包丁研ぎ師月山の包丁研ぎ磨ぎブログ

人として包丁研ぎ師としての日常や発見、気づきなどを書いています。

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以前に名古屋砥泥会でもベタ(フラット)な切り刃の剃刀の研ぎが話題で、私も触らせていただおております。

前回のブログで両刃のベタ刃剃刀を巣板仕上げという内容で書かせていただきましたが、実は巣板だけでは研いでいないのです。

今回剃刀研ぎ名人かずかずけん氏に一度切れ味を見ていただかなくては公表するのは問題だろうと考えておりましたが、氏と2日にわたる話し合いと顕微鏡での研究の結果、研ぎ方を載せさせていいとの回答をいただきましたので載せさせていただきます。

ただ載せる研ぎ方はあくまでこんな研ぎ方と研ぎの考え方があるのだという参考になさってください。



さて剃刀をろくに使えない私がどのような切れ味に仕上げ、またどのようなに研げばよいのか悩みました。

結局何を元に研ぎ、切れ味を出したかと申しますと庖丁です。

庖丁の切れ味の研究を料理人としており、また毎回の研ぎで庖丁の刃先を確認している経験を剃刀に転用できないかと考えたのです。



まず髭とはどんなものなのかと調べることから始めました。

以下カミソリ倶楽部より転載

髭は、硬い毛とうぶ毛の2種類あります。
硬い毛の太さは、直径0.1~0.23mm。
色素を有する柔軟な毛皮質のまわりを硬いウロコ状のキューティクルが取り囲んでいます。
またうぶ毛は硬い毛の間に、色素に乏しい直径0.01mm程度のごく細いうぶ毛が分布しています。
髭は24時間に平均0.4mm程度の速さで伸び銅線と同じ硬さがあります。

だそうです!!

強敵ですね(笑)

※私があまり0.01mmなどの表記が好きでないため、ミクロン(1000分の1mm)表記で書かせていただきます。



包丁と砥石大全にも書いたのですが、刃物には限界角度があると考えています。

刃物の限界角度とは、刃物を研いだ際に刃先の状態がのこぎり状に欠けてしまう角度をさしており、刃物を作る硬さや粘り、本来持った鋼材の性質によってこの角度は変わると感じています。

限界角度を越えた刃物の刃先↓

 

刃先がのこぎり状に欠けているのがわかるかと思います。

包丁ではこうなる別の要因として研ぐ方向も大きく影響するのですが、力の入れ具合によっても欠けを発生させます。

しかし方向や力に注意し時間をかけて研ぎ込むときれいに研げるケースはあるのですが、使ってみるとその刃先には硬さがないため、すぐに切れなくなることもあるのです。

上の写真ですが、刃先ののこぎり状の山は約50ミクロンとなり、カミソリ倶楽部さんの説明にある太い毛の太さは100ミクロン~230ミクロン、うぶ毛は10ミクロンになるため、角度を間違えてのこぎり状に研いでしまっては切れなくて当然というわけです。

銅線と同じ硬さがあり、切れ味が悪いと逃げてしまう髭ですから、刃先に硬さがある状態で、うぶ毛も含めた毛を切れるようにするためには10ミクロンよりはるかに細かい刃先を作ることが剃刀の切れ味を出して使えるようにする最低条件だと考えました。

大体白紙系統の刃物の刃先を毎日見ていますと大体3~5ミクロンほどではないかと感じており、そうなると10ミクロンの毛を切ろうとすると、欠けがない、刃先に炭化物のみが並んだ状態にしなければならないと考えられます。



まず研ぎ初めにしっかり形を作ることから始めました。

3トンのプレスで固め焼いたビトリファイド製の非常に硬い#1000でスタートです。

 

この砥石の非常によいところはまず白いことです。

シャプトンの刃の黒幕などのマグネシア製法の砥石は研磨力を感じる良い砥石ですが、研いだ部分に黒い色が残らないので、精密な研ぎをしようと思うとどれくらいで砥石が凹むかを理解していないと研ぐのが難しい砥石になります。

しかしこの砥石は真っ白であり、ビトリファイドの砥石の硬いものの特徴である研いだ跡が残るタイプなため、どこが使われていて、どれくらい凹んだのかがわかりやすいのが便利です。

 

