十七歳!!!二十七話

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 京都の町をぶらついてみると、やはり人が蟻みたいにうじゃうじゃいて、それにバスやら車やら人力車やら原付やらが、慌ただしく道路を走っていた。



 とりあえず、明日の祇園際に向けて、今日一日何とかして潰さないといけない。あとお金は一万円ちょっとあるだけで、食料はあるけど、水は買わなきゃだし、あと、出発したときからずっと同じ服だから、少し黄ばんできてるし、べとべとするし、汗臭いから、パリッとした新品の服が着たいし、あと、このキナ臭い体を何とかしたかった。あとはできることならふかふかのぽよぽよに体を埋めさせて寝たかった。



 たった2日間の旅で僕は、挙げればきりがない程あと、あとって、欲求が発生していることに気づいた。そりゃあ金持ちの豪華旅行だったら毎食美味しいもん食べて有名な観光地に行っちゃったりして、買い物なんかもして、最高級のホテルに泊まってみたいな感じだけど、極貧で若いってだけが取り柄の僕らには、あとお金がいくらあって、今日は泊まれそうな公園があるのかとか、できることならお風呂に浸かって、あ~極楽極楽なんて言っちゃったりしたいけど、今はそんな最低限度の欲求すら叶えられそうにない僕らはとりあえず、今日眠れそうなところだけは探そうと決意した。



 ここらへんの道は何一つ知らない僕らは、適当にぶらぶらと歩いた。まだ昼の三時だし、明日までは結構な時間があったから、とりとめもなくぶらぶらと歩いた。すると、近くに少し古びた昔ながらの銭湯があった。僕はその姿を捉えると、今さっき封印したばかりの欲求が、やあこんにちは、と僕の横に現れていた。そんな素直に欲求が出てきたんじゃあ、公園の水で体を洗うなんてしょぼいことはできやしない。



「先輩、銭湯行きましょう」

「体べたべたしてるしな」

 先輩もお風呂に浸かりたかったみたいだ。

「では、行きましょう」

「ちょっと待て、お前お金あったっけ?」

「へっ?」

 この言葉ひとつで先輩と僕の主従関係はすぐにできあがる。

「お~か~ね~」

 嫌みったらしく先輩は言いやがった。ただ、今はお風呂に入るためなら僕はウンコをしたあとの、それも下痢気味の時のおケツでも躊躇なくふくだろう。僕はすかさずいつものように先輩にべったりとくっつき取り入った。

「わかった、わかったから離れろって!べたべたするから!」

「あざーす」

 というわけで、銭湯に入った。



 お金を払い中に入ると、僕と先輩はすぐさま裸になり、体も洗わず湯の中にダイブした。湯に入った瞬間、僕らにこびりついていた疲れやら垢やらが一斉に取り払われて、空気のように体が軽くなったような気がした。そして自然と口からこぼれた、あ~、という言葉が僕らを至福と快楽の湯の中に溺れさせた。僕はこんなにもお風呂が気持ちいいもんだなんて初めて知った。

 何回も出たり入ったりを繰り返し、お風呂を最大限に満喫したあと、僕らはピカピカにリフレッシュした体で、銭湯をあとにした。   外に出ると、少しだけ空は茜色に変わっていた。昼ごろのじめーっとした暑さはすっかり消えうせ、爽やかな夏風が僕らを出迎えてくれた。

「さて、今日の寝床を探しますか」

 すっかり疲れも取れた僕らは、きびきびと歩き今日の寝床になりそうなところを探した。すると、探し始めて5分ぐらいで公園を見つけたので今日の寝床はあっさりと決定した。

 茜色の夕日を見ながら、武田さんにもらったパンを食べ、楽しくおしゃべりしながら夜を迎えた。

「さて、もう寝るか」

「そうしましょうか」

「おやすみ」

 今日はぐっすり眠れそうだった。

 そんな時先輩の携帯がなった。 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

  

