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2007-09-13 23:38:36

「千年の祈り」/珠玉の短編集

テーマ:新潮社

 

イーユン・リー, 篠森 ゆりこ

千年の祈り (Shinchosha CREST BOOKS)


目次
あまりもの
 Extra
黄昏
 After a Life
不滅
 Immortality
ネブラスカの姫君
 The Princess of Nebraska
市場の約束
 Love in the Marketplace
息子
 Son
縁組
 The Arrangement
死を正しく語るには
 Death Is Not a Bad Joke If Told the Right Way
柿たち
 Persimmons
千年の祈り
 A Thousand Years of Good Prayers
訳者あとがき


これ、めっちゃくちゃ良かったです!
同じ新潮クレスト・ブックスシリーズでいうと、「
停電の夜に 」のような短編集なんだけれど、「停電の夜に」で少し感じた、人生の疲れ、澱のようなものがほとんどない。

かといって、決して悲しくないわけでも、幸せいっぱいなわけでもないのだけれど、感情のエッセンスが純粋に昇華されている感じ。ペーソス、ユーモア、すべてが恬淡と、いっそほのぼのと語られる。

「あまりもの」
行かず後家の林(リン)ばあさんはいつだってあまりもの。寡婦の王(ワン)ばあさんの勧めに従って、今にも死にそうな金持ちの年寄りと結婚しても、全寮制の私立学校に職を見つけても…。
「愛の幸せは流星のように飛び去って、愛の痛みはそのあとに続く闇のよう」
林ばあさんを道で追い越した少女が口ずさむ。

「黄昏」

蘇(スウ)夫妻と、方(ファン)夫妻のお話。いとこ同士の蘇(スウ)夫妻は、遺伝的な障害を心配する親族の反対を押し切って結婚した。すべては確率の話。障害を持つ子が生まれてくる確率は、蘇氏の計算ではごく少ないもののはずだったのだが…。彼らの元に生まれてきた貝貝(ベイベイ)は、重度の知的障害と脳性まひを持っていた。しかし、それは決して不幸ではなかった。皮肉なことに、蘇夫妻を互いに遠ざけたのは、その後の子、健(ジエン)の誕生だった。
 
「不滅」

数々の宦官を送り出してきたわたしたちの町。宦官たちは町に富を送り、わたしたちは宦官が死出の旅に出るとき、盛大に送り出した。王政の時代は過ぎ去って、共産主義がやってきた。わたしたちの町が今度送り出したのは、独裁者、毛主席と瓜二つの顔をした若者。

「ネブラスカの姫君」

医師である伯深(ボーシエン)は、同性愛者でもあった。天安門事件からこちら、人権や、エイズについて語ることの危なさを思い知った伯深は、偽装結婚をしてアメリカへと渡る。幼いころから京劇の男旦(ナンダン:京劇の舞台で女役を演じる男優)として仕込まれ、のちに「娼夫」となった二十歳も年下の恋人陽(ヤン)を残して…。陽は同性愛者であるために、舞台から追われていた。伯深は陽を京劇の舞台に復帰させると約束するのだが…。
アメリカへ渡った伯深の元へ現れたのは、陽ではなく薩沙(サーシヤ)。薩沙は陽の子がお腹にいるのだと話し、中絶を望む。

「市場の約束」
三三(サンサン)は何よりも約束を重んじる。それは友人と恋人の手酷い裏切りにあってなお。三三は頭の中で、彼ら二人のセックスを思い浮かべすらする。それはまるで三人の結婚生活のよう。ところが、彼ら二人の結婚は破れてしまった。だからといって、周囲が望むように、彼と付き合いなおすことなどできようか。三三は何よりも約束を重んじるのだから。

「息子」
今ではアメリカ市民となった三十三歳、独身のハン。里帰りで母に会うたびに、いつも衝突してばかり。子としての務めを抱えた息子でいるのは楽じゃない。同性愛者であるハンは、一生、「母の息子」でいるしかないのだが…。

「縁組」
病弱な母親と暮らす若蘭(ルオラン)。茶葉の販売員である父親は、一年のほとんどを外で過ごす。若蘭が物心ついてから、父親の帰宅は年末の大掃除と春節のみ。父のいない間、若蘭たちを助けてくれるのは、炳(ビン)おじさん。
そして、若蘭が十三歳となったとき、父親は母親にとうとう離婚を切り出した。若蘭は父と共に行くことを望むのだが…。炳おじさんが語る、彼らの家庭に隠されていた秘密。

「死を正しく語るには」

誰かの子供でいることは、その立場からおりることのできない難しい仕事。研究所の中に住み、教師をしている母から逃れ、厖(パン)夫妻の家で過ごす夏と冬の一週間は、「わたし」にとってとても貴重なものだった…。研究所で育った子供たちの遊びの中では、研究所の防犯ゲートから外へ出ることも、灰色の建物に近づくことも許されない。
今ではアメリカで暮らす私は、遠い地で厖夫妻のこと、その近所の人たちのことを思う。


「柿たち」

老大(ラオダー)は十七人もの人間を殺した英雄だ。干ばつに見舞われた「わたしら」が思い出す、老大のこと。これは天罰なのか? しかし、この干ばつがもたらしたのは、日がな一日、槐の老木の下に座って煙管をふかし、だらだらと語り合うけだるい喜び。

「千年の祈り」

離婚した娘を慰めるために、娘が暮らすアメリカを訪れた石(シー)氏。ところが、娘は彼の慰めを受け容れるどころか、迷惑な様子を隠そうともしない。近所を散歩中に知り合った、言葉の通じないイラン人の「マダム」とは、心が通じ合うというのに…。
娘によって暴かれる石(シー)氏の不名誉な過去、そして娘の離婚に至った事情。
どんな関係にも理由がある。たがいに会って話すには、長い年月の深い祈りが必ずあったはずなのだ。愛する人と枕をともにするには、そうしたいと祈って三千年、であるならば、父と娘ならばきっと千年。人は偶然に父と娘となるのではない。石(シー)氏の想いは、娘に届くのか?

