についてくれば、ウォルトは空を飛べるようになるというのだが…。勿論、すれっからしのウォルトは、最初から師匠のこの言葉を信じたわけではないけれど、師匠と共に汽車に乗ってカンザスの田舎町へと辿り着く。そこで待っていたのは、辛い修行の日々と、初めての友だち、初めての家族のような存在。師匠の言葉通り、空を飛べるようになったウォルトだけれど、今度は彼が安らいだ「家庭」が壊される。兄のような存在だったせむしの黒人少年、イソップ、母のようだったインディアンのマザー・スー。有色人種である彼らは、KKKに殺される。この「空を飛べるようになる」、「ウォルトが人間となる」までが、第Ⅰ部

第Ⅱ部ではいよいよ、空を飛ぶ「ウォルト・ザ・ワンダーボーイ」の公演が始まる。それは、1927年の夏に始まり、舞台は田舎町から最後はニューヨークへ…。ところが、今度はめまいがウォルトを襲う。空を飛べなくなったウォルトを、イェフーディ師匠は見捨てるのか? いやいや、イソップとマザー・スーを失い、今では二人となってしまった彼ら。師匠は彼ら二人の次の生活を提案する。新しい道を目指す彼らの前に現れたのは、悪夢のようなスリム伯父。ウォルトの成功を妬む伯父は、とんでもない行動に出る。ここまでが第Ⅱ部

「楽しかった日々を忘れるなよ」、それが師匠の言葉だったけれど…。十八になったウォルトは、スリム伯父に追いついた。そして、そこでシカゴの裏社会に君臨するビンゴと出会う。これがウォルトの新しいキャリア。腹心としてのぼりつめたウォルトは、シカゴのど真ん中でクラブを経営するまでになるのだけれど…。偶然出会った、懐かしのイェフーディ師匠が愛した女性、ミセス・ウィザースプーンが言う通り、ウォルトが積み重ねているのは、「泥棒ごっこ」のキャリア。泥棒ごっこに未来はない。そうして、ウォルトはまたも絶頂から転がり落ちる。二十六歳になったウォルトは軍隊に入隊する。ここまでが第Ⅲ部

除隊したウォルトは、そこから職と住居を転々とする。そして、人生で二番目に賢明な選択と言える(一番目は、イェフーディ師匠に着いていったこと)結婚をして、その後の二十三年間を幸せに過ごす。ところが妻のモリーは癌におかされ、彼を残して逝ってしまう…。痛手からようやく立ち直り、甥のもとへと旅立つはずだったウォルトが立ち寄ったのは、第Ⅱ部でウォルトとイェフーディ師匠とミセス・ウィザースプーンの三人で暮らした、懐かしのウィチトーの街。そして、そこで出会ったのは、まさにミセス・ウィザースプーンその人!
けれども、ウォルトの前をそうして、みんなが過ぎ去って行く。そして、ウォルトが最後に出会ったのは…。まるで昔の彼を見るような、ユセフという通いの掃除婦の子供。これが第Ⅳ部で、ウォルトの語るなが~い物語もお終いとなる。

こうして、ウォルトの一代記が語られるのだけれど、それはアメリカの歴史とも無縁ではない。KKKや大恐慌など、それらも合わせてこの物語となる。

 ポール・オースターって、前に読んだのが「最後の物たちの国で 」だったので、もっと暗いというか、切実な感じの文章を書く人だと思っていたのだけれど、こんな楽しい物語もかけるのですね。ま、こちらも単純に「楽しい」物語ではないのだけれど、最後の物たちの国で」が少し淡い色彩を帯びた物語だとすれば、こちらはぐいぐいと原色で描いたような物語なのです。この勢いを借りるとすれば、次は「ティンブクトゥ」だ!

