旧・日常&読んだ本log

流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。


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京極 夏彦
後巷説百物語  

此度、「巷説」の舞台となるのは、文明開化を迎えた明治初め。

主に出張るは、北林藩ゆかりのものども四人。
東京警視庁の一等巡査、後に不思議巡査こと矢作剣之進。
商社に勤める変り種、笹村与次郎。
旗本の二男坊、洋行帰りの倉田正馬。
道場主の剣豪、渋谷惣兵衛。

時代は幕末から明治に変われども、人の世はそう簡単に変わるわけではない。一等巡査、剣之進が持ち帰った「謎」を四人で捏ね繰り回し、捏ね繰り回した挙句に訪ねるは、薬研掘のご隠居、一百翁。

一百翁が語る昔の話は、現代の謎、事件に、ある見方を指し示す。あちらを立てればこちらが立たず、それを八方丸く治めるのは、小股潜りの得意技であったけれど、又一ほどでないにしろ、剣之進も不思議な事件専門の巡査、不思議巡査として名を馳せる様になる。

事件の謎解き、種明かしは、最初は一百翁と共に住む小夜のみに、後には一人、一百翁を訪なうようになった与次郎にも。謎自体も、徐々に又一たちの過去と濃密に絡んでくるようになる。又市の仕掛けは未だ生きていた!

さて、薬研掘に九十九庵なる庵を結ぶ一百翁とは、勿論、これまでの巷説シリーズで、又一たちと共に旅した山岡百介の後の姿である。

道を通せば角が立つ。
倫を外せば深みに嵌まる。
彼誰(かわたれ)誰彼(たそがれ)丑三刻に、そっと通るは裏の径
所詮浮き世は夢幻と、見切る憂き世の狂言芝居
身過ぎ世過ぎで片をばつけて、残るは巷の怪しい噂―。

そう、残るのは全て巷の噂、巷説のみ。
又市の百物語で幕を開けた「巷説百物語」は、百介による百物語でその幕を閉じることとなる。

思い出される昔は、全部お話
物語になった現実こそが昔
虚構(うそ)と現実(まこと)の真ん中辺りに、どっちつかずの場を作る
そうした呪術(まじない)が百物語

筑羅が沖、どっちつかずの世界に居続けた百介は、そして最後の居場所を見つけたのだろうか。

若き日の百介を見るような与次郎がいい。最後の仕掛けは、百介とこの与次郎が、互いにそれとは知らずに、仕掛けることになる。

小股潜り、御行の又市の「仕掛け」は、どこまでも抜かりがない。所詮、人の世は悲しいもの。だから、時に夢幻を見ることもある。そして、一度、夢を見せるならば、その裏にある現実(まこと)を決して見せてはならないのだ。百介の「世に不思議なし、世、凡て不思議なり」との言葉も胸に残る。

この「巷説百物語」シリーズは、最初の一作を読んだだけで長らく放置していたのだけれど、これは全三作を全て読まねば、立ち上がってこない物語でした。このちょっと悲しい余韻もいいなぁ。さっすが、京極夏彦!、という感じ。ああ、でも、記憶が新しい時に、一気読みしたかったよ・・・。

<以下、追記>
ちょっと、ん??、と思いながら読んでいたのだけど、やはり「五位の鷺」「風の神」で登場する由良家とは、陰摩羅鬼の瑕」で出てくる由良伯爵家だし、山男」に出てくるある神を奉じる集団とは、狂骨の夢」に出てくる宗教団体なわけなのね(金色髑髏!)。えーと、でも、臨済宗の高僧、和田智弁って誰だっけ? 「鉄鼠の檻」に、明慧寺の監院として和田慈行が出てくるのだけど、それと関係があるのかしらん?

世に不思議なし、世、凡て不思議なり」は、京極堂の「この世には不思議なものなど何もないのだよ」に繋がっていくのかな。いや、時代を跨ってまで繋がってるだなんて、ずるいよ、そして、上手すぎるよ、京極さん!

