2008年06月26日 12時23分21秒

イ・チャンドン監督の「シークレット・サンシャイン」を観た!

テーマ:映画もいいかも

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六本木の「シネマート六本木」で、イ・チャンドン監督の「シークレット・サンシャイン」を観てきました。出演はチョン・ドヨンとソン・ガンホ。この3人の組み合わせと聞けば、韓国映画界を代表する人たち、韓国映画ファンならば誰でも知っているでしょう。とはいえ、そんな有名な人たちだとは、僕はまったく知りませんでした。この映画については、同じ「シネマート六本木」でキム・ギドク監督の「ブレス」を観た時に知りました。予告編を観て、チラシを貰って、特に内容を知ってではなく、なんとなく観ようと思って、スケジュール表に始まる日付を書き込んでおきました。あくまでも、なんとなく、でしたが。


チラシには、「最愛の息子を失い、心を閉ざしたシングル・マザーと、その痛みをただひたすら受けとめることしかできない不器用な男。観た者すべての心を希望の陽射しに包み込む感動の物語」とあります。舞台は韓国南部の地方都市・密陽(ミリャン)、この町の名前を英語にすると「シークレット・サンシャイン」、映画のテーマは「陽射し」、なるほど良くできた映画でした。綿密な場面構成も、細かい俳優の台詞も所作も、すべて付箋となって張り巡らされています。それらが後になって、「そうだったのか」と観る者は気づかされます。そういえば、チラシにも、最初の車の中のシーン、そしてラストの庭先や部屋のシーンも、他にもところどころに、強い「陽射し」が射し込んでいました。


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物語は比較的単純な構成です。夫を交通事故で失ったシングルマザーのシネが、幼い息子を連れて夫の故郷で再出発しようと移り住みます。突然の不幸で最愛の息子を失い、基督教に救いを求めようと教会の活動に関わり始めます。そして、基督教的な考えからか、犯人を赦そうと刑務所へ面会に行き、逆に神は自分が赦す前に犯人の罪を赦していたことに対して、その理不尽さに自分が自暴自棄になり、常軌を逸した行動を取り始める、そんな構成と流れです。しかし、映画というものは、「あらすじ」を知っただけではまったく分からないものなのです。僕が予告編とチラシだけで知っていたこの映画の知識は、この映画を観てからは、まったくなかったことと同じことでした。


車の故障で立ち往生したシネが呼んだレッカー車を運転してきたのは、地元で小さな自動車修理工場を営むジョンチャンという30歳の独身男です。「ミリャン(密陽)の意味を知ってますか?」「意味?考えたこともないね」「秘密の密に、陽射しの陽。秘密の陽射しなんて素敵でしょう?」「秘密の陽射しか・・・。いいね」。初めて会った時から、シネはジョンチャンを見下したような、素っ気ない会話しかしません。ミリャンの商店街にピアノ教室を開いたシネは、近所の商品店の女主人や、薬局を営む夫婦、息子のジュンが通う弁論教室の先生たちと知り合います。彼らは夫を亡くしたシネに憐れみの目を向けますが、シネは「不幸ではなく、立派に暮らしている」と、気丈に答えます。可哀相な女だと同情されたくない気持ちが高じて、土地を買いたいとか貯金があるとか、見栄を張ったりします。


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ピアノ教室の開業直後、引っ越しの挨拶に訪れた洋品店で初対面の女主人に、インテリアを変えた方がいいと突然言い出します。唖然としている女主人。本人は無邪気でまったく悪気はありません。しかしちょっと変です。また、気を利かしてコンテストで入賞した偽の賞状を新しく開いたピアノ教室にジョンチャンがかけようとすると、それにはシネは抵抗したりもします。俗物への嫌悪を見せながら、実はシネは自分もけっこう俗物だったりもします。シネに心惹かれたジョンチャンは、土地を買いたいシネを案内したり、頼まれもしないのに、仕事そっちのけで何かと世話を焼きます。シネから見れば、ミエミエな行動で、ただの俗物男でした。


シネと息子の新たな生活が始まった矢先に、悲劇は突然起こります。ある夜、シネが帰宅してみると家にはジュンがいません。脅迫電話を受けたシネは、ジュンが誘拐されたことを知ります。犯人の要求通り、銀行でなけなしのお金をおろして、犯人が指定した場所へ届けます。しかし、ジュンの死体が水辺で発見されます。警察が逮捕した犯人は意外な人でした。自分がまいた種、資産家であるかのように振る舞ったシネの嘘を真に受けて、誘拐という卑劣な犯行に及んだのでした。最愛のジュンを火葬にした日、涙も出ないシネは義母からなじられたりもします。基督教の布教活動に熱心な薬局の奥さんに入信をすすめられます。