コメント

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1 ■楽しい読書

つなさんの感想、楽しみにしていました!!
そうなんです、読書の楽しさが詰まった一冊ですよね。
彼の人生で起こる事件は、かなり壮絶・残酷なこともあって、子供に読ませられる類の冒険談とは違うけれど、それなのにさわやかな感じがするのは、つなさんが書いていらっしゃるとおり、主人公の生命力の強さですね。
何があっても、どれだけ時間がかかっても、ちゃんと人生の表面に浮上してきて、生きることを再開する力。
私は、ポール・オースターは本書が初だったので、めくるめく波乱万丈のストーリーテラーと印象を持ったけれど、もっと沈んだ色調のお話もあるのですね。
今度はそちらに挑戦してみます。

2 ■追記

すいません、書き忘れましたが、TBさせていただきます。
私のほうも受付再開しました。
スパムもひと段落しているようで、ほっとしてます。

3 ■>有閑マダムさん

実はだいぶ前に読了はしていたのですが、少し頭の中で熟成する期間を持ちたかったのと、ちょっと時間が取れなかったので、感想を纏めるのが結構遅くなってしまいました。
この楽しさをきっちり伝えないと勿体ない!!、となんだか気負ってしまって。笑

うんうん、「再開」という言葉がぴったりきますね。沈められても沈んだままではいない、浮きのような…。

ポール・オースターはこっちの方が本領なのかもしれません。「ムーン・パレス」も面白そうだし、ぼちぼち読んでいこうかなぁ、と思います♪
「最後の物たちの国で」も良かったことはよかったんだけど、好きなのはこちらの方です~。
マダムさんはどちらかしら。

トラバもありがとうです。
昨夜は力尽きました~。笑
スパムトラバ、またなくなりましたね。よかった、良かった♪

4 ■詳細を思い出せない

ミスター・ヴァーティゴ、めくるめく面白さだったのは覚えているのですが、詳細は忘れてしまいましたが少し思い出しました。空を飛ぶ話はリチャードバックに似ているな、とか思っていたことを思い出しました。

「ティンブクトゥ」もいいですよ。
薄くて読みやすいこと請け合いです。

私好みはムーンパレス周辺です。こちも手に入れば読んでみてください。バランスは悪いですが胸に迫るものがあります。

5 ■>bookbathさん

空を飛ぶ+リチャード・バックといえば、空飛ぶ救世主「イリュージョン」あたりでしょうか? もう十数年前に読んだので、それこそ記憶が朧なのですが(笑)、結構好きだったことを覚えています。

ちょうど、bookbathさんの久しぶりの更新だ~、と思い見に行ったら、たぶん話は全く違うけれど、bookbathさんも「空を飛ぶ」話を読んでおられて、偶然だなぁ、と思いました。

ポール・オースター、今度こそ、いろいろ読んでみたいと思います。トラバもどもでしたー♪

6 ■TBありがとうございます。

読んで、実力を再認識、
やっぱり実力派の作家でした。
語りが、ほんと上手いですね。
私もティンブクトゥは、気にしてます。

7 ■>indi-bookさん

トラバ返し、ありがとうございます♪
私、このあと、「ティンブクトゥ」も読んだんですよー(というわけで、「ティンブクトゥ」がオースター三冊目)。

ヴァーティゴのエンタメとはまた違うアプローチですが、純粋な魂がうつくしい物語でした。
でも、語りのうまさは、ヴァーティゴの方が上でしょうか。

まだまだ引き出しがありそうな作家ですよね。

8 ■無題

つなさん、こんにちは~。
「ミスター・ヴァーティゴ」読みましたよ!
いやあ、面白かったです。
ほんと楽しい読書でした。読んでよかった~。
もう、こんな作品ばかりだったら、悩まないのに。(笑)
でも、淡い色彩を帯びてるという「最後の物たちの国で」も気になります。
もしかして「幽霊たち」と同じ系統なのか
それともまたちょっと毛色が違うのか…
謎が深まります。(笑)

9 ■>四季さん

こんばんはー♪
わー、四季さん素早い。笑
ね、ね、「ミスター・ヴァーティゴ」、楽しいですよね!
私、これでオースターの波に乗ろうと思ったら、こんな楽しいのは、ちょっとまた別みたいで…。笑
ほんと、こういうのばっかだたら、悩まないのにねえ、オースターめ。笑
うーん、「最後の物たちの国で」はですね、私は小川洋子さんの世界に似ているなぁ、と思いました。
喪失の物語なのです。「ヴァーティゴ」とは全然違うでしょう?
「幽霊たち」、吉野さんの漫画を読んでも、すごい手強そうー!、と思います・・・。笑
読み切れるかなぁ、わたし。

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