与謝野馨・衆議院議員インタビュー01「国債消化に使える純資産は、あと100兆しかないんです」
12月14日、与謝野馨「たちあがれ日本」共同代表にインタビューを行いました。
与謝野 今回は、何ですか?
鳥巣 7月に青志社という出版社から、「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」というタイトルの本を出した後も、専門家の方々に取材をしてきているんですが。
ちょっとリアルになってきているな、と。
僕の中で整理していきますと。
期間的にいちばん早いのは、エコノミストの長谷川慶太郎先生。
今年、ま来年。
こんな困難な予算はないと。
渡辺喜美さん(「みんなの党」代表)は、2年。
それから竹中(平蔵)先生は、3年がせいぜいだろうと。
さて、与謝野先生は、今年初めの頃のインタビューでは、「発散傾向に入った」とおっしゃっている。
一口に「破綻」とは言っても。
そこに行く道筋として、いくつかの経路があるだろうなと。
先生がおっしゃっているように、「発散」であるとか。
財務省さんは、あと250兆。
それを超えると、クラウディングアウトの可能性が出てくると、おっしゃっている。
あとは予算編成が困難で、格付けを落とされて金利が上昇、というプロセス。
いくつかあると思うんですね。
(与謝野)先生としては・・。
与謝野 この民主党政権が財政に手を付けない。
むしろ法人税の減税なんかやってみせる。
子ども手当を増やす。
歳入・歳出改革を一切やらないで、今の財政をやっていくと想定したら何が起きるか。
どういう順番で物事が起きてくるか。
と言うと、みんなが疑い出すというところから始まるんですよ。
疑うだけで金利が上がる可能性があるんです。
鳥巣 …。
与謝野 外国から日本を見た時の評価というのは、日本人は正直だと。
財政の事も心配していると。
消費税が5%だから、まだ上げられるだろう。
ま、しかし、あの人たちは真面目だと。
だから、噂が立っていないわけですよ。
なんとなく怪しいな、とは思う。
ちょっとずつ金利が上がってくる。
鳥巣 10年債の金利が上昇しています。
与謝野 この金利というのは、世界の超低利な金利の、同じにはなんないけど、平行移動しちゃう可能性がある。
そういう超低金利の性格のものだから。
じゃあ、みんながぐちゅぐちゅ言い出したな、と。
日本の国債は日本の国内で消化できてんだから、かまわねえじゃないかと。
りっぱな議論なんだけど。
じゃあそれが正しいとして。
あといくらくれるか、と。
与謝野 というと、日本人の金融の純資産というのは、約1000兆なんですよね。
鳥巣 ネットがですね。
与謝野 もう900兆。
国債と地方債で。
使える純資産は、100兆しかないんです。
44兆の国債を出していたら、2年でほとんど終わっちゃう。
たぶん、そのことにみんな気がつき始める。
その時期を過ぎると、日本の国債を海外市場で消化しないといけない時が来る。
甘いことを言ってくれませんから。
金利が高くなる。
日本人が、これだけ財政が悪化しても、のほほんとしていられるのは、金利が0・9%。
それだからですよ。
金利が上がり出すと、個人の住宅ローンも圧迫する。
中小企業を含めたあらゆる企業の金利を圧迫する。
経済にとって、急に不幸な事が起きる。
与謝野 もうひとつ。
じゃばじゃばに(日銀が)カネを流しているんです。
鳥巣 「買いオペ」とかで、ですね。
与謝野 (だけど)投資するところがない。
どこに行っているかというと国債市場。
それからアメリカのおカネ、日本のおカネは新興国に行っている。
バブルになる。
インフレになる。
数年後にはそうなる。
鳥巣 ええ。
与謝野 (人々が、「やばいのでは」と)噂をする。
破産と言うが。
破産というのは、いくつかあって。
同じものなんですけど。
おカネを返せない。
おカネが調達できない。
調達できるとしても、ばかげた金利を払う。
そういうのが、どういう順番か分からないけど、起きちゃう。
日本の借り入れの絶対値というのは、下がらないんですよね。
借りてる金額を元まで返せない。
だから、せめて対GDP比(債務残高を)一定のとこまでもってこうと。
それが自民党時代の財政の基本。
そんな事も考えなきゃいけない。
与謝野 ここに原稿があるんだけど。
こないだ海江田万里と対談した。
与謝野 これは『新宿新聞』といって、ローカル紙のやつなんだけど。
「財政問題をけっして軽んじていいとは思わないが、私はここ1年で解決しなければならない緊急課題かというと、私はもう少し余裕があるとみている。
3年5年の中長期のスパンで問題をとらえなければならない」
鳥巣 海江田さんがですか?
