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2006-11-23 20:01:12

「サウンドトラック」/青春を駆け抜けろ

テーマ:集英社
 
古川 日出男
サウンドトラック  

青年は護るべきものを見つけ、目覚めたガールは踊りによって外界を揺らし、未だどちらの性にも属さないものは、誠実に現実を射って、一人、烏と共に戦いを挑む。そして、最後に彼らは共闘する。

さて、「
アラビアの夜の種族 」ではまった古川さん。図書館にあるもので次何を読もうかな~、と考えていた私は、amazonやbk1の書評を参考にしました。で、概ね好評だったこの「サウンドトラック」を読んだわけですが、いやー、皆さん良くこれ読みこなしましたね、という感じ。450頁をちょっぴり超える上下二段組と、かなりボリューミーなこの作品は、半分くらいまで読む進まないと、どんな物語かすら分からない。

私が読んだ単行本の表紙を上に載せましたが、今回の場合、こちら、文庫本の表紙の方が内容に合っている様に感じました。多分これは、現実から少し捩れた場所にある、東京を舞台にした青春小説。

   


主な登場人物は、トウタとヒツジコとレニ。冒頭は、六歳にしてサバイバル技術を叩き込まれたトウタが、父親とのサバイバル・クルーズの訓練中に、荒れる海の中でいきなり父親を亡くす場面。それまで鳴り響いていた音楽は死に、父親は海に消える。トウタは一人、無人の山羊の島に辿り着く。同じ夜、同じ海で、四歳の幼女、ヒツジコは母親の無理心中に付き合わされていた。同じ夜にヒツジコの乗る客船から出た、浅はかな自殺志願者のために降ろされた救命ボートが彼女を救う。ヒツジコもまた、トウタと同じ島に辿り着く。

トウタとヒツジコは、無人の島で完璧に暮らす。ヒツジコはまた、この島にいる間に経験した地震により、自身の体が重力から解き放たれる瞬間を知る。そして1997年、環境庁の依頼で、東京都が小笠原諸島の北部地域からのヤギの駆除に乗り出す。トウタたちが暮らす無人の島に人が入る。都の職員は、トウタとヒツジコを発見する。保護された彼らは、兄妹として父島で暮らすことになる。

父島の暮らしの中でトウタは苛立ち、ヒツジコはある切っ掛けで、自らが沈められた過去を思い出す。目覚めたヒツジコは、トウタより一足先に島を出る。トウタが島を出るのはもっとずっと後。義務教育を終え、持て余されたトウタが父島にいられなくなるのは、まだ先の2008年の話。

現実から、少しずつ捩れていくのはこの辺りから。小笠原諸島よりも暑いくらいに、熱帯化した東京。東京から既に冬は消失していた。女子高生たちは、冬を非夏と呼びならわす。2004年7月に入管法と外国人登録法が改正され、東京のあちこちに移民街が出現していた。少女と少年の間を自由に行き来するレニは、神楽坂の角付近、通称「レバノン」で暮らしていた。本当のレバノンでは、大叔父は王族の鷹匠(サッカール)だったのだという。サッカールとは、黒い目のハヤブサや黄色い目の大鷹を調教する専門の技術者。レニは東京のレバノンで、ハシブトガラスのクロイのサッカールとなる。

移民街で「非日本人化」が進むにつれ、その反動のように「純日本人化」が進む地域もある。ヒツジコが住み、彼女の学校、テレジアがある西荻窪、通称「ニシオギ」は、純日本人のサンクチュアリと化す。

ヒツジコは踊りの技術を高め、外界を揺らすことを覚える。攻めに転じた彼女は、テレジアを揺らす、揺らす。その舞いは、ほとんど天災。免疫を持つ、揺らされぬ何かを持つ少女以外は、全てその踊りに感染する。ユーコ、フユリン、カナという「免疫体」を従え、ヒツジコは長い髪、長い手足を揺らし、踊る、踊る。

東京には様々な要素が混在する。レニが敵視する「傾斜人」、自称コロポックルたちの住む地下。純日本人、非日本人・・・。正規日本人でありながら、変わった生き方を選ぶ、トウタ、ピアス。移民たちのドクトルとして生きるリリリカルド。熱帯化により爆発的な流行を見せる伝染病。トウタは、ヒツジコは、レニは、それぞれのフェイズで、このイカれた東京の状況と戦うことになる。

面白かったんだけど、この面白さに至るまでが、大変な一冊でありました。一旦、読み始めたら、最後まで読むことをオススメしますが、青春物であるせいか、何となく舞城氏に似たものを感じたり(そして、読みこなすのがちょっと大変?)。文庫本の表紙なんかを見ても、これ、長編のアニメなんかにいいんじゃないかな、と思いました。

amazonを見ると、文庫本の解説は、これまた柴田元幸さんのようですね。立ち読みしなくっちゃ!

