旧・日常&読んだ本log

流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。


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ダイアナ・ウィン・ジョーンズ, 浅羽 莢子

グリフィンの年 上 (sogen bookland)

グリフィンの年 下 (sogen bookland)

ダークホルムの闇の君 」の続編です。続編があることは知っていたものの、でも図書館にはないしなぁ、と忘れかけていた頃に図書館で発見しました。

最初にこれを読んだ時は、グリフィンに両親の細胞が入っていて、だから子供達とグリフィンは兄弟なんだ、というあたりにクラクラしたもんですが、もう、今ではきっとこういうのを読んでも大丈夫。笑 「ダークホルムの闇の君」から舞台は八年後、今度はグリフィンのエルダが中心となります。あの悪名高き実業家、チェズニー氏によりテーマパーク化されていたこちらの世界も、何とか落着きを取り戻したところ。でも、エルダが入学した魔術師大学には、その頃の悪癖がイロイロと残されてしまっていて…。

表紙扉から引きます。

今年の新入生は問題児ぞろい。
北の国の王子に、南の皇帝の妹、魔術師の娘のグリフィンに、
革命家のドワーフ、首長国からきた青年に、出身を明かさない金持ちの娘。
いつのまにか仲良くなった6人だが、
じつはそれぞれに困った問題をかかえこんでいた。
一方、大学は、刺客がキャンパスに入りこむわ、
外套掛けは女子学生につきまとうわ、海賊は学食に乱入するわの大混乱。
グリフィンのエルダと友人たちは、この危機をどう切り抜ける?

解説=荻原規子


というわけで、これは魔術師大学の新入生たちのキャンパスライフを描いたものであり、ちょっと変形の学園ものと読むことも出来る。個性的な友人たち、個性的な先生たち(こちらの個性はあまり嬉しくないけれど)。楽しいよ!

魔術師大学は、チェズニー氏のあの時代に、魔法の研究を忘れ、「実際的な」魔術師たちを送り出すことに汲々としていた。ケリーダが引退して、若い魔術師たちが教授となり、自分で考えさせる事もなく、大見出しを写させる、大学ではそんな授業が続いてしまっていた。学生たちのことよりも、月に行くことで頭も予算もいっぱいな大学運営委員長コーコランを始め、教授たちは誰も彼もあまり頼りにならない。

そこに入学したのがエルダや、訳ありの新入生たち。
教授たちの授業に見切りをつけ、自分たちで本から魔法を学び、力を合わせて実際に刺客に立ち向かうための罠を掛けたりするところが良かったな~。

想像力も魔法も、自分たちが持っている可能性も、ここで終りと決めてしまったら、そこで終わってしまうけれど、ほんとはどこまでも羽ばたけるものなんだよね。そんなワクワクするような希望と未来を感じる物語。後半に向けて、物語は綺麗に大団円へ(「グリフィンの年」というタイトルの意味もわかります)。 これぞまさにハッピー・エンドでしょう。

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大島 真寿美

やがて目覚めない朝が来る


舟と離婚した、信子と有加の母子は、舟の生母である「蕗さん」が住む洋館に転がり込んだ。有加にとって祖母にあたる蕗さんは、「おばあちゃん」ではなく、どうしたって「蕗さん」なのだった。

高名な舞台女優であった蕗さんは、三十五歳の時に秘密裏に出産した。助けてくれた友人たちにも、相手の名を明かすことのなかった蕗さん。息子、舟は蕗さんを母と呼ぶこともなく、少々歪な形で成長した。ところが蕗さんの相手、「先生」が舟を認知して亡くなる直前、息子、舟の存在が世間にばれ、また先生の死と同時に、蕗さんは惜しまれつつも電撃的に引退してしまう。

有加が生まれるもっと前、蕗さんの前半生は、かようにスキャンダラスでもあったけれど、有加たちが転がり込んでからはその生活は穏やかなもの。訪れるのは昔からの友人、知人たち。蕗さんの所属事務所にいた富樫さん、芸能記者だった田幡さん、衣装デザイナーのアシスタントだったミラさん、建設会社の会長の一松さん…。有加は大人たちの話を聞くともなく聞くうち、自分の周りの様々な事情を知るようになる。

