『「大切」という字は大きく切ると書きます。 
真っ二つにされる覚悟があるからこそ、その人のことを大切にできるんですね。』 

武田鉄矢(ドラマ金八先生より) 



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 公開中の映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」は英国の地方都市を舞台に、貧しさにあえぐ人たちを描いている。2人の子どもを育てるシングルマザーが施設に無料の食料をもらいに行く場面は、見ていてつらくなる

 彼女は空腹に耐えきれず、その場で缶詰を開けて食べ始めてしまう。手づかみで、床にこぼしながら。我に返り、泣いて謝ると、周りの人から「君は何も悪くない」と慰められる。仕事がなく、あてにしていた政府からの給付金も得られない。日々の食事にも事欠いていた

 もちろん劇映画であって、ドキュメンタリーではない。しかし、緊縮財政で公共サービスの縮小が続く現在の英国を切り取ろうとした試みであろう

 英国の総選挙ではメイ首相率いる与党・保守党が、圧勝どころか、まさかの過半数割れとなった。理由はいくつかあろうが、緊縮財政への反感も決して小さくはない。保守党政権下で7年にわたり緊縮が続き、影響は福祉や教育にまで及んでいた

 野党・労働党のコービン党首は左派色が強く、政策が現実的ではないと政界では見られてきた。今回の選挙公約にも、鉄道の再国有化など先祖返りしたような政策がある。これなら勝てると、メイ首相も踏んだのだろう。しかし、大学の学費無料化や医療への投資などの訴えは、有権者の心に響いたようだ

 かつて「ゆりかごから墓場まで」と言われた福祉国家は、大きく変容してしまったのか。欧州連合離脱の動きの中で垣間見えた一断面である。 

【6/11 朝日新聞・天声人語】
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