大澤真幸『文明の内なる衝突』 | 我々少数派

大澤真幸『文明の内なる衝突』

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 ではその、同世代あるいは同世代以下の“論客”たちについてあれこれ……。
 「と思っていたんだが、それはまたさらに次回にして、今日は大澤真幸の『文明の内なる衝突』について話しておきたい」
 何でまた。
 「昨日、読書会をやったもんで、忘れないうちにと思って」
 読書会というと、革命家養成塾・黒色クートベの読書会ですか?
 「そう」
 塾の運営も地道にやっているんですね。現在はどれぐらいの規模なんですか?
 「正規の塾生は2人だ。昨年の11月からいる滋賀県からのH君と、この4月から入った東京からの演劇青年・M君。それからやはり東京から先月だったか、すぐ近所に転居してきて、しょっちゅう塾舎に来て読書に励んでいる“通いの塾生”のS君。この3人にプラスして、維新政党・新風の、福岡支部の最若手活動家であるスバリスト君と、同じく新風福岡に最近やっぱり東京から引っ越してきて活動に参加しているインテリ青年のアキノリ君。だいたいこの5人に私とスタッフS嬢を入れて7人でやってる。もっともアキノリ君は仕事の関係で参加できたりできなかったりで、昨日は読書会が終わってから来た。だいたい読書会の後はそのまま深夜まで宴会っぽくなるんで」
 かなり賑やかにはなっているようですね。
 「うむ。九州が右翼革命勢力の牙城となる日も近い。というかもう半ばなってる。これで8月に前回ちょっと話した新雑誌が創刊されれば、いよいよ勢いがつくだろう。“編集長権限”で毎回、我々団の全面広告を載せるし、そこには当然“とにかく九州に移住せよ”って入れるし。新風の広告も、もちろんタダで載せる。新風本体のじゃなくて、なぜか新風・福岡支部のを。なんだったらフリーター労組や在特会の広告も無料で載せてやってもいいんだけどね、九州内のやつだけならしぶしぶ」
 それで昨日の読書会について、ということですが……。
 「その話だった。第一期と違って、正規の塾生2人も同時に入塾したわけではないから、テキストの選択が難しくてね。M君は入ったばっかりだけど、H君はもう5ヶ月目になるし、かなり“修行”も進んでるんで。でもう、深く考えないことにして、1週目は……あ、毎週月曜に9時5時的に8時間、正確には10時18時でやってるんだけど、1週目はとりあえず入門書的に浅羽通明の『右翼と左翼』をやって、2週目、3週目は笠井潔の『ユートピアの冒険』をやって、中途半端に余った時間に柄谷行人の短い文章を入れたり、かなりテキトー。で、昨日はH君以外にはちょっと早すぎるかなあと思いながら大澤真幸の『文明の内なる衝突』を前半3分の2ぐらいやった」
 総統が獄中で読んでかなり強く影響を受けた本だとうかがっております。
 「ファシズム転向して間もない時期に読んだ。獄中独特の集中力もあったんだろうけど、内容がするするとアタマに入ってきて、これで私のファシズム・イメージがだいたい固まった」
 大澤さんはそんなつもりで書いたわけではないでしょうに……。
 「期せずして新たなファシズム運動の養分にされてしまったという可哀想な本。もちろん、換骨奪胎して取り入れたわけだけど」
 内容的には、9・11とその直後の情勢を、思想的に分析したものですよね。書かれたのもその時期ですし。
 「第一期でもテキストに使ったし、私の言動に関心のある人はまずこれを読まなきゃ話にならんという“最重要2論文”の片方でもさんざん引用してる。一連の選挙戦で使った“2種類のポスター”の、文字ばっかりの方で表明している現状認識も元ネタはこの本だし、『悍』に寄稿した文章でもやっぱりたくさん引用してる。だから私自身もう10回近くは読み返してる」
 もちろん内容に全面的に賛同しているわけではないですよね。
 「情勢分析の部分だけだね。あとはくだらない。しょせん今ふうのアカデミズム左翼でしかないんだし」
 それでも“塾生必読”の最重要文献の1つである、と。
 「情勢分析は正しいんだけど、そこから導かれる結論というか処方箋というか展望というか、それらは旧態依然たるヌルーい左翼的なものでしかないんだよ。昨日の読書会で扱った部分までで云うとね、要するに一方に資本主義先進国の“自由と民主主義”の社会がある。そこに身をおく者たちの生は、東浩紀が云うところの“動物的”なものと化していて、これと並行的に、その社会システムはやはり東が云うところの“環境管理型”の“アーキテクチャの支配”と化しつつある。他方、イスラム圏にはいわゆる“イスラム原理主義”の勢力が台頭してきて、これまた実は資本主義の“世界システム”にイスラム圏が組み込まれてきた結果として顕在化してきた必然的な傾向である。そして両者が激突するのもまた必然的な成り行きである、と」
 その認識自体には総統にも異論はないんですよね?
