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2010-10-15 00:21:42

「あるもの」と「なきもの」

テーマ:

ポツポツ

バチバチ、バチン。


それは、静かに燃え続ける。


静かに、静かに、まるで

音を奏でるように、一定のリズムで

燃え続ける。


ポツポツ、

バチバチ、バチン。


天に向かい、静かに燃え続ける。



布にくるまれた、「あるもの」を挟み

無造作に、積み上げられた薪。


それが、幾重にも積み重なり、

折り重なり、高く、高く、

積み上げられていく。


あるものは、色とりどりの布にくるまれ

また、あるものは、質素な布にくるまれる。



「あるもの」は奥の方から、次々に運ばれてくる。

それらはいったん、河の水によって清められ

木々の間に挟まれる。



着火。



みるみる、炎が燃え上がる。



「あるもの」は音を立て

まるで、音楽を奏でるように

燃え続ける。


少しずつ、少しずつ

布の間から、かいまみえるピンク色の

肉の塊。


表情はなく、動くことなく

無言の雄叫びをあげるように

その目は虚空をとらえ続けている。


まるで、この世の全てを背負っているかのように

だが、しかし、何も語ることなく、あらがうこともなく

凛とし、ただ、ただ、燃え続ける。


その目は、

最後の、最後の、その瞬間まで、燃え尽きるまで

虚空をとらえ続ける。



臭いは、ない。



風下だからか。

あるいは、旅を続けるうちに

感覚が磨耗してしまったのだろうか。


臭いを、感じ取ることはできない。


ポツポツ・・・バチン。


小さく、なっていく。



ボクは、石段に腰を下ろし

燃え上がる炎を眺め続ける。



日本にいるときから

ここのことは知っていた。


24時間、絶えることのない炎が

ある場所。


絶えず、休まず、ただ、黙々と赤い炎が

昇る場所。


ここにくれば、何かが、わかるかもしれない。

ここにくれば、何かが、変わるかもしれない。


ココニ来レバ、何カガ・・・


そんな淡いボクの期待は、見事に裏切られた。


何も変わらない。

何もわからない。



ここにきて、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。

空が赤く染まり、夕闇がその色を一層濃くする。


黙々と燃え続ける、炎は

闇を切り裂き、あたりを赤く染め上げる。


ポツポツ・・・

ポツポツ・・・。


次第に、それは形をなくしていく。

次第に、それは小さくなっていく。

灰に・・・なっていく。


高く積み上げれた木々もまた

その高さを失い、土に還っていく。



風が吹く。



風に運ばれて、

灰が、運ばれてくる。


もうない。

もう、その面影はない。


何十年もかけ、

彩られてきた一つの命が

今日も、また、消えた。


目を閉じ、両手の平をあわせ

そっと天に祈る。



・・・お疲れ様です。

・・・いい・・・旅を。



そっと空を見上げる。


空一面には星達が瞬いていて

まるで、しゃらしゃらと音が聞こえるようだった。


・・・綺麗だ。


炎のあった場所に目を向ける。


新しく「あるもの」が運ばれてくる。

絶えることなく、絶えることなく。


そっと立ち上がり、ボクは、静かに

「なきもの」に礼をする。



それは、ボクにとって

旅の終わりを意味していた。

2010-05-20 00:37:49

挽歌

テーマ:

その街には風習があった。


それは、途絶えることなく、毎晩行われる。


派手な衣装に身をくるみ、片手に炎を抱き、大きく弧を

描くように赤く、燃え盛る炎を何度も何度も振りかざし

静かに・・・舞う。


それは、故人の死を慈しみ、ささやかな旅の門出に

祈りを捧げている様だった。



「今日は、お祭りだから、人が多い。」


少し、遠く、階段の片隅に腰を下ろし、遠目で儀式を眺めながら

男は言う。


ボクは、うなづくこともせず、人々が折り重なる

その先、祈り子達に目を向け続ける。


祈り子達は、休むこともなく祈り続ける。


幾重にも折り重なり灯された炎を天に振りかざし、

舞い続ける。


カン、カン、カン、カン。


鐘の音が響きわたる。



長旅をしてきたのだろう。


その衣服は泥にまみれ、埃をかぶり、決して

落ちることのない色で染まっている。


男の頬はこけ、顔には疲れが宿り、両の目には、

キリとした鋭い眼光を抱いている。


気のせいだろうか、気になる点が一つ。

その顔はときおり、かげりをみせる。


暗く、深く沈んだ、孤独を背負ったものだけがもつ顔。

まるで、この世のものを、全て見てきたかのような顔。


きっと、旅を終えるタイミングを見失って

しまったのだろう。



帰る場所を、なくしてしまったのだ。



その男の顔は疲れきっており、まるで生気が

感じられない。


しかし、どこかできりっとした、表情も

持ち合わせている。


生きながら死ぬとは、こういうことなのか・・・。


一抹の想いがこみ上げてくる。



この男にも、タイミングはあったはずだ。

何度も、何度も、それは訪れたに違いない。


だが、男はそれをかたくなに否定した。

かたくなに否定し続けた。


それは、数年。数十年であろうか・・・。

途方もなく長い時間のようにかんじられる。


今、この男にあるものはなんなのだろうか。

その長い旅の果てに、何を手にしたのだろうか。


一体、何がこの男をそうさせたのだろうか・・・。



怪しげな炎の灯りが闇夜を照らす。

怪しげな炎の灯りが闇夜を揺らす。


揺れる炎の灯りが男を包み込む。


その灯りが一層、その男の顔皺を色濃く反映する。


帰る場所。

帰るタイミング。


もしかしたら、ボクも、それを見失いつつ

あるのかもしれない。


始まりがあれば、終わりがある。

それを選ぶということ。


選ばなければ、前には進めないということ。

だらだらと、旅を続けるよりも、いっそのこと・・・。



踊り狂う、祈り子達を眺めながら

様々な思いが溢れてきて

それは、やがてはじけた。



・・・帰ろう。



今ならまだ、間に合うはずだ。


人々が溢れかえる雑踏の中

振り返ることなくその場を後にした。

2010-05-19 23:43:46

Prologue

テーマ:

お金は、時間で買えるが、
時間は、お金で買えない。


決して買う事はできない。



確かに、

お金で時間を縮める事はできる。


お金をかけ、そのスピードを

早送りにする事は容易にできる。


例えば、目的地にバスで向かうのか、

電車で向かうのか、はたまた、飛行機で

向かうのか。


時間を縮める事はできる。


ただ、過ぎ去った時間は、

決して買うことはできない。



誰もが、歳をとり、老いる。


今のままでは誰一人としていることが

できない。


誰もが、時間と共に老いる。


それを避けることはできない。



人は変わっていく生き物だ。


自らが身を置く環境によって

年齢によって、それぞれの生きる時代によって


人は変わっていく生き物だ。

経験によって、出逢う人によって、

人はおおいにかわる。


変わっていく。



常識も変わっていく。


今の価値観、常識は、きっと

数十年後には、違ったものになっているだろう。


もしかしたら、今まで信じられてきたこと

信じてきたものが、180度変わっているかも知れない。

果たして、どんな、社会になっているのだろうか。


そんなことは、誰にも分からない。



何一つ変わらないことと、いえば

何かを毎日食べ、夜になれば寝る。

そして、誰かを愛する事だけなのかもしれない。



限られた時間。

限られた命。



歳をとれば、感じることができるもの、思い。

若いときにしか、感じることができないもの、思い。

それを、天秤にかけた。


歳をとれば、歳をとったなりの楽しみ方もあるだろう。
ただ、若いときにしかできないこと、感じることのできない

こともある。

若さは、二度と手にすることはできないのだから

いっそのこと・・・



長い人生において、今という瞬間は

二度と訪れる事はない。


未来を描き、過去を置き去りにして

しっかりと現在をみつめる。


例え、この先の保障された未来を失おうとも・・・


溢れ出る思いをとめることはできない。



それが全ての発端だった。

2010-03-14 01:17:05

国境を越えて

テーマ:

「気をつけたほうがいい。

まだ、地雷が埋まってる。」


タイ、カンボジア国境、ポイペト。


入国審査を終え、国境を超える。


国境を越えた途端、物乞いに裾をつかまれる。

空気が変わる。


重たいな。


これが、はじめに感じたことだった。



「気をつけたほうがいい、ここから先は。」


国境付近で偶然出逢った、旅人は

そう物語る。


「地雷だけじゃない、人にも気をつけろ。」

そう物語る。


何も知らないボクは、バス停で

シェムリアップ行きのバスを待ち続ける。



国境を抜けた途端、確かに空気が変わった。

混沌としている。いろんなものが入り乱れている。

しかし、この街が、そんなに危険な場所なのか。


その判別はつかない。



国境を通り抜ける、大きなトラック。

そんな光景を背に、ただ、バスを待ち続ける。


さっきから、視線を感じる気がする。

しかし、振り向いても、誰もいない。


バスが来る。

このバスに乗って行けば、シェムリアップにつくのか?


それさえもわからない。


気がつくと、旅人は消えていた。



バスに乗る。

しかし、そのバスは

少し走ると、すぐに止まった。


そして、バスから、吐き出されるように

追い出された。


この程度の距離なら、歩いても来れるだろ。

何故、バスで・・・。

そう思った。


しかし、降ろされてしまったんだから

仕方がない。


ボクは、他の外国人ツーリストと一緒に

目の前の、汚い建物の中に通された。


そこは、ガランとした空間で

ガラスを挟んだ先に男が一人いる以外

何もない、暗いボロボロの建物だった。


薄暗い照明が、映画のそれを

思い起こさせる。


見よう見まねで、ガラスの先の

男に駆け寄り、タイバーツを差し出す。


この男は、信用できる男なのだろうか。

それさえも定かではない。


だが、なすすべを持たないボクは

ただ、いわれるがままに紙幣を差し出す。


全員が、それを終えたのがわかると

今度は、右手奥の扉の先に促される。


その扉を開けると、たぶん、現地の人だろう。

浅黒い男たちが10人程、たむろをし、博打を

楽しんでいる。


男たちの甲高い笑い声。

その声に、ボクは体をこわばらせる。


男たちの鋭い視線。

その眼に、ボクは臆する。


男たちの間を抜け、促されるように

狭い道を、歩き続ける。


すると、乗用車が2台、歩く先に停車してあった。

みると、フロントガラスが割れている。


いや、正確には、フロントガラスに大きなヒビが入り

助手席の視界をふさいでいる。


何もわからないまま、ボクは

その車の後部座席に乗る。


見慣れない、外国人に囲まれ

ボクは、一人、車に乗る。


この先で、何が待っているのだろう。

ボクは、日本に帰ることができるのだろうか。


そんな思いが、頭をよぎった。

2010-03-13 01:54:34

カタガキ

テーマ:

この旅で、いろんな人たちと出逢った。


夫婦で、新婚旅行で旅をしている人

船の上の料理人、不動産屋の社長

現地で働いている日本人、大学生

飲んだ暮れ親父、写真家、

カジノのディーラー、


それに、ここではちょっと言えない

陰の商売をしている人まで・・・。


あまりの出逢いの多さに、

ここには書ききれないけど

少し思い出しただけでも、

たくさんの人と出逢って来たんだな・・・と想う。


たぶん、日本にいたら、決して出逢う事が出来なかった人たちと

旅を通し、巡り逢い、交わる。


そんな出逢いが好きだった。



日本では偉そうにしている

そんな奴らも、世界に出てしまえば、

ただの人になる。


ただの・・・人になる。


だから

一人の人として、

ただの人として、人と、向き合う。



人が生きる上で

肩書きなんかいらないのかもしれない。


人が生きる上で

肩書きなんか必要ないのかもしれない。



確かに、肩書きは、自分が何者かを

示すのに必要なモノなのかもしれない。


でも・・・


肩書きに、縛られすぎてはいないか?

肩書きで、人を判断していないか?

肩書きで、人を選んでいないか?


肩書きで、生き方を縛られすぎていないか?



肩書きに頼ることなく

あるがままの姿で自分という人間を

表現する旅人が好きだ。


ただ、そこにあるがままの人でいることが

こんなにも、自分を自由にしてくれるなんて

想ってもいなかった。



旅は、じっくりと一人の人と、

一人の人として向き合う時間を、ボクにくれた。


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