絵画鑑賞の目に自信はないけれど、いちど見て忘れられない絵がある。例えばゴッホの「馬鈴薯(ばれいしょ)を食べる人々」。薄暗い部屋で5人の農民が食卓を囲み、ごつごつした手でフォークを握る。皿にはジャガイモの他に何もなく厳しい暮らしが伝わってくる

 かつての欧州では「貧者のパン」であったと、伊藤章治(しょうじ)著『ジャガイモの世界史』にある。やせた土地でも育ち、栄養価が高い。それでもときに病気に襲われた。1840年代のアイルランドのジャガイモ飢饉(ききん)は多くの死者を出し、人々は種イモまで食べた

 飢饉とはほど遠いが、ジャガイモの不作が響いたようだ。スナック菓子メーカーが相次いで、一部のポテトチップスの販売を休止・終了しているという。この時期は北海道産を貯蔵して使うそうだが、在庫が底を突きかけている

 思えば台風銀座になったかのような昨年の北海道だった。8月だけで三つが上陸し、接近した台風10号もジャガイモをはじめ農作物に被害をもたらした

 最大手のカルビーがポテトチップスを発売したのが1975年である。いまやピザ味やバター味があり、食感にも違いがあるなど、大変な種類の豊富さである。好みの商品が休止にならないか、気になる方もおられよう

 九州で収穫が始まるのは5月ごろで、メーカーは農家に前倒しを頼んでいるという。南北に長く自然の多様な列島。それぞれの大地を耕す人々のリレーのうえに私たちの食生活がある。小さな菓子の袋が改めて教えてくれる。 

【4/15 朝日新聞・天声人語】
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