旧・日常&読んだ本log

流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。


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森見 登美彦

有頂天家族


これは狸と人間と天狗の物語。

主たる登場人物は、阿呆の血が色濃く流れるが、母思いの優しい四兄弟から成るある一家(でも、狸)及びその天敵一家(もちろん、こちらも狸)、忘年会にて狸鍋を囲むことを会則としている、金曜倶楽部の面々(「食べちゃいたいほど好きなのだもの」と嘯く大学教授と、天狗道を邁進する元・人間含む)、傲岸不遜な態度は変わらないものの、今となってはほぼ力を失ってしまった天狗、「赤玉先生」(哀しいまでに甘い赤玉ポートワインを愛飲する)。

 
人間は街に暮らし、狸は地を這い、天狗は天空を飛行する。
 平安遷都この方続く、人間と狸と天狗の三つ巴。
 それがこの街の大きな車輪を廻している。
 天狗は狸に説教を垂れ、狸は人間を化かし、人間は天狗を畏れ敬う。天狗は人間を拐かし、人間は狸を鍋にして、狸は天狗を罠にかける。
 そうやってぐるぐる車輪は廻る。
 廻る車輪を眺めているのが、どんなことより面白い。
(p7より引用)

三つ巴はぐるぐる廻って、うごうごと日々を過ごす内に、物語はクライマックスの大騒動へ! 楽しいんだけど、「で??」、と言われちゃうと困っちゃう物語でもある。だけど結局ね、文中にもあるように「面白きことは良きことなり!」だと思うのですよ、きっと。

一つの大きな謎は、この下鴨の狸四兄弟の偉大なる父はなぜ死んだのか、ということなんだけど、これが章が進むにつれて、徐々に、徐々に分かっていくという仕掛け。知っていながら、聞かれるまでは黙っている周囲の天狗も、大概ずるいよな~、とも思うんだけど、ね。

天空を自在に駆け、異能を持つ天狗は孤高の存在。しかしながら、能力を失ってなお、孤高の存在であることのみを貫こうとする天狗の姿は、哀れであり滑稽でもある。互いにそれが分かっていても、師に傅く四兄弟の三男、矢三郎とのやり取りは、ほとんど様式美。いやー、私にはこうやって人を立てる(いや、この場合天狗だけど)ことは出来ないなぁ。でも、それもまた師弟愛なんだよな。

偽叡山電車が街を駆け、偽電気ブランを製造する狸たちがいて、偽車夫つきの自働人力車が街を走る。これまでの森見作品においても、洛中において沢山の不思議なものや不思議な人物が出てきたけれど、あのうちの幾人かは天狗だったり、狸が化けたものだったのやもしれません。矢三郎のお得意の化け姿は、腐れ大学生だしさ。

「阿呆の血」というフレーズが何度も出てくるんだけど、なんとも言えぬ愛しさを籠められると、「阿呆」というのもいいもんんですね(何となく、関東は「馬鹿」をつかい、関西は「阿呆」をつかうイメージ。「阿呆」は言われ&聞き慣れないからか、実際に言われると、ちょっとぎょっとします。いや、「馬鹿」もそんな言われないけどさ)。そして、「阿呆」と言えば、同じ阿呆なら踊らにゃ損損。楽しきこと、面白きことを精一杯楽しみなさい、というお話でもありました。

ところで、弁天が好むという赤割り(焼酎を赤玉ポートワインで割ったもの)ってどんな味なのでしょう。何焼酎で割るかによっても変わるよねえ。とりあえず、色は綺麗そうではあるけれど。

目次
第一章 納涼床の女神
第二章 母と雷神様
第三章 大文字納涼船合戦
第四章 金曜倶楽部
第五章 父の発つ日
第六章 夷川早雲の暗躍
第七章 有頂天家族

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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京極 夏彦
旧怪談―耳袋より (幽BOOKS)
メディアファクトリー

江戸時代に、南町奉行、根岸鎮衛によって書かれた「耳嚢」。これは、好奇心旺盛だった根岸鎮衛が、友人知人から聞いた面白い話、奇妙な話、町の噂話、迷信などを書き留めたもの。怖がらせようという意図はなくとも、中にはなんとなく怪しい話、つまりは”怪談”として受け止められてしまうものもある。

この本は、京極さんがそういった怪しい話、奇妙な話を、現代の人間が”怪談”として読むことが出来るよう、現代風に書き改めたもの。原文そのものも併録しているところが、古典と現代を繋ぐ京極さんのお仕事たる所以でしょうか。興味が沸いたら、ぜひオリジナルの「耳嚢」を、ともあるしね。

