南相馬市での経験③集会所でのエステと足ツボ施術 | 十津川サポーター

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十津川村出身者(通称とつさぽ)が運営しています。台風12号で被害を受けた十津川のために、何かできることはないかなと思って、このブログを立ち上げました。

一夜明けて朝になった。宿の前までゆきちゃんが迎えに来てくれるということで、9時前にはチェックアウトし、お茶のペットボトルを持ちながら玄関の前で待っていた。8時頃には、原ノ町駅に着いた二両の電車から、高校生がぞろぞろと出てきて多少人通りもあったのだが、それもおさまってしんとしている。

厚手のカーディガンに黒のパンツスタイルのゆきちゃんは、長距離の運転の疲れを一切見せなず、さっと荷物を車に載せ、訪問先の鹿島地区の角川原仮設住宅に向かいながら、手短に今日の活動について説明してくれる。一見とてもパワフルなのだが、パワフルさだけつっきらない細やかな気遣いが感じられ、初対面だったがすぐに打ち解けることができた。

昨日は暗くてよく見えなかったが、市内は水田や畑が広がり、川沿いには桜の花が満開になっている。海沿いから比較的ぺったりとした土地が広がり、はるか向こうに飯館や中通の山々がそびえている。のどかで、少しだけ私のふるさとの奈良にも似たぼーっとした空気が流れている。(以前は船が打ち上げられていなそうだが、撤去されたそうだ)水田に水は入っていない。後に地元の人から聞いた話によると、もともと南相馬は兼業農家が多く、米は家で作って一番美味しいところを自家用にし、余ったものを売る。野菜などは買ったことがく、にらや葱なんて繁りすぎて捨てるぐらい。魚介類も鰺や鮭、ホッキ貝などふんだんにあり、これまた買うというよりは貰って食べるもの、というようなところだったそうだ。

仮設住宅はかなり内陸に入ったところにあり、住宅の名前が書いた小さな標識が立っている。これが仮設住宅です、というような遠目からでも分かるような存在感はなく、突如視界に飛び込んで来るという感じ。回りには民家がちらほらある以外は、やはり水田や畑が広がっている。まわりにコンビニや商店はない。グレーのプレハブのような平屋の建物が何列も並んでおり(世帯毎の部屋はくっついている)、何列に一つかは直接車が入れるようになっている。裏側は縁側のようになっており、洗濯物も干せる。なかにはきれいな鉢植えや真新しい自転車を置いている部屋もあった。このような仮設住宅は南相馬市内に30カ所あり、この角川原は一番内陸で、かつ他の仮設からは少し離れたところにある仮設住宅ということであった。

この仮設は、16日に立ち入り解除になったばかりの南相馬市小高区(海沿いのほう)から来られている方が多く、エステを施術する集会所のサロンには既に8名ほどの高齢者の方がお茶を飲みながら話に花を咲かせていた。あらかじめ予約を取っていてくださったそうで、すぐに準備にかかることができた。ちなみにエステも足ツボも満員御礼で、エステはキャンセル待ちの欄までできている。

別室の和室を施術スペースにしてもらい、慌ただしく準備が始まる。エステの性質上、一人一人タオルや、顔をはたくスポンジを換えていくので、それだけでも相当な量になる。お湯を沸かす為のポッドに保温するための瓶、お湯を張るボール、そしてエステを受ける方が寝そべるためのマットに、カバー、膝掛け毛布、電気毛布などなど、施術を受ける人の状況にどのようにでも対応できるよう、本当に色々なものを持ち込んでいる。(自分がやれば、何か忘れ物をしてしまうことは間違いない)肌に当たるものだけではなく、ヒーリング音楽、いい香りのするお香などを配置するという一連の流れを、ゆきちゃんはてきぱきと教えてくれ、私はあたふたしながら、淹れてもらったコーヒーをちゃっかりいただきつつ、ひたすらモノを配置する・・・という行程をどの集会所でも繰り返した。

10時半より施術開始。「では、始めさせていただきます~エステ、◎◎さん、こちらへどうぞ。足マッサージ・・・◎◎さん」とゆきちゃんが予約表を見ながら声をあげる。エステも足ツボも20分で、10分休憩が入り、また施術という流れで、午前中3人、午後4人を施術する。この日は全員が女性で、おそらく60歳以上の方だった。

午前中は、時間配分がつかめず、ある人にはひたすら左の足ばかり押し続けてしまうという失態をおかしたり、タオルを絞るときに水をぴゅんぴゅんまき散らしてしまうなど、色々な失態をやらかしたが、どのおばあちゃんも皆辛抱強く耐えてくださった。本当は若干痛い人もいただろうに、どんなに「痛いですか」と聞いても皆「いえ、大丈夫」と答えてくださるので、そのあたりの加減も悩むところだった。一方、ゆきちゃんはさすがエステを生業とし、ボラの経験が豊富なだけのことはあり、20分のなかにフルに手技を組みこんだ、寧ろ私が受けたいくらいの盛りだくさんなエステを展開している。おばあちゃん達もかなり気持ち良さそうに寝そべり、顔や首をケアしてもらっている。一方、足ツボはのおばあちゃんは、私のぎこちなさのせいなのか、ちょっとカチンコチン。「はー、足ツボを選んでくれた人にちょっと申し訳ないなあ。おばあちゃん、堪忍してな。」なんて心のなかで懺悔する一面も。

こうなることを予期していたのかしていたなかったのかは謎だが、福島に行く前に、私はさんざん周囲の友人から「初回は飛ばしすぎるな」「あれこれやろうと思いすぎるな」「ほどほどに」と言い含められていた。まさに仰る通り。その言葉をあめ玉のように心のなかで転がしながら、とにかく淡々と落ち着いてやることだけを心掛けた。足を拭く行程など、もたもたしてしまった部分に関しては、次の施術のなかで少しずつアレンジを変えてみるなど、それでも初日の午前は暗中模索が続いた。

また、足ツボのおばあちゃん達は比較的目を閉じて黙って受けてくださる方が多かったが、一度口を開くと浜通りの訛りというものはなかなか強烈で、一回では聞き取れないことも多くて、耳のほうに神経を使っているうちに指がしっちゃかめっちゃかということもあった。お昼の休憩で、東京で買ってきてそのまま食べる機会を逃したまま持ってきてしまったパンを口にしたときには、「美味しい、あれ、でもこのパンを買ったのは、昨日の夕方だったんだよな・・・まだ一日もたってないのか」と、目の奥が暗くなったくらいだ。

しかし、人間とは現金なもので、美味しいパンとチーズ、そしてコーヒーを補給するとまた元気になり、かつお腹がいっぱいでぼーっとしていることも手伝って午後はもう少しまったりと(別名若干いい加減に)足ツボができるようになった。だが、相手のおばあちゃんは、痛いのだろうか。眉間に皺を寄せている。しばらくすると、鼾が聞こえだしおばあちゃんは、終わる直前までぐうぐうと寝続けた。

「あー寝てしまったわ^^はあ、すっきりした(実際はもうちょっと方言はいってます)」

と、笑顔を向けられたとき、ようやく地に足がついたというか、力が抜けた気持ちになった。結局この日は7人を施術し、3時前には無事に終了。そして、本日泊まらせていただく牛河内の仮設住宅に向かった。


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おばあちゃんのお話については、どこかでまとめて書きますね。
ちょっと細かくて読みづらいですが、ボラに行こうかなとお考えの方には、
どんなことをするのか、参考になればいいなーと思って、細かめに書いています。