与謝野 海江田!
私は、ひっくり返りそうなほど驚いたね。
鳥巣 長谷川先生もそうおっしゃっていました。
小沢(一郎)さんと親しいらしいですけど。
「小沢は、あと4~5年余裕があるとみている」
と。
一部には、そういう事を思ってらっしゃる方はいるみたいですね。
榊原英資氏も
「4~5年はかなり大量の国債を発行しても金利は上がらない」
と述べる一人。
一方で、
「まあ、そのときは毎年何10兆円も借金は返すから政府は何もできない。
財政再建しなければ、という話になるけど」(『絶対こうなる!日本経済』<アスコム>)
与謝野 それは選挙を避けるために4~5年と言っているだけの話で。
実際は、小沢さんの見方、海江田の見方っていうのは、数字に基づいた、日本の経済成長率に見合ったものの見方ではない。
極めて政治的な見方ですね。
鳥巣 そういった政治的な思惑、いろんな思惑の中で。
いや、まだ財政危機じゃないんだ、と。
政府資産を売ればまだ大丈夫なんだ。
とか、いろんなご意見がありますよね。
ああいうのが惑わしていますよね。
国民からすると、まだ大丈夫みたいだよ。
とかですね。
確かにそれはみんな鈍感でいてくれる。
それも(市場に悪影響を及ばさないためには)大切な要素ではあるんですけども。
そこのバランスがですね。
与謝野 みんな増税を言いたくないから。
アリストテレスが書いている本の中に、民主制の末路っていうのがあるんだけど。
危機が迫っているのに何もやらない。
というのがあるんですよね。
鳥巣 ロゴフさんが、800年に及ぶ経済危機の歴史を調べた結果を本に書いて。
日本では英訳しかないようですが。
専門家の間では、話題として出てきます。
鳥巣 僕も少し調べたら、アルゼンチンは最終的にはハイパーインフレになりましたけれど。
あそこも財政改革をやりきれなかった。
政治的にも財政再建をまとめきれなかった。
どうも日本も体質的に・・。
本当の危機が来ないと立ち上がらないから。
まあ、行くところまで行くのかなあ、と。
与謝野 日本は原爆が2個落ちて。
初めて日本は戦争に負けたって。
鳥巣 そうですね。
与謝野 それでも本土決戦なんて馬鹿な事を・・。
財政も・・。
人間の理性で分かんないと。
分かりたくない、と言った時に犠牲になるのは一般の庶民ですから。
鳥巣 おっしゃる通りですねえ。
僕の知人に官僚がいるんですね。
彼に会った時に、
「ここまで来たら、シュミレーションをすべきだ」
と言ったんですね。
そしたらすかさず彼は、
「すべきだ」
と。
僕は、官僚でもなく、庶民の一人。
仮に法案に名前を付けるとすれば、
国家財政破綻時における「国民救済法案」
みたいな形になると思うんですけど。
有事法案と同じですねえ。
小泉さんの時にやりましたけれど。
有事の時に国民をどう保護するかって。
鳥巣 長谷川先生は、仮に破綻したとしても、このデフレではインフレなんかなるもんか、とおっしゃったんですね。
財務省さんは、
「いや、輸入インフレにはなります」
と。
当然、政府の信認が落ちれば、急激な円安に振れるでしょうから。
与謝野 だから。
鳥巣 はい。
与謝野 破綻の前に来る、金利上昇っていうのが。
鳥巣 そうですねえ。
与謝野 900兆も出していると。
5%も金利が上がったら、大変な事なんですよ。
鳥巣 そうですねえ。
NHKの日曜討論で、民主党さんが
「成長戦略。成長戦略」
と言っていたら。
(自民党政務調査会長)石破茂先生がゲストだったんですけど。
じろっとにらんで、
「1%金利が上がっただけでも大変なことになりますよ」。