この本には全部で三十五のお話が収められていて、原文のタイトルの他にも、現代風のタイトルが付けられている。どすん(原題:戯場者為怪死事(しばいものかいしをなすこと))とか、もう臭わない(原題:藝州引馬山妖怪の事(げいしゅうひくまやまようかいのこと))とか、一体何のこと??とちょっとそそられます。

文章の方は流石読み易いんだけど、現代語訳としてデモンストレーションとか、ミーティングなどは、ちょっとやり過ぎ?という気もするなぁ。普通に漢字でも、もっといい表現がある気がします。原文もルビがふってあって、比較的楽に読むことが出来るので、そっちと比べて読むと確かに楽しいかも。私は原文の方は、全部読んだわけではないのだけれど。

「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君」なわけですが、生きていれば不思議なこと、割り切れぬ事に出会うこともある。そんな字余りのようなお話たちを楽しめます。
Wikipedia によると、「耳嚢」は”全10巻1000編もの膨大な量”とのことだけれど、作家さんたちはどうやってそのうちのいくつかをセレクトするんでしょうねえ、すごいなぁ。


「耳嚢」と言えば、宮部みゆきさんの、まさに根岸鎮衛その人が登場する「霊験お初捕物控」のシリーズがありますよね。シリーズの第一作「震える岩」の巻頭には、「耳嚢」の巻六からとられた「奇石鳴動のこと」が載せられているし、主人公お初の不思議な力が、作中の根岸鎮衛によって記録されたりもするのです。
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ロバート・J. ソウヤー, Robert J. Sawyer, 内田 昌之

ターミナル・エクスペリメント (ハヤカワSF)


1995年のネビュラ賞受賞作ってことで、思いっきりSFなのですが、これは面白かったー!(おっと、今、ネビュラ賞を見てたら、でもそういえば、「くらやみの速さはどれくらい 」も受賞作でありました。あまり気にしないで読んでたけど、確かに、設定はSFだったな…)

生物医学工学を修めたピーター・ホブスンは、学生時代に関わった少年の脳死臓器移植における経験から、常々、ある疑問を持っていた。それは、脳が完全にその機能を停止するのはいつなのか?、ということ。ピーターには、脳死判定基準が十分なものだとは決して思えなかったのだ。

生物医学用機器を扱う会社を設立したピーターは、その長年の疑問に答える装置の開発に成功する。それはスーパー脳波計とでも言うべきもので、十億を超えるナノテク・センサーによって、すべてのニューロンの電気的活動を把握することが出来るのだ。

さて、実際にこの装置を死にゆく人たちに装着したところ、ピーターは驚くべき脳の信号を検出する。それは、魂波(ソウルウェーブ)とでもいうべき存在で、死の瞬間にこめかみの方へ向かって移動し、そこから信号は検出されなくなってしまう。つまり、ピーターは、人の死の瞬間に、何かが外へ出ていくという現象を捉える事に成功したのだ。

死という現象を捉える事に成功したピーターは、十代からの親友にして、ソフトウェア開発の天才、サカール・ムハメドの助言により、生命の誕生や動物の魂についても、この装置の応用を進めていく。一連の発見は、宗教学的なセンセーションを始め、ピーターの周囲に様々な影響を及ぼすのだが…。

ピーターのそれまでの家庭生活は、学生時代からの恋人であるキャシーとの結婚以来、しごく満足のいくもののはずだった。ところが、装置の完成と時をほぼ同じくして、妻、キャシーの同僚との不倫が発覚する。ピーターはキャシーを深く愛していたのだが、キャシーにはどこか不完全なところがあるようで…。それはキャシーの生い立ちとも無縁ではない。

サカールの人工知能会社では、ピーターが開発した装置との組み合わせにより、人間の脳の完全なる複製を作ることが出来るようになっていた。ピーターとサカールは、「死後の生」を知るために、ピーターの脳の複製を作り、更にその複製に対してとある処置を施すことにした。一つは肉体の感覚から完全に切り離されたもの、いわば死後の生を生きるシミュレーション、”スピリット”。もう一つは老い、衰えなどから切り離され、肉体的に不滅の存在だと自覚しているシミュレーション、”アンブロトス”。更に三つ目はオリジナルから変更を加えないシミュレーション、”コントロール”。ピーターとサカールは、これら三つのシムたちと会話をし、彼ら三人を観察し、それぞれの特徴を掴んでいくのだが…。

予期されざる殺人が起き、これら三人のシムたちのうち、誰かがピーターにとって都合の悪い人物を殺したことが明らかになる。一体、誰が殺人を犯したのか??