当然黒さが増していけばそれだけ使ったことがわかり、またどこが当たっていてどこが当たっていないかが一目瞭然です。

剃刀に限らず精密な研ぎはもちろん、形の修正にもよいと感じています。

PEAK300倍の写真↓

 

岩崎航介氏の本でも出てくるようですが、刃物を刃先を見るにはやはり300倍が良いと感じております。

なぜなら100倍では刃先の形状がよく見えないからです。

同じ#1000の簡易顕微鏡100倍↓

 

もちろん顕微鏡の精度やライトの加減が見え方に大きく影響するのですが、それでもこの写真では刃先が非常にきれいに見えてしまいます。

剃刀の全体を見るのであれば別ですが、刃先の形状を見る際に顕微鏡を使用されるのであれば300倍をお勧めします。



これらの写真を拡大して見たところ、刃先ののこぎり状の山は約30ミクロンほどですからやはり切れません。

この砥石のあと同じ真っ白な#3000の砥石で傷を浅くします。

研磨力が高い巣板であればそのまま#1000の移行でも問題ない場合がありますが、今回使用する巣板は少し研磨力が低めなので#3000を挟んでいます。

#3000も作業は同じなので割愛させていただきます。



次は巣板です。

今回使用したのは卵色巣板巣なしのツルツルの砥石です。

 

巣板の面白いところは砥泥が出るとすごい研磨力を発揮しますが、ものによっては撫でて砥泥をあまり出さずに研いでいると滑らかで滑走感があるものがあります。

癖がある砥石は評価されなかったり、慣れるまで難しく感じたりしますが、使いこなすといろんな使い方ができる砥石もあります。

この砥石は不思議と硬さは硬くないのにもかかわらず、ダイヤモンド砥石で面直しをしてもなかなか削れません。

研磨成分の質が少し通常の巣板と異なるのかもしれませんね。

卵色巣板巣なし↓

 

ここで#3000の傷を消せたら、剃刀砥に移ります。



上の写真を見るとまだ刃先が荒れているのがわかりますでしょうか。

この状態ではところどころに15ミクロンほどの欠けがあるため、まだ切れ味は良くありません。

そこで剃刀砥の出番です。



通常はここまでの工程で行った研ぎのように研ぎ刃線を揃えていきますが、時間がかかったり、角度が限界角度になっていると欠けてしまい切れるようにならないケースが出てきます。

またこの剃刀は通常の剃刀とは異なり、切り刃がフラットなため、鋼と地金の硬さの違いからそのまま力を抜いて研いでしまうと地金だけが研げて鋭角になり刃先が研げないということも起こりえます。

そこで剃刀砥に対してベタっと付けて研ぐのではなく、さらに角度をつけて研ぎます。

角度は30度以上で、3cmほどの距離を砥石に対して刃先を進入される方向にブレない範囲で力をできるだけ抜いて研いでいきます。

イメージは庖丁の糸刃を付ける糸引きですね。

またこれが大切なのですが、往復をしないことです。

これはかずけんさんもおっしゃっていましたが、往復するとムダ刃が発生しやすく、私も良い切れ味が付きにくいと感じます。

ですから砥石に対して刃先から進入させる方向にのみ研ぐのです。



庖丁や今回の研ぎ方は特にガイドもなくフリーハンドで研ぐため、往復する際の行帰りで止まる瞬間に手ブレによる刃先へ圧がかかるのではないかと感じています。

庖丁の場合この欠けは引っかかって切れるのではと思いがちですが、この小さな欠けが全体にあると意外にも切れ味は完全に揃ったものほど良くないことがわかっています。

そして出たかえりにも注意が必要で、大きくかえりを出すと処理する際にかえりに刃先を引っ張られて欠けを生じさせてしまうことがあるように感じます。

これらを回避する研ぎをするためには刃先側から砥石へ進入させる研ぎがよいと思いますが、それをするためには軟らかい砥石では砥石に刃先が食い込んでしまい刃を痛めてしまうため、結果的に非常に硬い砥石が必要になると思います。


刃先のみを角度を付けて研ぎ、刃線を揃えた写真↓

 

欠けていた部分がなくなり、刃線が揃ったのがわかりますでしょうか。

そのあと巣板で角度を付けた部分がなくなるように裏表両方からベタ研ぎで仕上げます。

仕上がり↓

 

上の写真との違いがわかりにくいですね(^_^;)