と、こうぽつりと一言おっしゃったんですね。
与謝野 だから1%金利が上がったって。
もう出している国債の金利には関係ないんだけど。
それを持っている銀行やなんかの債券類の価格がばーっと下がっちゃうから。
銀行系が大変になっちゃう。
いろんな弊害がある。
与謝野 財政っていうのは、こっちの所得を、あっちに移転するだけなんですよ。
政府は何も持ってないんですよ。
それを財産を持ってるんだ、と。
処分して移転しろと。
でもそれは・・いつか破綻する。
時間は迫っている。
スーパーサチュレーションという現象があるんですよ。
飽和状態です。
たとえば、こういう(グラスの中のウーロン茶を掲げて)ものをどんどん温めて。
100度超したけど。
泡が立たない。
沸騰しない。
どんどん、どんどんやっていると、全然沸騰しないじゃないか。
見ている人が、ゴホンと咳をしただけで、うわーっと沸騰する時があるんですよ。
昨日、日銀と話したんだけど。
何でもない事が引き金になって、わっといく可能性があるって言ってた。
その状態を作っちゃいけない、と。
与謝野 それから『みんなの党』が言っている理論は出鱈目ですよ。
なぜかって言ったら。
私の友人の中村喜四郎っていうのがいます。
与謝野 『みんなの党』に呼ばれて、一緒にやらないかと。
で政策の説明を受けた。
中村喜四郎が、
「この政策は全部できない」
と。
そしたら渡辺喜美が、
「できるかできないかは、どうでもいいんです」
と。
「選挙に勝てればいいんです」
と言ったんで、中村喜四郎は呆れて帰ってきたんです。
与謝野 小沢さんに関して言えば、斉藤次郎さんが来て。
「あんたがついているのに、代表選の小沢さんの公約はなんだ」
と。
そしたら斉藤次郎は、
「いや、あれは選挙用で、小沢さんはみんな分かっていますから」
と。
鳥巣 消費税に関して言えば、菅さんは参議院選挙に負けてしまってからは、消費税論議を先送りした。
海江田さんもNHKの『日曜討論』で、
「法制化まで考えれば、早くても4年後です」
と。
与謝野 いや彼らのマニフェストは、今度選挙やる時は消費税の可否を問うて選挙をやるって言っているから。
ま、公約上はできない、て言っているんですね。
鳥巣 それはこれからの政局ですから。
前倒しになる可能性が、僕は強いとは思いますけど。
じゃなければ、それだけ真剣に考えておかなければ、非常に危ういだろうな、と。
与謝野 来年の6月までに、いろんな事をやっといてもらわないと、パンクするんですよ。
本当に危機が目前に迫っているっていう意識を持って貰わないと。
(次回へつづきます)
絶対に受けたい授業「国家財政破綻」/鳥巣 清典
¥1,575
Amazon.co.jp
田原総一朗責任編集 2時間でいまがわかる! 絶対こうなる!日本経済/竹中平蔵
¥1,000
Amazon.co.jp
●用語解説<与謝野馨・衆議院議員> 1938年東京生まれ。 「2009 財務大臣 国務大臣(金融担当)<麻生内閣>」 「2009 財務大臣 国務大臣(経済財政政策・金融担当)<麻生内閣>」 「2008 国務大臣(経済財政政策担当)<麻生内閣>」 「2008 国務大臣(経済財政政策・規制改革担当)(福田改造内閣>」 「2005 国務大臣(経済財政政策・金融担当)<第三次小泉改造内閣>」 自民党政権で、主に経済財政担当として重責を担ってきた。 先日、菅首相とも1時間半余りの会談を行ったばかり。 |
「破綻への道にもいくつかの種類があると思うんです」
与謝野 今回は、何ですか?
