「狐罠」/それは妖しき贋作の世界
テーマ:講談社
これは蓮丈那智シリーズ(過去記事はこちら とこちら )の北森さんの別シリーズ。とはいえ、この二つのシリーズは、ところどころクロスリンクするらしく、実は「凶笑面」の中の一編において、本作の主人公、陶子には既に出会っていた。こちらもまた主人公は美貌の大人の女性。蓮丈那智シリーズでは民族学的なフィールドワークがその舞台だったけれど、こちら、冬狐堂シリーズでは舞台は骨董の世界へ。時々、クロスリンクするのもわかるでしょ? 全然、雰囲気は異なるけれど、漫画「雨柳堂シリーズ」を読んでから、どうも骨董の世界にも心惹かれるのだな。
さて、本作の主人公、宇佐見陶子は、「冬狐堂」を名乗る、目下売り出し中の旗師。旗師とは、店舗を持たない骨董業者のこと。そんな彼女の前に、やり手と噂の「橘薫堂」から芳香を放つ餌が投げ付けられた。
「騙され」ても「騙し」た方が上とされ、騙す方をやり手と認識し、騙される方が目がないのだ、と蔑まれるこの世界。陶子は「橘薫堂」の巧みな「目利き殺し」を仕掛けられ、発掘物の硝子碗と称した贋作を掴まされる。目利き殺しとは、品物の欠損をあの手この手でごまかす技術のこと。陶子の目を殺したのは、炒る所から始まって、店主手ずから供されたほうじ茶の香り。嗅覚を捥がれた人間の感覚は鈍る。
プライドを傷つけられた陶子は、保険会社の美術監査部調査員、鄭富健の助けを借りて、橘薫堂のキナ臭い仕事ぶりを知る。橘薫堂の店主、橘は、国立博物館の主任研究員をも手玉にとって、手広くダーティーな仕事を行っていたのだ。
陶子は、イギリス人の芸大教授、プロフェッサーDとの夫婦時代に知己のあった、潮見という老人を紹介して貰い、贋作の世界に手を染める事になる。これは彼女のリベンジマッチ。それは離婚してからの旗師としての生き方を測るもの、これから生きていく道の厳しさを覚悟するためのものでもある。骨董を扱う限り、贋作とは完全に手は切れないもの。
リベンジマッチの相手として、目利き殺しを仕掛けるのに、橘薫堂ほどふさわしい相手があるだろうか。
物語は陶子による「目利き殺し」と、「橘薫堂」の従業員殺しの二つを軸に進行する。橘薫堂の従業員、田倉俊子はなぜ殺されたのか。これには過去の事件が絡んでいるようなのだが、それはなぜ「今」でなければいけなかったのか。
陶子は刑事から従業員殺しの嫌疑を掛けられながらも、贋作の世界に生きる潮見老人の凄味をまざまざと見せ付けられ、目利き殺しに奔走する。「目利き殺し」といっても、単に橘薫堂に贋作を掴ませて、それで終わりにするつもりは陶子にはない。これは橘薫堂に対する懲らしめも含む意味で、まさに戦いなのだ。施された仕掛けも粋に感じた。
登場人物で言えば、刑事の根岸、四阿のコンビもいい感じ。海千山千だけれどコンピューター関連にからっきし弱い根岸と、データ処理命の若手の四阿(ま、ちょっと類型的でもありますが)。 陶子と、友人のカメラマン、硝子との、人呼んで壊れ物コンビ(陶器に硝子)もまたなかなか。
憂いを含むプロフェッサーDも気になるし、凄惨とも言うべき精魂込めた物作りに没頭する潮見老人も気になる。非常に高度な技を持った贋作師、潮見老人は、この手で作るものは既に贋作ではないと嘯く。その手は、その時代にかつてあったであろう喪われたものを、現代に蘇らせているのだという。
蓮丈那智シリーズでは、内藤三國というウロウロ惑う存在が居るので、那智自体はクールにまったく揺らがないけれど、こちら冬狐堂シリーズでは、陶子は揺ら揺らと揺れ動く。悪党になるには純粋すぎる陶子、これからいっぱしの悪党になっていくのか?
本作では贋作事件に関わりがあったという噂が立ち、幾つかの市への出入りも禁止されるが、「凶笑面」に出てきた陶子の凄まじさはまだ見られない。本作から、「凶笑面」との間に、陶子に何が起こったのか? 気になるのできっと次作も読むのだと思うのだけど、図書館にあるといいなぁ。
← 文庫もあるようです 










1 ■一太郎
私の登場かと思ったよ。ゴホッ。
でも怪は贋作なんかじゃないよ。
蓮丈那智シリーズといわず、
一太郎シリーズも読んでおくれよ。
ゴホッゴホッ。
それと最後に
「文庫もあるそうです」
なんて締めは
図書館で借りたことがバレバレだよ。
ゴホッゴホッ。
バタッ。
怪一同
「わ、若だんな!!」