「さあ、あなたの暮らしぶりを話して」/女王クリスティー、もう一つの顔
テーマ:早川書房アガサ クリスティー, Agatha Christie, 深町 真理子
「さあ、あなたの暮らしぶりを話して―クリスティーのオリエント発掘旅行記
」
クリスティー、中近東に暮らす!
ミステリーの女王、アガサ・クリスティーには、考古学者マックスの妻としての、もう一つの顔があった。これは、クリスティーが考古学者の妻として、第二次世界大戦前に赴いた、シリアの土地で見た美しい風景、出会った人々、体験したユーモラスなエピソードを、愛情及びユーモア溢れる筆致で描いたもの。扉の解説によると、「愛すべき旅行記であると同時に、戦前の輝かしい時代へのノスタルジーであり、実り多かった夫妻の結婚生活をも垣間見せてくれる」ということになる。
目次
『テルの上にすわってた』
まえがき
第一章 シリアをさしていざ行かん
第二章 予備調査の旅
第三章 ハーブル河とジャフジャーハ河
第四章 チャガール・バザールでの最初のシーズン
第五章 シーズンの終わり
第六章 旅の終わり
第七章 チャガール・バザールでの生活
第八章 チャガールとブラーク
第九章 マックの到着
第十章 ラッカへの道
第十一章 ブラークよさらば
第十二章 エイン・エル・アルース
エピローグ
訳者あとがき
最初の『テルの上にすわってた』は、夫妻の出会いを『鏡の国のアリス』の<白の騎士>調にうたったもの。テルとは、以後御馴染みの言葉となるのだけれど、西アジア一帯に見られる丘状の遺跡で、集落の石材や日干し煉瓦などが堆積した遺丘のこと。
読みながら、あちこち、ほんとにふき出してばかり。クリスティー女史のお茶目な一面がこれでもか、と披露される。面白いよ。
調査隊の一員であり、いつも超然としたマックとようやく打ち解けることが出来た所では、ほっと一安心するし(クリスティー女史ともあろうものが、一介の若き建築技師の、一挙一動にはらはらするとは!)、現場監督のハムーディーの鷹揚さにはほのぼのさせられるし(朝の五時にホテルの部屋にやってくるとは!)、考えうる限り最悪の腕を持つ、運転手アブドゥッラーの描写には笑わせられるし(顔といい、あらゆる点で駱駝並み!)、あくまで穏やかなアルメニア人のタクシー運転手、アリスティードの辛い過去には考えさせられる(たった七歳の身で、家族や他のアルメニア人とともに、生きながらトルコ軍によって深い穴に投げ込まれた)。
また、「フォルカ!(えいくそ!)」と叫んでは機械をぶち壊し、彼の信念「エコノミーア(経済的)」のせいで、いつも安物を買っては、夫妻に損失を与えるミシェル、「わしのものはなんでもあんたのものですじゃ」(が、非常に抜け目ない)なシーク、とんでもなく不器用なハウスボーイ、マンスールなど、個性豊かな面々は枚挙に遑がない。
さて、そんな個性豊かな面々の描写も面白いのだけれど、勿論この旅(というか暮らし?)の本来の目的である、考古学についての描写も面白い(最初に学術的ではない、と但し書きがあるが)。クリスティーの夫、マックスの関心の対象は、紀元前二〇〇〇年期、ヒッタイト人の盛衰と変遷とに始まり、なかでもとりわけ、ミタンニ族の軍人王朝について、より多くをつきとめたいというのが目的なのだそう。そんなわけで、「ローマ時代のもの」というのは、救いがたいほど歴史的に近いのだって。悠久の時の流れを感じます(ローマ時代が歴史的に近いのだって!)。
人っ子一人いないと思われる砂漠で、どこからともなくやって来て静かに語り、また静かに去っていく老人。悪魔崇拝を非難されるイェジッド族(イェジット族の土地は、本当に美しいのだそう)。クルドの女とアラブの女。アラブの女は例外なく控えめで内気であるが、クルドの女たちは、男性と対等か、対等以上であることを疑っていない。
“アッラーの神の思し召しのままに(インシャッラー)”という言葉が飛び交い、“評判”“面子”を重んじるアラブ社会(そして、”評判”のためには、常に思わぬ出費が必要となる)、イスラム教とキリスト教(時には更に悪魔崇拝までも)が対立する混沌とした社会を、またそこで暮らす自分が信ずる所を行く、ある意味で単純で明るい人々を、クリスティー女史が非常に愛したことが伝わってくる本。
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クリスティーが、駐在フランス人社会の奥さま言う所の「ル・キャンピング」(というか、単にテントの中で寝るということだけど)や、土器の修復をしたり、拷問室のようなところ(その中に入ると、座る事もできなければ、立つ事もできない!)で写真の現像を行っていただなんて、想像出来ますか? 時によってはそんな暮らしの中で、描かれたミステリーもあったわけで・・・。裏話を聞いている様で、面白かった。
直接関係ないのだけれど、「シナン
」を読んで興味があった、ハギア・ソフィア寺院(アヤ・ソフィア)についてのクリスティーの評が、短いけれどちょっと面白かった。クリスティーは「悲しいかなわたしは、いまだかつてハギア・ソフィア寺院に感銘を受けたことがない。審美眼が欠けているのかもしれないが、しかし、事実は事実。いつ見ても、決定的に寸法がまちがっているように思えてならない。われながらひねくれたものの見かただと思うから、それを恥じて、わたしは口をつぐんでいる」そう。アヤ・ソフィアを見た人はみな、感銘を受けるらしいんですが・・・。
また、しょっちゅう出て来たお菓子「ターキッシュ・ディライト」は、以前喜八さんのところで
、「ナルニア国ものがたり」の中で、白い魔女がエドマンドを篭絡するための、魔法のお菓子として使われたと教えて頂いたもの。
イギリス人にはメジャーなお菓子だったのでしょうか?
イラストレーター佐々木悟郎氏によるハードカバーの美しい表紙は、amazonでもbk1でも出ないようで、ちょっと残念。
← 文庫でも出ているようです - アガサ・クリスティー, 深町 眞理子
- さあ、あなたの暮らしぶりを話して
*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。











1 ■お久しぶりです。
この本、読みたかったんですよ~。面白そうです~。クリスティー女史の日常って気になります。女史らしい視点も健在ですね。是非読んでみたと思います!
それにしても昨日の道明寺は可愛かったです!「レッスンパンダ」って!しかもカッコよかったし・・・。って本と関係ない事書いちゃいました。スンマセン。