鳥巣 7月に青志社という出版社から、「絶対に受けたい授業『国家財政破綻』」というタイトルの本を出した後も、専門家の方々に取材をしてきているんですが。
ちょっとリアルになってきているな、と。
僕の中で整理していきますと。
期間的にいちばん早いのは、エコノミストの長谷川慶太郎先生。
今年、ま来年。
こんな困難な予算はないと。
渡辺喜美さん(「みんなの党」代表)は、2年。
それから竹中(平蔵)先生は、3年がせいぜいだろうと。
さて、与謝野先生は、今年初めの頃のインタビューでは、「発散傾向に入った」とおっしゃっている。
一口に「破綻」とは言っても。
そこに行く道筋として、いくつかの経路があるだろうなと。
先生がおっしゃっているように、「発散」であるとか。
財務省さんは、あと250兆。
それを超えると、クラウディングアウトの可能性が出てくると、おっしゃっている。
あとは予算編成が困難で、格付けを落とされて金利が上昇、というプロセス。
いくつかあると思うんですね。
(与謝野)先生としては・・。
「みんなが疑い出す、というところから金利上昇が始まる」
与謝野 この民主党政権が財政に手を付けない。
むしろ法人税の減税なんかやってみせる。
子ども手当を増やす。
歳入・歳出改革を一切やらないで、今の財政をやっていくと想定したら何が起きるか。
どういう順番で物事が起きてくるか。
と言うと、みんなが疑い出すというところから始まるんですよ。
疑うだけで金利が上がる可能性があるんです。
鳥巣 …。
●用語解説<国民の疑い> 与謝野議員が述べられように、「国民の認識度」がキー・ポイントになってきます。 取材をして真相を知らせる行為は、 「やばいよ」 という雰囲気だけを醸し出すことになったとしたら、むしろ逆効果です。 抑え気味に書いてはきていますが、内心非常にスリリングだと思っています。 私が授業を本格的に受け始めるきっかけともなった、友人の言葉があります。 彼は、さる企業の経営者。 「このままでは、絶対に国は破産する。 マスコミのやる事は、政府に対して、ちゃんと仕事をしろ、と言う事だ。 駄目なら、何度も何度も。 彼らが実行するまで、声が続く限り、言い続けるんだ。 遊んでなんかいる場合じゃない! と」 もしかしたら政府は、「遊んでいるふり」をしていたのかもしれません。 まだ今も多少続いているようですが・・。 |
「日本の国民は、あとどれくらい貸してくれるのか・・」
与謝野 外国から日本を見た時の評価というのは、日本人は正直だと。
財政の事も心配していると。
消費税が5%だから、まだ上げられるだろう。
ま、しかし、あの人たちは真面目だと。
だから、噂が立っていないわけですよ。
なんとなく怪しいな、とは思う。
ちょっとずつ金利が上がってくる。
鳥巣 10年債の金利が上昇しています。
与謝野 この金利というのは、世界の超低利な金利の、同じにはなんないけど、平行移動しちゃう可能性がある。
そういう超低金利の性格のものだから。
じゃあ、みんながぐちゅぐちゅ言い出したな、と。
日本の国債は日本の国内で消化できてんだから、かまわねえじゃないかと。
りっぱな議論なんだけど。
じゃあそれが正しいとして。
あといくらくれるか、と。
「国債消化に使える純資産は、あと100兆しかないんです」
与謝野 というと、日本人の金融の純資産というのは、約1000兆なんですよね。
鳥巣 ネットがですね。
与謝野 もう900兆。
国債と地方債で。
使える純資産は、100兆しかないんです。
44兆の国債を出していたら、2年でほとんど終わっちゃう。
たぶん、そのことにみんな気がつき始める。
その時期を過ぎると、日本の国債を海外市場で消化しないといけない時が来る。
甘いことを言ってくれませんから。
金利が高くなる。
日本人が、これだけ財政が悪化しても、のほほんとしていられるのは、金利が0・9%。
それだからですよ。
金利が上がり出すと、個人の住宅ローンも圧迫する。
中小企業を含めたあらゆる企業の金利を圧迫する。
経済にとって、急に不幸な事が起きる。
●用語解説<貸出金利> 日本銀行金融機構局発表による国内銀行の貸出約定平均金利は、(短期)0・951。 <2010年12月1日貸出約定平均金利の推移(2010年10月分)> |
「じゃばじゃばに日銀がカネを流しているんです」
与謝野 もうひとつ。
