「ぬしさまへ」/やっぱり妖(あやかし)
テーマ:新潮社「しゃばけ」 の続編にあたる短編集。
目次
ぬしさまへ
栄吉の菓子
空のビードロ
四布の布団
仁吉の思い人
虹を見し事
相変わらず、すっとぼけた妖(あやかし)たちは愛らしく、若だんな一太郎は体調を崩し気味。つまり、大きな変化はないというわけ。変化といえば、短編の途中で、縁を切られていた腹違いの兄、松之助が、長崎屋で奉公することになることくらい。
とはいえ、「しゃばけ」に比べ、随分と熟れた印象を受けた。
一太郎が安楽椅子探偵となる謎解き物と、脇の人物が主役となる回がある。「空のビードロ」は腹違いの兄、松之助の話、「仁吉の思い人」は千年にもわたる、仁吉の片思いのお話。「虹を見し事」だけは、実際に一太郎が当事者となり、安楽椅子に座るというわけにはいかない。
時々差し挟まれる、一太郎の将来への不安は痛い。とはいえ、一太郎は、大店の若だんなで、両親に溺愛されているという、自分の立場に安住しない所がいいのだ。彼は内省的で、周囲の者たち(人であれ、妖であれ)に分け隔て無く優しく出来る人柄。今後は、どうなっていくのだろうね。
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さて、一番気に入った「仁吉の思い人」について。
仁吉の思い人は、やっぱり妖(あやかし)で、年上の吉野どの。吉野という名は、平安の御世、女房として暮らしていたときのもの。妖(あやかし)は恐ろしく長命だから、人の世にいる内は、時々名を変え、住む場所を移さないと、人ではないことがばれてしまう。
仁吉の初恋の妖(あやかし)、吉野を振り向かせたのは、宮廷に仕えていた一人の若い公達だった。仁吉は妖(あやかし)と人間との恋の行方を心配するが、男は吉野の真の姿を知ってなお、気持ちを揺るがす事は無かった。彼は銀の鈴を吉野に贈り、二人はその音を合図に、逢瀬を重ねた。しかし、人というのは弱いもの。男は三十路にも届かないうちに、身罷ってしまう。
周囲の妖(あやかし)は、これでこの恋は終わったのだと口々に言ったけれど、吉野は諦めず、“鈴君”を待って人の世に留まり続けた。そして、三百年後、再び巡りあった二人は互いが分かったのだ。本来、人は何もかもを忘れてから、再びこの世に来るというのに・・・。今回、共にいられた日々は五年程。そして、また吉野の一人待つ時間が続く。その後も数百年の単位で、何度か繰り返して出会う事が出来た二人。仁吉は常にそれを傍で見守っていた。
そして、このお話のメインは、”鈴君”なのかどうか、吉野にも判断出来なかった、江戸時代における出会いのこと。微かに鈴の音が聞こえる、弥七は”鈴君”なのか?
仁吉はただの人である弥七に対し、どうにも心が騒いで仕方が無い。千年もの長きにわたる片恋。これは嫉妬なのか、それとも吉野の危険を察してのことなのか。仁吉は、弥七の問題にきっちり片をつけることを決意する。そして、その後は・・・。
ちょっと乙女チックに過ぎるかもしれないけれど、ずっと傍で見守ってくれる人がいるだなんて、いいなぁ~と思った。数百年もの長い間、一人で待ち続けなくてはならないのは、嫌だけれども。そして、仁吉は吉野を思い切ることが出来たのかなぁ。
- 畠中 恵
- ぬしさまへ