大人の中で育つ子供の哀しいところは、彼ら彼女らが、必ず誰かを見送らねばならないこと。そもそも母・信子の両親は、彼女が幼いうちに事故で二人ともが亡くなっていたり、時に番狂わせがあったりもするけれど、有加はそうしてそれぞれに味わい深かった人たちを見送っていく。みな、それぞれのやり方で、「目覚めない朝」を迎えるのだ…。

思い出話はその人がいなくなれば消えていってしまう。その時、その場所で、誰が過ごしたのか、何を話したのか分かる人はいなくなっていく。それは、でも、それでいいのだ。間違ったと後悔しても、人生を繰り返したところで、その人の分の中で、きっとまた同じ行動をとるのだろう。とにかく、確かなのはやがてその日はやって来るということ。後半は、有加自身の人生もさらりと重なり…。

やがて来る終りに向けて。 それは誰にでも平等に訪れるものではあるけれど、いつやって来るものかは分からない。それでも、後悔のないように。途中からはどう考えても、この愛すべき人たちを見送らねばならないのだなぁ、と胸が詰まる思いがしたけれど、良い読書でありました。
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野中 ともそ
おどりば金魚

不思議な名前の作家さん、野中ともそさんの連作短編です。
初読みだったんだけど、いやー、いいな、この雰囲気。好きです。

あるアパートを舞台に、ゆるく繋がる人々の物語。といっても、そのアパートが特別だというわけでもなく、エレベーターもなく、かつメゾン・エルミタージュなんぞという小洒落た名前のつく、ごく普通のアパート。

語られるのもごく普通の人々の話、と言いたいところだけれど、実際には結構どこか外れた人たち。規格外? でも、「○○さんは~」と優しい口調で語られる、彼ら彼女らの話には、しょうがないなぁとか、いいなぁとか、ついぼんやりと頬を緩めてしまう感じなのです。

目次
草のたみ
ダストシュートに星
小鬼ちゃんのあした
イヌとアゲハ
タイルを割る
砂丘管理人
金魚のマント

■草のたみ

このアパートの家主の娘、依子さんの話。大学を出てこの方、働いたこともなく、日々を暮らしている依子さん。依子さんはある日、アパートの踊り場である女に出会う。踊り場に居たのは、二階に住む坂崎タミだった。彼女はそこで人を待っているのだという。部屋ではなく階段の踊り場で人を待つ、その微妙な距離感がいいのだという。外でもなく、中でもない場所。それが踊り場。

■ダストシュートに星
アパートの管理人、太田さんの話。
ここのところ、太田さんを悩ませていたのは、彼の聖域であるゴミ集積所に現れる、一階のクーポンばばあこと、竹ノ塚さん。つらつら考えるに、太田さんはクーポンばばあの遠慮のない物言いだけではなく、彼女の良く動く真っ赤な口唇が苦手なようで…。
太田さんは亡き妻と、失ってしまった息子を回想する。

■小鬼ちゃんのあした
日本に来て六年になるイラン人のジャハドさんは、ある日、おどりばで小鬼ちゃんに出会う。官能的でセクシーでありながら、無邪気で不思議な小鬼ちゃん。小鬼ちゃんは、ジャハドさんの部屋に上がり込み、いつしか二人の時は滞りなく過ぎていくようになる。小鬼ちゃんと暮らして変わったのは、食事に興味を持つようになったこと。ことに最近では、暦に沿った食の行事を二人で楽しんでいたのだが…。

■イヌとアゲハ
「草のたみ」に出てきたタミさんの娘、ふうちゃんのお話。ふうちゃんとママとキタザワくんで暮らしていたときの話。その頃、本当は家族があと一人増えるはずだった…。ふうちゃんに残されたのは、心の中で、その子、キヌアになりきる癖。

■タイルを割る
「草のたみ」に出てきた依子さんのお母さん、草代さんの話。結婚寸前の恋人とうまくいかなくなってしまった草代さんの空白に、ぐいぐいと入って来たのが、夫となった不動産会社の跡継ぎの恒造さんだった。押しの強い恒造さんは、タイル職人の娘であった草代さんの、まさに苦手なタイプだったのだけれど…。
長年連れ添っては来たけれど、病に倒れてはじめて、恒造さんは草代さんにとって近しい人となった。