じゃばじゃばに(日銀が)カネを流しているんです。
鳥巣 「買いオペ」とかで、ですね。
与謝野 (だけど)投資するところがない。
どこに行っているかというと国債市場。
それからアメリカのおカネ、日本のおカネは新興国に行っている。
バブルになる。
インフレになる。
数年後にはそうなる。
鳥巣 ええ。
●用語解説<日銀の買いオペレーション> 「買いオペ」とは、日銀が銀行から国債などを(政府から直接ではなく、市場で)買取り、銀行の通貨量を増やす操作のこと。 不景気の際に「マネーサプライ(通貨供給量)を増やす」目的で行う、公開市場操作の一つ。 ただし、ゼロ金利(正確には、短期金融市場金利と準備預金に付く金利水準に差がなくなった)の状況では、民間金融機関は資金を日銀当座預金口座に寝かせておいても、とくに損になるということはなくなる。 さらに貸出を増やせば利益を見込めるという機会が見出せないということになると、民間金融機関は日銀が供給した資金をそのまま日銀当座預金口座に寝かせておく行動をとる。 そうした行動を民間金融機関がとる限り、資金は日銀の外に出て行かず、金融緩和にはならない。 |
「元本は返せない。せめて対GDP比債務残高を一定に」)
与謝野 (人々が、「やばいのでは」と)噂をする。
破産と言うが。
破産というのは、いくつかあって。
同じものなんですけど。
おカネを返せない。
おカネが調達できない。
調達できるとしても、ばかげた金利を払う。
そういうのが、どういう順番か分からないけど、起きちゃう。
日本の借り入れの絶対値というのは、下がらないんですよね。
借りてる金額を元まで返せない。
だから、せめて対GDP比(債務残高を)一定のとこまでもってこうと。
それが自民党時代の財政の基本。
そんな事も考えなきゃいけない。
「海江田発言に、ひっくり返りそうなほど驚いたね」
与謝野 ここに原稿があるんだけど。
こないだ海江田万里と対談した。
●用語解説<海江田万里・衆議院議員> 菅改造内閣で、内閣府特命担当大臣(経済財政政策・科学技術政策担当)。 |
与謝野 これは『新宿新聞』といって、ローカル紙のやつなんだけど。
「財政問題をけっして軽んじていいとは思わないが、私はここ1年で解決しなければならない緊急課題かというと、私はもう少し余裕があるとみている。
3年5年の中長期のスパンで問題をとらえなければならない」
鳥巣 海江田さんがですか?
与謝野 海江田!
私は、ひっくり返りそうなほど驚いたね。
「小沢一郎氏も、4~5年は余裕がある、と考えている?」
鳥巣 長谷川先生もそうおっしゃっていました。
小沢(一郎)さんと親しいらしいですけど。
「小沢は、あと4~5年余裕があるとみている」
と。
一部には、そういう事を思ってらっしゃる方はいるみたいですね。
榊原英資氏も
「4~5年はかなり大量の国債を発行しても金利は上がらない」
と述べる一人。
一方で、
「まあ、そのときは毎年何10兆円も借金は返すから政府は何もできない。
財政再建しなければ、という話になるけど」(『絶対こうなる!日本経済』<アスコム>)
与謝野 それは選挙を避けるために4~5年と言っているだけの話で。
実際は、小沢さんの見方、海江田の見方っていうのは、数字に基づいた、日本の経済成長率に見合ったものの見方ではない。
極めて政治的な見方ですね。
「アリストテレスの民主制の末路。危機が迫っているのに何もやらない」
鳥巣 そういった政治的な思惑、いろんな思惑の中で。
いや、まだ財政危機じゃないんだ、と。
政府資産を売ればまだ大丈夫なんだ。
とか、いろんなご意見がありますよね。
ああいうのが惑わしていますよね。
国民からすると、まだ大丈夫みたいだよ。
とかですね。
確かにそれはみんな鈍感でいてくれる。
それも(市場に悪影響を及ばさないためには)大切な要素ではあるんですけども。
そこのバランスがですね。
与謝野 みんな増税を言いたくないから。
アリストテレスが書いている本の中に、民主制の末路っていうのがあるんだけど。
危機が迫っているのに何もやらない。
というのがあるんですよね。
●用語解説<アリストテレス> (前384年 -~前322年3月7日)古代ギリシアの哲学者。 |
「米経済学者ロゴフは、世界は長期の大収縮が進行と結論づけた」
鳥巣 ロゴフさんが、800年に及ぶ経済危機の歴史を調べた結果を本に書いて。
日本では英訳しかないようですが。
