奈良の興福寺は法隆寺と並んで国宝の仏像の収蔵数は日本一だが、明治初めの廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)では廃寺寸前だった。寺僧全員が還俗(げんぞく)してしまい、今や奈良を象徴する国宝の五重塔も危うく焼却されそうになったという

 「五重塔は二百五十円で買い手がついたが、焼き払って金物だけ取っても二百円にならないと沙汰(さた)やみとなった。三重塔は自分が三十円で買って遊び場所にと思ったが、兄に諫(いさ)められて諦めた」。後年、地元紙で当時の人が回想した

 一説にはこの時に五重塔は観光客を呼べるから残した方がいいという意見もあった。長い時の試練をくぐりぬけた一国の至宝を見ても、売り物にならぬ古材から金物を取り出す算段や、観光客の落とす金しか思い浮かばない人もいる 

 こちらは後者の流れを継ぐ閣僚の「一番のがんは文化学芸員」発言である。学芸員は文化財の保全や研究にあたる専門職だが、山本幸三(やまもとこうぞう)地方創生担当相はこの人たちが観光客へのサービス精神を欠くと、講演で「一掃」を訴えたのだ

 文化財保護とその公開の仕方とのジレンマは時に論議のあるところだが、当人は発言が物議をかもすとすぐ撤回して謝罪した。つまり学芸員の何たるかもよく知らぬまま、観光振興のかたき役に仕立てて座のウケを狙ったようである 

 五重塔も観光のおかげで破壊を免れたかもしれないから、文化財の見せ方に工夫をこらすのは結構である。だが文化財の価値を熟知し、それを子孫に手渡そうという専門家は頑固なくらいでちょうどいい。 

【4/18 毎日新聞・余録】
AD
 かつて長寿の双子姉妹として人気を博した、きんさん・ぎんさん。妹の蟹江ぎんさんの4人の娘さんたちも、負けず劣らずの長寿姉妹で、平均年齢は98歳になる

 彼女たちの“元気の秘訣”は、毎日のように集まって「おしゃべり」することだった。長寿医療の研究者が調べたところ、4姉妹が自由に会話している時、脳の血流が増えていることが分かった(石川恭三著『沈黙は猛毒、お喋りは百薬の長』河出書房新社)

 脳の血流が増えると、神経細胞が活発になり、認知症の予防や、抗うつ効果も期待できるといわれる。「健康社会」を考えるうえで、人と人との対話や交流は欠かせない要素だ

 先ごろ、91歳で入会した婦人が語っていた。「学会に入って20歳、いえ30歳は若返りました(笑い)」。世代や立場を超え、和気あいあいと励まし合う。成功談だけでなく、時には失敗談も愉快に語り合う。そんな学会の世界で今、彼女は新たな人生を謳歌している

 「おぼしき事言はぬは腹ふくるゝわざ」と『徒然草』にある。礼節をわきまえ、愚痴や文句を慎む姿勢は大切だが、思ったことを言わず、我慢し続けるのは体にも障る。互いを敬いつつ、どんどんしゃべって知恵を出し、元気を出す。日々の学会活動は“最高の健康法”だ。 

【4/18 聖教新聞・名字の言】
AD