なべて乾いた砂漠の地と思われがちな中東ではあるが、地中海に面しユーフラテス川も流れるシリアは、緑豊かな農業国である。筆者が訪ねたのは十数年前のことながら、首都ダマスカスのスーク(市場)で見た客と売り子の陽気な掛け合い、色鮮やかな果物の山はいまも記憶に新しい

 滞在中、隣国との雰囲気の違いに驚いた。街に英語があふれ、欧米風の服装や音楽が流行するレバノンとは対照的に、人々の暮らしは万事において古風である。モスクから祈りの時を告げる声が響き、高校生は茶色の地味な制服で通学した

 かつて中東随一とも言われた安定が崩れたのは6年前、民主化を求める「アラブの春」が波及してからだ。アサド政権が抗議デモを抑え込み、内戦状態に陥った。国民の4人に1人が難民となって国を出た

 そこへ突然の米軍による攻撃である。国連決議を待たず、ミサイルシリア軍基地に撃ち込んだ。安倍晋三首相は早々と「米国の決意」に支持を表明したが、熟慮をへてのことだろうか

 多くの人が14年前のイラク戦争の始まりを思い起こしたのではないか。国連を無視した米国の行動を、当時の小泉純一郎首相は早々に支持した。だがブッシュ政権が攻撃の理由に掲げた「大量破壊兵器」は結局、見つからなかった

 〈たたかいの日には軍用道路とならんダマスカス街道ぴかぴかにみがく〉高瀬一誌(かずし)。目を閉じて、静穏だった古都の町並みを思い浮かべる。スークで聞いた笑い声が耳の奥にこだまする。 

【4/8 朝日新聞・天声人語】
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『衝突することや不和になることを恐れ、問題を避けて通るようなチームにはいたくない。 
衝突する経験なしには、本当の一枚岩にはなれないのだから。』 

コービー・ブライアント(アメリカ/プロバスケットボール選手) 


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