専門家の間では、話題として出てきます。
●用語解説<ケネス・ロゴフ> 元IMF(国際通貨基金)チーフエコノミストで、米国を代表する経済学者でハーバード大学教授。 「私は今回の不況を、危機脱出後に一定期間のバウンスが見込める単なるグローバル・リセッション(世界不況)ではなく、影響がかなりの長期にわたるグレート・コントラクション(大収縮、great contraction)として捉えるべきだと結論付けた。 国家財政問題に起因するさらに深刻な『ソブリンデフォルト』の嵐が吹き始めるのは2~3年後だと私は見ている。根拠は、過去の金融危機の歴史がそう示しているからだ」 と発表している。 |
「”危機を分かりたくない”で、犠牲になるのは一般の庶民」
鳥巣 僕も少し調べたら、アルゼンチンは最終的にはハイパーインフレになりましたけれど。
あそこも財政改革をやりきれなかった。
政治的にも財政再建をまとめきれなかった。
どうも日本も体質的に・・。
本当の危機が来ないと立ち上がらないから。
まあ、行くところまで行くのかなあ、と。
与謝野 日本は原爆が2個落ちて。
初めて日本は戦争に負けたって。
鳥巣 そうですね。
与謝野 それでも本土決戦なんて馬鹿な事を・・。
財政も・・。
人間の理性で分かんないと。
分かりたくない、と言った時に犠牲になるのは一般の庶民ですから。
「破綻時の庶民のためのシュミレーションとは?」
鳥巣 おっしゃる通りですねえ。
僕の知人に官僚がいるんですね。
彼に会った時に、
「ここまで来たら、シュミレーションをすべきだ」
と言ったんですね。
そしたらすかさず彼は、
「すべきだ」
と。
僕は、官僚でもなく、庶民の一人。
仮に法案に名前を付けるとすれば、
国家財政破綻時における「国民救済法案」
みたいな形になると思うんですけど。
有事法案と同じですねえ。
小泉さんの時にやりましたけれど。
有事の時に国民をどう保護するかって。
●用語解説<破綻シュミレーション> 拙著に登場して頂いた元財務省職員の高橋洋一氏は、こう述べました。 「破綻したら、みんなパニックになって終わり。 どうしようもない。 日本が破綻したら、それはね日本人がいるところにいたらみんな難民が押しよせてきますよ。 ハワイとかタイとか、そこは結構大変だと思うよ」 先日、寒い朝に目が覚めて、ラジオをつけました。 故郷の福岡からのレポート。 「ボランティアの人たちが、ホームレスの人たちに、とんこつラーメンを作って配りました。 “いつもカップラーメンを食べているから。実においしかった”と喜んでいました」 こういうテーマを取材していると、身につまされます。 庶民のためのシュミュレーションも必要です。 |
「破綻の前に金利上昇が来る。銀行系などの債券価格が下がる」
鳥巣 長谷川先生は、仮に破綻したとしても、このデフレではインフレなんかなるもんか、とおっしゃったんですね。
財務省さんは、
「いや、輸入インフレにはなります」
と。
当然、政府の信認が落ちれば、急激な円安に振れるでしょうから。
与謝野 だから。
鳥巣 はい。
与謝野 破綻の前に来る、金利上昇っていうのが。
鳥巣 そうですねえ。
与謝野 900兆も出していると。
5%も金利が上がったら、大変な事なんですよ。
鳥巣 そうですねえ。
NHKの日曜討論で、民主党さんが
「成長戦略。成長戦略」
と言っていたら。
(自民党政務調査会長)石破茂先生がゲストだったんですけど。
じろっとにらんで、
「1%金利が上がっただけでも大変なことになりますよ」。
と、こうぽつりと一言おっしゃったんですね。
与謝野 だから1%金利が上がったって。
もう出している国債の金利には関係ないんだけど。
それを持っている銀行やなんかの債券類の価格がばーっと下がっちゃうから。
銀行系が大変になっちゃう。
いろんな弊害がある。
「ゴホンと咳をしただけで(金利が)沸騰する時があるんです」
与謝野 財政っていうのは、こっちの所得を、あっちに移転するだけなんですよ。
政府は何も持ってないんですよ。
それを財産を持ってるんだ、と。
処分して移転しろと。
でもそれは・・いつか破綻する。
時間は迫っている。
スーパーサチュレーションという現象があるんですよ。
飽和状態です。
たとえば、こういう(グラスの中のウーロン茶を掲げて)ものをどんどん温めて。
100度超したけど。
泡が立たない。