あらすじはざっとこんな感じなんだけど、死とは何か、生とは何か、という一種哲学的な話を持って来つつも、物凄くしっかりエンターテインメントしているのです。一体、どのシムが殺人を犯したのか?、というミステリ的要素もあるしね。さらに、長い年月を共にした(する)夫婦の愛、親子の関係なども書き込まれている。あと、いいところは基本的に明るいところかな。なんというか、敗者復活的な要素があるところがいいな。

SFであっても、人物造形がしっかりしているし(妻、キャシーはちょっと甘いか?という気もするけど)、彼ら彼女らの感情もしっかりと描き込まれているので、楽しく読むことが出来ました。ここ数年のうちでは、こんな装置は実現出来ないとは思うけれど、いつかこんな装置が出来たら、やっぱりセンセーショナルだろうなー。

■SF苦手な私でも読めたよ!、な有名SF作品へのリンク■
・ロバート・A・ハインライン, 福島 正実 「夏への扉
・フィリップ・K・ディック, 浅倉 久志 「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
ちょっと違う気もするけど…
・アン・マキャフリー, 酒匂 真理子「歌う船

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NHK「新シルクロード」プロジェクト

新シルクロード激動の大地をゆく 上 (1) (NHKスペシャル)
NHK出版


はじめに                                内山達
[第1集] 炎と十字架      南コーカサス          宮本祥子
<解説>コーカサスを知る
 南コーカサス・民族のモザイクはいかにつくられたのか    北川誠一
[第2集] シバの女王の末裔たち イエメン・サウジアラビア  吉田宏徳
<解説>イエメンを知る
 イエメンとシバの女王伝説                     蔀勇造
[第3集] オアシスの道は険し  キルギス・ウズベキスタン  矢部裕一
[第4集] 荒野に響く声 祖国へ カザフスタン・南ロシア    国分拓
<解説>中央アジアを知る
 草原・オアシス・シルクロード                   小松久男
―激動の中央アジア、その歴史舞台について
新シルクロード・深層海流を読む旅―あとがきにかえて     日置一太
放送記録


今に始まったことではないのだけれど、世界各国の物語を楽しむには、私は地理的な事にも歴史的な事にもどうにも弱くって。ついつい西洋と東洋で分けて考えてしまったり、民主主義か旧社会主義かで分けてしまったり。でも、自分の中では何と無く遠い印象があった、ヨーロッパと中近東だって、実際にはそう遠いわけではないし、大体において一つの大陸に連なる仲間でもあるわけだよね。そんな風に大陸を繋いでいた道を知りたいなぁ、と思っていたところ、ちょうどぴったりの本を見つけました。

NHKの「新シルクロード」シリーズから派生したこの本。
本放送自体は、こういったものだったようです→
(おっと、3月下旬に総集編がやるようですね、見なくっちゃ!)

シルクロード、東西の交易を結んだ道。現代において、この道は何を繋いでいるのか? 誰を繋いでいるのか?

第1集では、グルジア、アゼルバイジャン、アルメニアからなる南コーカサスへ。第2集では、乳香の交易で栄えた伝説のシバの女王を追って、アラビア半島へ。第3集では、中国との国境を持つ中央アジアのキルギス共和国へ。第4集では草原の道を追って、ウクライナ、カザフスタンへ。

交易の中心として栄えたということは、そこに富が集まり、様々な人々が集い、また散って行ったということでもある。過去の富であった乳香、現在の富、宝石である石油…。石油を持つ国とそうでない国との明らかな差。石油を持つ土地は富に溢れるが、持たざる国の男たちは、家族の元を離れ、出稼ぎをして送金をする他、生きていく道はない。

大国の都合により決められた国境、国家は、遊牧民として生きていた人々を縛ったり、遣り切れない凄惨な内戦を引き起こす。内戦は、それまでは仲の良い隣人であった人々をも引き裂いてゆく。また、民族としての自覚、目覚めはそれまで共に生きていた他の民族を締め出す結果ともなる。

印象深かったのは、第2集の「シバの女王の末裔たち」で、古代シバ王国の都、マーリブを訪ねたところ。乳香の交易で栄えたシバ王国は、古代アラビア最大のダムを持ち、砂漠の地に巨大な湖を作り出していたのだという。ところが、乳香の交易が廃れたことで、ダムを補修する費用を賄えなくなり、決壊したダムがシバ王国を崩壊させたのだ。

まるで、この旅の最後に向かった、サウジアラビア北部の街、マダインサーレで出会ったベドゥインが、取材班に教えてくれた、遠い昔から伝わるという歌のよう。

 人生は旅のよう
 春にように豊かな時期もあるが
 どんな繁栄もいつかは終わる
 大地とラクダ以外は 何も残らない
(p143-144より引用)

