むごい話がたくさんある欧州の魔女狩りだが、オランダの町、アウデワーターには魔女裁判で使われたはかりが残っている。魔女を識別したこのはかり、百何十年もの間一人の魔女も判定したことがないという

 勘のいい方はお察しだろうが、実はこのはかり、地元の人々が魔女狩りにあった女性の命を救うために設置したのだ。魔女と疑われ、はかりにのせられた女性らは決まって「ホウキに乗って飛ぶには重過ぎる」と判定されたのである 

 はかりには神聖ローマ皇帝カール5世のお墨付きもあったとか。集団ヒステリーが生んだ魔女狩りだが、まともな人々はいつの世もちゃんといる。このご先祖のおかげで、今の町民は魔女計量所を博物館にした観光施設で潤っている 

 その今日、「魔女狩りだ!」との抗議の声の主を見たら世界最強の権力者、トランプ米大統領だった。ロシアによる選挙介入疑惑で新たに明るみに出た長男の嫌疑をそう否定したのだ。この抗議の言葉、特別検察官選任の時も聞いた 

 当人にすればワシントンに乗り込み半年、まだ内外とも見るべき成果がなく、支持率は低迷中だ。よそよそしい議会や官僚、ロシア疑惑追及を強めるメディアに囲まれた孤立感は、魔女と告発された異端者の心境に近いのかもしれぬ 

 早くも下院では少数ながら民主党議員から弾劾案が提出された。弾劾ぶくみの疑惑の中では米大統領が握る世界の運命も中ぶらりんとなる。今思えば大統領を計量するはかりがほしかった米国民と世界だ。 

【7/14 毎日新聞・余録】
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