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2005-07-04 09:24:24

「夜間飛行」/夜をゆく

テーマ:みすず書房 
サン=テグジュペリ、山崎庸一郎訳 「夜間飛行」 

私が借りてきたのは、みすず書房のもの。アンドレ・ジッドの序文と、特別付録として「『夜間飛行』に着想を与えた人物から見た」と題したディディエ・ドーラ氏による文章が付いた、贅沢な造り。ディディエ・ドーラ氏は『夜間飛行』のリヴィエールのモデルであるとされている。

アンドレ・ジッドは序文において、次のようなサン=テグジュペリの手紙の一部を引用している。
「勇気はりっぱな感情からはできていません。すこしの逆上、すこしの虚栄心、多くの頑固さ、それにつまらぬスポーツ的な歓びです。とりわけ、肉体的なエネルギーの興奮ですが、これには見るべきものはなにもありません。シャツの胸をはだけて腕組みでもすれば、楽に呼吸できます。そのほうがむしろ爽快です。ことが夜に起こったときなど、とんでもない愚行を演じたという感情がそれにまじります。勇気があるだけの男なら、わたしはけっして尊敬しないつもりです。」


『夜間飛行』は、暗闇の中をゆく開拓者たちの物語であるけれど、よってただの冒険譚ではない。暗い夜空に向かって、夜の星に向かって、地上の灯りに向かって、心が開かれるような物語。各々がその立場、役割に従って、高潔な心で最善を尽くす。美しく硬質なイメージ。操縦士たちの指導者であるリヴィエールの生き方は、ハードボイルド的でもある。

「彼を恐怖から救い出すのだ。わたしが攻撃したのは彼ではない。彼を通じて、未知のもののまえで人間をすくませるかの抵抗なのだ。言い分をきいて、同情してやり、彼の冒険を真に受けてやったら、彼は神秘の国から帰ってきたように思いこむだろう。人間が恐怖をいだくのは、ただ神秘だけだ。もう神秘など存在しないというようにならなければならない。暗い井戸のなかにおりて、そこから這いあがってきた人間たちが、なににも出くわさなかったと言うようにならなければならない。あの男にしても、闇のいちばん秘められた中心、その厚みのなかにおりてゆき、手元なり翼なりしか照らさない小さな坑内ランプさえ持たず、ただ肩幅だけで未知の世界を押しあけてゆくようにならなければならない」

「出来事に奉仕する」リヴィエール。何のためにその仕事をするのか、その仕事がなされなければならないのか、それが見え難い時もあるけれど、どんな仕事にもこういった側面があるのかもしれない。時に家の灯りよりも、外へ出て「征服」することが必要になる。一つ一つの犠牲が、誰かのたゆまぬ努力が、生活を少しずつ豊かに、暮し易くしているのかもしれない。
そう長い物語ではないのだけれど、名作とされる所以が良く分かった。

サン‐テグジュペリ, Antoine De Saint‐Exup´ery, 山崎 庸一郎
夜間飛行

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、御連絡下さい。

コメント

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1 ■ジイドの考える勇気

つなさんが引用された、ジイドの序文。勇気についての考え方、興味深いですね。これが西洋的な勇気の見方なのかな。
日本人は、「弱さとか臆病を克服するのが勇気」という考え方をしますが、こちらは、武士道由来(とくに、江戸時代以降の)なのかもしれません。

2 ■>とらさん

ああ、私が舌足らずだったのかも。引用部は、ジイドが引いた「サン=テグジュペリの手紙」の部分なんです。でも、ジイドが引いてるということは、ここに共感を持っていると思いますけど。
この手紙に対して、ジイドは更にカントン(カント?)の次の言葉を引用しています(いつもは賛同しかねるそうですが)。
「愛することも勇敢であることも、ひとはかくすものだ」
「心正しい人間が施しをかくすように、勇敢な人間はその行為をかくす。彼らはそれを偽るか、弁解する」

西洋的見方かどうかは分かりませんが、非常に抑制の効いた文章、及び見方であるなあと感じました。日本も昔においては、このような考えもあったのではないでしょうか。

あー、なんか今日のコメント真面目。笑 この序文や、付録文を読むだけでも、みすず書房版はなかなかいいのでは、と思います。堀口大学の訳はもっと堅いのでしょうか。

3 ■陰徳

ああ、なるほど、ジイドじゃなく、テグジュペリ自身の言葉だったのですね(^^; 勘違いしました。
ところで、日本には、陰徳という言葉があります。仏教用語由来だと思いますが、人知れず徳をつむということで、単純に言えば、人に見られないところで良い事をし、それを表に出さないっていう事なんですよ。
これが、つなさんの考える「日本にも昔はあったかもしれない考え」に近いのではないでしょうか。