目録
赤えいの魚
天火
手負蛇
山男
五位の鷺
風の神


 ← こちらは新書。表紙は風の神?何ともユーモラスな表情だ♪

☆関連過去記事: 
「続巷説百物語」/御行奉為・・・

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡下さい。
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高市 敦広
人に育てられたシロクマ・ピース

私が「ピース」のことを初めて見たのは、テレビの中。帯に書かれている「NHKにんげんドキュメント」だったのかな。そこには、どこからどう見ても、ぬいぐるみのようなシロクマがいて、もこもこのたのたと動き回っていた。

これは、愛媛県立とべ動物園飼育員の高市さんが、ホッキョクグマ・ピースを人工哺育で育てた、その日々の記録。

ホッキョクグマの日本での人工哺育の成功例はほとんどなく、ミルクから何から、何もかもが試行錯誤だったのだとか。

日本でのホッキョクグマの人工哺育最長記録を更新しているものの、実はこの高市さん、特に特別な道具、高価な道具を使っているわけではないんだよね。全ては愛情の賜物という感じ。まさにピースのお母さん!

ダンボール箱の中に入れたピースとともに、奥さんと子供二人と住むアパートと動物園を往復する日々。勿論、アパートはペット禁止であるからして、ピースとともに駐車場から家までの道を走るときは、いつもハラハラドキドキのし通しだったそう。

成長すれば優に200キロを越す巨漢になるけれど、生まれた時は700g前後のホッキョクグマ。妊娠期間は約二ヶ月で、出産時期は11月、12月、1月の三ヶ月に限定されるのだそう。これは、妊娠したメスだけが、巣穴で安全に子育てをするために、”冬ごもり”をするため。この”冬ごもり”は、三ヶ月から半年に及ぶ。この”冬ごもり”のために、メスのホッキョクグマは、体内に浮遊卵を抱えながら、交尾から着床までの時間をうまく調整するのだそうだ。

高市さんも、ピースの母親代わりとして、ピースに付きっ切りの、ほとんどこの”冬ごもり”のような日々を過ごす・・・。

てんかんの持病があるピース。どうか長生きして欲しいと思う。大人になって顔も長くなって、優美な感じのピースもいいけど、何といっても、ぬいぐるみのような、もこもこのピースが可愛い! 高市さんとこの子供二人とのスリーショットでは、末の妹は実はシロクマなんです!、という感じ・・・。

目次
第1章 ホッキョクグマのお母さんになる!
第2章 ピースがわが家にやってきた
第3章 110日目の別れ
第4章 ピースの性格を理解する
第5章 氷のバースデーケーキ
第6章 ピースは家族の一員
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近所の本屋で、今、バーゲン・ブックをやっているのです。
そこで見つけた、「英国短編小説の愉しみ」シリーズ。これ、お買い得だよな、きっと。
   

西崎 憲

英国短篇小説の愉しみ〈3〉輝く草地



その他、新聞広告で見て、気になった本の覚書き。

浅田 次郎
中原の虹 第一巻

名作、『蒼穹の昴』から十年。
春児が、西太后が、還ってきた
」だそう。全四巻で、完結予定は2007年とのこと。
もう一度、春児(チュンル)に会えるだなんて!

トルーマン・カポーティ, 安西 水丸
真夏の航海

こちらは、「カポーティ幻の処女作」とのこと。
映画「カポーティ」も気にはなるのだけど、あれは単館上映なのかな。

うー、気になる本は沢山あれど、時間には限りがあるわけで。悩みますな。

京極堂シリーズ、最新作、邪魅の雫」も手には入れることは入れたけど、これ、読めるのいつになるだろ。汗 (でも、これ、京極夏彦全作品解説書」が付いてまして、ファンには嬉しいですよー)
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J.R.R. トールキン, J.R.R. Tolkien, 田中 明子
ブリスさん  

「サンタ・クロースからの手紙」 と同じ、評論社からの出版。「サンタ~」は落ち着いた緑、こちら「ブリスさん」は茶色の表紙。教授直筆の絵や文章で綴られる美しい本という点でも、「サンタ~」と「ブリスさん」は似た作りの絵本。

彼の名前は強いて訳せば、「しあわせさん」になるとのことなんだけど、ブリスさんはある日、銀一色の素敵な自転車に乗って、自動車を買いに行く。その車は、中も外も目も醒めるような黄色で、車輪は赤! (表紙の感じだと、「目の醒めるような」って感じでもないけどね)

さて、車を手に入れたブリスさんは、知り合いのドーキンズ兄弟を訪ねる事にした。しかし、自動車の運転に不慣れなブリスさんは、この先、珍道中を繰り広げる事になる。

まずは、手押し車一杯にキャベツを積み込んだデイおじさんを引っ掛け、次に荷車いっぱいのバナナをロバに引かせた、ナイトおばさんを引っ掛ける。こうして、ブリスさんの車には、デイおじさんにキャベツ、ナイトおばさんとバナナが乗り、更に車の後ろにはロバを繋ぐことになる。

でも、まだまだアクシデントは終わらない。森の中の道を通ったブリスさんが、次に会うのは、アーチィとテディとブルーノの三匹のクマ。クマたちは、バナナやキャベツ、ロバや自動車が欲しいというけれど・・・。

結局、全員でドーキンズ兄弟のところに行く事になったブリスさんたち御一行。勿論、その登場の仕方も、普通に玄関から「こんにちは」なんていうものではない。きれいな敷物の上でピクニックをしていた、ドーキンズ兄弟の上に、皆でドーーーン!

