最初に灯籠流しを行った夜のことは、よく覚えています。
「宥、玄。今夜は灯籠流しと花火があるから、5時までに帰って来るようにね」
「はぁ~い」
「おかーさん、『とーろーながし』って何ですか?」
そう言うと、お母さんは一基の小さな灯籠を持って来てくれました。
「玄は今年が初めてだったかしらね。灯籠というのは、これの事。吉野杉と手漉き和紙、全部吉野の材料で作ってあるの」
「かわいいのですっ。玄はこれほしいのです!」
初めて見た灯籠はとても愛らしく見えました。
「ふふっ。でもね、これは持っておく為の物じゃないの。これに火を灯して、川に流して……そして、ご先祖様や亡くなった方達の魂を運んでもらう為のものなのよ」
「たましいを……?」
「そう。宥や玄のおじいちゃんのおじいちゃんや、おばあちゃんのおばあちゃん達……そのもっと昔の人たちも含めて、とてもとても永い間ご先祖様達が頑張って来てくれたから、私達は今こうして元気に生きていられるの。そのことに感謝をして祈りを捧げるのが、灯籠流しなのよ」
「わかりました!」
ピ、と敬礼のポーズになって私は答えました。
その夜、私とお姉ちゃんは願いを和紙に書き記しました。
そして、それを支え棒に貼って、それぞれの灯籠を完成させました。
お姉ちゃんは「いつまでも皆あったかくいられますように」。
私は「お父さんとお母さんとおねえちゃんとずっとたのしくくらせますように」。
お父さんもお母さんも、それぞれの願いを書いた灯籠を、係の人に渡しました。
そして、遂に灯籠流しの始まりの時。
私達の四基の灯籠を含む多くの灯籠が吉野川に浮かべられ、夜の闇の中で幻想的な光を放って、他の光の列に混じって流れて行きました。
美しい景色の前で言葉も出ず興奮し、感動しながら、一方でなぜかとても寂しいような、切ないような不思議な気持ちになって、私は気付けば涙を流していました。そんな私を見たお姉ちゃんは、何も言わずにそっと優しく背中から抱き締めてくれました。ちょっと暑かったけれど、全く嫌ではありませんでした。

そして、それから私は毎年灯籠流しに参加しています。残念ながら、私の最初のお願い事は叶うことはありませんでした。それでも、この行事は大切な想いをいつまでも風化させず、気持ちを改めてさせてくれる、大事な行事です。
昔よりも少し小さく感じるようになった灯籠。そこに、今年も私は新たな想いを込めました。


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「灯籠、あったか~い……」
「……そうだねぇ」
お姉ちゃんのが言うのは、決して灯籠の灯火の温度だけではないでしょう。
吉野川に描かれる光条。
いつ見ても思わず敬虔な気持ちになる情景を前に、私は目を閉じて願いました。ご先祖様達への感謝を、また様々な事件や不幸で亡くなってしまった方々が安らかに眠れる事を。
そして、捧げました。灯籠が流れ着く先にいる、お母さんへの祈りを。
私の大好きなお母さんの微笑みが天国で曇らないように、私は明日からの一日一日も笑顔で元気に過ごして行こうと想うのでした。
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