アニメ映画「火垂(ほた)るの墓」の冒頭の場面、「僕は死んだ」と語る14歳の少年清太(せいた)の体や服は朱色で描かれている。死んだ清太が霊になって登場するシーンで使われたのが阿修羅像(あしゅらぞう)の朱色だ。空襲の炎を連想させる 

 美術監督を務めた山本二三(やまもとにぞう)さんによると、野坂昭如(のさかあきゆき)さんの小説をアニメにする際、奈良市の興福寺(こうふくじ)にある阿修羅像を清太のモデルにした。純真な少年というイメージに合い、唇をかんだり眉間(みけん)にしわを寄せたりする表情が似ている。しかし仏法の守護神となった阿修羅と異なり、清太は餓死した

 戦後71年がたち、清太の味わった苦しみを肌で知る人の高齢化が進む。語り継ぎが難しくなる中、毎年8月、作品の舞台になった神戸市と兵庫県西宮市を歩いて追体験する催しを地域史研究グループが続けている

 アニメで親しんだ物語ならば若者に平和の大切さが伝わるのではと考え、1999年に始めた。清太の妹が衰弱死した西宮市の貯水池周辺は宅地化され景色は変わった。でも実際に足を運ぶと映像が思い浮かび、戦争の痛ましさを感じる

 実行委員の兵庫県尼崎市立地域研究史料館長、辻川敦(つじかわあつし)さんは「普段生活しているところで戦争が起きたことを知ってほしい」と話す。世界の紛争地に清太のような境遇の子供が大勢いることにも思いを巡らせたい

 朱色に描かれた清太が戦後発展した神戸の夜景を見つめる場面でアニメは終わる。「なぜ僕は死ななければならなかったのか」。清太は現代社会にそう問いかけていると山本さんは言う。この夏、身近にある戦跡を訪ね、戦争犠牲者の声なき声に耳を澄ましてはどうだろう。 

【7/31 毎日新聞・余録】
AD
 福本清三――その名前は知らなくても、時代劇の殺陣のシーンで、斬られること数万回というから、その姿を見れば、「ああ」とうなずく人も多いだろう。えび反りで倒れる名演技が買われ、ハリウッド映画「ラストサムライ」にも出演した

 主役を輝かせる“斬られ役”に徹する福本さんが、あるテレビ番組で紹介された。放映後、中学生から手紙が来た。“バレーボール部で、どうせ補欠だ、と腐っていたけれど、それではいけないと思った”という内容だった。スポットライトが当たること以上に、大切な生き方があると学んだに違いない

 女子部員から本紙に寄せられた声を思い出す。彼女は14年間、鼓笛隊で信心の薫陶を受けた。“一度でいいから、師匠の前で演奏したい”と願ったが、それはかなわず、今春、鼓笛隊の集いに参加し、卒業した

 その翌日、会合の模様が本紙に掲載された。満面の笑みの自分が、写真の中にいた。“皆に希望のメロディーをと努力し、自身も大成長できた。紙面を通して、その感謝を師匠に伝えることができた。私の願いはかなった”と彼女は思った

 結成60周年を迎えた鼓笛隊。その爽やかな笑顔の陰にある、努力の汗をたたえたい。人々に生きる勇気を送る、彼女たちの平和の行進は続く。 

【7/31 聖教新聞・名字の言】
AD