繰り広げられるドタバタ劇が面白い絵本。

ブリスさんが村の人たちに内緒で飼っている、キリンウサギも魅力的。
キリンのなが~い首を持つ、ウサギなのです。珍道中の最中には全く出てこないので、 最初に出てくるだけなのかなぁと思っていたら、最後には色々と重要な役割を果たしていました。いっちばーんラストの絵は、村の子供たちがキリンウサギの首にそれぞれ結わえた紐を持ち、メリーゴーランドのように楽しそうにぐるぐる回っている。それを見つめるブリスさんの心中は如何に?(大冒険の後の、穏やかな心地なのかしらん)
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福田 俊司
シベリア動物誌

とら さんに、虎の素晴らしさを諄々と説かれたせいか、何だか気になるようになってしまった「虎」という動物。というわけで、今日は表紙に惹かれて借りてきた、こちらの本。なかなかの迫力でしょ?

とはいえ、この本が追うのはあくまでシベリアの動物たち全般であって、全てがトラに割かれているわけではないんだけど。でも、「カラー版」だけあって、もくじにあるような動物たちの美しい写真が沢山載せられ、楽しんで読むことが出来た。

迷彩効果を実感できるトラの写真(あんなに派手な模様なのに!)、「世界で初めて撮影された」という夏の野生のシベリアトラ、木に駆け上がったトラ(なんとその高さは6メートル!)、とても美しいアムールヒョウ、オットセイとトドで埋め尽くされた海岸、カルデラ湾を持つ島(カルデラ湖の一部が海と繋がっている)、ユーモラスな表情の海鳥たち、ヒグマがベニザケを食べる瞬間、圧倒的迫力のレナ川の解氷、セイウチとホッキョクグマのたたかい、などなど、動物たちだけではなく、シベリアの風景もまた魅力的。

こんな魅力的な写真が沢山撮れたのには、一緒に取材をしたロシアの人々のお陰もあるらしい。
彼らとのエピソードも、また楽しい。

目次が五つに分かれているのは、シベリアを五つの地方に分け、それぞれ代表する動物を紹介したからとのこと。ちなみに、ロシアではウラル山脈からバイカル湖までを「シベリア」とするそうなのだけど、海外ではバイカル湖以東の極東も含める場合が多いそう。日本もこの「海外」に含まれるので、この本もそれに従ったとのこと。

もくじ
はじめに
1 タイガにシベリアトラを追う
2 海獣王国―千島列島とサハリン
3 ヒグマ王国―カムチャツカ
4 冬鳥の故郷―ヤクート(サハ共和国)
5 ホッキョクグマのハンティング―ヴランゲリ島
おわりに
参考文献
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ブログ開設以来、約一年半、ずーーーーーーっと青!を通していたのですが、いい加減飽きたのでスキンを変更いたしました。

しかし、今って、CSSの編集って出来なくなっちゃったんですねえ。

リンクの色が気にくわないので、変更したかったのになぁ。

にしても、アメブロがこんなに重い時にやるのではありませんでした。笑

いつか、軽くなるのでしょうか・・・。
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リチャード ミドルトン, Richard Middleton, 南條 竹則
幽霊船  

リチャード・ミドルトンは、夢を持ち、詩を詠み、散文を書き、極少数の篤い友情に恵まれたけれど、その生涯は不遇の作家だったという。
「幽霊船」による成功の直前、二十九歳の誕生日を迎えてまもなく、異郷の地、ブリュッセルの下宿で自殺を遂げた。

これは、そんなミドルトンがものした、スケッチのような小品集。

最初の「幽霊船」から、徐々に不思議の占める割合は薄くなり、「ある本の物語」辺りからは、世界はほぼ現実に着地する。実際に刊行されたものから、訳者の南條さんが順序を大きく変更したとのことであり、これも関係しているのかな。

特に好きだったのは、不思議系では「幽霊船」「奇術師」
現実系では「新入生」「大芸術家」

「幽霊船」
:ある嵐の日、フェアフィールドの村のかぶ畑に、幽霊船が座礁した。半幽(はんばけ)に見える船に乗った、バーソロミュー・ロバーツ船長が言うには、少々港の奥に来過ぎたようだけれど、彼らは人員補充のために立ち寄ったとの事。ここは海から50マイルも先だってのに!