 

    

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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十七歳!!! 第二十六話

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さっきまでの車内の楽しい空気は、大気汚染された場所のように苦しく泣きたくなるような感じだった。

涼子さんはずっとだまっていた。

僕は何て言っていいか、わからずだまっていた。



先輩と美歩さんはそんな車内の雰囲気を明るくしようとおしゃべりをしていた。

車は京都駅に着いた。ここに来るのは初めてってわけじゃないけど、ここはいつ来ても、空港を思わせるようなほど大きく、アクリルのガラスのように透き通っている開放的な建物に古都というよりも、インターナショナルな雰囲気を醸し出していた。その証拠に日本人だけじゃなく、観光目的の白人やら黒人やらなんやらと外人さん達がたくさんいた。それに、トーテムポールみたいに真っ直ぐに空に伸びた白いタワーがあった。



僕らは京都駅で降ろしてもらった。涼子さんたちが泊まるホテルは京都駅のすぐそばらしいからだ。 

「じゃあ、また明日連絡するね」

美歩さんが少しだけはしゃぎながら言った。

「楽しみに待ってます」

先輩の声もはしゃいでいた。

「じゃあね、海君」

「はい、また明日」



 最後に涼子さんが話してくれた。

 涼子さんが話しかけてくれただけで、沈みかけの僕のテンションは何とか持ちこたえることができた。本当に少しだけだけど。

そして車は消えていった。



「行っちゃったなー」

「はい・・・」

「ああは行ってたけど、明日本当に誘ってくれるかなー」

「はい・・・」

「それにしても美歩さんかわいかったよなー。美人でいてセクシーでいて、それにエロスも兼ね備えていて最高だよなー」

「はい・・・」

「ってテメー美歩さんは俺が唾つけたんだからな!」

「はい・・・」

「ってか話し聞いてんのかよ!」

 先輩は僕の頭をカクテルを作るバーテンダーのように上下に振った。

「あぁ、聞いてませんでした。すいません」

「お前俺の純粋な恋心を!」

「はぁ」

 またまた僕は気の抜けた返事をした。

 そんな僕の態度に先輩は何かを感じたようだ。

「もしかして、お前涼子さんに彼氏いるってことでへこんでんのか?」

「そんなことないですよ!」

 僕は激しく否定した。でもそれがいけなかった。こういう時の先輩は麻薬犬ぐらい嗅覚がするどい。

「ははーん、やっぱりそうか。お前のあの態度見てればわかるよ」

 核心を疲れすぎて僕は何も言えなかった。

「でも、涼子さんの態度と口調は、もう終わりかけか、別れたばかりだろうな」

「本当ですか!!」

 先輩の言葉は救いの言葉に聞こえた。

「ああ。だからお前にもチャンスはある」

「先輩・・・」



 僕は泣きそうになった。いや、むしろもう泣いていたかもしれない。目頭がとても熱かったからだ。僕が女の子なら確実に先輩に惚れていただろう。ぼろぼろに傷つきささくれてしまっていた心に、こんなにも素敵で僕を元気づけてくれる言葉を言ってくれるんだから。だから、せめてものお礼に僕は先輩に抱きついた。

「おい、やめろって!」


 

 そんなコントみたいなことを幾ばくかした後、とりあえず、明日のために今日の寝床を求めて僕らは歩き出した。

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十七歳!!! 第二十五話

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 車は京都に突入した。

 日本最古の都市らしく、窓から見える風景は、所々にお寺とか神社といった和のエッセンスを随所に感じさせる町並みだった。そんな風流な景色をよそに僕はやはりもじもじとしていた。いや、もじもじというかうじうじというか、なんていうかそれらをぜんぶひっくるめてドキドキしていた。会ったばかりの女性に、それも年上のキレイなお姉さんに心を奪われてしまっていた。



