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2005-09-05 09:27:56

「流れる星は生きている」/戦争の中の個人

テーマ:その他の文庫
藤原てい「流れる星は生きている」ちくま少年文庫

「TBステーション」のテーマは、「本を読んで戦争を思う」。以前書いた「太陽の子」 の記事をTBしていたのだけど、間に合いそうなのでもう一冊。 「戦争」は、それまで平和に暮らしていた個々人に、過酷な運命を強いるものだと思う。またその苦しみは、ただ爆撃にあった時、出征した時だけでなく、長く長く続く。
***************************************************
「流れる星は生きている」は、満州からの「引き揚げ」を綴ったもの。新京市(旧満州国首都で、今の長春)から南下して朝鮮にはいり、さらに朝鮮半島を北から南へ縦断して、祖国を目指す(途中、三十八度線は分断される)。ソ連参戦の昭和二十年の八月九日の夜から書き始められており、あと少しで終戦という所から、一年と少し、この過酷な日本への道行きは続く。

目次
第一部 涙の丘
 駅までの四キロ/夫との別れ/無蓋列車/終戦の日/夫との再会/
 新しい不安/夫よ、どこへ/涙の丘の上/無抵抗主義/流れる星は
 生きている/いまぞこいしき/氷を割る音

第二部 教会のある町
 丘の下へ/墓場からきた男/歯形のついたおイモ/白い十字架/春
 風に反抗する/こじきと同じもの/ふるえる手とくちびる/人形作り/
 温飯屋の手つだい/ふたりの子どもと、ひとりの子ども/引き揚げ
 の機運動く/団体の分裂

三部 祖国目指して
 赤土のどろの中をもがく/凍死の前/かっぱおやじのはげ頭/市辺
 里に着く/草のしとね/川をわたる苦しみ/死んでいた老婆/三十八
 度線を突破する/アメリカ軍に救助される/議政府に到着/釜山にて/
 上陸の日

解説 敗戦が生んだ物語の意味 澤地久枝
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この話は、前述のように、新京の夜から始まる。 当時二十七歳の著者の、夫(当時新京観象台勤務であった作家新田次郎氏)と離れ、六歳、三歳、一ヶ月の子どもを連れての過酷な道行き。目次からもこの道行きの過酷さが分かるだろうか。

著者が所属した観象台疎開団は、まさに女子供ばかりの構成。どこの疎開団も男性が招集され、やはり女子供が多かったようだけれど、男手の無さが致命的な場面が何箇所も出てくる。

 男子(おとな) 一名(病がちなため、残された)
 人妻      十六名
 娘        一名
 未婚老婦人  一名
 子ども     二十名
 計       三十九名

タイトルの「流れる星は生きている」は、南方のある部隊で作詞作曲された歌からきている。教えてもらったこの歌を、疎開団の人々は折に触れて口ずさむ。

極限の状況で、人々が見せる姿もまたすさまじい。著者は男の言葉遣いになり、子どもをどなりつけ、何とか辛い旅を生き延び、母子四人揃っての帰国を果たす。読んでいると、この帰国はほとんど奇跡であると感じる。

解説の澤地久枝氏の言葉より。

これを、日本の母の強さの記録と読むこともできるでしょう。しかし私自身は、ここまで母と子を追いやった責任は、いったいどこにあるのかを考えたい気がします。生きては帰れなかったたくさんの命にかわって―。
そして、そう考えてみることが、個人の体験を歴史的体験にたかめ、語りつぐ財産とする一つの確実な方法であると思っているのです。

敗戦時の混乱の中、日本政府はこれら外地にいた人々を見捨てたのだ。彼らは国の勧めで植民地に居住していたけれど、現地の人々にとっては、日本人はただの侵略者であったのに。灰谷健次郎「太陽の子」も、日本政府に見捨てられた沖縄の話。満州から帰ることがかなわなかった人々の話は、山崎豊子「大地の子」 へと繋がる。

第一次世界大戦中のカナダの話なので、TBステーションのテーマとは少しずれるかもしれなけれど、「アンの娘リラ 」もまた、戦争を考えさせられる本だ。
藤原 てい
流れる星は生きている  ←ちくま少年文庫版は品切れだったので、画像が出たものを載せています。

次男の正彦さんは、後の数学者・藤原正彦さん。

藤原先生による本はこちら → 「心は孤独な数学者

*臙脂色の文字の部分は引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

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