フェアフィールドは不思議が満ちる村。大抵の事では驚かない村人達と、共に暮らすのはご先祖の幽霊たち。ところが、この幽霊船がやって来てから、大人しく上手く共存していた幽霊たちと村人達との仲がおかしくなり・・・・。

なんてったって、かぶの畑に乗り上げた船、という設定がいい。どこかの田舎町には、こんなことがあるのかもね。船が去って以降も、このかぶ畑で取れたかぶは、ラムの味がするってことだ。

「奇術師」
:奇術師が行った、オーディションを兼ねた舞台上のトリック。
観客は大受け、興行主も大喜びだけれど・・・。

「新入生」
:他の男の子達とは違う事に悩む繊細な少年。
イギリス版、「銀の匙」(中勘助)といった趣き。

「大芸術家」
:夢を持ち、自負を持ちながらも、倒れゆく芸術家。
芸術家の胸にぽっちり灯った希望が切ない。

全編、程よい感傷と、疎外された感受性と、それでも尚強い自分の中での自信のようなものを感じた。

目次
序 アーサー・マッケン
-----------------
幽霊船
ブライトン街道で
羊飼いの息子
棺桶屋
奇術師
逝けるエドワード
月の子たち
園生の鳥
誰か言ふべき
屋根の上の魚
小さな悲劇
詩人の寓話
ある本の物語
超人の伝記
高貴の血脈
警官の魂
幼い日のドラマ
新入生
大芸術家
雨降りの日
-----------------
解題
ミドルトン小伝
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彼岸花の鮮やかな赤が目に飛び込んでくる。



彼岸花と猫。彼岸花と猫じゃらし。


猫じゃらしさわさわ、彼岸花ゆらゆら。


これはどっちが主役なのだ? 白いのは花開いているのかしらん。


行儀良く整列した羊のような今日の雲。
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杉浦 日向子
呑呑(のんのん)草子

杉浦日向子さんが、「週刊現代」編集者、ポアール・ムース・モリヤマ嬢(文中、「ポ」)と、取材を重ねた二年間のお話。「取材」といっても「呑々」というタイトルが示すとおり、それは決して堅苦しいものではない。

呑々は、雑文中の雑文を目指すもので、起承なければ転結もなし。いつでも単なる思い付き。ちっちゃなネタで、たっぷり無駄口。スナワチ、塩嘗めて一升、をその極意と奉じる所存である。ウカとかかわったが御身の悪縁、のんべんだらりをズブロクときこしめせ。                            (p140より引用)

ってなもんである。

その「思い付き」は実に多岐にわたり、新宿から高速バスで福岡へ向かい、そこから更に鹿児島へ。そのまま東京にとんぼ返りする「トライバスロン」や、秋は月見だ!で、場所も知らなかった「炭坑節」で有名な三池炭鉱に行ってしまったり。
また、バブル期ならではとでもいいましょうか、エグハデ・ハイレグ水着で都心のプールへ行ってみたり、ジュリアナに行ってみたり・・・。
その「思い付き」は、とっても酔狂なものだと言える。

でも、この杉浦さんとポアール・ムース嬢がとってもいいコンビでね。行く先々で、ぐいぐいと気持ちよく盃を乾し、粋な食を楽しむ。当時まだ若い編集者だったらしい、ポ嬢に対する、杉浦さんのお姉さんぶりが、いい感じ。テーマに関連する杉浦さんのマクラもまた楽し。きのこ、菌類に対する愛なんぞは、ちょっと意外な感じもする。

俄然筆がのってる感じがして可笑しかったのが、男性の裸関係二本。笑

「オトコのチクビ」で読むは、次の一句。

 胸板に晒乳首が生きて来る (ヒ)  : 飛騨古川の奇祭「起こし太鼓」にて

「尻遍路」では、マクラの江戸言葉のお話が面白かった。江戸言葉では「むっくりとしたいい男」というのだそうな。外見で言えば、中肉中背やや固太り、かつまた色白できめ細かい餅肌、顔は大きめ、こざっぱりした造り、胴は長め。また、「むっくり」には、些事にこだわらぬ、さばけて温かみのある男気をも含むのだそうな。で、こっから、「むっくりとしたいい男」の褌姿(!)に話が繋がるのですな。