勿論、これは「新」シルクロードであるから、こういった古代の話だけではなく、現代の話も盛りだくさん。ただ、ちょっとこの辺は、まだあんまり自分の中でこなせないんだな~。

第3集は、「ですます」調が何だか読みづらい、と思いながら読んでたんだけど、それは自分たち取材班は一時の通過者にしかすぎないと肝に銘じながらも、何とか当事者として関わりたい、近づきたいという、思いが募ったためだったのかも。長時間、共に過ごすことをしなくても、実際の放送にしたら7、8分にしか過ぎないシーンを撮ることは出来る。でも、この取材班は、18時間、国境の険しい道を越えるトラック・ドライバーと悪路を共にしたのです。

一つの土地、一つの大陸には実に様々な民族、宗教、慣習があって、それぞれの幸福を求めて暮らしている。 そして、そこには人々を繋ぐ道がある。それは、国境によって変わるものではないはずなのに。まさに、混沌とした激動の大地。これから、この土地はどうなっていくのだろう。
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鼓 直
ラテンアメリカ怪談集 (河出文庫)

J・G・ポサーダなる人物による「自転車に乗るカラベラ」というカバー絵も楽しい、河出書房新書の文庫です。でも、残念ながら絶版のよう(復刊ドットコムにリンク )。「カラベラ」とはガイコツのことらしく、陽気なガイコツたちが自転車に乗っています。

ラテンアメリカの物語というと、土埃と太陽の匂いがするような、あつーい世界を想像してしまうのだけれど、勿論、そういう話もあり、またそうではないお話もあり…。でも、それぞれに魅力があって、楽しい短編集でした。結構、ボリュームがあって、なんだかんだで一週間くらいこれをずっと読んでたのだけど。

目次
火の雨            ルゴネス(アルゼンチン) 田尻陽一訳
彼方で            キローガ(ウルグアイ) 田尻陽一訳
円環の廃墟          ボルヘス(アルゼンチン) 鼓 直訳
リダ・サルの鏡        アストゥリアス(グアテマラ) 鈴木恵子訳
ポルフィリア・ベルナルの日記 オカンポ(アルゼンチン) 鈴木恵子訳
吸血鬼            ムヒカ=ライネス(アルゼンチン) 木村榮一訳
魔法の書           アンデルソン=インベル(アルゼンチン) 鼓 直訳
断頭遊戯           レサマ・リマ(キューバ) 井上義一訳
奪われた屋敷         コルタサル(アルゼンチン) 鼓 直訳
波と暮らして         パス(メキシコ) 井上義一訳
大空の陰謀          ビオイ=カサレス(アルゼンチン) 安藤哲行訳
ミスター・テイラー      モンテローソ(グアテマラ) 井上義一訳
騎兵大佐           ムレーナ(アルゼンチン) 鼓 直訳
トラクトカツィネ       フエンテス(メキシコ) 安藤哲行訳
ジャカランダ         リベイロ(ペルー) 井上義一訳


編者あとがき
出展一覧
原著者・原題・製作発表年一覧
訳者紹介


「火の雨」  
 人嫌いで屋敷に引き篭もり、読書と食事にその独身生活の全てをかける「私」。一人で食事をするその間、奴隷が私のそばであちこちの地誌を読んでくれるのだ。そんな満ち足りたある日、私は空から火の細い線が走るのを見る。それは白熱した銅の粒だった…。
 これは、私が考えていた「ラテンアメリカ」っぽいお話でした。実際に降ったら恐ろしいけど、細い線のような火の雨、美しいよなぁ。

「彼方で」
 家族に付き合いを禁じられ、絶望した恋人たちは心中を選んだ。恋人たちは実体はなくとも、その後も互いに愛を囁き、逢瀬を重ねていたのだが…。 
 愛と死と幸福と。これはどちらかというと幻想文学?
          
「円環の廃墟」  
 一人の人間を完璧に夢見て、現実へと送りだすことを望んだ男。彼は密林の中の円形の場所に辿り着き、神殿の廃墟であるその台座で夢を見るのだが…。
 こちらの方がもっと複雑だけれど、スティーブン・ミルハウザーの「バーナム博物館 」の中に収められていた「ロバート・ヘレンディーンの発明」を思い出しました。
        
「リダ・サルの鏡」  
 守護聖母さまのお祭りでは、昔からの習慣として、女子衆が供回りの装束をととのえることになっている。もう一つの習慣として言い伝えがあったのは、好きな男衆と結ばれるための御呪い。想いを遂げたい女は、意中の男衆が着る供回りの装束を着て、幾晩も眠るのだ。彼女の御呪いが衣裳にすっかり浸み込むように…。もう一つ必要だったのは、その女衆の姿を映す大きな姿見…。
 幻想的かつ土の匂いがする感じで好き。
     
「ポルフィリア・ベルナルの日記」 
 ある家庭教師の物語。イギリス人女性である彼女は、教え子であるアルゼンチンの少女、ポルフィリアの日記を読まされるうちに…。
 耽美かつホラー?