 涼子さんと美歩さんは東京から旅行で京都にやってきたらしく、二人は大学の時からの仲らしく、今は丸の内にある会社で一緒に働いているらしい。そう、二人ともOLさんだった。




 美歩さんはとても明るくノリが良く、僕らの馬鹿な話を大笑いしてくれたり、時おり芸人ばりのするどいツッコミを入れてくれたり、会社のセクハラバーコード頭の上司の悪口を面白おかしく聞かせてくれたりと、車内は笑いが絶えなかった。

 美歩さんとは対照的で、物静かな涼子さんは、僕らのくそったれの話に時おり、うふ、とか、ふふ、とか小鳥のさえずりのようなかわいらしい声で笑ってくれた。それに美歩さんの行き過ぎたトークを時に止めたりと、まさに大人の女性の振る舞いだった。




 僕と先輩は始終ドキドキとしていた。



「ところで二人は京都のお寺めぐりでもするんですか?」

「それもするんだけど、一番の目的はそれじゃないかな」

「と言うと?」

「私たちね祇園祭を見にきたの」

 美歩さんが言った。

「祇園祭?」

 聞いたことはあったけど実際はどんな祭りか僕は知らなかった。

「山鉾巡行って言って神輿のようなものを何十人で担いで京都の町を練り歩くのよ」

「へー、そうなんだー」

「私は見るのは初めてなんだけど、涼子は毎年に見にきてるのよ。ねっ、涼子」

 そう言って美歩さんは涼子さんの肩をぽんとたたいた。

「うん・・・」

 でも、涼子さんの顔は少し曇っていた。そんなこと気にも止めず美歩さんは話しだした。

「明日が一番盛り上がる日だからそれを見に行くの」

「いいですねー、じゃあ俺たちも連れてってくださいよ」

 先輩は身を乗り出して言った。

「あっ、いいわねそれ。じゃあみんなで行きましょうか」

 美歩さんもノリノリだった。

「ちょっと何勝手に決めてるのよ。そんなこと言われても困るわよね海君?」

 涼子さんはこの提案には、賛成といった感じではなかった。

「いや、僕は別にどっちでもいいんですけど・・・」

「じゃあ、決定!」

 先輩と美歩さんが同時に言った。

「わかったわよ」

 涼子さんはしぶしぶといった感じだった。

「もう、そんなしょげないでよ。最初は彼氏と行くつもりだったでしょ?男に変わりはないでしょ」

 そう言った後、美歩さんは、ごめん言い過ぎた、と謝った。

「別に、気にしてないよ」




 車内は不穏な空気が流れた。

 更に僕の心にも不穏な気持ちが流れた。

涼子さんには彼氏がいるんだ。そりゃこれだけキレイだし、いないほうがおかしいか。僕は金属バットで殴られたように頭がズキッと痛んだ。

  

 

 

 

 

  

 

    

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十七歳!!! 第二十四話

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 車は京都に向けて渋滞にはまることもなくスムーズに進んでいた。僕らは、いつもの緊張とは違うどこかもどかしさとそわそわ感を抱きながら後部座席でもじもじしていた。



 それは目の前にいる二人の女性があまりに綺麗でいて、あまりに美しく、僕らと同じ世界の人間とは思えないほどだったからだ。学校にいるような、色気のないくせにスカートを短くしたり、胸元を少しはだけて見せたりする鼻水臭い女子高生や、もう女という性別すら疑わしいしみったれた女性教師どもとはえらい違いだった。