刃先が光で反射してしまうため角度がついているように見えてしまいますが、このちらの写真は角度をつけて研いだ部分がなくなっています。

ちなみにこの状態でかずかずけん氏にチェックをしていただいたところ、両刃のベタならOKでしょうという回答でした。

私としては切れ味は良いと思っていましたが、何故かずかずけん氏の回答の歯切れが悪いかが翌日わかることになります。



昔から理容業界では剃刀をラッピングをするのが当たり前で、かずかずけん氏もラッピングを勧めていらっしゃいます。

しかし私はラッピングを仕事としての効率のために編み出された技法であり、しなくても頑張れば切れるようにできると思っていました。

しかし今は天然砥石だけでの仕上げではラッピングをした切れ味を出すのはなかなか難しいと感じます。

かずかずけん氏がラッピング道具を作ってくださったのでラッピングをやってみてたのですが、明らかな切れ味の違いを体感しました。

顕微鏡を覗いてわかったのは刃先の形状の違いです。

巣板仕上げ→ラッピングの写真↓

 
  
刃先を見ていただきますと表面に小さな粒状の炭化物があったのがラッピングの写真にはなくなります。

実際の肉眼で見たものと写真では違いが出てしまい見えにくくて申し訳ないのですが、刃先に並んでいた炭化物もなくなっているのです。

ラッピングの効果は刃先の炭化物の粒で形成された波刃を削り、まっすぐな凹凸が全くないものにすると考えられます。
※球状に近いであろう炭化物が刃先で整列している刃先は、先程までののこぎり状の刃ではなく波刃になっていると考えられます。

また鋭さを増した切れ味の理由も、ラッピングにより炭化物が削られたため刃先の頂点は三角形となっていることが予想されます。

天然砥石は炭化物が刃先にくるため球状の刃先となっていると考えられ、ラッピングした方がより鋭利になっているのではないでしょうか。



実際火曜日の夜と水曜日の夜に剃り比べをしましたが、ラッピングした方はかなり切れ味が良く顔が輝きます!

しかし本当に一皮剥けたような仕上がりで肌が痛いことはないですが、剃り感も剃られ感も強いように思います。

また長く切れ味が続くのかが疑問です。

ラッピング自体が切れ味が少し落ちた時点ですぐに最高の状態に復活させる良い方法だと思いますが、裏を返せばラッピングをしたらラッピングで繋いでいかなければ持続しかない刃先しか得られない可能性も考えられます。

それは硬さや強度を炭化物が担っている可能性があり、それを削ってしまうからです。

逆に天然仕上げは肌への当たりは優しいのですが、確かに切れ味に不満を覚えますね。

特に下唇の下の毛がなかなか剃れません(笑)

ただ炭化物が硬さや強度を担っているのであれば、天然砥石の仕上げでは炭化物が削られていないので比較的長く切れ味が続く可能性はあります。

ですから両方兼ねあった刃付けがいいです(笑)

ラッピング仕上げの後に天然を使うなど、ラッピングと天然砥石の研ぎを上手く組み合わせる方法がその兼ねあった研ぎになるのではないかと感じます。



ラッピングの方向ですが、かずかずけん氏に作っていただきました道具を使って試したところ、かずかずけん氏に言われたようにほぼ平行に近いVの字で研ぐと刃線が簡単に揃うことがわかりました。

 

意外にもたっぷり青棒を塗った状態擦ると写真のような刃先にすぐに変わります!!

ただ真横に擦るとやはり刃先に力がかかるためか欠けが多くできたので、擦る方向にも注意が必要ですね。



今回剃刀を研いで、研ぎ方法によって得られる刃先の変化やラッピングと天然砥石での仕上がりの違いを学びました。

またその利点と欠点がわかることで、新しい研ぎ方も生まれたと感じています。

今回得られたことを庖丁に転用して実験をしていますが、今までより切れ方にかなり幅を持たせることができるようになりました。

ただその刃先が庖丁に適しているかどうかはまだわかりません。

一瞬の切れ味よりは切れ味の持続の方が、仕事として研ぎをしている上では価値が高いと感じるからです。

ちなみにこの青棒を過度に使ったラッピングは庖丁には合わないと思うのでご注意ください(^_^;)
また庖丁以外の刃物を研いで気づきを得たいですね^_^
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