■砂丘管理人
アパートの一室にひきこもっている、陸二さんのお話。姉から猫を預かった陸二さんは、子供の頃のことを思い出す。砂丘地帯で育った彼と姉は、ある日、砂丘で道に迷ってしまう。

■金魚のマント
「草のたみ」のタミさんの話。タミさんが待っていたのは誰だったか。とにかく、そこに現れたのは、中学校の同級生であり、管理人太田さんの息子、敬太郎ことケイティだった。

ごく普通のアパート、と書いたけれど、普通のアパートには、きっと小鬼ちゃんもいないし、砂地や小鬼ちゃんがいる場所に繋がっているダストシュートだってないでしょう。でも、どこかにこんなアパートがあって、外でもない中でもない、おどりばで誰かが待っていてくれたらいいな、と思うのです。
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塩野 七生, 水田 秀穂
漁夫マルコの見た夢

あの塩野さんが絵本??、という感じですが、中型の本だし、実際は結構文字も多いし、でもって内容も結構おっとなーなので、これもまたありかな、な本なのです。

ヴェネツィア近くのリド島に住むマルコは、十六歳にして既にリド一番の牡蠣獲り名人と言われていた。普段は口数の少ない控え目な若者であるのに、海の中でマルコは大胆で自信に満ちた一人の男に変わる…。

さて、いつもはマルコの獲る牡蠣を、親方が金持ちの家に売りに行ってくれるのだけれど、生憎用事があった親方はマルコに代わりを頼む。壮麗なダンドロ家の配膳室に招き入れられたマルコは、そこでキプロスのマルヴァジア酒を振舞われる。通常、親方ペペに振舞われるものよりも、上等な葡萄酒…。マルコはそれだけ見目が良く、若い女の召使が思わず贔屓したくなるような若者だというわけ。

そこへ突然入って来たのは、ダンドロ家の美しい奥方。奥方の気まぐれで若い貴族のなりをさせられたマルコは、ダンドロ家で開かれた夜会の客となる。

商用のため、主人たちが長く海外に滞在することの多いヴェネツィアの貴族の家では、留守を守る女たちには、「カヴァリエレ・セルヴェンテ」(奉仕役の騎士)と呼ばれる男をはべらすことも許されていたのだとか。しかしながら、これらの男たちは主人たちと同じ階級の男たちであることが不文律であり、他の階級の男たちに手を出すことは許されなかったのだという…。

夜半近く、客たちは仮装して街へ出る。男と女は、長い黒マントの下に見える衣装でしか見分けることが出来ず、鳥のくちばしのように鼻のとがった仮面で上半分を覆っていては、誰かを見分けることもまた不可能である。そう、まるで深い海の底に潜ったかのようで…。仮装したマルコは、みずみずしい若さをまき散らすかのように大胆に振舞い始める。

そして、ダンドロ家の屋敷に辿り着いた奥方とマルコは…。マルコは柔らかな寝床の上でも、自由で大胆な漁夫であった。

一夜が終われば、それはただの夢。しかしながら、マルコは朝の光を正面から受け、波の上に美しく浮かぶヴェネツィアの街を眺めながら、ある確信で身体を熱くする。マルコは再びあの夢を見ることが出来るのか? 策略をめぐらすマルコは、最初の純真な彼ではないけれど、自由で大胆な漁夫というのがまさに彼本来の資質であるのかもしれない。

さて、ダンドロ家と言えば、「三つの都の物語 」の主人公の一人、マルコ・ダンドロがまさにダンドロ家の出であった。マルコは良くある名前なのだろうけど、このダンドロ家とあのダンドロ家が関係あれば、ちょっと面白いなぁ、と思ったことでした。大胆に行動した漁夫マルコの血が、もしもマルコ・ダンドロにも流れていたら…。生粋の貴族よりも、何だか魅力的だなぁ、と。「三つの都の物語」において、マルコ・ダンドロは生粋の貴族として、きちんと行動していたのだけれどね。
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川端 誠
たがや (落語絵本 (10))
クレヨンハウス

こんなシリーズがあるのですね。図書館で見つけて、思わずその場で読んでしまいました。とりあえず、私が見つけられたのはこの「たがや」だけだったんだけど、他もこの絵本のシリーズで読んでみたいなぁ。

この生き生きとした絵がいいでしょ?

