リウマチと診断されて47日目。

夜中まで話をしました。
3時間の長い長い会話。
S樹くんとの約束の電話は、最初から最後まで緊張しっぱなしでした。


私もそうでしたが、S樹くんも切り出しにくいのか
はじめの1時間は他愛ない世間話でした。

そして話が途切れ、沈黙がその場の空気を包んだ時、


「あのなあ…。この前の、返事なんやけど…。

「あ、はい。どうぞ。」


一瞬、お互いに緊張の糸がピンと張りましたが、
意外にも私はあっさりとしていました。


「おれなあ。お嬢のこと、まだ、よくわからへんねん。」

「えっ?わからない?」



「うん。まだわからへんねん。」

「こんなに長いお付き合いなのに?」


私には彼が何を言っているのかよくわかりませんでした。


「一緒に1年間勉強したくらいの付き合いやんか~。
 だからなあ、一緒に生活したりとかって、全然考えられへんねん。
 お嬢がどんな人なのかも、よくわからへんねん。」


とても不器用でしたが、
10分ほどしゃべり続けた無口な彼の一生懸命さは、
私によく伝わりました。

私は、そのひとつひとつの言葉(心)をのみこんだ後、



「ありがとう…。一生懸命考えてくれて。
 こんな私のために、大事な時間を作って、一生懸命考えてくれて。
 本当にありがたいよ。」

「こんな私のためにやなんて…そんなことないよ。」



「いや、そんなことあるよ。
 私、S樹くんと久しぶりに会って感じたことを言ったじゃない。
 そばにいて欲しいって思ったって。」

「ああ、う…ん。」



「あれからね、私、なんてこと言ったんだろうって思ったんだよね。
 まさか、S樹くん、プロポーズなんて言うもんだから、
 私正直、そこまで考えていなかったから、ちょっとびっくりしたのね。」

「えっ?そういう意味じゃなかったの?」



「ああ、いいのいいの。
 そういう意味ってことだよね。
 私が意識してなかっただけで、そうなんだって気付かされたんだと思うから。
 でもね、とってもすっきりしたのよ、私。」

「すっきり?」



「うん、すっきり。
 自分の気持ちを口に出して言うなんてこと、できなかったから、
 それができたことがとてもうれしくって。」

「そうか~。」



「でも、それと同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになっちゃって…。」

「どうして?」



「私、今、お料理も全然できないんだよ。包丁だってもてないし、
 座る時も立つ時も、ゆっくりとしか動けないし、
 自分の顔だって、おでこまでさわれないし…。

 こんな人をお嫁さんにしたら、苦労ばかりさせてしまうって思ったし、
 普通だったらそんなことまで考えなくて良いのに、
 真剣に考えてくれているんだと思うと、
 申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまって…。」











「いいんだよ。そんなことは。」


「えっ?」


「いいんだよ。病気だってことは、全然関係ないんだから。」


「そうなの?」





「それより、お嬢という人がどんな人なのかが大事なんだよ。
 おれはそれを知らなくちゃいけないんだな。」

「そうなんだ…。」




「うん。そこが重要だね。
 だから、お互いを知る必要があるよね。
 でも…、俺って、お嬢も知ってる通り、とっても無精だからさあ。
 それでいつも駄目になるんだよね。」


「そうねえ。確かに、昔っから無精だもんね。
 今の今まで、連絡ひとつよこさずに、突然現れるくらいだからね。」

「そう言わんでくれやあ。」



「みんなとは連絡とってるの?」

「いや、とってない。」

「みんな、どこにいるか知ってるの?」

「……いや、知らん…。」



「あれまあ、困ったもんだ。」

「そやなあ…。」



「じゃあ、私たちは、これからお互いに
 知り合っていけば良いってことだよね。」

「そういうことやな!」



「そしたらね、んーーと、
 あのね、改めて言います!」

「はい。」




「えーっとね、んーとね……」

「な、なんやあ。なんか緊張するなあ。」



「そう…だね。
 んーとね…………、

























 私と……
























 お付き合いしてくださいっ!!!」

「ええでぇ~。任せときや~。」



あはははははははははははは!



二人は大笑いをしました。
それからまた、他愛ない話を一時間ほどして
電話を切りました。


「体に悪いから、はよ寝らなあかんよ。」

「うん。ありがとう。」


「メール、返事せーへん時は、催促メールしてなあ。」

「うん。わかった。無精だからね。」




私は楽しかった。
茶番かもしれないけれど、心が弾みうきうきするほど
私には十分楽しかったのです。

何かひとつでも、心が潤うものが欲しかった。
そしてそれに心を寄せていたかった。
そういう私の心の弱さが表れたS樹くんとの時間でした。


奇跡をおこそう!-満月の月