【ぞっとする物語である】

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 ぞっとする物語である。映画「太陽を盗んだ男」で沢田研二さん演じる主人公は、プルトニウムを盗み出し、自宅で原子爆弾をこしらえてしまう。米国とソ連がにらみ合う冷戦下の1979年に公開された

 言うことを聞かないと原爆を仕掛ける。そう言って政府を脅し続ける男は、自らを「9番」と名乗った。すでに核兵器を持つログイン前の続き国々に加え、自分が9番目の核保有国になったとの主張である。正気を失ったかに見える男がどこまでも不気味だ

 さて現実の世界に現れた「9番」である。北朝鮮が、大陸間弾道ミサイルに搭載できるところまで核弾頭の小型化に成功した――。そんな分析が先日の米紙で報じられた。事実なら国際社会の非難を無視した暴挙が進んでいる

 聞くに堪えない暴言も、連日のように北朝鮮から発せられる。米国の軍事行動を牽制(けんせい)して「米本土が想像もできない火の海の中に陥る」と述べ、「米国の野郎どもが我々の戦略兵器の威力を最も近くで体験する」とうそぶく。グアム島周辺への射撃すらちらつかせる

 慄然(りつぜん)とするのは、トランプ米大統領が同じレベルの脅しで応じていることだ。「北朝鮮は、世界がこれまで見たこともない炎と怒りを受けることになる」。強い威嚇により相手を抑止しているつもりが、逆に戦争の危険性を高めていないか

 映画で主人公は要求したものを手にできないまま、傷つき病んでいく。時限装置付きの原爆を持ち、街を歩くシーンで物語は終わる。爆発音に包まれながら。 

【8/11 朝日新聞・天声人語】
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