実際の「たがや」のお話はかなり残酷なものなようだけれど(だって、首が飛ぶらしいですから! Wikipediaにリンク )、子供向けの絵本であるからか、こちらでは、健やかで微笑ましいお話になっていました。

隅田川の花火見物に訪れた長屋の連中。箍屋の身重の女房も、花火が見たいとやって来た。ところが、ぎゅうぎゅう詰めの橋の上、なんとこの女房が産気づいてしまい…。
花火と言えば「玉屋~」だけれど、ここはやっぱり「たがや~」で!

■関連過去記事■
「【上方落語】桂米朝コレクション1 四季折々 」/夢の中へ

こちらも積みっぱなし。

手元にあると安心しちゃって、読めない…。
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山口 瞳

血族


山口瞳さんのファミリー・サーガです。この本のことは、桜庭一樹さんの読書日記で知りました(こちら )。気になって図書館から借りてきたら、ぐぐっと引き込まれ、桜庭さんも「ページをめくるのが止まらなくなったー!」と書いておられるけど、まさにそんな感じ。すっかりページに引き寄せられてしまいました。

薄皮を剥ぐように明らかになっていく、山口氏の母上がひた隠しにしていた母方の「血族」の事情。それはまるで、良く出来たミステリー小説のようでもある。

雑誌に頼まれ、田中角栄論を書いていた山口氏。田中角栄に迫るにあたり、自分の父親との対比を試みようとしていた氏は、ふとこれまで気づかなかったことに気づく。それは、父と母、それぞれの若い頃や、その後の写真はあるのに、両親の結婚式の写真が存在しないこと。自分が生まれる前の写真が、存在しないのはなぜなのか? それだけであるのなら、そう不思議なことではない。しかし、謎は続く。

兄と自分の近すぎる生年月日の謎、「瞳」という男性としては珍しい名前を氏に付けた母の謎、美男美女ばかりの親族の謎、その親族が皆、どこか頽廃的な性情を持つという謎…。山口氏自身に纏わりついた欠落感…。そして、親類の謎めいた言葉。

「いつか教えてやるよ」
と、親類の一人が言った。その人も明治の生まれである。
「いつか教えてあげるけれど、まだその時期じゃないな。お前は小説家なんだから、知っておいたほうがいいかもしれない」

そう、氏の家族には、確かに「何か」があったのだ。しかし、それは母がひた隠していた秘密でもある。父と母の秘密を暴くことを躊躇していた氏は、教えてくれる親類も全て亡くなってしまった頃になって、改めてその謎に向かい合うことになる。

自らの家族の謎を追い求めるという点で、マイケル・ギルモアの「心臓を貫かれて 」を思い出す。

時に怖れながら、時に秘密を暴く辛さに慄きながら、謎に迫って行く姿は、痛々しくもある。

正直ね、時代の違いからか、そうして浮かび上がった真実に、さほど驚きを覚えなかったりもするのだけれど、どこまでも仲間であったのに、血よりも濃い絆で結ばれていたのに、ばらばらであらねばならなかった事情が辛いなぁ。ばらばらでありながら、やっぱり強い絆で結ばれてもいたのだけれど。

「心臓を貫かれて」では、マイケル以外の家族を繋いでいたのは、彼らが体験した同じ地獄だったけれど、「血族」においても一族を繋いでいたのは、彼らが共通に背負った業であった。人を繋ぐのはプラスのものだけではなくて、時にマイナスのものが強く人々を結び付けることがある。なんだか、その繋がりが哀しいものだなぁ、と思いました。でも、過去があって現在がある。過去の欠落は、また新たな欠落を生んでしまう。たとえどんな過去であっても、共有してこそ家族なんじゃないかなぁ、とも思いました。愛する者だからこそ、知られたくないこともあるのだろうけれど…。哀しいけれど、迫力の一冊でした。

