「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と綴ったのは詩人・宮沢賢治である。

 環境破壊や大規模な自然災害はじめ、地球の「どこか」で「誰か」に起こっている問題は、自身にとっても影響を免れ得ない時代でもある。近年「Win―Winの関係」(取引などで関係する両者ともに利益がある状態)が取り上げられることが多いのもこうした状況の表れかもしれない。

 「一人が勝つ」のでなく「共に勝つ」。これが21世紀の時代性ではないだろうか。そして、「自他共の喜び」をいかにして得るか。この点が今後の社会を築く上でのカギだろう。

 岐阜県に住む60代の婦人は、それぞれ認知症を患う義父、夫の叔母、自身の叔母の在宅介護に当たってきた。その経験から、医師や介護関係者を招いた講習会、施設や自宅での食事会など、同じ境遇にある地域の人を結ぶ活動にも積極的に取り組んでいる。

 きっかけがあった。自分が過労で倒れた時のことだ。自宅で寝込んで3日目。 2階の寝室のドアが開いた。「体調、大丈夫か?」。自力では階段を上がれないはずの3人が部屋をのぞき込んでいる。 助け合いながら上がってきたという。

 お互いの“生きる証し”を、この3人と共に示そう――。その気持ちが先に挙げた活動に取り組むことに昇華したのだ。


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 独創的な仕事のできる人は、基本がしっかりしている。例えば芸能の世界でも、盤石な型を体得して初めて〝型破り〟ができるのであり、それを欠いては単なる“形無し”といわれる。独創と我流は違うのだ。

 型、基本とは先人の成功と失敗の蓄積から抽出された「これだけは必要」というエッセンス(精髄)。これに学ばない手はない。その土台の上に、さらなる高みを目指す努力が、創造する「力」を生む。

 若くして自分の店をオープンし、美容師として第一線を走り続ける壮年がいる。確かな技術と、組合で要職を歴任した手腕を買われ、美容技術の競技大会で審査員も務める。彼の言葉が重い。「この道は、身につけた地力が正直に出てしまうんです」。

 時代の変化を敏感にキャッチし、流行の最先端を行く業界だからこそ、一にも二にも必要なのは、基礎技術の習得なのだという。 そこで手を抜いた人が、いくら斬新なヘアデザインを考え披露しても、「それは、奇をてらった程度のもの」と、彼は手厳しい。

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