この記事を書いた時は、割とブツブツ言ってたんですが、でもこれは読み終わった後の方がじわじわとすっごいクる物語でした。なんか中毒性があるというか。私にとってある意味分りやすかった「アラビアの夜の種族」と比べても、全く見劣りしない物語であったなぁ、と。

以下、トラバのためのリンクです。

物語三昧 」のペトロニウスさんのリンクを辿って、更新を楽しみにしているブログ「族長の初夏 」さんの「サウンドトラック」記事です。

・「サウンドトラック」(上) 古川日出男
http://umiurimasu.exblog.jp/5988131
・「サウンドトラック」(下) 古川日出男
http://umiurimasu.exblog.jp/6010103

コメント

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1 ■一太郎

おや、
あいかわらず苦労して読んでいるようだねぇ。
あまり人気のない作家さんだから
私の図書館ではすべて背表紙をこちらに見せていたよ。
こちらのほうまで相互貸し出しの依頼にきたらどうかしら。

ところで私はだれかしら?

2 ■>一太郎takam16坊ちゃま

苦労はするけど、なんか読みこなしてやる!って気が沸々と湧いてくる作家さんでもあり。笑
ってでも、皆さん、そんなに苦労されないんですかねえ。takam16さんは、「サウンドトラック」どうでした?
えええー、そちらの図書館はいいなー、羨ましい。なんと、我が図書館には一冊もないですよ。笑 でも、takam16さんとこは、遠いものー! 無理っすー。笑

3 ■あ、これ

私が途中で挫折したヤツ~。つなさんは読まれたのですね!私ももう一回挑戦してみようかな?
台詞が面白いです。文章は、ちょっととっつき難いかも。慣れるといいんですけど・・・。最初は苦労します、私も。
今、「LOVE」を読んでます。これは結構読みやすいです。最後まで読みきれるでしょうか!?(笑)

4 ■>喋喋雲さん

お手元にあるのならば、再挑戦してみてもいいのかも。私もね、これ、読みにくいと思ってたんだけど、トラバ先のいちみさんは、「アラビア」より読みやすかったんですって。人によって受ける印象が違うのかな?
でもねー、全部読みきったら、読んだ後のほうがじわじわ面白かったー!すごい本だったー!、と思う本であるように思います。機会があったら、是非是非。うんうん、台詞とか、カツラ・ガールとか、その辺の言葉も面白かったですねえ。
お、今度は「LOVE」ですか。私はねー、今、「13」読んでます。これも、結構読みやすいかも。お互い頑張り(笑)ましょう!

5 ■初めまして

本ブロからやってきました。
私も古川日出男さんを苦労しながらも読み進めてます。
次はついに『ベルカ、吠えないのか』に挑戦しようと思ってます。楽しみなような怖いような。。

6 ■>momoさん

本ブロからいらっしゃいませ、初めまして!
やはり、古川さんは苦労なされますか。笑 でも、たとえ苦労したとしても、しっかりその報いがありますもんね。
おお、次は「ベルカ」ですか。私もまだなんですが、あれ、確かにちょっと勇気が入りますよね。笑 他の古川作品を読んでから、「ベルカ」が沢山売れたということが、どうにも信じられません。笑

7 ■無題

個人差はあるかもしれないですが、大抵の人にとって「ベルカ」はアラビアの夜の種族よりも読みやすく感じられるんじゃないかと思いますよ。

8 ■>umi_urimasuさん

トラバ返し&コメントありがとうございます。
(貴ブログのコメント削除の方法も、ありがとうございました!)

「ベルカ」は読み易いんですね。
古川作品、まだまだ沢山あるから、どんどん読んじゃえばいいのだけれど、読み終わっちゃうのがさみしいような気がして、時間をあけて、少しずつ読んでいます。
もうしばらくしたら、「ベルカ」にも挑戦してみようかと思っています。

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