プライベート・ライアン(8点) | 日米映画批評 from Hollywood

プライベート・ライアン(8点)

採点:★★★★★★★★☆☆
2005年2月7日(DVD)
主演:トム・ハンクス、マット・デイモン
監督:スティーブン・スピルバーグ


 初めて見たのが、今から5年前になるわけだが、それ以来何度も見てきたはずなのに、見るたびに新しい発見があるこの映画。

【一口コメント】
 "戦争"を知らない世代(自分も含めて・・・)にはぜひとも見て欲しい作品です。


【ストーリー】

 フランス、ノルマンディ上陸作戦。ジョン・ミラー大尉と彼の部隊は猛烈なドイツ軍の抵抗をかいくぐり、何とか上陸に成功する。
 戦士報告を作成している途中、あることに軍は気付く。ジェームズ・ライアン二等兵の存在だ。彼は4人兄弟の末っ子で、3人の兄は全員戦死していた。すぐに軍の幹部はジェームズ・ライアンを直ちに祖国に連れ戻せという命令を出す。
 この命令を遂行するために8人の精鋭が選ばれた。途中、仲間の一人がドイツ兵に殺される。その時、仲間の一人が「
なぜ1人の救出に8人もの命を賭けるのか?」という、誰もが思っていたであろう疑問を唱えた―――。


【感想】

 この映画を語る上で欠かせないのが、冒頭30分に及ぶノルマンディー上陸作戦のシーンだろう。おそらく、この作品を見た誰もが戦争の怖さというものをリアルに感じたのではないだろうか?戦争を知らない自分が言うのもなんだが、それでも戦場における恐怖感というのを肌で感じた。今まで多くの戦争映画を見てきたが、ここまで戦争の恐怖を感じた映画は、後にも先にもこの映画だけだ。
 それは肉体が飛び散ったり、片足をなくした兵士だったり、顔面を打ち抜かれた兵士の顔だったり、そういった映像的な要素はもちろんのこと、音響効果による部分が大きいのではないだろうか?銃弾が前から後ろ、あるいは後ろから前へと突き抜けていく音、刑事ドラマで使われているような銃撃戦の音とは根本的に違う。また水面を境界に水中と空中で聞こえる音の違いも非常にうまく表現されている。さらにそこに戦車の重圧感ある音や、兵士の叫び、そして遠くで聞こえる爆撃の音。これが戦争だという音。映像と音の融合。映画の醍醐味とも言えるこの二つの要素をうまく使っている。「
激突! 」で見せたスピルバーグの映像の見せ方のうまさに、音響の使い方のうまさが加わった、スピルバーグの真骨頂と言えるかもしれない。

 だがしかし、この映画を戦争映画という言葉で片付けてしまうにはもったいない。むしろヒューマン・ドラマとして捕らえても良いほどの内容が詰まっている。
 たとえば、ミラー大尉とホーヴァス軍曹の友情。他の若い兵士たちが眠れないといって、おしゃべりをしている中、この二人は戦争における犠牲について深い話をしている。それは自分の部下が一人犠牲になったとする。それは"
一人の犠牲ではなく、その10倍、あるいは20倍以上の人を救ったのだ"、そう考えるようにしている。そう語るミラー大尉とホーヴァス軍曹の間に長い間、ともに戦況を乗り越えてきた仲間意識のようなものが垣間見える。

 軟弱な男アッパムを描いているのもこの映画にリアリティーをもたらせている要素の一つだろう。戦争映画というと、皆が皆、たくましく、勇ましい兵士ばかりを描いている作品ばかりだが、人間誰しもが強いわけではなく、土壇場になると逃げ出そうとする人間もいるはず。この映画はそれも描いている。
 仲間の兵士が部屋の中で敵兵にやられているにも関わらず、銃を手にしたまま階段のところで何もすることができずに、震えている姿はまさにその象徴的シーンだ。

 ミラー大尉が仲間を殺したドイツ兵を逃がした後で、一人で泣くシーンがある。戦争という状況の中で、任務を守るべきなのか?それとも仲間たちの言うように、一人の命のために8人もの命をかけるべきなのか?そういった心の葛藤がうまく描かれていて、この作品の中で一番のお気に入りのシーンかもしれない。しかも役職柄、部下の前ではあくまでも任務に徹する上司を演じ続けていた中での、不意の涙とも言え、それがまた自分の心をグッとつかんだ。
 しかも最後にその助けたドイツ兵に殺されてしまうというのも、戦争の皮肉さを見せてくれているようで、戦争を知らない自分にとっては、この映画が自分にもたらした"戦争"という言葉の意味は計り知れない。

 戦争の恐怖、その中で繰り広げられる心の葛藤という意味でのヒューマン・ドラマ。この二つが見事に組み合わさり、見ごたえのある重い作品となっている。