「そういえば自己紹介まだだったわね。私は美歩。で、こっちが涼子。よろしくね。君たちの名前は?」

運転席の美歩さんが紹介してくれた。助手席の涼子さんはペコリと頭を下げた。




「僕は海です。平井海って言います」

「高橋っす」

「君たちはいくつなの?」

 美歩さんが後ろを振り返り僕らに聞いてきた。振り返ったとき、とてもいい香りが僕の鼻孔に広がった。

「美歩危ないよ。運転に集中しないと」

「ごめんごめん」

「僕は十七です」

「俺は二十一っす」



 僕らが言うと、美歩さんは目を丸くして、若いわねーそれにふたりともかわいいわねー、と言った。

 何がかわいいのかよくわからないけど、こんな綺麗な人からかわいいって言われたら嬉しくないわけがなかった。たとえ、この綺麗なお姉さんたちに、死ね、と言われてもそれが僕に向けられている言葉というだけでハッピーな気分になり、死んでもいいかな、って楽観的に思ってしまうほどだった。



「お姉さんたちはいくつなんですか?」

 と、僕が聞いてみた。

「こら、女性には年は聞かないほうがいいのよ。でもまぁ、二人よりも年上だけどね」

 と言って美歩さんはクスリと笑った。

「すいません、こいつまだ女性と付き合ったことないからそういうのまったくわかってなくて」

 先輩は僕の横っ腹を殴り、ペコペコと笑顔を振りまいていた。先輩はさっきまでの死んだ鶏のような顔とは嘘のようにはきはきと生気に満ちた顔をしていた。

「海君って付き合ったことないんだ。かわいい」

「付き合ったことありますよ。幼稚園の頃だけど」

 というと、美歩さんは笑った。

「海君っておもしろいねー」

「でしょ?こいつバカなんですよ」



 先輩も調子にのって僕の頭をはたいた。

 先輩の顔は間違いなく恋する人の顔そのものだった。先輩は間違いなく美歩さんに恋していた。

「海君からかってかわいそうでしょ。ところで二人はどこに行くつもりなの?」

 助手席の涼子さんが優しく僕を助けてくれた。

「特に目的地はないんです。ただ、つまんない毎日から抜け出したくて」

「へー、なんかかっこいいね。男の子って感じ」

 涼子さんの発する言葉はなぜだかわからないけど僕の心をドキドキとさせた。



 僕は涼子さんに恋をしていた。

 

  

 

    

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

十七歳!!! 第二十三話

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 蒸し焼きにされそうだ。

 朝が来た。

 目を覚ますと、あいかわらず太陽の光は容赦なく光の熱をぶつけ、油を塗りたくられたように汗で体はベトベトしていてとても気持ち悪かった。



「おはようございます」

 先輩は煙草を吹かしていた。

「おう」

 僕は公園にある手洗い場でベトベトした顔と体を洗った。その後、武田さんに貰った食料を食べた。

「じゃあ、行くか」

「はい」



 これで僕らの旅も終わるんだ。

 僕らは最寄り駅まで(多分、大津駅)まで歩くことにした。一万円あれば電車に乗って帰れるし、それが一番いい方法だと僕らの中で結論は出ていた。寝たおかげですこしだけ元気がでたけど、僕らはあいかわらずしゃべることはなかった。ただ、黙々と駅までの道を歩いた。



 十分ぐらい歩くと、大通りにでた。そこには大津駅まであと一キロ、と書かれた看板が見えた。旅の終わりまでもう少しだった。



「ねぇ、先輩」

「ん?」

「最後にもう一回だけヒッチハイクしてもいいですか?」

 別にナニするってわけでもなかった。ただ、最後の記念っていうか、思い出っていうか、何ていうか、少しだけヒッチハイクがしたかった。

「いいよ」

 僕はトートバッグからダンボールを取り出した。

「まだ、持ってたのかよ?」

「捨てるのもなって思って」



 どこかへ、と書かれた少ししわくちゃなダンボールを両手に掲げて車にアピールした。先輩はそんな僕を柄にもなく温かい眼差し出見ていた。

 僕の十七歳の旅は、結構楽しかったかな。きっとまた元の生活に戻れば、当たり前のように退屈でくだらない毎日だろうと思うけど、この旅で少しは僕の十七歳という年月はマシなもんになっただろうな。もっと旅を続けたい気持ちもあるけど、先輩に迷惑ばかりかけてはいられない、どうしようもないゴキブリみたいな先輩だけど、たまに優しい先輩だしな、それに僕も結構疲れたし、そろそろ、終わりにするか。でも・・・

