民俗学者の宮本常一氏が、ある山地で、護岸工事のために石垣を組む石工に話を聞いた。冬の川の中で行う作業には、泣くに泣けないつらさがある。田のあぜの石垣などは、村人のほかに見る人もいない。それを、心を込めて築くのはなぜか。

 石工は話した。自分の築いた石垣を目にする機会があったら、誇らしい気持ちになる。他の石工が来て、自分の石垣を見れば、ほかの家の石垣を築く時、いい加減な仕事ができなくなる――。「結局いい仕事をしておけば、あとから来る者もその気持ちをうけついでよい仕 事をしてくれるものだ」。以来、宮本氏は、石垣を注意深く見るようになったという(『宮本常一著作集44』未来社刊)。

 誰が見ていようがいまいが、自分で納得できる仕事を、真面目に、丁寧に積み重ねる。それがおのずと、他の人の見本になっていく――人生も、この石工のようにありたい。



AD