「幻獣の書-パラディスの秘録」/醜き獣
テーマ:角川書店「幻獣の書―パラディスの秘録 」
目次
緑の書
エメラルドの瞳
巻の一 学徒
巻の二 花嫁
巻の三 ユダヤびと
巻の四 贖罪山羊
巻の五 寡婦
紫の書
紫水晶を出でて
巻の一 ローマびと
巻の二 自殺者
緑の書
エメラルドの瞳
巻の六 狂人
巻の七 魔物
この世界には、流れるような鱗のモザイクからなる金属(かね)のような肌を、黒い嘴からは細い黒蚯蚓めいた舌が見える、鳥の頭を持った獣がいる。其の瞳は美しい緑の玉、しかしそこには知性のかけらも見られない。それはウトゥク。変身と化生により生を受くるもの。ウトゥクは官能において、血と肉の略奪を欲し、喰らい、貪るもの。おのが種を通じ、他の女に同様の怪物を孕ますことも出来るが、人に宿りてある限り、ウトゥクそのものを害することは出来ない。この獣は、女を引き裂き、犯し、男を引き裂き、その腸を引きずり出す。
ヨーロッパのとある幻想の都市、パラ・ディスにやって来た学徒ラウーレンは、没落貴族ディスカレの屋敷に宿をとることとなった。パラ・ディスは公爵が統治し、教会や貴族一門の館がならぶ街。その中でラウーレンの下宿先、ディスカレの館のみは、零落のさま激しく、また、誰もがその名を忌み嫌う。屋敷には老婆と馬丁しかいないというのに、ラウーレンは若く美しい娘を幾度か見かける。磁器を思わせる面、美しい淡い金髪、心持ち吊りぎみに刻まれた、澄んだ一対のエメラルドのような瞳。若く、才気走ったラウーレンには、恐れるものなど何もない。ラウーレンはこの娘、<エリーズ・ディスカレ>が語る物語を聞くことになる。それが恐ろしい結果をもたらすことも知らず・・・。
若きエリーズ・ラ・ヴァルが嫁いだのは、許婚、エロス・ディスカレのもとであった。あの一族は魔の眷属、一皮剥けば人間ではないという、土地の侍女の言葉に怯えるエリーズであったが、エロスはほっそりとした伸びやかな体、エリーズの初恋である、教会の壁に描かれた美しい苦悩の殉教者ヨハネスにも似た面差しを持つ、美しい若者であった。エリーズは彼に恋焦がれるが、彼女の夫は指一本たりとも、その身に触れることはなかった。それどころか夫は彼女の元を離れ、都に旅立つという。彼女の身に一度として触れることもないまま!とうとう彼女はサタンにその身を売り渡し、夫を陥れる策略を練る。一度でいいから、この身に触れて欲しいのだ。彼女の願いは叶ったけれど、その代償は大きかった。エリーズの話を全て聞き、彼女と交わったラウーレンとて、それは同じこと。
途中に挿入される「紫の書」では、時代はローマ時代へと遡る。運に無縁の百卒長、ウスカに与えられたのは、紫水晶の護符だった。妖しき娼婦がいうことには、この紫水晶の護符には、非常な利益があるのだという。確かに利益はあったのだが、この護符は途中で凶へと転ずるもの。紫水晶の力に喰われる前に、為すべき事はその石自体を喰らうこと。ウスカは難を逃れたかに見えたが、ああ、その力は完全に封じ込められたわけではなかったのだ。
この獣、魔物を迎え撃つのは、ユダヤ人の魔術師ハニナと、その娘ルケル。彼とウトゥクは、太古よりの仇敵であるのだという。「あれ」とハニナの原始の記憶には、幾多の戦の種が燻っている。それは砂漠の都であり、戦車であり、鎖の記憶である・・・。此度の戦に、ハニナは勝つことが出来るのだろうか。美しき娘、ルケルの助けを得て、ハニナは戦いに臨む。
幻想的で美しくエロティックな世界に、くらくらと酩酊する一冊。醜き獣も何とも哀切きわまりない。タニス・リー。遅ればせながら、この妖しい世界にはまりそうです。











1 ■妖艶無類な世界
タニス・リーの作品世界を一言で表現するならば、「妖艶」という言葉がぶさわしいでしょう。
また、それが、浅羽訳、ぴったりはまるんだよな~。
堪能されましたか?
口当たりの良いワインが、思いの外まわってしまうように、タニス・リーは、好きになると離れられなくなる作家です(笑)。