 


 車は当たり前のように通り過ぎていく。



「じゃあ、そろそろ行きますか」

「満足したか?」

「まぁ」

「じゃあ行こうか」



 僕らが再び歩き出した時、一台の車がクラクションを鳴らした。振り向いていると、かわいらしい車が止まっていた。僕と先輩は目を合わせ、車のほうに駆け寄り、運転手に「すいません。最後の記念でヒッチハイクしてただけです。気にしないで下さい」と言おうとしたとき、僕は喉まで出かかった言葉が固まってしまった。

「そうなんだ、もし乗るならどうかなって思ったんだけど」

 運転手の女性は言った。

「あっ、やっぱり乗ります」

 自然と口が動いていた。

「乗る?」

「ねぇ、先輩?」

「乗らせていただきます!」

 というわけで、僕らは車に載ることにした。

 その時、きっと僕も先輩も同じ気持ちだったと思う。

 僕らはあっけなく恋に落ちた。

    

 

十七歳!!! 第二十二話

テーマ:

「あっ!」

 急に先輩が大きな声を出した。

「どうしたんですか?」

「さっきの車の中にスケッチブック忘れてきちゃった・・・」

「そうですか・・・」

「怒んないの?」

 UFOを見た時のように不思議そうな顔で先輩は聞いてきた。

「仕方ないですよ」

 本当に仕方ないとしか思えなかった。僕らは疲れていた。

「ごめんな」

 先輩が謝るなんて意外な感じだった。

「もういいですよ。それより暗くなってきましたね」

「そうだな」

 夜の密度が増すたびに、僕らのテンションも暗くなってきている。

「先輩、あといくらぐらい持ってます?」

「一万ちょっとかな」



 一万ちょっとじゃあ二人でホテルに泊まったら一気に無一文になってしまう。でも、先輩も僕も疲れているし、ホテルに泊まりたいところだけど。でも、そうすると、家に帰るときのお金がなくなってしまうし。家を飛び出して、たった一日ちょっとしか経ってないけど、僕らの精神状態はもはや徒労感でいっぱいだった。



「とりあえず、歩こうぜ」

 先輩は言った。



 僕らは当てもなく、大きな道路に沿って歩いた。すっかり暗闇に支配されたこの世界で、僕らはすがるような微かな光を求めて。

 


 どれくらい歩いただろう。

 会話をすることもなく、僕たちは何かを求めるように歩いた。

 

「なぁ」

 先輩がかすれるような声で僕につぶやいた。

「もう、おれ限界」

 僕もそんなような心境だった。ただ、誘った手前、僕からその言葉を出すのは先輩に対して失礼だった。でも、僕も同じく限界ヨロシクだった。どこか心の中で先輩のその言葉を待っていたのかもしれない。

「僕もです。もう旅は終わりにしましょうか・・・」

 本当は言いたくはなかったけど、もうこうするしかなかった。離婚を決めた夫婦のように、もう猶予も余地もなく、唯一できる選択権は一つしかなかった。



 終わりにすること。



「ああ」

 先輩は羽虫のような切ない声でつぶやいた。

「でも、今から帰るのはきついから、今日はどこかで野宿して明日帰りましょうか」

「そうだな」



 僕らは、今日泊まるところを探すことにした。更に知らない町を彷徨した。三十分ぐらい歩くと京都まで残り十キロと看板がでていた。今日泊まる安息の地を探して歩き、疲れては休憩し、また歩き、休憩し、お腹がへったら武田さんにもらった食料を食べ、それの繰り返しだった。

