いつからかハスは神秘的な音を立てて咲くものと思い込んでいた。石川啄木に〈しづけき朝に音立てゝ白き蓮(はちす)の花さきぬ〉という断定調の詩がある。博物学者南方熊楠(みなかたくまぐす)も、ハスの開く音を聞きに出る習俗について論考を残した
 
「本当に音がしますか、何時ごろ鳴りますかという問い合わせをいただログイン前の続きく。でも私ら職員は一度も聞いたことがありません」。埼玉県行田(ぎょうだ)市にある公園「古代蓮(はす)の里」で働く山子(やまね)学さん(47)は話す。実際に聞くのは「花が散って葉に落ちた時のドサッという音」。風情の乏しい音らしい

 山子さんの実感によれば、ハスの名所とレンコンの産地はあまり重ならない。花で名高い地のレンコンは食感がいまひとつ。レンコン産地で花の群舞を見る機会も多くないという。天が二物を与えなかったのは人だけではないようだ

 行田市では1973年、ゴミ焼却場の建設地で桃色の大輪が見つかった。埼玉大の研究者らが調べ、推定1400~3千年前の地層に眠っていた種子が掘削で目を覚ましたと推定した

 主産業の足袋作りが下り坂にあった市は1995年、ハスを核にした公園を開く。「ふるさと創生」をうたって全国の市町村に交付された1億円をいかした。街はにぎわいを取り戻す

 ふるさと創生と聞くと金塊や純金のこけしが浮かぶ。盗まれたり売られたり、哀れな結末も見た。ばらまき政治の見本のごとく語られることが多いけれど、将来を見すえて種をまいた自治体も少なからずあったようである。 

【7/17 朝日新聞・天声人語】

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