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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アン ファイン, Anne Fine, 灰島 かり
チューリップ・タッチ

表紙もちょっと恐ろしげなのだけれど、実際、怖い、重苦しい話です。

ホテルの雇われ支配人を父に持つ、少女ナタリーは、ある日、一家で百以上の客室があるパレス・ホテルへと移り住んだ。そこで出会ったのは、風変りな少女、チューリップ。ぼさぼさの髪にみすぼらしい服装、虚言癖。チューリップは学校でも鼻つまみ者だったけれど、穏やかなナタリーは、チューリップの持つ烈しさに、すっかり魅せられてしまう。

ナタリーとチューリップは、様々な遊び、悪戯を二人で共有する。父はナタリーがチューリップと遊ぶことは止めなかったけれど、彼女がチューリップの家へと行くことは禁止した。そう、チューリップの家は、素晴らしい家庭環境とは言い難かった。酔っては暴れ、信じられない暴言を吐く父、父を止めることも出来ない母…。

体の弱い弟ジュリアスと比べ、穏やかで手のかからない娘であったナタリーは、忙しい両親の目に留まらない術を覚え、チューリップとの極彩色をした悪戯の世界にのめり込む。小学校から中学校へと進んだ二人の悪戯は、更に度を越したひどいものになる。ナタリーがチューリップに惹かれたのはその烈しさ故だったけれど、チューリップがナタリーを選んだのは、彼女が常に従順で逆らわなかったから?、ナタリーの胸に小さな疑問がよぎる。そして、チューリップはやり過ぎた…。小屋に灯油をまいて火をつけ、燃やしたとき、ナタリーははっきりとチューリップとの決別を意識する。

それからのナタリーは、溺れていた人間が水中から必死で浮上するように、チューリップを振り切って、正常な学校生活へと一人戻って行く。しかし、二人でやっていた遊びから一人が降りてしまった場合、残された一人はどうなる? チューリップはますます悪くなる。

一日一日を必死で生き伸びていたナタリーだったけれど、大人はそんな彼女の心中も知らずに、勝手なことを言う。あのかわいそうなお友だちは最近どうしたの? あの子は邪悪な子、もともと付き合うべきではなかったのだ…。厳格な人々はチューリップを遠ざけることを望み、「心やさしい」人々は適度な距離でチューリップとの付き合いを続けることを望む。でも、それはチューリップやナタリーのためを思ってのことではなく、自分たち大人の感情を満足させるためのものではないのか?

子供には力がない。ナタリーはチューリップに引き摺られないために、すっぱりと彼女との関係を断つしか方法はなかった。しかし、大人は違うはずなのだ。チューリップはなぜああなってしまったのか。誰も彼女を救えなかったのか。そして、チューリップが選んだ最後の<遊び>。

ナタリーは回想する。

チューリップといっしょに過ごした日々を、後悔することなどできない。ときどきあたしは、もう二度と、ああいう強烈な日々、赤く燃える夜や、白くかがやく昼を過ごすことはないのだろうかと、不満に思う。でも、そんなはずはないとも思う。人生を色彩豊かにする方法は、星の数ほどあるはずだ。あたしはいつか、自分で自分の方法を見つけるだろう。

でも、そんな風に将来のことを思っても、チューリップという少女のために、ナタリーは心を痛め続ける。誰も彼女を救えなかったのか? 彼女の心の扉まで、誰もたどり着けなかっただけではないのか?

やるせなさという点では、桜庭一樹さんの「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 」を思い出しました…。子どもは無力。彼らの周りの世界が狂っているとき、子どもはどうやって世界に立ち向かえばいいのか??