 そしてようやく泊まれそうなところを発見した。そこはこじんまりとした公園で、錆びたブランコとペンキが剥がれたゾウの滑り台と鉄棒とベンチがあるだけのみすぼらしい公園だった。夜ということもあり、閑散さも勢いよく増しているこの公園で僕らは泊まることにした。ただ、その閑散さと公園のみすぼらしさは、今の僕たちにはぴったりだった。

 僕らにはもう会話もなく、自然とベンチに横になり眠りにつくことにした。



「おやすみなさい」

 僕は先輩に言った。

「おやすみ」



 先輩の声が返ってきた。

 僕は、ベンチに仰向けになりながら空を見渡した。

 これで僕の旅が終わる。

 そう思うと、目から勝手に涙がちょびっとだけ流れた。

 悔しいのか切ないのか悲しいのかむなしいのかよくわかんないけど。

 僕はちょびっとだけの涙を拭って目を閉じた。

 



 空は闇に覆われて星は出ていなかった。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

十七歳!!! 第二十i一話

テーマ:

夏の日の入りは遅い。足早にやってくる冬の夜と違って、夏の夜は太陽に出番をたくさんもたせているみたいで、太陽が沈んでしまっても、太陽の残光で空は茜色に光り輝いている。

 それは僕たちにとって非常に好都合だった。もう六時をまわっているんだけど、まだ、真っ暗闇になっているわけでもなく、僕たちの足元を照らしている。



「大津ってどこなんだ?」

 先輩は辺りをきょろきょろと見渡していた。

「おい、何か言えよ」

 先輩は僕に呼びかける。

「あっ、すいません。聞いてませんでした」

「大津ってどこって聞いたんだよ」

「あー、大津・・・」



 僕は口ごもった。


「どうした?」

「いや、なんでもないです」



 少しずつ、辺りは夜の空気になってきていた。

 さっきの車に乗っていたときに流れていた、クイーンの曲が頭の中でずっとリピートされていた。

 

アイワズボーントゥラブユー

  

 

 僕はアナタを愛するために生まれてきた。



 とてもいい言葉だと思う。本当に。でも、僕は今どうしたいんだろう。家を飛び出してきたのはいいけど、実際何がしたいかわからなくなってきていた。そりゃあ、ヒッチハイクしていろんな人に車に乗せてもらって人の優しさに触れたけど、それが今回の旅と何か関係があるんだろうか。これが僕がしたかったことなんだろうか。なにをするために家を飛び出したんだろうか。僕の、ために、って何だろう。僕はどこまで行けばいいんだろう。

 


 僕は疲れてしまった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十七歳!!! 第二十話

テーマ:

 しばしの間、物思いに耽っていた。練習生と思われる車がコース内をぐるぐると回っていた。レーシングカーがコーナーでドリフトをする姿はとてもカッコよく、それにその時に発生する、タイヤと地面との摩擦音は豪快でいてとても気持ちがいい音だった。ただ、最初の三十分だけの話だけど。



 言うまでもなく、僕は、F1には興味がなかった。

そして次第に眺めていることにすら飽きてきてしまった。なんていうか、言ってしまえば、そこはただのサーキット場だし、練習生と思われる人たちが走っているだけで、レースが行われているわけでもないし、それにレースクイーンがいなきゃあ僕らは、というか僕がここにくる理由なんてなきに等しかったからだ。僕はちょびっとだけ寂寥感に包まれていた。



「行きましょうか」

 僕は先輩に言った。

「そうだな」

 多分先輩も飽きていたんだと思う。



 結局レースクイーンことサーキット場の天使たちを見ることができなかった。でも、今回は先輩を責めようとは思わなかった。先輩も結構ショックだったんだと思う。レースクイーンが見れなかったことが。先輩の顔は絶望とまでは言わないけど、三浪が決定した今年の春のときよりも悲しい顔をしてたから。