「吸血鬼」
   
 国王カール九世の従兄弟にあたる、ザッポ十五世フォン・オルブス老男爵に残されていたのは、ヴュルツブルグの城と、悪魔の毛房の通路と呼ばれる老朽化した屋敷のみだった。困窮していた男爵は、イギリスのホラー専門の映画会社に目をつけられる。脚本家として恐怖小説を書いているミス・ゴティヴァ・ブランディが選ばれ、その外見から、男爵自身が主役の吸血鬼を演じることになったのだが…。
 このお話、好きでした。そこはかとないおかしみが良し。
        
「魔法の書」 
 ブエノスアイレス大学哲文学部の古代史の教師、ラビノビッチは、ある日、古本屋で不思議な本と出会う。びっしりと文字が埋まったその本には、単語の切れ目も大文字も句読点もなかったのだが…。
 これは、「彷徨えるユダヤ人」を元にした物語なのかな(Wikipediaにリンク )。やっぱり、「本」がテーマになってると、より魅力的に感じてしまうなぁ。こんな本に出会ったら…。まさに寝食を忘れるこの読書、恐ろしいけど幸せ?
         
「断頭遊戯」
 幻術師と皇帝、その后、国王の座を狙う<帝王>の物語。
 面白かったんだけど、何だか中国を舞台にした映画を見ているようでした。  
         
「奪われた屋敷」        
 広く、古い屋敷に暮らす兄妹。ともに独身である兄妹は、互いを思いやり、ひっそりと静かに暮らしていたのだが…。いつしか屋敷の一部に入り込んだ「連中」は、彼らの生活を脅かす。
 深読みしようとすれば、色々と読みとれそうな感じなんだけど、私にはちょっと良く分らず。政治的な話にも読めるし、近親相姦的な香りもする。

「波と暮らして」 
 海を去ろうとした、「ぼく」の腕の中に飛び込んできたひとつの波。「ぼく」はその波と暮らすようになるのだが…。
 幻想的で不思議なお話。明るく包容力があり、しかし時に荒れ狂い、呪詛の言葉をまき散らす彼女は、まさに海そのもの。ラストの残酷なまでの場面には、若さや老い、男女の別れも考えちゃいます。
        
「大空の陰謀」
 テスト飛行中に墜落したイレネオ・モリス大尉が意識を取り戻した時、そこは彼が居たのとは微妙に違った世界だった。また、彼は一度ならずも二度までも、そういった体験をするのだが…。
 所謂、パラレル・ワールドものとでもいいましょうか。歴史上のifは意味がないとはいうけれど、そうやって違った世界が存在しているところが、面白かったなぁ。歴史が変われば、通りの名前すらも変わってしまうのだよね。
         
「ミスター・テイラー」     
 ミスター・テイラーが始めた新商売とは? その商売は瞬く間に彼の故国で人気を博す。
 ブラックなお話だけれど、ラストはやはり当然そうなるよね、という方向へ。舞台は南米のアマゾン地方なんだけど、どちらかというと倉橋由美子さんの本などにありそうな感じ…(だいぶ違うけど、「ポポイ 」とか「アマノン国往還記」のせいかしらん)。

「騎兵大佐」   
 通夜を営んでいる最中の屋敷に現れた死神の話。その場にいる間、彼はある魅力を発揮するのであるが…。
 うーん、その「臭い」、嗅ぎたくないなぁ。
        
「トラクトカツィネ」       
 請われて古い屋敷に移り住んだ「わたし」。書斎の窓から見える庭の景色は、ここメキシコとはかけ離れているように見えるのだが…。
 ”トラクトカツィネ”って何だー!!! ネットを見ても、やはり分らない人が叫んでいるのしか見つけられない。笑 というわけで、何と言うか、オチがない感じ?