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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北森 鴻

香菜里屋を知っていますか


これにて、≪香菜里屋≫シリーズは打ち止めということらしいのですが、まだ四作目なんですよね、うーむ、勿体なーい。

さて、こたび、語られるのは、店主・工藤の事情。謎解き場面では前面に出張って来たとは言え、一応黒衣の存在であることが求められたバーの主人としての顔ではない、工藤個人の顔の話。彼の過去には何があったのか、彼は誰を待っていたのか、どんな思いで夜毎、あのぽってりとした提灯を灯していたのか。脇を固めるのは、お馴染みの面子であったり、≪香菜里屋≫シリーズに出てきた懐かしいあの人であったり。なんと、今作では、例の池尻大橋のバーマン香月は、結婚してしまうんですぜー。独身主義者なのかと思っていたよ…。

香菜里屋の常連たちも、それぞれの理由でその地を離れ、また香菜里屋という存在自体も…。さみしいけれど、やはりこれが最後なのかしらん。別れがテーマになることが多く、いつもの料理もいつものようには楽しめませんでしたよ…。

目次

ラストマティーニ
プレジール
背表紙の友
終幕の風景
香菜里屋を知っていますか


「ラストマティーニ」
≪Bar谷川≫の老バーマンが出す、古き良きスタイルのマティーニは、長く香月が信頼を置いていたものだった。ところが、ある日≪谷川≫を訪れた香月に出されたマティーニは…。


「プレジール」

人には楽しむという言葉が背負いきれなくなる時がある。励ましの言葉が呪いの忌み言葉になる事がある。プレジール、楽しむ会を結成していた、三人の女性たちにも、それぞれの変化が訪れていた…。

「背表紙の友」

香菜里屋の店内で、いつものように弾む会話。ところがこの会話には、三十年前にある田舎町で起きた、ささやかな出来事が隠されていた。本に関する話題にはつい頬が緩むのだけれど、「背表紙の友」という言葉が床しい感じでいいなぁ。たとえそれが、男子中学生のよからぬ思いから来たものであっても…(ま、可愛いもんなんだけど)。

「終幕の風景」

変化はいつだって些細な事から始まるもの。常連客が香菜里屋で感じた違和感の正体とは? そして、工藤の店からタンシチューが消える。香月が語るに、工藤のタンシチューはただのタンシチューではない。それは二人がともに修行した店の直伝の料理。そこで起こった不幸は、工藤のその後にも影響し、工藤はタンシチューを作り続け、待ち続ける男となった。これに関しては、次の短編にも話が引き継がれる。

「香菜里屋を知っていますか」

この話では、工藤の姿が見えない。その代わりと言うべきか、他シリーズの登場人物たちが豪華メンバーで出演します。香菜里屋を知りませんか? その問いに答えるのは、一 雅蘭堂の越名集治、二 冬狐堂・宇佐美陶子、三 蓮杖那智。
蓮杖那智がラストを締める。香菜里屋は迷い家のようなものだったのかもしれない。山中で道に迷った旅人が、ふとたどり着く一軒の家。そこで渡された握り飯はいつまでもなくなることがなく、またその家から拝借した椀には、米が絶えることなく溢れるのだ。その話を聞きつけた他の人間が山中を歩きまわっても、決して見つからない、そんな迷い家…。
終焉はまた、開始への約束でもある。さて、香菜里屋は、工藤はどうなるのでしょうか。

■関連過去記事■
桜宵 」/広がる北森ワールド(≪香菜里屋≫シリーズ2)
螢坂 」/ビアバー≪香菜里屋≫にて・・・(≪香菜里屋≫シリーズ3)
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浅田 次郎

沙高樓綺譚 (徳間文庫)
(私が読んだのは、枝垂れ桜が表紙の単行本なのですが、amazonでなぜか文庫本しか出ませんでした)


お話しになられる方は、誇張や飾りを申されますな。お聞きになった方は、夢にも他言なさいますな。あるべきようを語り、巌のように胸に蔵うことが、この会合の掟なのです―。

女装の主人の声が、沙高樓の部屋に響く…。

名をなし、功を遂げた人々が、青山墓地のそばの高層ビルのペントハウスに寄り集い、口外出来ぬ秘密を暴露し合う。高みに登りつめた人々というのは、孤独なもの。誰にも明かせなかったことを暴露する得難い快感、また忙しいくせに退屈している人種には最高の道楽として、百物語にも似るこの沙高樓の集いは続いていた。偶然、この場に招かれたフリーライターが体験する、ある一夜の出来事。

「小鍛冶」は、刀剣鑑定の家元が語る、この世にあってはならない刀剣の話。妖しいまでの刀剣の美しさに惹かれます。

「糸電話」は、旧家に生まれた医師が語る、偶然の邂逅のお話。よーく考えると、ずーんと怖いお話。子供の頃の約束、軽い気持ちでたがえてしまったことはありませんか?