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シネは神など信じられませんでしたが、後日、わらにもすがる思いで教会へと向かいます。大勢の信者たちと賛美歌を歌うシネは、元気を取り戻していきます。教会の活動にも積極的に参加するようになります。ジョンチャンも、友人たちに冷やかされながらも、シネのすることを手伝ったりするようになります。シネは、初めてミリャンの町の人になったように感じます。そしてシネはまさに基督教的な、ある決意を固めます。ジュンを誘拐して殺した犯人に赦しを与えるということ、「敵を赦し、敵を愛せ」という神の教えを実践するのです。刑務所で犯人に面会したシネは、「今日、私がここに来たのは、神の恩寵と愛を伝えるためです」と言うと、それを聞いた犯人に「ここに入所した後、神はこの罪人に手を差しのべ、罪を赦したのです」と言われて驚きます。自分が犯人を赦す前に、神はなぜ犯人を赦したのだろうか?シネには絶対に受け入れられないことでした。


刑務所を出た途端に気絶したシネは、その日を境に憔悴し、自宅に引きこもるようになります。自暴自棄になり、常軌を逸した行動を取り始めます。信者の野外集会で万引きしたCDを大音響で流したり、薬局の店主を誘惑してみたりと・・・。信者の集会で突然大声を出して皆を驚かせます。教会でシネが机を叩くシーンは圧巻です。新しい出発のために髪を切りに行ったシネ。そこで働いていた誘拐犯の娘が、自分の髪を切るのに我慢が出来ずに、途中で店を飛び出します。


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自宅の庭先でシネは髪を整えようと鏡に向かい、鋏を取り出します。そこへジョンチャンが来て、髪を切るのを手伝います。二人の姿が鏡に映り出されます。まだシネは気づいていません。ひとりぼっちになったシネを、俗物と言われながら、不器用に愛し続けるジョンチャンが寄り添っていることを。狭い庭先に陽射しが射し込みます。そこでチラシにある「すべての悲しみを癒す“陽射し”、それはあなただったのですか?」となるわけです。そう決定的なものはなにもなく、穏やかな余韻を残しながら、この映画は静かに終わります。


新聞のインタビューで、イ・チャンドン監督は「予告なしに望まない瞬間が訪れる可能性は誰にだってある。普段から人生の意味を考えている人はなおさら、なぜこんな苦痛を受けるのか、意味があるのかを考える」と言います。シネが救いを求めたのは宗教、教会に通ううちに運命として受け入れ、加害者を赦そうとまでします。だが加害者が発した意外な言葉によって、シネの思考が止まります。「誰かを赦すというのは、相手の問題のように思えるが、実は自分の内面の問題。シネは加害者ではなく、もう一つの自我に出会う」。人生のシークレットを描いた作品というが、「答えは出さず、疑問が生じたときの話し相手になるような映画を目指した」と、イ・チャンドン監督は語ります。



「シークレット・サンシャイン」公式サイト

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コメント

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4 ■永岡瑞季さん、コメントありがとう!

シネの数々の言動や行いは批判されても仕方がないですが、映画のラストの解釈は人により様々です。特にこの映画はどのようにでも解釈できる余地を残しています。でも考えさせられる映画でした。これからも、よろしく!

3 ■わたしも観てきました

とんとんさん、はじめまして!
わたしもこの映画つい最近観ました。
チョン・ドヨンの演技、すばらしかったですね。
ソン・ガンホもよかった。
わたしは、大ラスで
救いを感じることができなかったんですが、
とんとんさんみたいな見方もできるのかな、
と納得しました。
最後、切った髪が風に飛んでいくのが
印象的でしたね。

わたしも感想UPしているので
よかったら遊びに来てください!

2 ■BCさん、コメントありがとう!

「そうはいかず」というところが、この映画の核心でした。おっしゃる通り、幸せって、なるものではなく、感じるもの、気づけば身近に存在するものですね。これからも、よろしく!

1 ■救いと希望。

とんとんさん、お久しぶりです。
トラックバックありがとうございます。(*^-^*

相手を赦すことで自分の心を救おうとしたけど、
そうはいかず、より一層苦しむ事となるシネの姿がやりきれなかったです。
傍で力になってくれるジョンチャンの存在に唯一の救いと希望を感じました。

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