「ジャカランダ」 
 
 妊娠中の妻を亡くしたロレンソは、職を辞してこの地を去ろうとしていたのだが…。彼の後任として現れたミス・エヴァンズの正体とは?
 うーん、どれが現実でどこからかがそうでないのか、ちょっと分かり辛かったな。
どこからか、それこそパラレルワールドに迷い込んでる気がするんだけど…。
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青来 有一
てれんぱれん

「てれんぱれん」という言葉は、九州地方の言葉で、何となくぶらぶらと過ごして、怠けている人を非難する時に良く使われるのだという。

語り手の「わたし」の父が、まさにそんな「てれんぱれん」な人物だった…。忙しく立ち働く母の横で、父はいつもたばこをふかし、無防備な背中を晒していた。母は、のちにニラ焼き屋と呼ばれるようになる、お好み焼屋を切り盛りしており、子供であった「わたし」も母を手伝い、母と共に「てれんぱれん」な父を責めるようになっていた。

子供たちも独立し、同じく「てれんぱれん」であった夫との離婚も成立し、また一人に戻った「わたし」が思い出すのは、父と「わたし」を繋いでいた不思議な出来事。思春期を迎えた「わたし」は父を疎んじるようになり、何かを伝えたがっていた父の言葉を聞くこともなく、そのまま病弱な父は消えるように亡くなってしまっていた。父の思い出を追うように、以前の住まいの近くに居を移した「わたし」を待っていたのは…。

青来有一さん、初読みです。この作家さんが気になったのは、桜庭一樹さんの読書日記のこちらの記事 がきっかけ。

ただ、ここで取り上げられている「爆心」は長崎の被爆体験を書いた短編集ということで、初めて読むにはちょっと重いかなぁ、と思い、雰囲気で「てれんぱれん」を借りてきました。

でも、「てれんぱれん」も舞台は長崎。「わたし」の父もまた被爆者であり、原爆は父の人生にも大きな影を落としていたのです。

「てれんぱれん」とは前述のように、人の状態を表す言葉だけれど、それは父と「わたし」だけに通ずる符牒のようなものでもあった。父は不思議な物が視え、その力によって物事を解決出来る拝み屋のようなところがあった。それは密やかに行われるものであったけれど…。幼き日の「わたし」も、父の背中に触れている時だけ、不思議な物、「てれんぱれんさん」が視えるようになり、年とともに彼らが視えなくなっていた父の目となって働く事があった。

父が言うには、死んだ子どもは、その場所で神さまになるのだという。そこにしがみついて、父や母が迎えに来るのを、てれんぱれんとただ待っている。恨みもせず、祟りもせず、ただただ黙っている、並の神さまである、「てれんぱれんさん」…。ま、「祟りもせず」と言っている割には、「てれんぱれんさん」が見えた場所から何かが出て来て、その供養が終わると、家族の不幸が終わったりもするので、そこはちょっと不思議だけれども、ただぼーっと立ったり座ったりしている、白く無力な「てれんぱれんさん」。そうして、再びこの地に戻ってきた「わたし」を待っていたのは…。

福か禍かも分からなかった「てれんぱれんさん」。それでもそれは、父と娘を繋ぐ、待ち人でもあったのです。

次は「爆心」を読もうっと!
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近藤 史恵

タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)

目次
*Table des matieres*
タルト・タタンの夢
Un reve de Tarte Tatin
ロニョン・ド・ヴォーの決意
Une decision grace aux rognons de veau
ガレット・デ・ロワの秘密
le secret de galette des Rois
オッソ・イラティをめぐる不和
Une brouille autour d'un Ossau-Iraty
理不尽な酔っぱらい
Un misterieux ivrogne
ぬけがらのカスレ
Un cassoulet special pour elle
割り切れないチョコレート
Chocolats indibisibles
 初出一覧
 sources


メニューになぞらえた目次も実に楽しい!!

レストランとミステリと言えば、北森さんの香菜里屋シリーズ(最新刊の感想 )があるけれど、こちらもまた楽しく美味しい一冊でした♪

舞台は気取らないフランス料理を食べさせる店、ビストロ<パ・マル(悪くない)>。無口で武骨な料理長、三舟忍(表紙絵の人物ですね)に、にこやかでそつのない料理人の志村洋二、ソムリエの金子ゆき、ホール係の「ぼく」こと高築智行の四人でまわす小さなお店。接待や特別な日に使うというよりも、普段着の本当にフランス料理が好きな人間が集う店。

ほぼ新人(「タルト・タタンの夢」では、勤め始めて二か月、とある)の「ぼく」こと高築智行の視点で描かれるのがまたいいんだなー、きっと。フランス料理の説明なども、実に嫌みなく差し挟まれる。前述の香菜里屋のような凝った創作料理ではなく、フランスの家庭料理に近いものが出てくるんだけど、これがまたどーんとボリュームがありそうで、とっても美味しそう! きれいなテリーヌなどにしない、餅焼き網で焙った、分厚く切ったフォアグラ(同じく網で焼いたバゲット添え)など、いいなー、いいなー。餅焼き網が出てきたけど、料理長の三舟氏は道具に拘りのないタイプらしく、蒸籠なんかが出て来るところも面白い。