沸騰しない。
どんどん、どんどんやっていると、全然沸騰しないじゃないか。
見ている人が、ゴホンと咳をしただけで、うわーっと沸騰する時があるんですよ。
昨日、日銀と話したんだけど。
何でもない事が引き金になって、わっといく可能性があるって言ってた。
その状態を作っちゃいけない、と。
「『みんなの党』が言っている理論は出鱈目ですよ」
与謝野 それから『みんなの党』が言っている理論は出鱈目ですよ。
なぜかって言ったら。
私の友人の中村喜四郎っていうのがいます。
●用語解説<中村喜四郎・衆議院議員> 1949年、茨城県生まれ。田中角栄秘書を経て政界入り。 1993年、建設相在任中にゼネコン汚職事件(金丸信元自民党副総裁の巨額脱税事件から派生し、宮城県知事、茨城県知事、仙台市長が逮捕される事態に発展)に絡み逮捕され議員を失職。 2004年仮釈放後、2005年の第44回衆議院議員総選挙では再び無所属で立候補し10回目の当選。 現在は、統一会派「自由民主党・無所属の会」で活動している。 |
与謝野 『みんなの党』に呼ばれて、一緒にやらないかと。
で政策の説明を受けた。
中村喜四郎が、
「この政策は全部できない」
と。
そしたら渡辺喜美が、
「できるかできないかは、どうでもいいんです」
と。
「選挙に勝てればいいんです」
と言ったんで、中村喜四郎は呆れて帰ってきたんです。
「日本郵政社長が、“代表選の小沢氏の公約、あれは選挙用ですから”」
与謝野 小沢さんに関して言えば、斉藤次郎さんが来て。
「あんたがついているのに、代表選の小沢さんの公約はなんだ」
と。
そしたら斉藤次郎は、
「いや、あれは選挙用で、小沢さんはみんな分かっていますから」
と。
●用語解説<斉藤次郎> 日本郵政代表執行役社長。元大蔵官僚で主に主計畑を歩み、大臣官房長、主計局長を経て、1995年5月まで大蔵事務次官を務めた。 2000年5月より東京金融先物取引所理事長に就任。 2009年10月、西川善文の後任として亀井静香金融・郵政改革担当大臣の要請により日本郵政の社長に就任。 竹下内閣時代に経世会の小沢一郎内閣官房副長官と出会い、その後も小沢と歩調を合わせた猪突猛進の言動で、大宮敏充のデンスケにちなんで、通称、「デンさん」ないし「デンスケ」などと呼ばれた。 第2次海部内閣改造内閣時代の1991年1月24日に決定された湾岸戦争への90億ドルの資金供出には、小沢自民党幹事長と共に、石油税と法人税の一時的増税で賄った。 1994年非自民の連立細川内閣時代においても、小沢と共に「国民福祉税」構想をぶち上げた。2月2日深夜に細川護煕首相自らテレビで発表したもので、消費税を3%から7%に増税、使途も福祉目的とするものであったが、内外から強い反撥を浴びて撤回。 このような強引な政治手法は閣僚からも批判され、細川連立政権崩壊の引き金ともなった。 |
●用語解説<小沢一郎の代表選マニフェスト> 小沢氏は、演説でこう述べました。 「財政出動によって、政府の歳出を増やすことによって景気を上向きにしなければならない。 一番日本で足りないのは、高速道のネットワークであります。 都道府県にはきちんとその建設費を国債で政府が支援する」 日本国債の10年債の金利は、当時1・2%まで急上昇。 |
「本当に危機が迫っているっていう意識を持って貰わないとパンクする」
鳥巣 消費税に関して言えば、菅さんは参議院選挙に負けてしまってからは、消費税論議を先送りした。
海江田さんもNHKの『日曜討論』で、
「法制化まで考えれば、早くても4年後です」
と。
与謝野 いや彼らのマニフェストは、今度選挙やる時は消費税の可否を問うて選挙をやるって言っているから。
ま、公約上はできない、て言っているんですね。
鳥巣 それはこれからの政局ですから。
前倒しになる可能性が、僕は強いとは思いますけど。
じゃなければ、それだけ真剣に考えておかなければ、非常に危ういだろうな、と。
与謝野 来年の6月までに、いろんな事をやっといてもらわないと、パンクするんですよ。
本当に危機が目前に迫っているっていう意識を持って貰わないと。
(次回へつづきます)
絶対に受けたい授業「国家財政破綻」/鳥巣 清典
¥1,575
Amazon.co.jp
田原総一朗責任編集 2時間でいまがわかる! 絶対こうなる!日本経済/竹中平蔵
¥1,000
Amazon.co.jp