「王妃の離婚」/結婚とは、人生とは
テーマ:集英社佐藤賢一「王妃の離婚」
その舞台とされている背景に馴染みがないものだから、佐藤賢一さんの本を一度も読んだことがなかった。でも、ずっと気になってはいた。
今回、この本を手に取った切っ掛けは、「手当たり次第の本棚」のとらさんの記事を読んだ事。
■とらさんの記事はこちら→『王妃の離婚
』
面白そうでしょ?
実際読んでみても、これはかなり面白かった!
題名にもあるように、これは時のフランス国王と王妃の離婚を題材とする物語。中世フランスを舞台とするので、予備知識がないと楽しめないのでは、と思ったのだけれど(勿論、予備知識があれば、より楽しめるのだろうけど)、予備知識が全然ない私でも、十分に楽しめた。
目次
プロローグ
第一章 フランソワは離婚裁判を傍聴する
第二章 フランソワは離婚裁判を戦う
第三章 フランソワは離婚裁判を終わらせる
エピローグ
教会、法廷、学問(カノン法学)などなど、とてもエンターテインメントになるとは思えない題材が、感心するほど生き生きと描かれる。ほんとに、血湧き肉躍る一大スペクタクルなんだ。
主人公は、かつて学問の道を諦め、今では「田舎弁護士」に納まった、中年男性フランソワ。アカデミックな道を諦め、俗な職業に身を落とした彼は、人生の落伍者、挫折者でもある。しかし、かつて切れ者として、パリ大学で鳴らした男は、その心意気を忘れてはいなかった!
彼の過去の話や、王家との因縁など、色々と絡まって、物語は進行する。
一章から二章にかけては、ぐいぐいと読まされた。ここらへんは、すごくエンターテインメント! 三章は、それぞれの人生の物悲しさを感じさせられる展開。それぞれ、自分の信ずる所を大事にして、生きただけだったんだなぁ。王妃の悲しみや、フランソワの人生の苦さが痛い。でも、最後の二人の「輝き」が良かった。最後は二人とも救われる。明るいほうへ、明るい未来へ。 ****************************************
■中盤の法廷の場面は、手練れの弁護士であるフランソワが、判事や検事を思うがままに翻弄する様が小気味よい。あまり出来の良くない敵側の中で、ただ一人切れ者の判事と、目配せで通じ合うところなんかも、実にかっこいい! 民衆の野次に同調してしまう。
そもそも、カトリックでは離婚が許されておらず、事実上の離婚を得るためには、「結婚の無効取消」という手続きに訴えることが必要になる。つまり、はじめからなかったことにする、という理屈。
それで、法廷の場面がどんな感じかというと、「結婚の完成」を論議する中で、ラテン語で喋らなければ、裁判記録に記載されないことを逆手にとって、独り言の私語を装って、こんなことをフランス語で呟くのだ。
「美人じゃないから、やらなかったなんて、どう考えてもインポ野郎の言い訳じゃねえか」
傍聴席、大盛り上がり。
普通は、国王という権力者に対して、こんなこと言えないよねえ?
■後半、悲しくも美しいなぁと思ったのは、ここの記述。
それは悲しむべき堕落だった。が、人間には救いであるということも、恐らくは動かせない真実だった。なんとなれば、恋は汚れなき聖者の技である。恋をするとき、人は嘘をつくまいと思う。その愛に値する魂であるために、心から正しくありたいと、どこまでも純粋でありたいと願わずにはいられない。そんな奇跡が一瞬だけ、かなうものだと錯覚できても、不断に男と女でいられるほど、人間は美しくありえない。なおも美しくありたいと願うなら、もう男と女には、結婚するくらいしか他に手がないのだろう。
なぜなら、結婚は一瞬の美しさを永遠にまで高めながら、神秘の力で宝の箱に封印する。それは、どこか人間の死に似ていた。
一瞬の輝きさえあったなら、人生は永遠に肯定される。どんなに醜く生きたとしても、はかない栄光は決して傷つくことがない。
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「歴史小説」と思って敬遠していたけれど、人物造形に優れていて面白かった。決してかっこよくない、むさ苦しいフランソワもかっこよかったし、「美しくない」という王妃も実に愛らしく美しい。
←私が読んだのはこちら - 佐藤 賢一
- 王妃の離婚
←既に文庫化されています - 佐藤 賢一
- 王妃の離婚
*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。