その他、ふーむと思ったのは、編集者の仕事を取材した「ポのシゴト」。これまたマクラが面白くてですね、版元のシゴトには作家をその気にさせて、約を取り付ける「前段階」への労力があったということ。二百年前、江戸の作家は我侭な天邪鬼だった。彼らの大半は、筆による稼ぎなどを当てにしない、別に正業を持つ身であり、いわば旦那の片手間の執筆。純粋な職業作家の登場を待つ前には、まさに片手間の彼らを「その気にさせる」事に、労力の大半が払われたわけ。

未だに、作家と編集者の仲の良さが不思議だったりしたのですが、こういった伝統が連綿と受け継がれているのね、と思うと何だか納得するのでした。

ま、この「呑々草子」もその気にさせる編集者や、お足を出してくれる版元あってのものなのかもしれませんが。

軽快な文章ではないので、読み易いわけではないんだけど、粋な文章にうっとり、文中から立上るお酒にくらくらの一冊。

いやー、久々に日本酒が呑みたくなりましたですよ。私は蕎麦を食べられないんだけど、池波正太郎を引くまでもなく、蕎麦屋で一杯は、やっぱり粋な大人のイメージであって、一つ損をした気がするなぁ。杉浦流の蕎麦の食べ方も載ってます。

目次
巻の一 仮想正月
巻の二 ちんかも伝説
巻の三 ひねもすのたり
巻の四 東京干物
巻の五 東京だよオノオノ方
巻の六 オトコのチクビ
巻の七 トライバスロン
巻の八 なつかし狩り
巻の九 悲しき肉塊
巻の十 月が出た出た
巻の十一 感傷海峡
巻の十二 ポのシゴト
巻の十三 新酒三昧
巻の十四 ジュリアナじゃ
巻の十五 ラッキョ男のキス
巻の十六 尻遍路
巻の十七 理由なき酩酊
巻の十八 隠居志願
巻の十九 さぬきにはまる
巻の二十 元気なやつら
巻の二十一 花火と寄生虫
巻の二十二 なにわ蝉しぐれ
巻の二十三 ベニテントリッパー
巻の二十四 裸の最終回

← こちら、文庫。枡酒に仲良く漬かってますね。笑
               そう、お風呂にも良く入っているのです。

*臙脂色のの部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。
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町田 康
屈辱ポンチ

目次
けものがれ、俺らの猿と
 Getting wild with our monkey.
屈辱ポンチ

初読みの町田康氏。心配していた、噂の饒舌な文体は、さほど気にならず、というか面白く楽しんで読むことが出来ました。でも、なんか、楽しい「だけ」だったんだよなー、これ。ううむ、他の作品も読んでみなくては。

図書館にあったので、適当にこの本を借りてきちゃったんだけど、町田氏の作品の中では、これってどういう位置づけなのでしょうか。

二本立ての「けものがれ、俺らの猿と」は脚本家の「俺」、「屈辱ポンチ」はバンドマンの「俺」が主人公。主人公に共通しているのは、おかしな立場、にっちもさっちもいかない立場に追い込まれても、へらりへらりと何となしに流れていくところ。いや、そこ流されちゃダメだろ!、って場面においても、彼らはきっちりと流される。

表題となっているのは、「屈辱ポンチ」だけど、紙面のボリュームとしては、「けものがれ、俺らの猿と」の方が全然長い。

「屈辱ポンチ」ではバンドマンが主人公となるからか、何となく大槻ケンヂを思い出し、また、全編においてはそこはかとなく含羞が仄見えることから、中島らを思い出しました。大槻ケンヂは昔々の「ダ・ヴィンチ」の連載で読んだだけであり、彼の方がもっと真面目だとは思うけどね。

とんでもないことをやりながら、また流れに流されておりながら、どこかに含羞が残る男たち。饒舌な文体と、それに似合わぬ奥ゆかしさのようなものが、町田氏の魅力かしらん。

文体で言えば、「けものがれ、俺らの猿と」の、爺さんプロデューサー、椿山の「~でござあした」という話し方や、「おほほほほほ」という笑い声が、何となく頭を離れない・・・。あとは、あれですね、ここで湧く様な虫は勘弁願いたいですね・・・。肉食虫が跳梁跋扈する家なんて嫌だよー。体長2センチメートルほどの虻と蜂の合いの子のような真っ黒で奇怪な虫、ですぜ。あな恐ろしや。

 ← こちらは文庫
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