4 ■>日本に

「昔」という辺りに、私の知識のなさっぷりが・・・。汗 確かにそういうイメージかもしれません。
やけっぱちと限りなく近いものは、「勇気」ではないのではないかなぁと思います。この辺は、戦争によるものなのでしょうか。「ほんとの勇気」「勇敢さ」は、サン=テグジュペリやジイドがいうものなんじゃないかなぁと。一部ハードボイルド物(まぁ、あれはあれ、という話もありますが)に覚える違和感の原因が、分かったような気がします。
この本では「英雄的」であることを、拒否している部分がありますよね。

5 ■勇気、というもの

恐怖を知らないところに勇気はない。恐怖を乗り越えるところが、勇気なのだ。
この考え方は、私は『葉隠』で教わりました(笑)。
で、ジイドじゃなかったと思いますが、西洋の人が、ややこれに近い事を言っていて、
「ああ、似てるな」
と思ったものです。
しかし、こういった「武」に、勇気の本質その他の徳性を求める形の「哲学」は、西洋のものより、日本の方がレベルが高いような気がする。
西洋の場合は、どうしても、キリスト教的なものの見方をはなれる事ができず、そこが限界になっているように思われます。
騎士道と武士道の違いってのもあるのかもしれませんが(笑)。

6 ■>東洋的なもの

>とらさん
適当に読んだ本の内で、自分の頭に薄っすら残った知識しかないのですが、うーん、確かに「徳」という考えがしっくりくるのかも。でも、近代的な考えよりも、結構遡らないといけないように感じます。
>キリスト教的ものの見方
これ、私も多分にあるかと。何か、すぐ関連付けてしまいます(ゆーしゅーな、信徒では決してないのだけど)。
しかし、大まかな「対自然」という立場では、西洋的なもの、東洋的なもの、キリスト教的なもの、仏教的なもの(イスラムは殆ど知識なし)などなど、そう大きくは変わらないだろー、という考えでもあります。

>騎士道
これ、何かいいイメージないのですよ。巷に蔓延る「エセ」のせいでしょうか。笑 や、あまり、そんな扱い受けたことないけど。「源氏」も泣いてばっかいるんじゃねえっ!、と思うけど。

7 ■気高き倫理

ハッキリ言葉になりませんが、このパイロット達には、おっしゃるような気高い何かがありますね。

僕は、実は、この発想が、チルバリー(騎士道)とも武士道とも、キリスト教的なものとも、微妙に違う(と僕が思う)点に興味を持っているのです。なんでかな?、そういった「ある種の臭み」からはなれた、そう「ダンディズム」みたいななんともありきたりの言葉では形容しがたい気がするのですよ。

ああ・・・かっこいいなって。

それは、ゼロ戦のパイロットだった坂井三郎さんの伝記を読んだ時に、まったく同じ印象を受けたんですよ。それは戦争をしている人ですから、職業は全然違うにもかかわらずです。だから、なんかパイロット独自の属性なのかな?って思ったんです。

8 ■>ペトロニウスさん

>ダンディズム
私はそこを「ハードボイルド」っぽいと思いました。なんつーか「人、人情にくみする」のではなく、「出来事に奉仕する」リヴィエールに、そう感じたのかもしれません。非常に抑制の効いた心、だと思いました。
しかし、ペトロニウスさんは、ほんとに幅広く読書してますねえ。パイロット独自の属性、というか、でも心持ちという点では、全く異なった職業の人でも、こういう人は存在するんじゃないかなーと思います。

9 ■ダンディズム

ハードボイルドとダンディズムの違いってなんなんでしょうね。なんとなく気になります。

ふむ、ビンゴ!!!

つなさんの『抑制のきいた』という部分は、凄くヒットしました。そうですね、僕が坂井三郎の伝記を読んだ時に思ったのは、とても野心家(開拓航路や戦闘機乗り)なのに、どうしてこんなにも禁欲的な禅僧(笑)みたいなんだろう?って思ったんですよ。

自分の心をちゃんとコントロールしている安定感。まぁ、パイロットの資格を取って分かったのですが、ほとんど風で飛んでいるプロペラ機は、そのほとんどが自然環境(風速、温度、湿度、重力などなど)によって支配されているので、「その絶対的なモノ」に自分を抑制してコントロールして『合わせる』しかないのですね。

ここに、自分というちっぽけな存在を超える『大いなるもの』を実感して、それに奉仕する(=事実に奉仕する)姿勢になるんだと思います。

下手な普通の人よりも、宗教心あふれる真摯な姿勢だと思います。

10 ■>ペトロニウスさん

ああ、コメント溜めまくってしまったわー。汗 すまんです。
>ハードボイルドとダンディズム
単純に私のイメージですが、「ハードボイルド」は「痩せ我慢」寄り、「ダンディズム」は「自己完結」寄りかなぁ。単に「ダンディズム」という言葉に、あまり馴染みがないだけかも。
>抑制の効いた
本当に優秀な人というのは、仕事に対するアグレッシブさとは別に、ストイックで謙虚であるような気がします。
>大いなるもの
パイロットはまさに仰るとおり、大いなるものに、たった一人で立ち向かう職業ですもんね。凄い感覚なのでしょうね。

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