ホームズ役はこの料理長の三舟氏なんだけど、柔軟な頭を持つ人物であることが、こういったエピソードからも分かるよね。

レストランに持ち込まれる謎は、すべてお客さんが持ち込むんだけど、私はちょっと甘いかもしれないけど、恋人同士のある日の特別なメニューを描いた「ぬけがらのカスレ」と、家族の情景を描いた「割り切れないチョコレート」が好きでした。これ、シリーズ化されたりするのでしょうか。また続きも読みたいな♪
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ハンヌ・マケラ, 上山 美保子

フーさん

国書刊行会という出版社に、この児童書のような表紙絵の組み合わせが、どうにも気になって借りてきた本です。

この表紙でちょっと困ったような顔をしている、小さな黒づくめの男が、まさにフーさん!

フーさんとは何者なのか? なんだか読んでいても、良く分らない部分もあるんだけど…。でも、読み終わる頃には、このシャイで自分の役目に忠実で、でもちょっと世慣れないフーさんを、きっと好きになっているはず。

フーさん(時に、「フーさんたち」とも表現される)は、子供を驚かせるのが仕事のオバケなのかな。

 ドアがガタガタ……
 扉がばたん……
 刃物がきらり……
 部屋にいるのはだれなのさ
 それは、ぜったいフーなのさ

(p6より引用)

だけど、実際、子供たちはフーさんを怖がることなく、言葉を交わし、一緒に遊ぶことだって出来てしまう。

 おれさまは、野蛮でおそろしいフーさんだ
 おれより強くて、気がみじかいやつはこの世のなかには、いやしない!
 おれさまは獣のようにガキを食べてやる
 ガキは、鍋にほうりこんで煮こんでしまうぞ
(p13より引用)

こーんなことを言って、女の子を脅してみても、ライオンのように叫んでみても、トラのように唸ってみても、実際のところ、フーさんは結構愛らしい。

語られるのは、時に涙ぐんじゃったり、孤独に淋しくなったりしながら暮らす、フーさんの日々の生活。フーさんは魔法を使えるみたいだけど、フーさんの亡くなってしまった「おじいさん」もなかなかに謎の人物。地下室に金貨をどっさり持っていたり、おじいさんの遺した古い粉で猫が巨大化しちゃったり、花の種からはフーさんの家を飲み込んでしまいそうな植物が生えてきたり…。

フーさんがこれしか飲まない、という紅茶、グレー伯爵ティーも気になります。フィンランドには、実際にあるのかなぁ。「フーさんの生まれ故郷を紹介する」によれば、この本はフィンランドで1973年に初めて出版されたものなのだとか。フィンランドでは、アニメ化や舞台化もされた人気者なんだって。フーさんは森の中に住んでいるんだけど、これも森の国、フィンランドならではなのかな。こういう不思議でその国の国民に愛される存在って、お国柄も表わしているようで、面白いよね。

もくじ
1 フーさん仕事へいく
2 フーさんと病気の木
3 フーさん釣りをする
4 フーさん小包をうけとる
5 フーさんリンマを怖がらせる
6 フーさんおまじないをとなえる
7 フーさん鏡に姿がうつらなくなる
8 満月にほえるフーさん
9 フーさんサウナにはいる
10 建築現場のおじさんたちとフーさん
11 フーさん町へでかける
12 フーさんと巨大なネコ
13 フーさんお呼ばれする
14 フーさん人生を考える
15 フーさんお花を育てる

フーさん生まれ故郷を紹介する~あとがきにかえて~


*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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テーマ:

P.G. ウッドハウス, Pelham Grenville Wodehouse, 森村 たまき

比類なきジーヴス (ウッドハウス・コレクション)


ブランディングズ城の夏の稲妻 」に続いて、二冊目のウッドハウスです。

こちらは「ジーヴス物」と言われるシリーズらしく、最初からして既に偉大なるマンネリズムの薫りがするのだけれど、マンネリというのも決して悪いことばかりではない。物語の場合、これがぴたりとはまれば、実に安心の読み物になるわけで…。

