建築やデザインの世界に「神は細部に宿る」という格言がある。宗教的な意味ではない。柱1本、タイル1枚――そうした細部に徹底してこだわってこそ、全体の美が生まれる、ということ。近代建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエの言葉とされる。

 数寄屋大工の齋藤光義氏は、かつて上棟式の後、設計士から、柱を全て、図面よりわずかに丸みを帯びたものに変えてほしいと言われた。悔しかったが、半年後、完成してみると、確かに部屋の雰囲気が心地良い。あの丸みが、そうさせたことを思い知った。

 その後も氏は、〝柱を数ミリ太く〟とか〝木の表面をごくわずかに削って〟と注文を受ける。妥協なきこだわりに触れて、奥深い数寄屋の世界に引き込まれていく。「大工仕事も積み木みたいなものですからね」と氏は語る(『運命を変えた33の言葉』NHK出版新書)。

 良き人生のために、大志を抱くことは必要だが、そこに至る道は、地道な小事を積み重ねるしかない。誰が見ていようがいまいが、丁寧に、妥協せず取り組む。それで実力がつくし、周りからの信用が生まれ、自分の大きな夢を応援してくれる人も出てくるものだ。
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