 僕らは鈴鹿サーキットを後にして、ヒッチハイクを再開した。スケッチブックに、どこかへ、って書いて。僕らは一刻も早くここから抜け出したかった。早くしないと、レースクイーンを見れなかった後悔の念に駆られて膨れ上がった性欲にわが身を包まれそうだったから。先輩もこの時ばかりは真剣にヒッチハイクをしていた。すると一台の白い車が止まった。



「どこ行くんや?」

 五十代ぐらいのおっちゃんだった。

「どこでもいいです。ここから移動できれば」

「今から滋賀の家まで帰るんやけど、それでもええか?」

「はい!」

 僕らは車に乗り込んだ。車は滋賀に向けて出発した。

「兄さんらどこからきたんや?」

 走り出した途端、おっちゃんは僕らにしゃべりかけてきた。

「愛知県の田舎の町です」

 僕は答えた。

「へー、そうなんや。愛知ねー」



 おっちゃんは愛知県に特に興味はなさそうな感じだった。

 その後、何度か質問をされたんたんだけど、会話はあまり盛り上がることもなく、車内の空気はギクシャクしていた。僕は特に話すこともなかったから、流れているラジオでも聞いていた。ラジオでは、クイーンが流れていた。タイトルは忘れてしまったけど、以前ドラマの主題歌になっていたから、聞いたことがある歌だった。アイワズボーントゥーラブユウって歌だっけな?まぁ、とりあえず、それに耳を傾けていた。

 先輩は会話をするのが面倒だったのか寝ているフリをしていた。



 そして、走ること一時間ぐらいで、峠を越え滋賀県に突入した。更に車は三十分ほど進んだ。そして車は止まった。

「ここら辺でええか?」

「はい、ありがとうございました」




 僕らはお礼を言い、車から降りた。

 辺りは茜色の夕日に包まれていた。

 看板を見ると、大津と書かれていた。

 僕にはここがどこかよくわからなかった。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十七歳!!! 第十九話

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 話してみると、やはり二人は大学生だった。運転手の方がアツシさんで助手席に座っている少しばかりクールな方がジュンさんだ。



「鈴鹿サーキットに何しに行くの?」

 アツシさんは興味深そうに聞いてきた。

「僕らF1が大好きでサーキットの風を感じたかったんです。な、海」

「そうそう、僕たち物心つく前からF1が好きで、テレビにかじりついてましたから。ね、先輩」


 さすがにレースクイーンを見に行くからなんて言えるわけがなかった。それと、僕らの会話にF1の話題が出たことは一度だってない。


「ここからどれくらいかかるんですか?」

「すぐだよ。多分二十分もあれば行けるんじゃないかな」

 まぁ、もう鈴鹿市内に入ってるわけだし、当たり前だった。

 そうこうしているうちにあっという間に鈴鹿サーキットに着いた。

 僕らは二人にお礼を言い、車から降りた。

「荷物はそれだけ?」

 アツシさんはパンパンに詰まったスーパーの袋しか持っていない僕たちに疑問を持っていた。

「まぁ。飛び出してきちゃったもんで・・・」

 アツシさんは、トランクから少しくしゃっとしたトートバッグを取り出して、

「これ、いらないからあげるよ」

 と、言った。



 そしてお礼を言うと、がんばれよ、と言って颯爽と去っていった。

 トートバッグは、少し古びているけど、とてもありがたかった。大の男二人が、パンパンに詰め込んだスーパーの袋を持っているのはかなり奇妙な光景だし。

 トートバッグに、袋を全部詰め込むと、僕らはチケットを買い、鈴鹿サーキットの中に入った。ちなみに、チケット代は先輩もちだ。


 中に入ってみると、とてつもなく広かった。僕はてっきり、しょぼくれたサーキットがあるだけだろうなと思っていたんだけど、全然違った。何ていうか、遊園地みたいな趣がそこにはあった。むしろ、どこかの潰れかけの遊園地とかなんかよりも、遊園地らしかった。それにちょいと高そうなレストランやキャンプ場や温泉や更には、結婚式場まである程だった。もうこれはサーキット場の粋を超えていた。ここなら家族で来てもカップルで来ても中学の社会見学で来ても、とにかく男同士で来ても、十分すぎるほど楽しめるつくりがここにはあった。しかし、サーキット内を隈なく探してみても、アレがいなかった。