「立花新兵衛只今罷越候」は、撮影監督が語る、終戦後の映画に現れたある男の話。浅田さんって、新撰組絡みだけでも、ものすごい本数のお話を書いているような。また、実際の撮影現場では、こんなことがあってもおかしくはないのかも、と思わせられる。

「百年の庭」は、庭番をつとめてきた女が語る庭の話。これは怖かったなぁ。英国の貴族の館にすら、これ以上の名園はないという、軽井沢で一番美しい紫香山荘の庭。本来は、ガーデニングの女王にして、美貌の女主人が語る予定であったのが、現れたのは長い白髪をうなじで束ねた老婆。彼女の話は、まるで人間でないものが話しているようで…。人の世の苦労を知らずに庭は作れず、また憎しみの心を知らなければ、雑草をむしることはできない。そして、ガーデナーは天然を支配する神ではなく、天然に仕える僕、庭園の囚人である。

「雨の夜の刺客」は、三千人の子分を束ねるやくざの大親分、辰が語る、若き日の自分の話。これは切ない。日本が東京オリンピックを目指し、高度成長の波に乗った時代。地味な仕事に嫌気がさした、中卒で都会にやって来た少年は、あっさりとやくざの世界へと流れつく。さらに恩義を受けた兄貴分に、「筋の通らない」願いをされた辰は、淡い恋も置き去りに、にっちもさっちもいかない立場に追い込まれる。辰が語る金持ちと貧乏人の違いが痛いなぁ。それは、逃げ道のあるなしの差なのだという。逆らうことを忘れた者、それが辰の言うところのやくざなのだという。

いやー、こんな話をもし一晩で聞いたならば、ぐったりしてしまうこと確実のお話たち。不思議な話を聞くつもりが、人間のくらーい面まで、覗きこまされる感じ。じんわりとした毒のある物語でした。浅田さんって、こういうお話も書かれるのですねえ。

目次
小鍛冶
糸電話
立花新兵衛只今罷越候
百年の庭
雨の夜の刺客


*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。

■トラバが飛ばない「みすじゃん。」のおんもらきさんの記事にリンク
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メイヴ ビンチー, Maeve Binchy, ハーディング祥子
ライラック・バス
青山出版社

大都会ダブリンから、故郷の小さな町へと帰るライラック・バス。トムが運転するこのバスは、週末にのみいつも同じメンバーを乗せて運行している。こうして毎週末ラスドーンに帰る、運転手一人に七人の乗客。八人には、八人八様の事情がある。ある週末の出来事が、それぞれの口から語られるのだが…。

本の世界の迷子です 」さんの、こちらの記事(ライラック・バスに乗り合わせた人たち )に惹かれて借りてきました。

これ、良かったですー。派手さとか目新しさはないのだけれど、優しい筆致で語られる、普通の人々の普通の生活がじんわりと温かいです。

ケチんぼのナンシー、不倫の恋に苦しむディー、厄介事に巻き込まれているケヴ、ゲイの恋人を隠しているルーパト…。終盤を締めてくれるのは、ラスドーンの唯一のバーの女主人にしてアル中の母を持つセリア、拒食症の姉を持つ、ライラック・バスの運転手トム。家族についても考えさせられます。

やさしい伯父さんであるミッキー、自然食品のお店に入れ込んでいるジュディにも幸あれ!(でも、ジュディの行く道は大丈夫かしらん…。そこは行ってはいけない道~)

現代のお話だし、アンみたいにおしゃべりな人は誰もいないけれど、ちょっとモンゴメリの「アンをめぐる人々」を思い出しました。これ、アンはほとんど出てこないので、突出した人物はいないのだけれど、アヴォンリーの人々が主人公となった短編集。モンゴメリは短編も良いのですー♪

目次
ナンシー*Nancy
ディー*Dee
ミッキー*Mikey
ジュディ*Judy
ケヴ*Kev
ルーパト*Rupert
セリア*Celia
トム*Tom
 訳者あとがき
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