 「だけど大澤の結論というか、読者を誘導していこうとする方向はオカしい。大澤はこの“激突”を肯定しないんだよ」
 そりゃそうでしょう。両者が前面衝突して“まったく新しい戦争”、アメリカ側が云う “対テロ戦争”が全面化するという事態を阻止したいというのが大澤さんの立場でしょうから。
 「だって大澤はマルクス主義者なんだよ。なんでこの“弁証法”的な歴史過程を全面肯定しないの?」
 はあ……。
 「双方とも資本主義の発展の“歴史的必然”として顕在化してきてるっていうか、資本主義が自らの内部から必然的に生み出す現象なわけだろ? それがお互いに衝突するしかないことも“歴史的必然”なわけだ。その結果、これまで我々が見慣れていた世界は、激変してしまう可能性が高い。しかしそれこそはマルクス主義者の望むところであるはずじゃないか。この対立が何らかの形で決着をみて、つまり対立物が弁証法的に止揚されて、まだ見ぬ未知の世界システムが出現したら、“それが共産主義”なんだから」
 えーっ!? それは“共産主義”なんですか?
 「“共産主義”が具体的にどういう社会体制なのか、マルクス主義者にも分からないんだろ? 奴ら、口癖のように云ってる」
 あ、えーと、“共産主義とは目指すべき何らかの理想的状態のことではなく、現実に存在している諸矛盾を止揚していく現実の運動である”とかなんとか……。
 「うん、それ。マルクスの何かの本にあるらしいそのフレーズを、好んで引用したがる昨今のマルクス主義者たちってのは、要するに旧ソ連や今の北朝鮮みたいな体制を、“自分たちとはカンケーありませんよ”ってイイワケしたいだけだとしか私には思えんが」
 またそんなウガったことを。
 「しかしマルクス主義、共産主義ってのがそういうものだとしたら、まさに今、目の前で進行しているのは、“諸矛盾を止揚していく現実の運動”じゃないか、世界史的な規模の。マルクス主義者のくせにそれを肯定しなくてどうすんの」
 だって“対テロ戦争”の果てにあるものが、肯定したくなるようなナニガシカであるようには、とうてい思えないじゃないですか。
 「そりゃそうだ。“動物化するポストモダン”が全世界化して、当然、それに対応する“アーキテクチャの支配”も全世界化して、まさに奴らが“自分たちとはまったくカンケーないこと”にしたがっているスターリニズム的な事態が一元化するか、それとも全世界が廃墟と化す徹底的な破滅か、どっちかにしか行き着かないだろうからね。“チャイルディッシュ”な“戦争反対”の主張に学問的装飾をほどこして、せめて“チャイルディッシュ”には見えないように偽装するのがせいぜいなんだろう」
 では総統はそんなろくでもない未来を肯定しろとおっしゃるんですか?
 「マルクス主義者なら肯定しろ。肯定したくないんだったら、大多数の無意識の欲望を背景に進行していく“歴史の必然的な発展”を阻止するために、“選ばれた少数者”の“意志の勝利”をめざすファシズム運動に転身するしかない」
 それを聞いて安心……していいんでしょうか?
 「ファシストなら安心しろ」