「先輩いないですよ」

「やっぱりF1が開かれるサーキットのほうだな」



 ということで、僕らはレース場の方へ行ってみた。

 そこには、テレビでしか見たことのないレース場が僕の視界いっぱいに広がっていた。吹き抜けの会場は、心地いい風と雄大な空が、レース場を優しく見守っていた。数々の激戦があり、レーサーたちの熱いドラマがあったこの場所。僕はなぜだかわからないけど、感慨深い気持ちになっていた。多分だけど、自然と肌で何かを感じたんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

十七歳!!! 第十八話

テーマ:

 鈴鹿付近の一号線は車の通りがとても多い。目を瞬きする間でさえも車は光のように瞬時に去っていく。武田さんにもらったスケッチブックに、鈴鹿サーキット、と書き、僕らは通り過ぎる車にアクションを起こしていた。でも、そう都合よく車は止まってくれることはなかった。僕らのことを興味深そうに見てくれる人は結構いるんだけど、それはカメラのフラッシュのような思考の一瞬の発芽で、そこには余韻なんてもんはない。

夏の日差しは本当にうっとおしいったらありゃしない。外の世界に出た瞬間、太陽はターゲットを見つけると、いじめのようにひたすらそいつを攻撃する。いじめでできた痣ではないけど、僕らの肌は次第に赤くなってきていた。



「あー、もうやだ」

 先輩の病気が出始めた。この男は本当にすぐに何かを諦めたりするのだ。これは、ある意味才能かもしれない。

「サーキットの天使にもうすぐ会えますよ」

 なぜだか知らないが、年下の僕が先輩を励ますポジションになっていた。

「やっぱやめようぜ。めんどくせぇ」

「近いんだから行きましょうよ」

 僕はヤケクソになって言ってるわけではなかった。なんていうか、説明しようがないんだけど、とりあえず、簡単に説明すると、僕は思春期最前線だった。



 僕にとって、いや、この年頃の男にとって、考えることといったら、専らそっち方面のことしか考えてない。つまり、スケベなことだ。断言してもいい。とりあえず、どんなにセンチメンタルな気分になっていても、テストの成績が悲劇的なぐらい悪く落ち込んでいても、脳裏に女の子のことが浮かぶと、瞬時に全思考をそっちに向けてしまうところが、この年頃の男の子にはあった。例外なく僕もそうだ。

 例え、先輩が、大ボラ吹きのくそったれでも、僕たちは、宮沢賢治の『雨にも負けず』の詩みたいに、近くにピチピチの女の子が近くにいると聞けば、それが冗談としても確かめずにいられないのが、この年頃の男の子なのだ。

 先輩が疲れて地面に座り込んでも、僕はがんばって車にアピールした。すると、一台の黒い車が止まった。近寄ってみると、大学生風の男が二人乗っていた。



「鈴鹿サーキットまで行くの?」

 運転手の男が話しかけてきた。

「はい」

「二人?」

「はい、あの人と二人で」

「二人なら乗せてってあげるよ。なぁ、いいだろ?」

 運転手の男は、助手席の友達に聞いた。

「うん、いいんじゃない」

「じゃあ、乗っていいよ」

「ありがとうございます!」

 僕は地べたに座り込んだ先輩を呼びに行った。

「乗せてくれるらしいですよ!」

「マジで!」

 先輩はロケットのような爆発力で一瞬で立ち上がり、車の方へ駆け寄っていった。

 そして、僕らは鈴鹿サーキットに向けて出発した。