「犬のウィリーとその他おおぜい」/あなたは誰と、又は何と暮らしていますか? | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。

ペネロピ ライヴリー, Penelope Lively, David Parkins,
神宮 輝夫, ディヴィッド パーキンス
犬のウィリーとその他おおぜい
理論社

目次
1  迷い犬ウィリーの巻
2  ネズミとティーポットとひもの玉の巻
3  ワラジムシ・ナットの浴槽大登攀の巻
4  レース用のハトとロンドン動物園の巻
5  サム・ネズミ、ホンダに乗るの巻
6  ワラジムシ・ナットがクモの戦いを知るの巻
7  ウィリーと大きな穴の巻
8  サムとネズミ・マンションの巻
9  クモと真珠の巻
10 サムとディクソンさんとハンカチとテレビの深夜映画の巻
11 ウィリーとハンバーガーとバス無賃乗車の巻

パヴィリオン・ロード五十四番地には、ディクソンさん一家が住んでいる。しかし、ここに住んでいるのは、「人間」のディクソン一家だけではないわけで・・・。

気はいいけど少々頭の足りない、白いテリア犬のウィリー、陽気でこれまた少々思慮の足りないネズミ、サムたち一家(ネズミたち全員がそうであるわけではなく、思慮が足りなく騒ぎを起こすのは、いつだってサム)、この中では一番思慮深いとも言え、自分の頭で考えることの出来るワラジムシのナット、ナットの友達で、美しい巣を作ることの出来るクモ。彼らがディクソンさんたちのいない所、目に見えない所で、それぞれの生活を営んでいるというわけ。彼らに気づくのは、ディクソン家の赤ちゃんくらいのもの。大人たちは少々おかしいなぁ、と思いつつも、彼らとばったり出くわすことはあまりない。

タイトルを見ると大体その内容も分かるけれど、1、7、11は、まさに、可愛いんだけれども頭の足りないウィリーが、巻き起こす騒動のお話。2、4、5、8、10は、夢見がちなサムが引き起こす騒動。ネズミたちは本来、決まりを守って危ないことをせずに一生を過ごすもの。不可抗力とはいえ、サムはネズミの中ではかなりの冒険家ともいえる。彼は自分が主役を張った事件が、勇気と大胆の物語として一家の伝説になるように、お話を都合の良いように作り変えるのに余念がない。ちなみに、ネズミたちに伝わる決まりはこんな感じ。

洗濯する衣類の中で眠るな。
犬をからかうな。
マッチは食べるな。
赤ん坊には愛想よく。
テレビの後ろには入るな。 トーマス大おじが入ってつくづく後悔した。
空の牛乳びんをいたずらするな。 中に落ちることがある。
オーヴンは料理をするもの。 料理されたネズミはいただけない。

どれも、ちょっとネズミとしては、くわばら、くわばらな感じでしょう?

3、5、9はワラジムシ、ナットとその友達クモのお話。一寸の虫にも五分の魂。ワラジムシにもなかなか立派な魂が宿っている。ネズミたちの暮らしは、ワラジムシからすると自由で屈託なく、気まぐれで楽しいことばかり。ワラジムシは姿かたちと同じように、固く不器用に生きるべき生き物。自分が言いたい事を口にしたり、仲間と違っていたり、目立つことは好まれず、これが年配者たち、チーフ・ワラジムシがいつまでも続いて欲しいと思うワラジムシの生き方なのだ。そんな中で、ナットは自分の頭で考え、意見を言えるワラジムシだった。この少々毛色の変わったナットが、一人気まぐれに生きているクモと友達になり・・・、というお話。

ウィリーに比べ、ネズミたち、ナットについての記述が多くなるのは、やっぱり彼らが自分の力で生きているから。そこへいくとウィリーは飼い犬であり、常にディクソンさん一家の世話になっているわけで、少々筆も鈍っている気がする。
いや、愛らしいんですけどね、ウィリー。

さて、この本の訳者は、実は「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」の訳者でもある。本書「犬のウィリーと~」は原題を「裏返しの家」といい、一軒の家に住む生き物の立場を文字通りに裏返して、小さな生き物たちを主役とした物語。社会性をもった生き物という意味で、ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」と通じる所があるのかもしれない。神宮さんは、非常に楽しんで面白がって、翻訳されたそう。自分たちの身近にも、小さな生き物たちが、一生懸命暮らしているのかもしれないなぁ。いや、やっぱり、虫はちょっと・・・、などとも思うわけでもありますが。

*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。