雨乞いのお祭りというのは、国内だけでなく世界中で見られる。長野·上田市の別所温泉で毎年行われる「岳の幟」も雨乞いのお祭りであるが、国の選択無形文化財に指定されているこの七久里の湯でのお祭りは、今から500年以上も前に干魃に苦しんだ地元の民が近くの夫神岳の神に雨乞いをし、その結果雨が降った事から、お礼に布をお供えしたという故事に端を発しているという。その岳の幟が今年も先週末の日曜日に開かれ、地元の人や温泉を訪れた観光客が伝統の祭りを見物した。

 地元の民たちは、未明に夫神岳に登って頂上にある祠に反物を供え、神事を行う事から祭りが始まる。雨乞い師が「あーほやぁ、トンタタトンタタ、あーほやぁ」などと呪文を唱えて祈祷というようなものは一切なく、普通に神官が祝詞を上げて神事は進行していく。その後、民は列を成して長さ20尺程の竹の先に色とりどりの布を垂らした幟を手に持ちながら山を降り、温泉街を練り歩くが、これを見たお江戸からの湯治客は「良きものを見た。生きていて良かったと思う」と感動を口にしたが、多くの観光客がこの人と同じ思いであったと思う。

 温泉街の広場では、獅子舞や「ささら子」と呼ばれる花笠をかぶった少女たちがお囃子に合わせて踊るなどして、祭りに彩りを添えた。観光客の中には、高価そうなカメラを持って踊り手たちの姿を撮っていたという方もいるが、撮影した方々の多くは、その写真をインスタグラムやフェイスブックなどのSNSに上げ、旅の思い出を皆で共有しようという事であろう。それを見て、「私も来年は岳の幟を見に、別所温泉に行ってみよう」という人もいるかも知れないが、そうなれば市や温泉の関係者が泣いて喜ぶ事は確かと言える。

 信州最古の湯である別所温泉は、祭りの期間以外でも「信州の鎌倉」と呼ばれる神社や寺が点在するなど、パワースポットも多い。歴史ある神社仏閣に参拝して、温泉に入って帰るも良し、1度足を運んでみてはいかがであろうか?