ボーイズ・ドント・クライ
posted by travis-b 2006-03-09 13:15:43 Theme: 映画まみれ『ボーイズ・ドント・クライ』(‘99/アメリカ)
監督:キンバリー・ピアーズ
衝撃的に辛い作品だった。
この『ボーイズ・ドント・クライ』は1993年ネブラスカ州フォールズ・シティという町で
実際に起こった実話を基にした作品だ。
性同一性障害という、たびたび映画の題材に使われるこのテーマを扱ったものは、
過去にはどんな作品があったか。
最近だと、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。ロックミュージカルのテイストを加えて、
心と体の葛藤をある種スタイリッシュに描いた秀作だった。
それに、『フィラデルフィア』という作品もあった。いわゆるゲイのため、
性交渉の末エイズとなり、不当に職場を解雇された末の裁判を描いた作品だった。
いずれの映画も、性同一性障害を背負い、決して大手を振って認められない
社会の中で、それでも認められたい、あるいはただ愛する人が欲しい、
という人間の本質にテーマを絞った傑作だった。
ただこの『ボーイズ・ドント・クライ』の中では、性同一性障害を持った者の心の葛藤、
というものはあまり描かれていない。
それよりも、性別とは、たまたま体がそうであるだけという下、一人の人間を愛することの真摯さ、
そしていわゆる同性愛といったセクシャル・マイノリティをやはり認めない、
社会の厳しい現実を描いているように思えた。
この『ボーイズ・ドント・クライ』では、保守的ないわゆる、周りとは違う存在を徹底的に
排他しようとする社会の醜さが、後半は目も当てられないほど辛く描かれる。
性同一性障害によって間違った肉体の中に閉じこめられてしまったブランドン。
女性でありながら、心は男性であり、いつかは性転換を行い体も男性になりたいと思っている。
ブランドンは生まれ育った町リンカーンから、期待を胸にフォールズ・シティという町にたどり着く。
この町で、男性として振る舞い、友人や恋人といった仲間もできていく。
周りの人間は、ブランドンを男性だと信じ接していくが、やがてその偽りが剥がれたときに悲劇が起こる。
ブランドンが一目ぼれをし、互いに愛し合うようになる恋人ラナは、しかしブランドンが女性であると
わかっても、すべてを理解し彼女を愛し続けることを決める。だが、保守的な小さな町でのできごと。
周囲に人間にはいわゆる「変人」と写るブランドンはスケープゴートのごとく排他の対象となってしまう。
男性として接してきた周囲が、ブランドンが女性であるとわかってからの態度の急変さは
それだけで見ていられないほど苦しい。まるで、汚物でも見るかのような蔑んだ目。本当に恐ろしい。
彼らには、もうブランドンは人間には写っていない。
そして、そういう状況の中で人間がとる行動は時に徹底的に残酷だ。
周囲は、「嘘をつかれた」「裏切られた」とさも、自分たちを正当化し非難するが、
その実はただ単に「気味の悪い」モノ、理解できないモノを排除したいというだけだ。
それも人間の汚く残酷な部分を徹底的に曝け出した方法で。
そのなかで、恋人のラナだけは性別という枠ではなく、一人の人間としてブランドンを愛した。
この映画の中では、観客同様ブランドンにとって、彼女だけが唯一の希望であり光だ。
「障害」という名称がついている、まさにそのものが偏見が決して消えることのない表れだと感じる。
前半の青春グラフィティ風な話しとは一点、暗く目も当てられない状況となっていく実話を元に作られた
この映画の中には、この重いテーマに対する解決策やメッセージといった「救い」をあえて盛り込んではいない。
主演のブランドンを演じたのはヒラリー・スワンク。この映画で見事オスカーを勝ち取った彼女の演技は、
本当に脱帽だった。ハリウッドの女優はおそらくオファーが来ても嫌がるであろう、難しいこの役を
文字通りすべてを曝け出す体当たりで演じきった。
また、恋人ラナを演じたクロエ・セヴィニーもすばらしかった。
(クロエは特に、売れっ子女優が嫌がりそうな役を率先してやりそうなタイプに見えるな。)
ハリウッド女優の中でも、この2人はそれこそ役を選ばない貴重な女優であると思う。
ヒラリー・スワンクについては、この作品と『ミリオンダラー・ベイビー』だけみてみても、
大げさかもしれないが、個人的には目の離せない女優だ。『ザ・コア』とか出演してる場合じゃないな。
この映画を観て、自分や周囲のことを考えてみた。
自分が、または恋人や友人が、こういった状況になった場合いったいどう周囲との関係が変わっていくのか。
この映画のように、とまではいかないまでも、少なからず偏見や誤解といったもので、
周囲とのバランスが今までどおり保てるかはやはり難しいのではないか。
そういったテーマを少しでも考えるきっかけになる作品だった。








1 ■こんばんは
TBからお邪魔しました。
<性同一性障害を持った心の葛藤、というものはあまり描かれていない
そうですね、実話ベースということで掘り下げられなかったのかもしれないですが、その点が実はブランドンの人間性の理解に繋がる部分だったのではないかと思います。
性同一性障害に限らずマイノリティの排斥に向う社会について考えさせられる作品でした、クロエ・セヴィニーが良かったですw。