草彅剛の「山のあなた~徳市の恋~」を観た! | とんとん・にっき

草彅剛の「山のあなた~徳市の恋~」を観た!


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世田谷の三軒茶屋にそびえ立つキャロットタワーの中にある世田谷パブリックシアターの掲示板に、草彅剛の「瞼の母」のポスターが1ヶ月ほど貼ってあり、嫌でも目に入りました。作は長谷川伸、演出は渡辺えりです。ん?渡辺えり?そうです、美輪明宏の助言で「渡辺えり子」から「渡辺えり」に、昨年9月に変更しました。主演はもちろん草彅剛、共演は大竹しのぶ、三田和代、篠井英介、高橋長英、高橋克実、高橋一生など、そうそうたるメンバーです。S席8500円、A席6500円、世田谷区民割引はありませんと、但し書きが書いてありました。キャロットタワーを通るときに、「瞼の母」のポスターが、いつも気になっていました。


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そんなこともあって、草彅剛の映画「山のあなた~徳市の恋~」を観ました。もうひとつ大きな理由は、この映画が1938年に発表された清水宏監督の「按摩と女」のカヴァー版だということ。1938年と言えば、今から70年も前のことです。


「按摩と女」の原作者で、監督・脚本の清水宏は、1903年、静岡県生まれ、終生に渡って伊豆の風景と自然を愛した映画監督だったそうです。道理で「山のあなた~徳市の恋~」も、「伊豆の踊り子」のような印象を受ける映画でした。22年、19歳の時に女優・栗島すみ子の口利きで、松竹蒲田撮影所に助監督として入社します。口利きで入社、そういう時代だったんですね。それも最初から助監督で。その僅か2年後、24年に「峠の彼方」で監督デビューというから凄い。


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27年に松竹の看板スター・田中絹代と結婚したというからこれまたオドロキです。もっとも2年後には破局したそうですが。清水宏は、当時の撮影所長・城戸四郎にその手腕を買われ、20年代には多くのメロドラマを田中絹代とのコンビで量産したという。同年生まれの小津安二郎とは親友同士で、小津作品の原作もしている仲だという。しかし、清水が活躍したのも40年代末までで終わります。66年に心臓麻痺で急逝します。享年63歳でした。


清水宏監督の「按摩と女」を完全カヴァーしたのが、石井克人監督の「山のあなた~徳市の恋~」です。主演はSMAPの草彅剛、何本ものCMで共に活動してきたこともあり、当初からキャスティングは草彅剛を念頭に置いていたと監督は言います。勘が鋭くて、目明きに負けまいとする、プライドが高く、女好きで、純情な一面も持つ、多彩な人間味を兼ね備えた主人公・徳市を、監督の期待に応えて草彅剛は見事に演じています。


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その石井監督がなぜ70年も前の映画をカヴァーすることになったのか?石井監督は、戦前に松竹で活躍した清水監督の映画を何本も観て、彼の映画の虜になったという。そのポイントは以下の三つを挙げています。ひとつは、人間の目の高さにカメラを据えた気取りのないカメラアングル、次ぎに、話す人物によってキャラクターが変わる人間臭くてナチュラルな登場人物たち、そして最後に、何よりも自然光を活かした美しいロケーション映像、を挙げています。


新緑の季節、目の不自由な二人・徳市(草彅剛)と福市(加瀬亮)という按摩が山道を歩いています。彼らは冬場を海の温泉場で過ごし、春先からは山の温泉場で稼ぐのが毎年の恒例です。二人は道中、目秋野人を何人追い抜けるかを楽しみにしています。しかし今日は、ハイキングの大学生たちを追い抜けなかったことを悔しがります。そんな彼らの横を温泉場へと向かう馬車が駆け抜けていきます。馬車には東京からきた女性・三沢美千穂(マイコ)と、大村真太郎(堤真一)、真太郎の甥・研一が乗っていました。同情していた土地の者から、目明きに負けまいとする勘のいい按摩コンビの話を聞いていました。


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徳市たちが温泉場の按摩宿泊所に落ちつきます。まず福市が療治へ向かったのは宿屋・観音屋でした。お客は女子学生の一行で、彼女たちは体にコリが出たのは、来る時に徳市と福市が速くある雲のだから、それに対抗して歩いたからだと苦情を言います。だから療治代を負けろと、福市に迫ります。その頃、宿屋・鯨屋では、徳市が大学生一行の部屋へ向かいます。彼らが今日の道中で追い抜けなかった学生だと知った徳市は、荒っぽく力を込めて療治します。


翌日、徳市の荒療治で体中に痛みを抱えた大学生たちは、ハイキングを諦めて、鯨屋へ引き返しました。そんな彼らを横目に観ながら颯爽と元気を取り戻した女学生達が追い抜いていきます。徳市と福市が泊まっている按摩宿泊所に鯨屋の女中が、美千穂が徳市に療治を頼みたいと言ってる、と伝言しに来ます。鯨屋に向かった徳市は、客が馬車の女だと知ります。美千穂と話をするうちに、徳市の中に淡い恋心が芽生えてきます。しかしその翌日、鯨屋で宿泊客の財布が盗まれ、犯行時刻付近に宿にいた美千穂が疑われます。



これに徳市の対抗馬・大村真太郎と、真太郎の甥・研一が絡んできます。荒療治した大学生たちのオーバーアクション、それへの対抗としての女学生たちなど、いかにも日本映画の王道、オーソドックスな流れでありよくある展開です。いや、決して非難しているのではありません。久しぶりに観た静かな流れの作品です。映像も美しく、見応えがありました。美千穂に扮したアイコ、和服が似合い、謎めいた役をこなした、なかなか雰囲気のある女優です。いいですね。そうそう、ラスト、しょっ引かれていく財布泥棒、そこだけしか出ていませんが、犯人は誰だと思います?


それにしても、70年前の作品のカヴァー作品。石井監督が取り組もうと掲げた清水監督の三つのポイントは、果たしてその通りにこの作品が出来上がったのでしょうか?「山のあなた~徳市の恋~」はカヴァー作品と言われていますが、リメイク作品とどう違うのでしょうか?どなたかご教示下さい。




「山のあなた~徳市の恋~」公式サイト