長々と書いてしまったけれど、それはどれも甲乙つけ難いお話だったから。短編なんだけど、話がぶわーーーっと広がっていく感じがするのです。

ダイ・シージエも中国人でありながら、フランス語で小説を書いているのだけれど、この作者、イーユン・リーも母語ではなく英語で物語を書く。母語では書けないこと。新しい言語を獲得したからこそ、書けること。中国の文革の爪あとはいまだに深い。

■関連過去記事■
・ダイ・シージエ「
バルザックと小さな中国のお針子 」/一九七一年、中国の青春
・ダイ・シージエ「
フロイトの弟子と旅する長椅子 」/フロイトの弟子にして、ドン・キホーテ、莫(モー)がゆく

コメント

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1 ■おおっ

これ!気になってたんですよー。
よし、読もうっと(決定)

2 ■>ねこ姫さん

おー、ぜひぜひ♪
見たか、新潮クレスト・ブックスの底力を!!、と思わず拳を握る勢いの良作です。
ほんと、いいですよー。

3 ■これ

面白そうですね。読んでみようかな・・・。

4 ■>ペトロニウスさん

樹衣子さんも、図書館に予約を入れたと仰ってましたー。
いやー、これはいい短編集ですよ♪ 機会があれば、ぜひ。

5 ■買っちゃいました

本屋さんで見つけて買ってきちゃいました。
ちょうどもらいものの図書カードがあったりしたもので。
さぁ、読むぞっ

6 ■>おおっ

>ねこ姫さん
早速ですねー♪
もう読み始めてらっしゃるのかなぁ。
感想、楽しみにしてますね!

系統は違うけど、「バルザックと小さな中国のお針子 」も面白かったですよー!<と、さらに勧めてみる。笑

7 ■せめて百年の祈りを

つなさんお薦めの「千年の祈り」をただ今、読んでおります。
予想以上に深く入り込んでおりまする。
久々に、心がわななくような短編集ですね。しかも粒がそろっています。
出版社が新潮社ということで、宣伝をかねてでしょうか、
今週号の「週刊新潮」の作家のインタビューがのってます。
元免疫学を専攻していた生物・化学系の研究者という著者の成り立ちに興味がひかれます。
取り急ぎの広報活動まで。

8 ■>樹衣子さん

わー、お気に召したのですね!良かった!
私もこれ、すごく心が揺さぶられたし、「停電の夜に」よりもいい!と思ったのですが、ネットでは逆の意見を見ることもあり。
実はどうなのかなぁ、と心配していたのです。

「週刊新潮」ですね! 立ち読みしてきます!笑
お知らせくださり、ありがとうございました♪

そういえば、樹衣子さんは「週刊ブックレビュー」というNHKBSの番組をご存知でしょうか?
takam16さんに教えてもらったのですが、明日(というか、すでに今日か)のブックレビューでは、「千年の祈り」が紹介されるようです。
こちら
→http://www.nhk.or.jp/book/prog/index.html
広報返しでした。笑

9 ■>樹衣子さん・追加

慣れない広報活動をしたら、間違えてしまいました。笑
先のコメントで書いた、週刊ブックレビューは日曜朝、つまり明日の番組でした~。
そうそう、図書館に予約本を取りに行ったついでに、週刊新潮のイーユン・リーのところを読んできました。教えてくださって、ありがとうございました! 訳者あとがきにも、彼女の生い立ちには、少し触れていたように思います。合わせて読むと、より良いですよね♪

私は読んだことがないのですが、作家の堀江敏幸さんによる書評を見つけました。読み終わった後にどうぞ~。
http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/590060.html

10 ■連投です

いやー、、、この本一気に読みましたよ。すごくよかったですーーっ。
というわけで、早速TBさせていただきました。
なんだか、まだまだ書き足りない気分ですが、他にも諸々しなければいけない、したいこと満載の休日なので、
一度これにてしめました。
映画や読書は、個人の好みが大きいので、なかなか人にお薦めするのは難しいのですが、
ご紹介していただきありがとうでした。

ところでBSなのですが、我家では観られない・・・。
申し込みを考える時もあるのですが、テレビをなかなか観ることができないため断念しています。
だから、映画館に脚を運ぶのかもです。
堀江さんの書評もありがとうございました。

11 ■>樹衣子さん

連投、歓迎です。笑 いらっしゃいませ。

わー、とっても良かったことが伝わってきて嬉しいです!
このあと、こちらからもトラバお返しいたしますね。
「柿たち」で光市の事件のことを考えるところ、さすが樹衣子さんだなぁ、と思いました。この短編集は、特殊なケースを描いていることが多いのだけれど、それでも人間の営みというものの普遍性を考えさせられます。やっぱり中国の悠久の歴史はだてではないのかなぁ。

オススメは難しいものだけれど、ヒットした時のうれしさは格別ですよね♪ こちらこそ、うれしかったです。

おー、BSはそうだったのですねえ。うちは、ケーブル経由で地上波を見ているので、その関係でBSも入っちゃうのです。お金払ってる割に見てないんですけど…(ついでに、ヘンな接続になってるせいで、BSはビデオの予約もできない。涙)。
堀江さんのところ、ちょっと意味通じませんでしたね。「私は読んだことのない作家さん」という意味でした~。

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