初めて読んだのに、初めて出会った気がしないというか、いっそ懐かしさすら感じてしまうんだなぁ。

主たる登場人物は、金やそれなりの名誉はあるものの、アガサ伯母に言わせれば、人生を無為に過ごしているとばっさり切られる、バーティー・ウースター。バーティーの頼りになる執事、ジーヴス。バーティーの親友で、しょっちゅうどこかの娘に恋しては、バーティーを頼るビンゴ。「バーティー、お前とは同じ学校に通った仲じゃないか」。バーティーの恐怖の源、アガサ伯母、常に驚異の事態を引き起こす従弟のクロードとユースタス…。

ベッドで飲む目覚めの紅茶、それに続く朝食、何よりも平穏を愛するバーティーの元には、それでも様々な厄介事が持ち込まれて…。それを見事に裁くのが、バーティーの頼りになる執事ジーヴス。ただし、ただ一つ彼らが相容れないのが、バーティーの服に関する色彩のセンス。バーティーが紳士として相応しくないと思われる色を身に付けるのを、ジーヴスは極度に嫌う。そんな時は冷戦状態が続き、バーティーは一人で厄介事をやっつけようとするのだけれど、結局はジーヴスの手を借りることになり、泣く泣くその服を諦めることになる。紫の靴下しかり、素敵に真っ赤なカマーバンドしかり…。

何があっても深刻な事態にまで陥ることなく、素敵に無責任なところもこのシリーズの魅力の一つかな。知的ではないとされるバーティーだけれど、そうはいっても、機を見ては詩を諳んじ、オックスフォード大学だって卒業している(ビンゴも学友ってことは…、とオックスフォードを危ぶみたくもなるけれど)。

後、目立つのは、「賭けごと」に関する熱い心。なんだって賭けごとの対象になり(教会の牧師の説教の時間から、年に一度の田舎の村の学校のお楽しみ大会まで)、それを話すに何と「スポーツマン精神」なんてものが出て来てしまう。「スポーツ」であっても、あくまでそれは自らがやるものではなく、見て(賭けて)楽しむ対象なのです。

全体通して、素敵に怠惰な貴族ライフと言ったところ。ゆったりした気分で、くすりと笑える安心の小説ですね。

目次
1. ジーヴス、小脳を稼働させる
2. ビンゴが為にウエディングベルは鳴らず
3. アガサ伯母、胸のうちを語る
4. 真珠の涙
5. ウースター一族の誇り傷つく
6. 英雄の報酬
7. クロードとユースタス登場
8. サー・ロデリック昼食に招待される
9. 紹介状
10. お洒落なエレベーター・ボーイ
11. 同志ビンゴ
12. ビンゴ、グッドウッドでしくじる
13. 説教大ハンデ
14. スポーツマン精神
15. 都会的タッチ
16. クロードとユースタスの遅ればせの退場
17. ビンゴと細君
18. 大団円
 訳者あとがき
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テーマ:
沼田 まほかる
猫鳴り
双葉社

目次

第一部
第二部
第三部


不思議な名前が気になった、沼田まほかるさん、初読みです。このパターンで読んだのは、野中ともそさん(→「おどりば金魚 」)に引き続き二人目です。

もともと何で借りてくる気になったのか、ちょっと忘れちゃったんだけど、たぶん新聞書評かなんか?
何だろうなー、不思議な小説を読んだような気がします。

中編三篇を繋ぐのは、ある一匹の猫の存在なんだけど、その周囲にいる人間たちは、それぞれに孤独を抱えていて…。

第一部は、遅くに出来た子を、妊娠六か月目に亡くしてしまった、信枝と藤治夫妻の話。彼らの家の前に捨てられていたのが、後にこの三篇を繋ぐことになる、猫のモン。

第二部は、父子家庭で暮らす、男子中学生、行雄の話。学校をさぼってうろつく公園で出会うのが、今では巨大猫に成長した、例のモン。行雄と、信枝たち夫妻の元にモンを捨てた有山アヤメが同級生という、緩い繋がり。

第三部は、信枝が亡くなった後の藤治とモンの暮らしの話。

出てくる人間それぞれが孤独なのだけれど、語られない闇の部分があるというか、得体の知れなさがあるというか。特に、少女、有山アヤメの得体の知れなさには、もう少し彼女のことを知りたい気もするなぁ。

「猫鳴り」とは耳慣れぬ言葉だけれど、藤治はモンがグルグルと喉を鳴らす様子をそう呼んだ。それはモンが気持ちを解いていく時に聞こえる音だったのだが…。

三篇通じて、死の匂いが濃厚です。落ち込んでいる時に読むと、ちょっと危険かも。なんとなーく後を引く感じがあるのだけれど、この独特の読後感、自分の好き嫌いも含め、文章化が難しいです。


↑ この二冊も気になります。なんか、タイトルが印象的なのかも。

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